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[第2回]夫婦関係におけるアサーション――「私」と「あなた」と「私たち」(野末武義:明治学院大学心理学部教授) #アサーション

 人との距離を保ちながら同時に社会活動を維持していくために、学び方や働き方、生活の楽しみ方、人とのつきあい方などにさまざまな工夫がみられるようになりました。しかし、立場や考え方・個人がもつ背景のちがいなどから、これまで意識していなかった人間関係の問題が現れて、悩んでいる人も多くいらっしゃるかもしれません。
 そのような問題を抱えている方が人間関係を結びなおすためのヒントとして、「私はOK、あなたもOK」という自他尊重のアサーションの視点を紹介するリレー連載の第2回目として、ここでは夫婦関係について考えてみたいと思います。カップル・セラピーや家族心理学をご専門とされている、野末武義先生にご寄稿いただきました。

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ストレス状況における夫婦の自己表現

 新型コロナウイルスの影響は、大小さまざまなストレスや葛藤を夫婦にもたらしているでしょう。二人の衛生意識の違い、パートナーが家事をしない、子どもの面倒を見てくれない、在宅ワークでリビングが占領される、在宅ワークの大変さを理解してもらえない、慣れない家事や育児をしてもやり方が違うといって怒られる、話を聴いてもらえないなど、夫婦関係にストレスを感じている人は非常に多いようです。

 こうしたさまざまなストレスによって、パートナーに対する自己表現のしかたも影響を受けます。元々自分の気持ちや考えや欲求を適切に言えず、自分の中に抑え込んでしまう非主張的な自己表現の傾向が強かった人は、パートナーと一緒にいればいるほどストレスがたまって抑うつ的になり、気持ちが離れていくかもしれません。反対に、がまんすることがあまりにも多くなりすぎて、些細なことをきっかけにして、まるで別人のようにパートナーや子どもに怒りをぶつけるということも起こりえます。

 一方、以前から自己主張はするけれどもパートナーには配慮しない、攻撃的な自己表現をしがちだった人は、新たなストレスをうまく処理できないために、イライラが募ってパートナーや子どもに怒りをぶつけることが増えるでしょう。また、表面的には攻撃的でも、実は自分では認めたくないほどの強い不安を抱えていて、自分もまわりも気づかないけれども本当は抑うつ的になっているということもあります。

 非主張的な自己表現と攻撃的な自己表現は、表に表れる言動はまったく異なりますが、実は心の中では似たようなことが起こっていることが少なくありません。「なんで言った通りにできないの?」「どうしてこの程度のこともやってくれないの?」「こっちはこれだけ大変なんだから」「どうしてわかってくれないの?」「自分の努力を認めてほしい」「ねぎらってほしい」「プレッシャーをかけないでほしい」「優しい言葉をかけてほしい」「ありがとう、の一言がほしい」「ごめんね、の一言がほしい」などなど。

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なぜ伝わらないのか、わかってもらえないのか

 以上のようなことを感じたり思ったりしたとき、それを適切にパートナーに伝えること、理解してもらうことは、簡単なことではありません。一言二言言っただけで、自分の言いたいことがパートナーに伝わるというのは、ほとんど不可能でしょう。また、そもそもパートナーに何を伝えたいのかが自分でも曖昧なために、たくさん話しているのにパートナーにはほとんど伝わらないということもよくあります。あるいは、理詰めで自分の正当性を主張してパートナーに理解させようとする人は、その理屈の根底にある自分の気持ちを意識できていなかったり隠していたりするので、パートナーの心には何も届かないということも起こります。さらに、問題を解決しようと思って言っているつもりが、実際にはパートナーを変えようと必死になっていて、かえってパートナーはかたくなな態度になってしまうということもあるでしょう。

 そして、本当は「つらい」「苦しい」「悩んでいる」「困っている」「どうしたらいいのかわからない」「傷ついている」「助けてほしい」ことをパートナーにわかってほしいのに、そうした自分の繊細な気持ちに触れることは、とても心細く不安を感じることでもあります。そして、せっかく表現したとしても、パートナーにわかってもらえなかったらさらに傷ついてしまいます。そのため、わかってほしいのに非主張的になって自分の中で気持ちを押し殺したり、自己防衛から「なんでわかってくれないの!」と攻撃的になって感情を相手にぶつけてしまったり、ということもしばしば生じます。

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落ち着いて、細やかに伝え、ていねいに聴くこと

 カップル・セラピー(夫婦やカップルの問題に焦点を当てた心理療法)にはさまざまな問題がもち込まれますが、どのような問題であれ、その根底にはこうした自己表現の問題が深く絡んでいます。二人で話し合おうとしてもけんかになってしまう、話し合いをしてもいつも堂々めぐりで解決の糸口が見えない、自分の伝えたいことがパートナーにうまく伝わらない、パートナーの言いたいことがよくわからない、などなど。そのようなときにセラピスト(私は女性セラピストとペアを組んで二人でお会いします)は、夫と妻それぞれの気持ち、考え、望み、不安、具体的な出来事、立場、価値観などをていねいに聴いていきます。そうすると次第に、家で二人だけの時には語られていなかった(しばしば本人も気づいていなかった)、つらさ、苦しさ、傷つき、自信のなさ、二人の関係への不安などが冷静に語られたり、それまでは言語化されていなかったお互いの思い遣りや気遣いや優しさが浮き彫りになってきたりします。「え? そんなふうに思っていたの?」「そんな気持ちだったとは知らなかった」「そんな事情があったなんて、初めて聴いた」といったことがよく起こります。

 夫婦関係がうまくいっているときや大きなストレスを抱えていないときは、それほど細やかにお互いの気持ちや考えていることを伝えなくても、何とかやっていけるでしょう。しかし、自分自身が大きなストレスを抱えて大変になっているときは、それをパートナーにわかってほしい、支えてほしいと誰もが思います。それは当然の欲求です。しかし、具体的な出来事や事情とそれに伴う自分の気持ちや考えを、落ち着いて細やかに伝えるということをおろそかにしがちです。また、パートナーのストレスやその背景を具体的に聴いて理解しないまま、思い込みで決めつけたり過小評価したりしがちです。このようなとき、二人は心理的に絡み合っていて、適切な距離が取れていない状況になっています。その根底には、「言わなくてもわかってほしい(わかるべき)」「察してほしい(察するべき)」「夫(妻)はこうであるべき」「パートナーが自分に合わせるべき」「夫婦なら何を言っても許される」といった、夫婦関係に対する歪んだ思い込みや過剰な期待があるのかもしれません。

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「私」と「あなた」と「私たち」

 夫婦は、二人の個人から構成されているユニットです。世界に一人しかいない「私」と、同様に世界に一人しかいない「あなた」(パートナー)がいて、かけがえのない「私たち」夫婦が成り立ちます。その二人が関係を継続していこうと思ったら、自分とパートナーはさまざまな違いをもった異なる人間であるということを出発点にすることが大切です。そして、夫婦が気持ちや考えを「共有する」ということは、「同じ気持ちだね」「同じ考えだね」ということだけでなく、「私はこうだけど、あなたはこうなんだ」と違いを理解し受け入れることも共有であり、それもまた夫婦としての「私たち」という絆と信頼感を強めることにもつながります。

 新型コロナウイルスは、私たちにさまざまな危機をもたらしています。しかし、危機には険+会という意味があります。危機はリスクを伴うものですが、苦しみながらも乗り越えることができると成長の機会にもなり得るのです。つまり、いま夫婦として直面しているストレスや葛藤は、夫婦としての絆をより強い確かなものにする可能性もあるのです。

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執筆者プロフィール

野末武義(のずえ・たけよし)
明治学院大学心理学部心理学科教授。専門は、カップル・セラピー、家族療法、統合的心理療法、アサーション。臨床心理士、公認心理師、家族心理士。
✿ 金子書房での主な書籍・論文
ナースのためのアサーション』(分担執筆,2002年)
「親密性の危機としての不倫とカップル・セラピー」『親密な人間関係のための臨床心理学』(2011年,17-29頁)
「夫婦関係」(『児童心理学の進歩』2012年版,109-136頁)
日本の夫婦 パートナーとやっていく幸せと葛藤』(分担執筆,2014年)
日本の親子 不安・怒りからあらたな関係の創造へ』(分担執筆,2015年)
夫婦・カップルのためのアサーション』(単著,2015年)

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