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【第2回】「死にたい」「消えたい」「自傷した」という訴えがある場合(半田一郎:子育てカウンセリング・リソースポート代表)連載:子どものSOSの聴き方・受け止め方

深刻なSOSの受け止め方

 子どものSOSは色々な形で表現されます。例えば、朝学校へ行こうとするとおなかが痛くなってしまうというのは、身体症状に現れているSOSです。怒りっぽくなって、ちょっとしたことで暴言や暴力が出てしまうというのも感情面に現れているSOSです。いつまでたってもゲームが止められず、夜遅くなるまでずっとゲームばかりしていることも、行動に現れている一種のSOSだと考えて良いとと思います。つまり、子どものSOSは言葉で表現されるとは限らず、身体症状や感情、行動など様々な形で表現されるのです。

 言葉で表現されるSOSはどうでしょうか? 「学校に行きたくない」「勉強が分からない」「友達に意地悪される」など、困っていることや辛いことを訴えてくることもあると思います。

 こんなふうに子どものSOSは、様々な形で表現されてきますが、それに気づいた大人が子どもの気持ちを受け止めながら、改善について一緒に考えていくことが求められます。

 一方、子どもから深刻なSOSが表現されることもあります。例えば、「死にたい」「消えたい」などと子どもが話してくることも子どものSOSです。自殺や自死につながるため、深刻なSOSだと言えます。また、リストカットなどの自傷行為も子どものSOSです。リストカットは「リスカ」などと呼ばれて、中学生や高校生には日常的なものになっている側面もあります。確かに、自傷行為が死に直結する可能性は高くないのですが、長期的に見ると、自死に至ってしまう可能性は自傷行為がない場合の数倍になるとのことです(松本、2015)。やはり、自傷行為も深刻なSOSだと考えることが必要です。

 こういった深刻なSOSの場合も、大人が子どもの気持ちを受け止めながら、改善について一緒に考えていくことが求められます。しかし、大人の側が受け止めきれず、子どもがさらに傷ついてしまうということも生じがちだと思われます。

半田先生 2回 多様な側面

「死にたい」「消えたい」「自傷した」という訴えがある場合

 ここでは、「死にたい」「消えたい」「自傷した」という訴えや言葉で表現がある時の受け止め方について解説します。一般に、子どもから「死にたい」「消えたい」「自傷した」という訴えがあると、「そんなことを言ってはいけない」「死ぬのは良くない」「体を傷つけてはいけない」などと注意したり叱ったりしがちだと思います。このような言葉はある意味正しいのですが、正しいからといって、子どものSOSを受け止めることにはなりません。正しいか、正しくないかではなく、まずは、子どものSOSを受け止めるようなかかわりをすることが大切です。

 そのためには、「話してくれたことに感謝を伝える」「辛さや苦しさに共感する」「子どもを大切に思っている気持ちを率直に伝える」「また話をすることを約束する」「他の人にも助けを求めることを促す」「思いついたこと付け足したいことを聞く」というようなかかわり方が大切です。そのことについて具体的に解説します。

話してくれたことに感謝を伝える

 まずは、「死にたい」という気持ちを話してくれたことに感謝を伝えることが大切です。子どもは、大人になかなか相談することができないものです。深刻な悩みを抱えている場合は特にそうです。「迷惑をかけたくない」などの気持ちから、自分だけで抱え込んでしまいがちです。だからこそ、言葉で「死にたい」「自傷した」などと話してくれたことは、非常に価値のあることなのです。話してくれたからこそ、かかわりを持ち一緒に考えて対処することができます。そこで、まずは話してくれたことについて、罪悪感や申し訳なさを感じてしまわないように、感謝を伝えることが大切です。例えば、「話してくれてありがとう」などと感謝を伝えることがスタートです。

辛さや苦しさに共感する

 気持ちに共感することが大切だということは、広く知られるようになってきました。共感は、甘やかしや同情ではなく、相手の存在をありのまま受け止めることなのです。しかし、「死にたい」「消えたい」「自傷した」ということに共感することに抵抗を感じる大人が多いのではないかと思います。例えば、「寂しい」といわれた場合には、「寂しいね」と共感を伝える言葉を返すことは自然です。しかし、「死にたい」と言われたときに、「死にたいんだね」などと言葉を返すことにはためらう人がほとんどだと思います。「死にたい」気持ちを助長してしまうような不安を感じるからだと思います。その不安は必ずしも正しいとは言えませんが、不安を感じることは自然だと思います。そこで、「死にたい」「消えたい」という言葉の背景にある辛さや苦しさへの共感を伝えるような言葉を返すことをお勧めします。例えば、「(死にたいと思うくらい)辛いんだね」「(消えたいくらい)苦しいんだね」などと共感を伝えることが良いと思います。

半田先生 2回 励まし

子どもを大切に思っている気持ちを率直に伝える

 子どもから「死にたい」「消えたい」「自傷している」などと聞くと、大人は子どものことが本当に心配になると思います。「あなたのことが心配だ」と言葉にして伝えることが多いかもしれません。子どもも大人が心配してくれていることを理解して、少し安心できるかもしれません。反面、「心配」という言葉から、子どもが「大人に負担や迷惑をかけている」と感じる可能性もあります。この場合、子どもの心理的な負担が大きくなる可能性があります。そのため、「心配している」と伝えるよりは、「あなたのことが大切だ」などと、子どものことを大切に思っている気持ちを率直に伝えることが良いと思われます。

こちらにできることがあるかどうかを聞く

 気持ちに共感してもらえる体験は、子どもたちにとってサポートになると思います。それだけでも、子どもたちは少しずつ良い方向に向かっていけるかもしれません。もし、可能であれば、より具体的・現実的にサポートできることがあるかどうかを聞いててみることも良い方法だと思います。

 「私に何かしてほしいことはある?」「手助けしてほしいこととか何か思いつく?」などと質問してみることが一つの方法です。もし、子どもから要望が出てきたら、できる範囲のことで応えることは大切です。

 もし、子どもから要望がでてこなかったとしても、それでもできることがあるかどうかを聞いてみることは意味があります。助けようと思っていることが子どもに伝わるからです。

 さらに、「考えておいてね」「思いついたら教えてね」と投げかけておくこともできます。後日、「前に、してほしいことがあるかどうか聞いたでしょ、何か思いついたことはある?」と確認することができます。「その後、死にたい気持ちはどうなった?」などとはなかなか聞けないと思います。こんなふうに、「死にたい」「自傷した」などという訴えを聞いたあとには、大人もどう関わって良いか分からなくなりやすいものです。そのため、子どもへのかかわりが少なくなりがちです。そうなると、子どもは、「迷惑をかけている」「見捨てられた」などと不安を募らせてしまう危険性があります。「してほしいことは思いついた?」というのは、何度でも聞きやすいことです。できることがあるかどうかを聞くことは、子どもに関わり続ける一つの手がかりになるのです。

 なお、要望をかなえてあげることは甘やかしではないかと大人が迷う事もあります。また、なかなかやってあげられないようなことを子どもが要求してきたり、要望がどんどんエスカレートしてしまう場合もあります。その場合にどのように関わっていくかについては、また次回以降にお話ししたいと思います。

半田先生 2回 支える

また話をすることを約束する

 一度に長時間話すことは、お互いに疲れてしまいます。また、長時間話したからといって、子どもの辛い思いが解消する訳ではありません。また、長時間かけて説得したとしても、子どもに辛い思いをさせている何かが解決するする分けでもありません。そういったことよりも、少しずつ何度も長期にわたって関わり続けることが子どものサポートになります。

 また近いうちに話すことを約束することが大切です。できれば、「次の月曜日の夜に話をしよう」などと、具体的な日時を決めて、話すことを約束したいものです。子どもが辛い気持ちを募らせてしまったとしても、その約束を思い出してくれれば、少し持ちこたえられるかもしれません。

他の人にも助けを求めることを促す

 「死にたい」「消えたい」「自傷している」と訴えてくる子どもを、大人が1人でサポートし続けることは、負担が非常に大きいものです。子どもの身近な大人や病院やカウンセリングに子どもがつながることは非常に大切です。

 特に、医療の力を借りることは重要です。早い段階で、病院を受診することを提案してみることは大切です。ここ数年、精神科や心療内科を受診することは、一般的なことになってきました。受診を提案してみると、子どもがすんなりとそれに応じることも多いと思います。まずは、「お医者さんの力も借りてみた方が良いかもしれない」「お薬の力をかりてみたらどうか?」などと提案してみることが良いと思います。

 カウンセラーなどの専門職が子どもをサポートしている場合も同様です。子どもが他の大人とつながってサポートを得られるように促していくことが必要です。

 しかし、他の人にも助けを求めることや、病院を受診することに抵抗が強い場合もあります。提案の仕方やつなげ方については次回以降に詳しくお話ししたいと思います。

 なお、子どもをサポートしている大人もサポートされることが大切です。子どもをサポートする負担に大人が押しつぶされてしまっては、子どもをサポートすることができません。子どもが受診しない場合でも、大人が病院を受診して相談してみることも良いと思います。カウンセラーを利用して、どのように関わったらよいか相談することも一つです。なお、専門職が子どもをサポートしている場合も、子どものサポートの仕方について他の専門職にコンサルテーションを受けたり、先輩に相談してスーパービジョンを受けたりすることも大切なことです。

半田先生 2回 カウンセリング

思いついたこと付け足したいことを聞く

 色々と話をして、次回の約束をした後に、言い足りないことがないかを確認することをお勧めします。例えば、「そういえば、あれも言っておかなくちゃとか、付け足したいこととか何かありますか?」「急に思いついたことで関係ないけど言っておこうかなということは何かある?」などと促すと良いと思います。

 カウンセリングでは、面接が終了した後に大切なことが語られることがよくあります。カウンセリングの場面が終わることで緊張が緩むため、関連することが頭の中に思い浮かんでくるのではないかと思います。上記のように促すことは、それと同じような効果をねらっています。

 カウンセリング場面と同じように、重要なことが語られることがあります。その場合、次回に詳しく聞かせてほしいと伝えて、今は話を聞くことを終わりにすることが良いと思います。話しが長くなりすぎることを避け、次回につながるからです。「それは大切な話だから、きちんと聞かせてほしいから、また次に話すときに聞かせてほしいと思うんだけど、それで良いですか?」などと伝えて終わります。

最後に

 「死にたい」「消えたい」「自傷している」などと訴えてくる子どもにどのように関わったら良いか解説しました。かかわり方のポイントは色々とあるのですが、一番大切なことは、子どもが自分の訴えを大人がしっかりと受け止めてくれたと感じられることです。それが、子ども自身の生きている意味や価値、生きている実感につながるのだと思います。大人が何を言うかよりも、子どもの話を丁寧に聞くことがなによりも大切なのです。

文献
松本俊彦 2015 もしも「死にたい」と言われたら-自殺リスクの評価と対応- 中外医学社

執筆者プロフィール

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半田一郎(はんだ・いちろう)
スクールカウンセラー・子育てカウンセリング・リソースポート代表。
公認心理師・臨床心理士・学校心理士スーパーバイザー。

好評を博した本連載を大幅に加筆・修正した書籍を刊行致しました。
半田一郎・著『子どものSOSの聴き方・受け止め方』四六判・212頁・2,310円(税込)

よろしくお願い致します。

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