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【第3回】自傷行為を知ったときの聴き方受け止め方(半田一郎:子育てカウンセリング・リソースポート代表)連載:子どものSOSの聴き方・受け止め方

 自傷行為というのは、自分の体の一部を意図的に傷つける行為です。手首をカッターなどで傷つけるリストカットがよく知られていますが、その他にも、針などを自分の体に刺す、自分を叩く、噛む、頭を壁にぶつけるなどがあります。

 自傷行為は、「耐えがたい苦痛に耐えるための孤独な対処法」(松本、2018)と言われます。自傷をする子どもたちは、人に悩みを打ち明けたり、人に頼ったりせずに、自分1人だけで苦しい気持ち・辛い気持ちをなんとか乗り切ろうとしているのです。

 自傷行為の背景には、辛い状況にあることを人に知られたくないという気持ちや、自分自身の辛い気持ちに直面したくないという気持ちがあります(松本、2018)。また、自傷を行うと、気持ちがスッキリする、ホッとするなどという感覚が生じることが多いようです。自傷による身体的な痛みによって辛い感情に蓋をして、不快な感情を和らげる効果があると考えられます。一方、自傷行為によって気持ちがスッキリするなどの情報は、友達からの話やSNS、インターネットの情報から得られることが多いようです。そのため、辛い気持ちを抱えた子どもが、なんとか1人で対処しようとして自傷をするようになると考えられます。

 こういったことから、自傷行為は子どものSOSだと捉えることが大切です。反面、大人の助けを得ずに1人で孤独に解決しようとする行動でもあります。まずは、自傷行為というSOSに気づき、子どもと一緒に話し合う関係を作っていくことが求められます。

やめさせようとすること

 ところで、大人は子どもが自傷を行っていると知ると、自傷をなんとかやめさせようとすることが大半だと思います。しかし、それは必ずしも良い変化につながりません。

 やめさせようとすることは、子どもが必死で行ってきた自傷という対処方法を否定することになります。そのため、子どもは辛い気持ちをさらに募らせてしまうと考えられます。そして、自傷という対処法を余計に手放せなくなりがちなのです。表面的には見えにくい場所を傷つけるようになり、さらに深い孤独の中で自傷行為を続けてしまう危険性があります。まずは、自傷をやめさせようとするのではなく、自傷について子どもが安心して話せる関係をつくることが大切です。そして、その後で自傷をやめることを丁寧に話し合っていくことが求められます。

半田先生 3回 話し合う

自傷行為を知ったときの関わり方

 前回の記事では、子どもが「自傷した」などと話してくれた場合の聴き方受け止め方について書きました。子どもが自分から話してくれたときには、その事について話しあいやすいと思います。しかし、自傷行為の場合は、手首の傷を見つけたことで気づいたり、学校の先生や知り合いなど子どもとつながりのある人から知らされたりすることで分かることが多いと思います。こういった場合、子どもから話を聞いた方が良いかどうか大変迷います。また、話を聞くとしても、声のかけ方にも難しさを感じると思います。まずは、どんな風に声をかけて話しあっていくかについて考えていきます。

事実を伝えることがスタート

 自傷行為を知った場合、まずは「何か悩みでもあるの?」とか「何か困ってることがあるの?」と問いかけてみることも多いかもしれません。子どもから、「実は、……。」と悩みが語られるかもしれません。しかし、「別に~」とか「ないよ」などと、素っ気ない反応が返ってくる可能性も高いと思われます。自傷行為の背景にある辛い気持ちに触れたくない、考えたくないという気持ちから、悩みや困りごとを考えることを避けてしまうのだと考えられます。子どもは、自傷行為が知られてしまったと考え、不安な気持ちを募らせるかもしれません。そして、今まで以上に知られてはならないと警戒するようになる可能性もあります。

 そこで、まずは事実を伝えることからスタートすることをお勧めします。学校の先生から電話で知らされた場合には、その事実から伝えます。例えば、「昨日の○時に、○○先生から電話があって、『あなたがリストカットしている』と保健の先生から聞いたと言っていたよ」などと伝えます。昨日の○時になどと日時を伝えたり、相手の言葉を具体的に伝えたりすることが大切です。勝手に推測して決めつけているわけではないことが子どもに伝わるからです。また、手首に傷跡が見えた時には、まずは、そのことを伝えます。例えば「さっき、○○をしていたときに、あなたの左手のところに、何かで切ったような傷が見えたんだけど」などと伝えます。

 最初から「リストカットしてるんでしょ」などという言い方をすると、親が決めつけているという印象を与えます。「している」「していない」という押し問答になったり、「うるさい」などと感情的な反応が出てきて、それ以上話が進まなくなってしまいがちです。また、いきなり「左腕を見せなさい」などと要求したり腕をつかんだりするのもお勧めできません。やはり押し問答になったり、パッと腕を払いのけて、どこかへ行ってしまう可能性があります。いずれにしても、やり取りが上手くつながらないため、関係そのものが切れてしまいかねません。

手当てをしたかどうかを聞く

 上記のように、「さっき、○○をしていたときに、あなたの左手の所に何かで切ったような傷が見えたんだけど」などと事実を伝えた後には、子どもからの反応がどのようなものであっても、手当てをしたかどうかを聞きます。例えば「その傷は、きちんと手当てをしたの?」と聞きます。小さくうなずくなど、手当てをしたという意味の反応があったら、「そうだね。手当てをしておけば少し安心だね」などと返します。首を振るなど、手当てをしていないという反応があったら「手当てをした方が良いよ。」などと伝えます。その後、手当てをしたかどうかに限らず、傷を見せてもらえるように促します。「傷の様子を見させてもらっていいかな?」などと問いかけます。見せることに抵抗がある場合には、一般的には、無理強いしません。家族や養護教諭、医療関係者などの場合は、促した後少しの時間待っても良いと思います。その間に、子どもから少し反応があれば、さらに促して見せてもらいます。もし手当てが必要な状態であれば、すぐに手当てをします。

 子どもがほとんど話さない場合など拒否的に思える反応であっても、ここまでは進むことができると思います。そのため、ここまでを最初の関わり方として捉えることが良いのではないかと思います。傷さえ見せてくれない場合には、「あとでもう一回、手当てが必要かどうか自分で傷を見てください。必要なら、自分で手当てしてね。」と伝えます。

半田先生 3回 治療

最初の関わりで目指すこと

 最初の関わりで目指すことは、子どもが1人で自傷して辛い気持ちに対処しているという事態に丁寧に触れることです。この関わりを通して、子どもが少しでも安心感を覚えることができれば、自傷行為を話題にすることへの不安が小さくなります。そして、自傷行為の背景にある辛い気持ちやそれを生じさせている現実に、大人のサポートを得ながら対処することにつながっていくからです。

 一般的に子どもがケガをした場合には、ケガのいきさつや原因を追求することよりも、ケガの手当てや応急処置、病院受診が優先されます。それは自傷であっても同じ事です。まずは、ケガの手当てが大切なのです。それが、適切に行われて、一段落ついたあとで、いきさつを考えたり、再発防止を考えるものです。だからこそ、子どもの自傷行為を知ったときにも、まず手当てを優先することが大切です。

 ところで、最初に書いたように自傷をやめさせようとすると、子どもは自分自身を否定されているように感じる可能性があります。大人が自傷をやめさせようとするのは、子どもを大切に思う気持ちからなのですが、それが上手く伝わりません。手当てするように促す場合は、大人が子どもを大切に思う気持ちが子どもまでストレートに伝わると思います。だからこそ、最初の関わりとしては、手当てを促すことが大切なのです。

 また、松本(2015)では「(自傷とは)自傷した後に傷のケアをしないこと、自傷してしまったことを信頼できる人に伝えないことも含めて指している言葉であると理解してほしい」と述べられています。つまり、手当てをしてあげる、手当てをするように促すことは、自傷行為が少し変化することでもあります。

 こういったことから、手当てをしたかどうかを聞き、そこから関わりを持つことが無理のない現実的な関わり方だと考えられます。それを通して、自傷について安心して話すことができる関係づくりを目指します。

 ところで、子どもにとって、自傷行為はあまり人に知られたくない性質のものです。そのため、子ども自身からではない状況で、自傷行為について話すことは非常に難しいと考えられます。坂口(2021)では、自傷行為について話しあいを持てるようになるためには、第一段階として関係づくりの段階を踏まえることが重要だと指摘しています。また、関係づくりの段階は、「自傷行為に囚われないこと、怯えないこと」「過剰に反応しないこと、逆に無関心ではいないこと」が求められると指摘されています。手当てを通して関わりを持つことは、坂口(2021)で指摘されていることと一致すると言えます。

手当てをするように約束する

 手当てをしたかどうか聞いた後には、自傷行為をしないように説得し約束したいと思う方も多いと思います。しかし、それはあまりお勧めできません。自傷行為は、辛い気持ちへの対処行動という側面があります。自傷行為をするから辛い現実をなんとか乗り切っているのです。そのため、自傷行為をやめるように言われることは、子どもにとっては自分自身が否定されたという感覚につながる可能性があります。また、自傷行為をやめることを考えるだけで、今この瞬間にも辛い気持ちが襲ってくるように感じられて、不安でたまらなくなってしまう可能性もあります。こういった反応が予想されるため、早い段階で自傷行為をやめるように説得したり約束したりすることは逆効果となる可能性があります。まずは、手当てをするように約束することが無理が少なく、次につながる関わり方だと思います。例えば「もしまた同じような傷ができちゃったら(ケガをしちゃったら)、必ず手当てしてね。自分で難しいときは誰かに手当てしてもらってね。」などと促します。

 手当てをするように約束するためには、その傷が自傷行為によってできたかどうかを明確にする必要はありません。自傷行為かどうかを確認しないまま、同じようなケガをしたら手当てをするように約束することも可能です。ケガをしたら、手当てをすることはごく自然なことなので子どもからも同意が得られやすいと思います。

 一方、手当てをすることにも子どもの同意が得られない可能性があります。上述のように促しても、「(手当て)しなくても大丈夫」「どうでもいい」「分からない」「知らない」などという反応が返ってくる場合です。こういった反応があるときには、強く指示して約束することはお勧めしません。言葉では同意しても、心の中では大人に反発したり拒否したりする気持ちが強くなってしまうからです。そこで、この場合は「(私が)手当てしてねって言っていたことは、思い出してね」と促します。これには、ほとんどの場合「まあ」「うん」などという反応が得られます。それに対しては、「良かった。ありがとう。」と言ってやり取りを終えます。

半田先生 3回 約束

子どもと同意や共通理解が得られること

 子どもとのやり取りの結果、同意や共通理解が得られて終えられることは極めて大切です。大人が指示をして、子どもがそれに反発してやり取りが終わることはできれば避けたいものです。その後、子どもが余計に辛い思いをしてしまう可能性があるからです。私たち大人も、そのことを不安に思い、後悔してしまう可能性があります。だからこそ、子どもと同意したり共通理解が得られることを目指して、やり取りを行うことが大切です。同意が得られたら「ありがとう」などと感謝を伝えて終わることができます。こういったやり取りによって、その子どもと大人との間で「手当てをする」という共通の目標ができたことが明確になります。できれば、「自傷ではない良い方法で対処すること」や「辛さの背景にある問題を解決すること」を共通の目標としたいところですが、いきなり本質的なところに関わっていくことは難しいものです。子どもの抵抗感や不安を助長するからです。だからこそ、同意が得られやすい「手当て」を通して、関係を築いていくのです。

最後に

 こんなふうに子どもと話をするためには、大人自身が気持ちを落ち着かせて子どもに関わることが必要です。今回のように傷を見つけたり、学校からの知らせで気づいた場合は、子どもに話しかける前に深呼吸するなどして、気持ちを落ち着かせてから関わりを持つことも大切だと思います。

 今回、自傷行為そのものについて話し合っていくことについては、触れられておりません。実は、「手当て」について話すことで自傷行為そのものが軽減してくることがあります。その後から自傷行為について話し合っていくほうが、大人も子どもも話し合いやすいと思います。そのため、まずは自傷行為ではなく、「手当て」について話し合ってみてください。なお、自傷行為について話しあうことには、様々な難しい側面があります。機会があれば、回を改めてお話ししたいと思います。

文献
松本俊彦 2015 もしも「死にたい」と言われたら 中外医学社
松本俊彦(監修) 2018 自分を傷つけてしまう人のためのレスキューガイド 法研
坂口由佳 2021 自傷行為への学校での対応-援助者と当事者の語りから考える 新曜社

執筆者プロフィール

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半田一郎(はんだ・いちろう)
スクールカウンセラー・子育てカウンセリング・リソースポート代表。
公認心理師・臨床心理士・学校心理士スーパーバイザー。

好評を博した本連載を大幅に加筆・修正した書籍を刊行致しました。
半田一郎・著『子どものSOSの聴き方・受け止め方』四六判・212頁・2,310円(税込)

よろしくお願い致します。

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