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不登校と孤独(適応指導教室教育相談員・スクールカウンセラー:林千恵子) #孤独の理解

集団生活の場である学校を離れている不登校の子どもたちの孤独とはどのようなものなのでしょうか。多くの不登校の子どもの支援を続けている林先生にお書きいただきました。

不登校と孤独

 「不登校と孤独」というテーマをいただいた時に、なんとなく違和感を覚えました。「不登校の子どもはみんな孤独なのだろうか?」どうも、それが違和感の正体のようです。

 適応指導教室に通っていた子ども達が、自らの不登校体験を綴った作文を見ていても、「孤独」という言葉はあまり使われていません。

 分かっているようで分かりにくい「孤独」の意味を『精選版 日本国語大辞典』第一巻(小学館国語辞典編集部編集、2006)で調べてみました。

「①みなしごと、年とって子どものいないひとりもの。②精神的なよりどころとなる人、心の通じあう人などがなく、さびしいこと。また、そのようなさま」

 あぁ、なるほどと納得しました。適応指導教室に通っている子ども達にはよりどころとなる居場所があるのだ。そして、他者とつながっているという感覚があるのだと。

 そこで思い出した言葉があります。

 「不登校になった今よりも、学校に行っている時の方がずっと孤独だった。」

 以前適応指導教室に通っていた中学生が話した言葉です。クラスの中で浮き上がらないように一生懸命話題に付いていき、みんなと同じように笑う。とにかく浮かないように、いつもビクビクしていた。だから、人に囲まれているのに、心はいつも孤独だったというのです。

 登校していても、不登校であっても、つながりが感じられず、よりどころがなければ孤独を感じるのです。学校に通っていても孤独を感じている子どもは一定数いるのだと思います。コロナ禍で行事や様々な活動が制限され、つながることが難しかったこの数年は、なおさら孤独を感じやすかったと考えられます。

「孤独」から「孤立」へ

 不登校の子ども達が更に辛い状況に追い込まれていくのは、「孤独」が「孤立」につながっていくからだと考えます。「孤独」と「孤立」は似て非なる言葉です。

 また『精選版 日本国語大辞典』第一巻を引いてみます。すると「孤立」は、

「①他から離れて一つだけ立っていること。また、仲間がいなく一人ぼっちなこと。他の助けがなくただ一人でいること。②対立するもののないこと。対応するものがないこと。」

と書かれています。

 孤独は、精神的な要素が強いですが、「孤立」は助けや仲間がなく、文字通り一人ぼっちの状況を表します。

不登校の子どもの「孤立」

 「味方は誰もいなくて、全員が敵みたいだった。」「自分だけがだめなんだとか、自分だけがこんな風になっちゃったんだといつも思っていた。」「自分はもうダメなのだと思って自暴自棄になっていた。」

 家庭と学校が生活のほとんどの割合を占める子どもにとって、学校に行かないことは、社会とのつながりを失うことを意味します。「自分の人生は終わった。」「何もできないまま、ただ生きてくしかない。」と多くの不登校の子どもが語る言葉は、社会への道が閉ざされ、自分の未来に希望がないという思いの表現です。
 
 学校の刺激のある昼間に眠り、昼夜逆転の生活になって、家族とも疎遠になっていきます。学校に行かないことで、心情的に家族との関係がこじれることも多く、家庭の中で「孤立」していくこともあります。家庭と学校という二つの居場所でつながりが失われていく。まさに孤立無援の状態です。

 「孤立」の怖さは、どんどん世界が狭まっていき(自分で世界を狭めていき)、自分に対する信頼が揺らいでいくことです。「自分は役に立たない」「なんの価値もない」という思いは、子ども達から生きる力を奪っていきます。

不登校の子どもをもつ親の「孤立」

 不登校の解決を難しくする一つの要因に、不登校の子どもをもつ親もまた、周囲から「孤立」していくことが挙げられます。

 十数年前から、「不登校親の会」を行っているのですが、語られる言葉の一つ一つに不登校の子どもをもつ親(特に母親)がいかに追い詰められているかを実感しています。子どもを学校に行かせられないことで、育て方が悪かったのではないかと自分を責め、周囲にもそう思われているのではないかと疑心暗鬼になっていきます。追い詰められると、子どもへの愛情や心配が強い言葉かけで表現されるようになり、子どもに信頼されていないと悩むこともあります。夫婦間で相談できないケースでは、「孤立」が更に深刻化するのです。

 大人も子どもも孤立した状況の中で周囲に助けを求めることが難しくなっていき、不登校が長期化していきます。

 だからこそ、何らかのつながりを保ち、孤立しないようにすること、そして周囲は孤立させないように気を配り、つながりを維持することが大切なのです。

「孤独」や「孤立」から抜け出すために

 「不登校から立ち直った要因は、趣味の充実とか、わずかにいる友人、一番は自分をちゃんと肯定してくれる人が近くにいたこと」と話した子がいました。この言葉には、不登校の子どもが「孤独」や「孤立」から抜け出すために必要なことのヒントが詰まっています。

 まずは、「趣味」です。不登校の後輩へのメッセージ集にも「好きなことを見つけよう」というメッセージが多く見られます。好きなことをしている時間は、何度も思い起こされる辛い思考を一時忘れさせてくれますし、楽しいという感覚はエネルギーを充電してくれます。

 部屋にこもってひたすら好きなアニメを観続けていた子は、主人公の言葉がきっかけとなって動き出すことができました。自分と似たところのある主人公が言った言葉が胸に刺さったと言います。その主人公が決意を固め前に進み始めた姿を見て、この子も適応指導教室に通い始めたのです。「自分にもできる」という勇気をもらったと話していました。

 それにプラスして、不登校の子ども達は、趣味や好きなことを楽しみながら、外の世界に向けてのつながりを探っているのではないかと最近考えるようになりました。通信をしながらのゲームで他者とコミュニケーションをとっている子は多いですし、自分の好きなものをインスタグラムに載せて、同じ趣味をもつ人とつながっている子もいます。好きなことを通して、何らかの形で他者とのつながりを求め、探っているのだと感じます。

 その上で、現実の人とつながり直して「孤独」や「孤立」から抜け出すために「自分をちゃんと肯定してくれる人」が必要なのです。寄り添って、ありのままの自分を受け入れてくれる存在です。

 「辛い気持ちを話したら迷惑なのではないか」「話したってどうにもならないとあきらめていた」と話す子どもは多くいます。しかし、心の中は「辛い気持ちに気付いてほしい。分かってほしい。どうして気付いてくれないのだろう。どうして助けてくれないのだろう。」という思いでいっぱいだったと話す子も多くいます。言葉には表現されない思いを汲み取っていくことが大切なのだと肝に銘じています。

 「あなたはあなたのままでいいよ。」「あなたはあなただからいいよ。」そんな思いをもって、不登校の子ども達に寄り添っていきたいと思っています。

 また、安心してつながれる居場所の確保も大切です。「どこかに通っていると言える場所があるだけで救われる。」と言った子どももいました。

 不登校特例校、適応指導教室(教育支援センター)やフリースクール等が考えられます。学校の相談室や教育相談室で少しずつ自分の気持ちを表現することもできますし、スクールソーシャルワーカー等、外に出られない時期を支えてくれる制度も広がっています。

 保護者にも、思いを共有でき、つながれる場所が必要です。「親の会」等保護者向けの支援にも目が向けられるようになっています。

 私がお手伝いしている「親の会」では、先輩保護者がお世話役となって、現役保護者と体験や思いを共有しています。泣いたり、笑ったり、終了後はすっきりとした表情になる人がほとんどです。「自分だけが辛いと思っていたけれど、仲間がいると思ったらまた頑張れる。」「今日は、久しぶりに子どもと普通に向き合える気がする。」といった言葉も聞かれます。

 少し手を伸ばせば、よりどころとなる場所があることを不登校で苦しんでいる子どもや保護者にぜひ伝えたいと思っています。

終わりに

 コロナ禍の影響もあり、令和2年度は不登校の子どもの数が過去最高になりました。

 また、34.3%の児童生徒は、学校内外の機関で相談や指導を受けていないという調査結果も発表されています(文部科学省 令和2年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」より)。「孤立」している可能性がある子どもが多くいるのではないかと危惧されます。

 不登校の子どもや親の「孤立」を防ぐために、つながり支えていく制度や施設を更に整え、必要な情報を共有していく必要があります。

 「孤独だった時間に自分ととことん向き合ったから成長できた。」「不登校を経験したからこそ、今の自分がある。」と大人になった時に、多くの不登校経験者が語っています。「孤独」や「孤立」から抜け出した経験は、その子ども達の成長の糧となり、その後の人生を支えます。不登校をそうした経験にしていくことが大切です。

 つながることが難しい時代に、どのようにつながりを構築していくかを考える好機です。最近、「困ったときはお互い様」という言葉をあまり聞かなくなったように思います。「孤独」や「孤立」が社会的な問題になっている今こそ、お互いに助け合い、支え合うことを意味するこの言葉が大切なのではないでしょうか。

 子ども達の命や心を守るために、私も一歩一歩小さなつながりを築いていきます。小さなつながりが、大きなつながりになることを心から願って。

執筆者

林千恵子(はやし・ちえこ)
教育相談員(公認心理師、学校心理士、特別支援教育士)
中学校教員(国語)や様々な経験を経て、適応指導教室の教育相談員として20年以上勤務する。その間に出会った不登校の子どもと保護者、教員はそれぞれのべ800人に及ぶ。教育と心理学の間を行き来しながら「人と関わることで人は変わる」という信念の下、対話を積み重ね、多くの卒業生が社会的自立をしている。また、作文を通した子どもの自己対話の促進にも力を入れている。
十数年前からは、適応指導教室の勤務と並行して公立小学校のスクールカウンセラーや巡回相談員も務め、教員研修や関係機関の研修講師、不登校親の会の世話役も行っている。
作文を通した自己対話から見える、不登校の子ども達のホンネや成長記録を広く伝えたいと考えている。


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