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新型コロナ禍の中で過ごす親子の時間~発達障害のある小さなお子さんとの遊び方のコツ~(黒田美保:帝京大学文学部心理学科 教授/BRIDGEこころの発達研究所代表)#つながれない社会のなかでこころのつながりを

発達障害のある小さなお子さんとご家族の支援を続けられている黒田美保先生。外出自粛が続く中、家の中で親子で楽しく過ごすための、ちょっとした工夫とコツを教えていただきました。

 それでも日々は続く

 2020年5月20日、東京の自宅でこの原稿を書いています。4月7日に緊急事態宣言が発令されてから、もう1カ月以上ほとんど人に会わない生活です。大学での仕事が多くを占める私にとって、学生に会わないということは、対人接触8割減どころか9割以上減の生活です。

 私の今の生活は、音のしない静寂な世界と言えるかもしれません。それは、今までの忙しすぎる雑音だらけの毎日に比べれば、丁寧に暮らしを重ねられる日々でもあります。ただ、先の見えなさから、とてつもない不安と孤独感を感じる時もあります。

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 ただ、実際に会うことはできない、つながれないと言いながら、こうした事態になってからほぼ1、2カ月のうちに、私たちは世界的レベルでつながるすべを手に入れています。やはり、人類はたくましく、しなやかで、レジリエンスに富んでいると微笑ましくなります。

 私が子どもの頃からお会いしている発達障害の成人の方は、恐る恐るカウンセリングにいらしていたのが、今はネットでのカウンセリングへと変わっています。支援者へのスーパーバイズもネットへと変わり、それはそれで楽しく有意義だったとの感想もありました。大学の学生とはオンライン授業で音声教材やチャットでつながったり、Zoomで対面してディスカッションしたりすることもできます。3カ月前には想像もつかなかったSF的毎日。

 こうした中で、やはり一対一でお会いしているのが、発達障害のある幼児さんと親御さんです。残念ながら、名古屋でおこなっていた親子のセラピーは、緊急事態宣言後、名古屋に行けないためにできなくなり、本当に心残りです。
 東京で会う親御さんには、疲れや戸惑いが見られます。昨日まで使えていた公園の遊具が次の日には縄が張られて使えなくなったりと、日々予測のできないことが起こります。テレワーク中もずっと幼児さんがそばにいることで心が休まりません。
 私がお会いしているお子さんたちは、保育園に通えていたりして比較的自宅にいる時間が少ないのですが、それでも親御さんも先の見えない不安の中、幼児さんと過ごす時間が大変と感じることもあると思います(もちろん、楽しい時間もたくさんあると思います)。


手洗い

 家で、発達障害のある幼児さんと楽しく遊ぶ工夫を中心に、親子での過ごし方を、発達障害のある幼児さんへの早期介入の研究と、ペアレント・プログラムを参考にご紹介したいと思います。

1. 子どもの遊びに合わせてみよう

 お子さんが今何をしているのかを見てみましょう。えてして、大人は「このおもちゃは、こういう遊び方」と固く考え、遊びをお子さんに教えようとしがちですが、子どもは自由な発想で、おもちゃで遊んでいます。ぜひ、お子さんのしている遊びを真似してみましょう。真似をしている親御さんへの興味が増して、やりとりも生まれます。小学生くらいのお子さんでも、お子さんがやっていることに親が参加するととても嬉しいものです。

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2. 興味があるけど遊べない時こそ、大人の経験を生かしてモデルを見せよう

 お子さんがおもちゃには興味があるけど遊べない、という時は遊びのモデルを見せてあげましょう。ちょっと大げさにリアクションをつけて。ただ、お子さんがモデルを見せても遊びに興味を示してくれない時は、潔く引き下がり、別の遊び方を提案してみましょう。

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3. 声かけは、短めに

 いろいろ話しかけられると、遊びに集中していいのか、言葉を聞かないといけないのか気になるお子さんもいるので、言葉かけは短めに必要最小限にしましょう。お子さんが話す言葉より少し長い言葉で話しましょう(例えば、単語で話すお子さんには、「りんご」や「りんご、あげるね」)。そして、穏やかにゆっくり話しかけましょう。

赤ちゃん水遊び

4. 予定を示そう

 保育園や幼稚園に行く日が不規則になっているので、行く日は前日に、保育園バッグを示したり写真カードなどで教えてあげましょう。家で過ごす日も、これが終わったら、次は食事にしようなどと伝えていくことも重要です。見通しがつくことで、不安が減り落ち着くお子さんも多いのです。

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5. お子さんがイライラしてきたら、体を使った遊びもいいです。

 お子さんがイライラしているような時、くすぐり遊びや抱っこしてくるくる回るなどの体を使った遊びで気分転換をしていきましょう。

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6.お子さんと自分を褒めよう!

 褒めることは、幼児さんだけでなく、どのような年代のお子さんにとっても大切です。お子さんがしている適応行動(日常生活を普通に過ごすための行動)をどんどん褒めましょう。例えば「ご飯全部食べたね、えらい」「自分で起きられたね、えらい」など。褒めるという行為は、お子さんにとって「あなたを見守っているのよ」というメッセージとなります。お子さんは、親御さんに見守ってもらうのが、大好きです。
 ちょっと大きなお子さんには、「手伝ってもらって、助かった」などの感謝の言葉が効果的。そして、親御さんは、頑張っている自分自身を一番褒めてあげましょう。

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 最後に、ずっと一緒は、大変です。親御さん自身が休むことも大切です。時には一人で時間を過ごしてもらいましょう。好きなパズルをしてもらったり、ビデオを見ていてもらったり、発達障害のお子さんは、一人で時間を過ごすのが得意な子も多いので、一人遊びの時には、ゆっくり親御さんも休みましょう。

◆執筆者プロフィール

黒田美保(くろだみほ)
帝京大学 文学部心理学科 教授/BRIDGEこころの発達研究所代表
専門は、発達臨床心理学。自閉スペクトラム症を中心に、発達障害の臨床・研究に取り組み、アセスメントや支援プログラムの開発を行っている。

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