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【第一の達人登場!】ズバッと解決ファイル4U ~登場人物の気持ちを理解することが難しい子~(前田智行:こども発達支援研究会理事)

前回の記事で阿部先生にご紹介いただいたとおり、今回のケース3は「登場人物の気持ちを理解することが難しい子」です。
本記事ではそのケース紹介(事例)と、達人による支援案の紹介になります。第一の達人として前田智行先生にご登場いただき、ズバッと!解決していただきます。
それでは以下より、本編スタートです!

子どもの様子

 しゅんくんは、4年生の男の子です。
 休み時間は、友達と遊んだり、雨の日は図書室で図鑑を読んだりして過ごしています。
 勉強は苦手さを感じています。特に、国語の物語文の授業で人物の気持ちを考える問題は、よく分かりません。

 読むこと自体は大丈夫ですが、登場人物の気持ちは「そんなの書いた人しかわからないじゃん・・・」と感じています。「ごんぎつね」を読んで「この時のごんの気持ちは?」などと聞かれると、全くイメージがわかないので、楽しい、悲しいなど、適当に書いています。

 日常生活では、まじめで先生、友達のお手伝いなどもしてくれる優しい子ですが、友達の気持ちを読み取れず発言してしまうこともあるので、トラブルになってしまうこともあります。

 先生も心配してしゅんくんに「ちゃんと読んで!」と声をかけますが、「気持ちなんて書いてないんだから、わからないよ・・・」と悩んでいます。

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個別学習指導からの支援案① 〜場面をイメージする力〜

 人物の読解に関する支援は、その子が問題を読んでいる時に何をイメージしているかを知る必要があります。

 例えば、人は「犬」という漢字を見たら、「いぬ」という読み方、具体的な犬の姿の3つを自然にイメージします。これは、視覚情報と聴覚情報(音声情報)が頭の中でリンクしているからです。

 「文字―読み方―具体物」この3つが同時に浮かぶようになると、徐々に「犬もあるけば棒に当たる」という文(ことわざ)を見た時も、犬が転んで棒に当たっている場面をイメージできるようになります。

 このように、文そのものがイメージとして理解できるようになっていくことで、文章を読むスピードも速くなっていきます。

 この場面をイメージする力には、読書量も大切ですが、その子自身の生活経験も重要になります。
 例えば、「犬も歩けば棒に当たる」であれば、「犬」「棒」を見聞きし、「転んで何かに当たる」といった経験も必要があります。犬であれば多くの子どもは見たことがあると思いますが、これが「きつね」「きつつき」「ガン」「くえ」など、見慣れない動物だとうまくイメージできず気持ちの読み取りも難しくなります。

 例えば、皆さんも、「海王星からきたピルルン星人の気持ちを考えましょう」と言われても、いまいちピンとこないと思います。これは、ピルルン星人の外見や生態がイメージできないからです。

 このように、生活経験は国語の語彙力、読解力に直結しているので、学校・家庭で様々な体験の機会をもつことが国語力向上のひとつの鍵になります。

 しゅんくんに限らず、子どもは生活経験が少ないため文を読んでもイメージができないか、曖昧で頭に残りにくい状態になります。そこで教科書には挿絵が掲載されています。この挿絵を手がかりにイメージを補完し、読解を行うのです。
 しかし、しゅんくんのように視覚情報処理の力が低いと、読んだ内容のイメージが苦手で周りの子より、頭に残りにくくなります。このような場合は、どうすれば良いのでしょうか?

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2つの視覚支援

 支援としては2つ考えられます。

 1つは、「視覚的手がかりをたくさん見せる」という支援です。イメージの補助をすることで、文章を読んでいても「この場面だ!」と気づくことができます。また登場人物の状況も分かりやすくなるため、自分の体験とつなげて気持ちを考えるハードルも下がります。

 2つ目は、「場面の絵を描く」という支援です。
 例えば、「お父さんは、プラットホームのはしっぽの、ごみすて場のような所に、わすれられたようにさいていたコスモスの花を見つけたのです。(4年生:一つの花)」という文を読んで絵で描かせてみます。

 すると、正しくイメージできていないと、お父さんがプラットホームの真ん中にいたり、コスモスの花だけ描いてお父さんがいなかったりするなど、子どもが読んでイメージをしている様子が実際にわかります。

 本文とズレが大きい時は、先生と本文を読みながら一緒に絵を一つずつ描いていきます。すると「そういう意味か!」と、徐々に言葉の意味がイメージとつながって頭に入ってきます。

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 このように、場面を適切に読み取る力を育てることで、登場人物の様子が具体的にわかり、気持ちの読み取りの力を高めることができます。

個別学習指導からの支援案② 〜「気持ちの表現」を教える〜

 ① とは異なり、そもそも他者視点で考えることが苦手な子がいます。
 「あまりじょうぶでないゆみ子のお父さんも、戦争に行かなければならない日がやってきました」という文を読んで、「戦争にいくなんてかっこいい!」と思っている子は、そのまま「嬉しい気持ち」と気持ちを読み取るでしょう。
 つまり、自分ごととして考えてしまうと、人物の気持ちは読み取れないということです。

 このようなミスは、そもそも「気持ちの表現」を知らないことから起こります。

 当然ですが、読解は本文に書いてある言葉を根拠にして読み取る必要があります。しかし、読み取り方を教えられていないのに、「どんな気持ち?」と聞かれてもわかりません。

 この場合は、まずは「気持ちの表現」を教えることから始めます。気持ちの表現は大きく分けて3種類あります。

① 感情描写
 これは気持ちの言葉をそのまま書く表現です。例えば、「かわいそうに。わなになんか かかるんじゃ ないよ」という文を読んだら「かわいそうに」と書かれているので、人物の気持ちは「かわいそうに思った」と読み取れます。

② 行動描写
 これは人物の行動で気持ちを表す表現です。
 「スイミーは かんがえた。いろいろ かんがえた。うんと かんがえた。(2年生スイミー )」という文であれば、たくさん考えている行動に対して気持ちの言葉を考えます。自分がその行動をしている時のことをイメージすることができれば、気持ちはだいたい予想することができます。
 上の文で言えば「必死な気持ちだった」「あせっていた」のように読み取れます。
 他にも、「『ふふふっ。』ひとりでにわらいがこみ上げてきました。」という文であれば、「わらいがこみ上げてくる」という行動をイメージして、気持ち考えると「なんだかおかしい気持ち」のように解答します。もちろん、物語の展開を踏まえることも大切です。

③ 情景描写
 これは、場面の情景から気持ちを表す表現です。

 例えば、「兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。」という文であれば、「ばたりと取り落とした」という行動に加えて、「青いけむりが、つつ口から細く出ている」という情景が、登場人物(兵十)の気持ちを表す表現となります。

 前提として、この情景描写の読み取りに絶対の答えというものはなく、読者が感じ取ったことを表現する力が大切になります。そしてこれは、作品の流れや登場人物の気持ちの揺れ動き、他の人物との関係性などの文脈を合わせて考えるので、とても難しいです。

 小学校の授業では、情景描写をクラス全体で検討して考える展開が主流です。他の子の意見を聞いて、「そういう考え方があるのか!」という新しい視点を獲得したり、「じゃあ私はこう思う!」と自分の考えを再構成したりすることを繰り返して、物語を自分なりに解釈する力をつけていきます。

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 しかし、このような「気持ちの表現」は意外と授業では体系的に教えられていないことが多く、子どもとしては「いきなり聞かれても・・・」という気持ちです。
 そこでまずは、3種類の表現があることを伝えます。特に「情景」は気持ちの表現であることを伝えると、「そうなの!」と気づいて理解してくれる子もいます。しょうくんのように「相手の気持ちを読み取る力」に課題のある子は、登場人物の気持ちの読み取りが苦手になることが多いですが、これは「人物の立場になって考える」という行為がそもそも苦手なためです。

 一方、「気持ちを表している言葉・表現から推測する」と発想を変えると、読み取りが改善する子もいますので、このような表現をまず教えることは大切です。

 特に、特別支援級に在籍し、国語は個別指導で行っている状況の子は、他の子と意見を交流し、多様な解釈力を身につける場面を作ることが難しいという実態があります。物語文の人物の気持ちの読み取りは、読解を超えて自分なりに解釈する力も必要となりますので、この部分が難しいポイントの一つでしょう。

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しょうくんへの個別支援

 しょうくんへの個別支援としては、「人物の気持ちがプラス、マイナスどちらかを考える」という方法があります。これは、筑波大学附属小学校国語部の桂聖先生の実践を参考にしたものです。

 「どんな気持ちでしょうか?」と問われると、考える要素が多すぎて思考が止まってしまいます。しょうくんは、文章を読むことはできますが、言葉の一つひとつの検討をするのはまだ難しいです。
 よって、まずは「この場面の登場人物の気持ちは、プラスかマイナス、どちらかな?」と二択で考えてもらいます。

 例えば、「兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。」というシーンでは、「じゅうを落としてるし、『青いけむり』はマイナスの気持ちみたい」と考えて、マイナスの気持ちと判断できます。

 他にも、大造じいさんとガンの中の「あかつきの光が、小屋の中にすがすがしく流れ込んできました。」という情景描写では、「『光』とか、『すがすがしく』って言葉はプラスっぽいかな〜」と考えて、プラスと判断したりすることができます。

 このように、まずは情景をプラスかマイナスかを考えることで、登場人物の気持ちを大まかに判断できます。その後、物語の流れからできるとこまで解釈をしてみると良いでしょう。

前田先生プラスとマイナス記号

 また、テストで気持ちを選択肢で選ばせる問題などは、プラス・マイナスの判断をするだけでも、かなり見通しがつくため、本人も自信をもって答えられる回数も増えていきます。
 いきなり、気持ちを全て読解・解釈する力をつけることは難しいですが、スモールステップで一つずつ「気持ちを読み取る力」を育てていきましょう。

いかがだったでしょうか?丁寧に分解をしてご説明くださった達人のワザに新しい発見、学びがあったのではないでしょうか。
次回は第二の達人として片岡寛仁先生にご登場いただきます。片岡先生には授業でどのように支援を展開していくか、達人のワザをご紹介いただきます!
次回の配信は11月11日(水)を予定しています。ぜひお楽しみに!

執筆者プロフィール

前田智行(まえだ・ともゆき)
一般社団法人こども発達支援研究会理事。放課後等デイサービス、児童発達支援、小学校等にて500名以上の支援に関わり、少年院、小学校、放課後等デイサービスなどの施設で研修講師も担当。当人もADHD、ASDの当事者であり、当事者経験と専門知識に基づく実用性の高い研修を実施。著書として、『UD学級への6原則』(2018年)、『「いじめのない学級」と「わかる授業」を創るための実践と理論』(2019年)(ともに教育報道出版社)。
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