やまない雨はない~天気の転機(気象予報士:檜山靖洋)#転機の心理学
連日の曇りや雨で、乾かない洗濯物は部屋に並び、時には梅雨寒、時には蒸し暑く、上着を着ても半袖で過ごしても、ちょうど良くなりません。そんなうっとうしい梅雨の期間は、およそ1か月半続きます。
やがて、雷がゴロゴロ鳴ってザーザー降りの雨が降ったかと思うと、夏休みが始まるころには抜けるような青空が広がり、暑い日々がやってきます。子どものころは、梅雨が明けると、空の色や明るさ、空気の感触が全然違うものに感じられました。梅雨明けを境に劇的に天気が変わるイメージがありました。
ちょうど夏休みが始まる頃だったという理由もあると思いますが、天気とともに一気に気分も晴れてワクワクしたことを思い出します。梅雨から夏へのシフトチェンジは、私が思う最大の天気の転機です。そして、天気に左右される最大の心の転機でもあります。
近年は、いわゆる“陽性の梅雨”が多く、降るときは降る、降らないときは降らないというメリハリがあるため、梅雨の期間でも何日か晴れて猛暑が続くこともあります。このため、昔ほど、梅雨から夏本番への劇的な“転機”を感じなくなりました。梅雨明け前でも、何日も晴れが続いて、梅雨が明けたような天気になることも少なくありません。
夏本番の晴天が1週間続いたとしても、そのあとに梅雨の天気が戻るなら、梅雨明けの発表は見送られます。梅雨明けの発表がないと、天気が海水浴日和、花火大会日和でも、気分的に楽しめません。特に7月に入ってから梅雨の中休みの晴天が1週間も続くと、梅雨明けを発表してくれたら良いのにと思うこともあります。気象庁の予報官の方にとっては、そんな私の気持ちなど“つゆしらず”かもしれませんが。
私の経歴の話になりますが、学生の頃は勉強よりもサークル活動で忙しい日々を送っていました。特に勉強や研究に力を入れなかった私は、就職活動の際、何をやりたいのか、どんな仕事をしたいのか、イメージできていませんでした。このため、私の人生は冬の時代、西高東低の気圧配置になりました。就職活動は、成功とは到底……言えませんでした。
大学を卒業する頃になって、気象予報士になる!という目標を抱きました。これを機に、気象の本を読み始めました。難しい本でも気象のことを学ぶことが楽しくて仕方ありませんでした。そのとき私の歴史は動きました。この目標を持った時こそが人生の転機になりました。正に、天気が転機でした。
数日から1週間程度の天候の転機がある
冬に寒波は数日間続くことが多いです。日本海側の大雪や全国的な厳しい寒さが続きますが、長くても1週間程度でひとつの寒波は終わります。春には寒の戻りで、気温が平年を下回る日が続くこともあります。そのあとには気温が高い日が続くなど、1週間程度の区切りで、天候のフェーズが変わることがあります。
5月には、帯状の高気圧に覆われ晴天が続きます。5月の後半になると、“梅雨のはしり”と呼ばれる時期がやってきて、6月には梅雨が本格化します。
梅雨明け後は、梅雨明け十日と言われるように、十日ほど夏空が続くことが多いです。盛夏に陰りが見えると、また梅雨のような天気に戻り、そして台風シーズンへと突入します。台風と秋雨が重なり、大雨が起こりやすい時期になります。秋雨が終わると、高気圧に覆われ晴れる日が多くなります。やがて、晩秋になると、日本海側は曇天が続くようになり、太平洋側は晴れの日の割合が圧倒的に多くなります。
季節の変化だけではなく、天候の転機もいろいろあります。
天気が危ないとき、人生が向かい風のときは、安全にやりすごそう
台風の一生にも“転機”があります。熱帯の海で、水蒸気をたっぷり含んだ暖かい空気をエネルギーにして、台風の卵となる雲が発生します。雲ができるときには熱を出して、まわりの空気を暖める性質があります。暖かい空気は軽いので気圧が下がります。気圧が下がると周囲から気圧の低い所に向かって、風が吹きこみます。その風がぶつかると上昇気流がさらに強まり、積乱雲が発達します。そして、熱を出して、気圧が下がり……というように、どんどん台風は発達していきます。
ところが、台風は北上すると、海水温が低いエリアに入ってきます。すると、受け取るエネルギーが減り、積乱雲の発達は止まり、上昇気流も弱まり、中心気圧が上がり始めます。同じ場所に居座ったとしても、台風が通ると海水温が下がることから、同じ場所からエネルギーを受け続けることはできず、衰え始めます。台風の転機です。ひとたび弱まり始めると、今度は弱まるサイクルに入り、どんどん衰えます。沖縄など南の地方は何日か台風の影響が続き、長引くこともありますが、必ず天気は回復します。
異常気象が起こるとき、偏西風が蛇行していることが原因になることが多いです。偏西風が蛇行するということは、低気圧や高気圧を流す風が弱く、同じような気圧配置が続いてしまうのです。すると、同じ場所で雨が降り続いたり、別の場所では晴れて猛暑が続いたりします。雨が続けば、土砂災害や川の氾濫などが起こりやすくなります。猛暑が続けば熱中症になる人が増加します。極端な天気が何日も続くと災害につながります。危険な天気が続くときは安全な場所で通り過ぎるのを待ちましょう。何日か経てば“転機”がやってきて、偏西風の流れも良くなります。
日常生活でも、何をしてもうまく行かない時期が続くことがあります。そんな状態がしばらく続いても、急に追い風が吹き出したように感じ、物事がうまく進むようになることがあります。
やまない雨はありません。終わらない冬もありません。明けない梅雨はたまにあり、梅雨明けの発表ができない年もありますが、ずっと雨が続くわけではありません。悪天はいつか好天に変わるように、悪いことが続いてもいつか必ず状況は好転します。気象災害から身を守るときと同じように、状況が悪いときは、無理に前に進もうとせず、通り過ぎるまで休んで待ちましょう。追い風に変わったら自然と前に進んで行くのではないでしょうか。