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依存症の葛藤を語る~たかりこチャンネル紙上対談~(たかりこチャンネル:田中紀子、高知東生) #葛藤するということ

人は日々、多くのストレス要因にさらされながら生きており、誰もが安らぎを得られるものに頼って生きています。その一方で、対処するのが難しい状況におかれたときなど、その依存のしかたや程度が問題になってしまうこともあります。「やめたいのに、やめられない」ともいわれる依存にまつわる葛藤―。今回は、依存症当事者であり、YouTubeで依存症に関する啓発活動を行っているたかりこチャンネルのお二人(田中紀子先生、高知東生先生)に、依存症と葛藤というテーマで対談していただきました。その書き起こしをお届けいたします。

りこ(田中紀子、以下「りこ」):さて高知さん。今回は金子書房さんから「葛藤するということ」をテーマに頂いたので、二人で普段お送りしている「たかりこチャンネル」を紙面版でやってみようと思います。

たか(高知東生、以下「たか」):お~!初めての試みだね。依存症者同志の紙上対談ってあんまりないかもね。

「やめたいのに、やめられない」の背後にあるもの

りこ:この度のテーマですけど、依存症者はもう葛藤だらけですよね。

たか:そうそう、まず「やめたいけど、やめられない」という大きな葛藤があるよね。

りこ:もうこれがなんと言っても大きい。依存症になったことのない人は「やめたきゃ、やめればいいじゃん」と簡単に思うかもしれないですけどそうはいかない。私の場合はギャンブルと買い物ですけど「やめたら自分の人生には何も支えがなくなる。これがあるから生きていられるんだ」と思ってましたからね。

たか:俺の場合は、そこまで強迫的じゃなかったけど、一緒にクスリを使っていた女性がいたから、人間関係もあって抜け出し方が分からなかったんだよな。

りこ:それ分かります。私たちもギャンブル仲間とつるんでいた頃は「金ないからやめとく」と誰かが言っても「じゃあ、お金回すよ」ってなっちゃって、結局なかなかやめられない。足の引っ張り合いになっちゃいますよね。

たか:それに加えて俺の場合はさ、芸能界にいたから秘密を握りあう恐怖もあってさ。最初はクスリという秘密を握り合うことで、無二の親友のような気がするんだよ。ところが回数が重なってくると、それが習慣化してきちゃって、「頻繁に使うようになってきたな。やばいな・・・」と思うんだけど、お互いが同時のタイミングで「やめよう」と思わない限り「まぁ良いじゃない」「バレやしないよ、大丈夫だよ」となぁなぁになっちゃう。今思えば、ちゃんと話し合えば良かったんだよなって思うんだけど、当時は嘘や隠し事だらけだからさ「奥さんにタレこまれたらどうしよう」「週刊誌に暴露されたらどうしよう」なんてそんな妄想ばかり膨らんじゃって、怖くてできなかったんだよな。

りこ:相手の方だって使ってたんだから、そんなヤバいことしないと思いますけど、依存症真っ最中の時って妄想が膨らみますよね。あれも病気の一つの症状って気がしますね。

たか:そうだね。あれってさ、もちろん他人に対して嘘ついていることもあるけど、何よりも自分自身に対して、嘘や誤魔化しがあるからさ、怖くて仕方ないんだよね。

りこ:分かります。それでその恐れが、怒りに変るんですよね。私の場合は「私がこんな風にお金を使うのは、子供の頃貧乏で我慢ばかりさせられていたからだ」なんて理屈を作って親に怒りの矛先を向けていた。それが心のどっかでは、屁理屈だって分かっているんですけど、そういう何か理屈がないと、自分の行動の不可解さが理解できないんですよね。

たか:俺はあの頃、芸能界を休職していてエステ産業に進出しようと力を入れていた。ところが大きな業務提携話が一方的に破棄されたことで、どうしようもないピンチだったんだよ。だから「こんなに大変なんだから息抜きは必要だ」って理屈を作っていたな。

りこ:このままじゃダメだ、こんなことでは根本的な解決にはならないって分かっているんですよね。でも依存症になると脳が機能不全に陥るんで、まともな考え方ができなくなるんですよね。あの状態、今振り返ると恐ろしいですよね。自分では病気だって全く分からないですもんね。

たか:そうそう。他の一般生活はちゃんと送れる。友達と会ったり、家族と普通に過ごすこともできる。でも平気を装いながら、頭の中はずっと「クスリを使う理由」が駆け巡ってる。

りこ:わかる~!「今日は大変な仕事をやり遂げた。こんなに辛かったんだから今日だけはいいだろう」という思いが頭から離れない。でもどっかでは「やばい。やばい。やっちゃだめだ」と思うから、結局「よし、今日を最後にしよう。明日からはやめる」って自分に言い聞かせると、なんとか自分を誤魔化せる。

たか:その「明日」が永遠に来ないんだよね。

りこ:「明日からやめる」じゃなくて「今日はやめる」になった日から回復が始まった。

たか:そんなの一人じゃできない。

りこ:そうそう。私も仲間に毎日電話で「辛い」と話してた。だって頭の中はギャンブルや買い物をやる自分の中の正当な理由が駆け巡ってるんですよ。「お前こんなに苦労したんだから、今日だけは買い物したって許されるぞ」なんてね。とにかく頭の中が忙しくて「誰か私の頭の中の考えを止めて!」と毎日泣いてましたよ。泣きながら仲間に電話すると「明日、行ってもいい。でも今日はやめとこう」って言われる。そして私が落ち着くまでつきあってくれる。もうね、あの頃は本当に命からがら、今日という日を乗り切った気がします。
あとから「あの状態が病気だった」と言われて、依存症という病気の概念がスッと腑に落ちました。

たか:俺も「運が悪かっただけ」なんて思ってたけどさ、事件で人が皆離れてさ、一日中何もやることがない。孤独で話す人もいない。テレビをつければ俺のことをワイドショーで取り上げてる。そうなると外を歩いたらマジで石を投げられるんじゃないか、罵倒されるんじゃないかって、どんどん妄想が膨らんで怖くて街なんか歩けない。引きこもるしかない。あれ、マジで危なかったよ。りこちゃん達、依存症の仲間と出会えなかったら、再発するか死ぬしかなかったと思うよ。

りこ:よく、依存症は再発しやすいって言いますけど、依存症者って孤独が続くとあの妄想があっという間に広がるっていう回路が脳の中にできちゃうんでしょうね。そしてそれを解消する方法が、依存物質、依存行為しかない。だから回復を生涯に渡って続けるには、不安や心配事を早めに話す習慣を身につけないと。

たか:だから依存症者には自助グループや信頼できる誰かと繋がることが大切なんだよな。

りこ:「やめたいのに、やめられない」って、私の実感としてはピンとこなくて、「やめたいのに、やめるのが怖い」って感じなんですよね。やめるととにかく頭の中の不安や恐れ、怒りの妄想が止めどなく繰り返されるから。

たか:うん、よくわかる。

二人が対談している様子
たかりこチャンネルで対談する二人(左:高知東生先生、右:田中紀子先生、
ギャンブル依存症 家族対応 基礎知識」より許可を得て抜粋)

アイデンティティと向き合う

りこ:高知さん、他に「葛藤」ってありました。

たか:いや、もうそれは自分の出自を明らかにしたことだよ。だって俺はさ、日本でも有名な暴力団抗争があった時代にさ、その最高顧問にもなった組長の愛人の息子だよ。組長の息子でも驚かれるのに、愛人の息子。その上だよ、それが地元じゃそれが知れ渡っているのに、本当は実の息子じゃなく父親は他県の組長だった。そして母親は俺が17歳の時に自殺した。一人息子の俺を残して死ぬなんてさ、俺はそれだけ大事に思われていなかったんだって、自分のことを恥じていたからね。それで、地元にいるのが辛くなって、20歳の時に上京した。上京して、とにかく金を掴もうと何でもやった。時代もバブルだったからさ。そしてAV女優のプロダクションやって大成功した。

りこ:「全裸監督」ならぬ「全裸プロデューサー」ですもんね。私、男の友人に高知さんが生みだした、AV女優さんの名前挙げたら、みんな目を輝かして「えぇ~!」って驚いてましたもん。「大スターばっかり!」って言ってましたよ。

たか:そうだよ実際。当時は本番なんか絶対させないし。それでもギャラがすごく高かった。って話しがそれた(笑)。
そういう過去をりこちゃんに打ち明けたらさ、「高知さん、それ全部明らかにしましょう。高知さんの辛い過去を、価値に変えるんです」って言われてさ。「こいつ何言ってんだ」ってあきれ果てたよ。
そんなことしたらだよ、ただでさえ日本中に大バッシングされてるのに、俺は終わりだ!と思って腹が立ったよ。

りこ:あれはですね、実は今だから言えますけど私も怖かったんですよ。勝算や目論見があったわけでは全くない。

たか:なに~!?そうなの!?だって「高知さん、絶対大丈夫です。真実を明らかにした高知さんの勇気を分かってくれる人が絶対にいます」なんて言い切ってたじゃない。

りこ:まぁそれはそうですけど、希望的観測であり、どうなるか?不安でしたよ。
まぁ賭けですね。私ギャンブラーなので(笑)

たか:本当にギャンブラーだなぁ。

りこ:でも大事なのは、高知さんの心の中から嘘を取り除くことと、何よりも自分のアイデンティティを恥じるのではなく、それでも生き抜いた自分に誇りを持って欲しい。そこが高知さんの回復の始まりだと分かっていました。それは長年の経験からですね。

たか:でも、この件では揉めたよね。喧嘩しまくった。

りこ:はい。絶交宣言3回しましたよね(笑)

たか:その上俺は、帯状疱疹2回と、めまい症に3回なった。

りこ:でも、その医者通いにつきあってあげましたよ(笑)

たか:俺は自分がバッシングされることも怖かったけど、何より元妻に迷惑かけたくなかったしさ。

りこ:わかります。よく乗り越えましたよね。でも高知さんの出自を明らかにした記事やYoutuberのインタビューが公表されはじめたら、驚くほどバッシングがなかったんですよね。むしろ高知さんの背景を、皆さんが思いやってくれた。あれ嬉しかったですよね。
チャラく見える高知さんが、実はとんでもない苦労人だったっていうギャップもあったでしょうね。

たか:うん。本当に嬉しかったし、ほっとしたよ。あの頃を乗り越えて俺はやっと自分が許せたんだよ。何よりもお袋に自死されたことが大きかった。親を引き留められなかった、親の命綱になれなかった自分を責めていたけど、やっと自分を許せるようになった。それは本当に大きかったんだよな。

りこ:そうですね。高知さんはお母様に自死された自分を責め、恥じていたと思います。そこまでもちろん言語化できていませんでしたけど。だから高知さんは「お袋は、母親より女を選んだんだ」なんてどっかの任侠映画の台詞みたいなことを言って自分に落としどころをつけていたんだと思いますね。

たか:言ってたね~。でも、りこちゃんが「それは違うと思う」ってずっと言ってて、お袋のルーツをたどりに高知まで一緒に行ったりしてくれてね。

りこ:高知さんは、自分を許せたことから本当に穏やかになりましたよ。最初の頃は瞬間湯沸かし器みたいに、すぐに怒りが沸点に達してましたからね。

たか:うん。今、本当に楽になったよ。組長の息子って毛嫌いする人もいるだろうし、芸能界では明らかにマイナスだけどさ、でも本当はそれをコソコソ隠して生きる自分の生き様が、自分を苦しめていたんだってわかったからさ。

りこ:子供は親を選べないですからね。そこにいちゃもんをつける人がいるならそれはそれ。自分が自分の人生を肯定できるかですよね。それにこの世は、全否定も全肯定もないですから。

たか:うん、俺が何かの役に立てる場所で生きればいいだけだよな。

りこ:そうそう。これからも依存症の啓発宜しくお願いしますよ!引っ張り出しますから。

たか:こちらこそ、宜しく~。


以上、たかりこチャンネルのお二人にご対談いただきました。「やめたいのに、やめられない」という依存の葛藤は、多くの方が経験したことがあるのではないでしょうか。身近にあるからこそ、依存との関係は厄介なものになりがちです。お二人の対談が、依存との付き合い方を考えるヒントになれば幸いです。

依存症は誰もが直面する可能性があります。そして、依存症との関係は変えることができます。以下の相談機関は、田中先生にご紹介いただきました。もしあなたが依存との付き合い方に困っているなら、ぜひ相談機関に相談してみてください。きっとあなたの力になってくれるはずです。

【アルコール】
(公社)全日本断酒連盟
https://www.dansyu-renmei.or.jp/
AAアルコホーリクス・アノニマス
https://aajapan.org/

【薬物】
ARTS
https://www.addiction-recovery.net/
NPO法人 全国薬物依存症者家族会連合会
https://www.yakkaren.com/

【ギャンブル】
(公社)ギャンブル依存症問題を考える会
https://scga.jp/
NPO法人 全国ギャンブル依存症家族の会
https://gdfam.org/

【ゲーム】
(一社)ネット・ゲーム依存家族の会
https://netgame-family.org/

対談者プロフィール

田中紀子先生の写真

田中紀子(たなか のりこ)

公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会 代表
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 研究生。
祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。
全国各地で家族相談会やギャンブル依存問題の普及啓発のための講演を行っている。
2018年12月 ローマ教皇主催「依存症問題の国際会議」に招聘され、我が国のギャンブル依存症対策等の現状についてバチカンで報告をした。
著書に「三代目ギャン妻(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」「家族のためのギャンブル問題完全対応マニュアル(アスク・ヒューマン・ケア)」。

著書


高知東生先生の写真

高知東生(たかち のぼる)

1964年高知県生まれ
1993年に芸能界デビューし、映画やドラマ、バラエティに多数出演する
2016年6月24日覚せい剤と大麻使用の容疑で逮捕。執行猶予判決を受ける
2019年3月より依存症問題の啓発活動を始める
2020年5月Twitterドラマ「~ミセスロスト~インタベンショニストアヤメ」で俳優復帰
2020年9月自叙伝「生き直す~私は一人ではない~(青志社)」刊行
2021年1月より「小説宝石」にて自伝的短編小説連載
現在Youtube「たかりこチャンネル」で依存症の啓発番組を配信中

著書

たかりこチャンネル