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クラスで“ぼっち”に悩んでいるあなたへ(三重大学教育学部教授:瀬戸美奈子) #孤独の理解

学校では一人でいることが多い。誰かからいじめられているわけでも嫌われているわけでもないけれども、周りにはなじめなくて、居心地が悪い。“ぼっち”の自分はクラスメートからどう見られているのかな――もしかしたら、そんな思いを抱えながら、今日も教室で過ごしているかもしれないあなたへ、瀬戸美奈子先生のメッセージをお届けします。

 あなたは今、教室でどのように過ごしていますか。不安で心がぎゅっとするような、落ちつかないような時間を過ごしているのではありませんか。

 小学生の時も中学生の時も高校生の時も、私はそうやって学校で過ごしてきました。グループを決める時は、優しいお母さんみたいな子が「こっちに入ったら」と誘ってくれるまで、「誰からも声をかけられなかったらどうしよう」と身を固くし、判決がくだされるのを待つような思いでした。たまに「え、なぜこのグループから声がかかるの?」と思うような子たちから誘われたりしましたが、それは担任の先生が「あの子をあなたたちのグループにいれてあげなさい」と事前に頼んであったからでした。「先生は私にもグループを選ぶ権利があるとは考えないのだな」と思いつつ、断るわけにもいかず、相手もこっちもなんとなく気詰まりなまま一緒に行動しました。

 あなたもそういう経験がありますか? だとしたら私たちは(随分年齢は離れているけれど)どこか似ているかもしれませんね。

片隅でできること

 教室の隅に所在なげに座っていた私が一番得意だったのは「見る」ことと「想像する」ことです。大好きだった出入口に近い一番後ろの席からは教室全体が見渡せました。「あのグループはいつも好きな音楽グループのことで盛り上がっているんだな」とか「あのグループは運動部でまとまって騒いでいるんだな」とか考えながら見てみると、好きなことや共通していることでグループを作っているようです。

 そうやってグループの特徴を見つけながら、そのグループに自分がいることを想像してみました。想像することは自由だし、誰も傷つけないし、もちろん私も傷つきません。「あのグループに私がいたらどうだろう?」「いや、無理、無理、無理。あそこにいても話すことなんか何もないし。逆に私も疲れるだけだ」「あのお勉強の得意そうなグループはどうだろう?」「うーん、考えられなくもないかな。本の話はできそう。でもみんな成績優秀だから、バカな話はできないのかなあ。背伸びしないと一緒に会話することは難しいかも」。そうやって想像してセルフ突っ込みをいれながら、椅子の座り心地を試すみたいに頭の中でいろいろなグループに自分が入っている場面を想像してみました。派手なグループに入ったら浮くし、元気いっぱいのグループに入ったら疲れそうです。人見知りで対人場面での不安が高い私にとって、「見ること」と「想像すること」は、仲間入りする前のウオーミングアップみたいなものだったように思います。私はそこにうんと時間をかけました。なにせ「ぼっち」だったので、休み時間もたっぷり時間がありました。

「みんな」の正体

 想像の旅に出ながら「みんな楽しそうだなあ」とうらやましい気分で眺めていた時、ふと(「みんな」って誰のことだろう?)と疑問が浮かびました。よく親や先生が怒る時に「みんな迷惑している」ということがありますよね。ああ言われると「いやいや、“みんな”って言っているけれど、それ実態がないでしょ。みんなや世間の目を借りて怒ることはやめてほしい」と思う程度にはひねくれていた子どもだったので、「みんな」の実態は何か気になったのです。

 そこで私はクラスの子の名前をノートに書きだし、その名前の横に〇×△をつけてみることにしました。〇はなんとなく安心できそうな子、もう少し仲良くなれたらいいと思える子。×はとても友だちになれそうにない、友だちになりたくない子。△はよく知らない、わからない子です。そうやって印をつけてみたら、△の子たちが意外に多いことに気づきました。「この△の子たちってどんな子なんだろう?」「この△の子たちは〇なのか、×なのか?」そこをまずはっきりさせないと、孤独に思い切り浸ることもできないのではないか!と、次の日から△の子たちをひそかに観察したり、用を見つけて話しかけたりしてみることにしました。話かけるといっても、「宿題って何ページだった?」程度のことです。仲間に入れてもらおうと思って話しかけることは恐ろしく緊張しますが、△の人の評価を見定めるためと思うと気楽になりました。私はジャッジされる側ではなく、ジャッジする側として話しかければよかったからです。

待ち時間の過ごし方

 △の子たちに話しかけているうちに同じ趣味を持つことがわかったり、意外に話しやすかったり、向こうから近づいてきてくれることもありました。でも友だちを作るために自分からがつがつと頑張って行動はしませんでした。苦手なことを無理してやることほど疲れることはありません。私にとって友だちは作るものではなく、空から降ってくるもの。いつともわからず、ある日突然出会うもの。そう思っています。ならば出会うまでの待ち時間を一人でどう過ごそうか、と考え、私はせっせと「推し活」に時間とエネルギーを費やしました。好きなことや好きなものを楽しむことが人との出会いにつながることもありましたし、一人で楽しんでいるだけでも推しは私に元気を与えてくれました。孤独と自由を味わいながら、空を見あげていつか友だちが降ってくるのを待つ生活もそんなに悪くはありません。あなたはあなたのままでいいのです。

執筆者

瀬戸美奈子(せと・みなこ)
三重大学教育学部教授。学校心理士、公認心理師。心理学博士。専門は学校心理学、スクールカウンセリング。著書に『生徒指導体制を構築するための実践ガイド』(風間書房,2021)など。

著書


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