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変化に置かれた親子と、With コロナ時代の支援(井上雅彦先生:インタビュー) #こころのディスタンス

緊急事態宣言の解除がなされ、社会活動が徐々に再開されてきています。この数カ月の間に、私たちの日常は変化の連続でした。井上雅彦先生(鳥取大学大学院医学系研究科 臨床心理学講座 教授)に、変化に置かれた親御さんに伝えたいこと、支援者たちのこれからについてお伺いしました。

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―― 緊急事態宣言が解除になり、少しずつ社会活動が再開されてきています。親子はいま、どのような状況に置かれているのでしょうか?

 学校が再開され、分散登校がはじまっていますよね。分散のため子どもたちの生活は変則的になっています。親は親で働き方が変わっていますよね。一部では出社し、一部ではリモートワークであったりして、親も変則的です。

 つまり、親子がそれぞれ変則的な生活リズムのなかにいるのです。お子さんの送り迎えが大変だという親御さんがいらっしゃるのは、その変則的なリズムが原因であるわかりやすい例といえるでしょう。

 親子に対して注目が行きがちですが、幼稚園や保育園もその変則さに対応していく大変さがあります。たとえば、「マスクをさせてほしい」という要望と、「マスクはさせないでほしい」という要望があります。低年齢のお子さんの場合、全員がマスクを着用できるわけではないですし、これからの季節は熱中症のリスクもありますよね。
 つまり、一律の対応は困難なのです。そのため、園でもどのようなルールを作っていくか、二転三転しているのが現状ではないでしょうか。

 小学校であればマスクの持参という形が多いのではないかと思います。学校生活では席を離し、トイレや遊びも密を避けようという指導がなされているでしょう。ただ、子どもですから、これらをすべて守るというのは難しさもありますよね。

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―― 親子はもちろん、子どもを預かる先生方も生活の変化に対応しようとしている状況の真っただ中ということですね。井上先生のご専門の一つは親への支援ですが、この状況のなかどのようなことが気がかりでしょうか?
 
 親自身の疲弊を心配しています。先ほどお話したとおり、子どもの変則的な登園、登校に親が対応するのは大変です。きょうだいがいる家庭だとさらに大変で、「お兄ちゃんを送っていった帰りに弟を迎えにいく」というようにはうまくいかないのが現状です。

 送り迎えだけではなく、子育てという面の負荷もあります。この状況でゲーム三昧になっている子もいれば、かまってほしくて親に引っ付き続ける子もいるでしょうし、きょうだいげんかが増えることもあると思います。

 親御さんはただでさえ、自身の生活の変化や行動制限があります。そんななかで、「仕事しなきゃ」「子どもの面倒もみなきゃ」という考えが強くなり、感情のコントロールが難しくなることもあると思います。つまり、仕事や子育てがうまくいかないことでストレスをかかえいていらっしゃるのではないでしょうか。
 親は振り回されつつも変則さに適応しようと頑張った結果、しんどい思いを抱えているのではと、心配ですね。

―― 親御さんへアドバイスするとしたら、どのようなことをお伝えしたいですか?

 学校再開がはじまったばかりですが、我が子をはやく適応させようと焦らないでいいよ、ということを伝えたいですね。そして、完璧な子育てを目指さないでいいよ、ということもお伝えしたいと思います。

 お子さんはいま、感染の怖さがあるのはもちろん、変化に富んだ生活で疲れていると思います。なかには疲れていることさえわからない子もいます。焦らず、少しゆっくり見守る時間も必要です。

 この状況に親御さんもついていかないといけませんので、親御さんには自分自身の逃げ道を作ってほしいと思います。趣味の時間を作ったり、ゲームや動画にハマってみたり、コロナのせいにしても良いのです。それくらいの気構えでいて良いと思うんですよね。現在の環境のなかで、完璧な子育てはちょっと置いておきましょう

 支援者としてはご家庭のなかの大変さをイメージしながら、「親御さんもお子さんも新しい変化に対して適応しようと頑張りすぎないように」、そんな心持ちで支援に臨むことが大切ですね。

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―― お子さんにかかわる支援者は対面が難しくなった状況で、これからどのようになっていくか不安があるかもしれません…。

 支援者は、“いま”の対応に必死なのではないかと思います。これから一か月が過ぎたあたりくらいでしょうか、いつもどおりやらねばならないことが出てくると思います。

 就学支援などのためにお子さんをアセスメントするときのことを考えると、「密な状態が無い」ということは、「行動のある一側面しか見れない」ということになると思います。
 運動会をはじめとする集まりを伴う行事はなくなっていますが、普段だったら特別活動でルールに従えるかどうかが見れますよね。「並びましょう」「間隔を空けましょう」ですね。この状況ですから、特別活動と言われるものに対してどれくらい適応できるのかは未知数でしょう。

 つまり、集団活動が観察できないということです。できることとしては、個別に活動している様子をじっくり観察しながら「この新しい環境にどの程度馴染めているかな」という視点で見ることかなと思いますね。

―― 知能検査など、子どもへのアセスメントはできるのでしょうか?

 私のいる相談センターでは対面を再開していますが、親御さんとの対面ではビニールシートやマスク、フェイスシートを使っていますね。

 知能検査を行う際には器具の消毒が、大人にはマスクやフェイスシールドが必要ですね。幼児だとマスクは着用できても短時間ですし、そもそもできないことも多いですから、大人の方の対策が欠かせません。

 これまで利用していた知能検査が使えない場合には、親御さんへのインタビューのある「PARS-TR」や「Vineland-Ⅱ」を使用することで全体の発達の様子を把握する方法もあると思います。これは感染に対する親御さんの不安が高い場合や、支援機関の対面が禁止となった場合でも有用ですね。

 対面できる場合でも、親御さんと互い違いに座る、アクリル板の衝立ごしで、マスクを着用するなどの対策をしたうえでの実施が必要となるでしょう。

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―― 工夫が必要となりそうですね。遠隔での取り組みも注目されましたが、井上先生のご活動でそのような変化はあったでしょうか?

 遠隔、つまりインターネットによる相談、カウンセリングは可能ですよね。私たちの大学院も公認心理師や臨床心理士を養成していますが、学生の実習を昨日から再開しました。実習にあたり、抵抗を感じる相談者の方もいらっしゃいます。そのため、ペアレントトレーニングのように親御さんが集まるプログラムについては、インターネットで行うことにしました。
 これは毎年2クールくらいやっているのですが、オンラインで行うことにして募集をしていきます。おそらく、多くの大学でそうなっていくのではないでしょうか。

 学生の授業が遠隔なので、アセスメントの講義では、ロールプレイ、採点演習も含め、今年は遠隔で行いました。器具を実際に使う知能検査は難しいのですが、半構造化面接では講義を聞いて二人組でロールプレイを行い、私が巡回してコメントする、という形でWEBでも実施することが可能です。学生たちは授業に出られなくてしんどい思いをしていましたが、「遠隔での心理臨床の可能性を学んだよね」、ということを話しています。

―― 対面じゃないとできない、というわけではないということですよね。可能性がいろいろありそうですね。

 実際にオンラインで授業をしたり、いくつか相談をしたりしたのですが、インターネットを介して行うカウンセリングや心理療法、面接に関しては、従来の面接技法ではなく独特のテクニックといいますか、お作法があるような気がします。

 たとえば、グループで面接をする場合に、一人で喋ってる感がすごく強くなる。相手が聞いているかどうかわらないわけです。「聞こえてますか?」と聞いた時、マイクをオンにして応答してくれますよね。そうではなくて、相手のジェスチャーの方が圧倒的に早いなと気づいたんです。これはテクニックの一つですよね。

 オンラインではレスポンスがお互い伝わりにくいので、セラピストの方がリアクションをしっかりとることや、あらかじめ「聞いてますよ」という意思表示をお互いにし合う練習をしておくと良いかもしれませんね。

 質問のしにくさもあると思いますから、チャットなどのツールも練習をしておくのも良いと思います。手を挙げるのが苦手な人であっても、チャットならできますという場合があります。

 インターネットで使える機能のなかで何を使いどのように表現するか、グループのなかや親御さんのなかで決めておくのが良いでしょう。

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―― ローカルルールを作っておくと円滑な進行に役立つ、ということですね。
 
 人数が多くなった時に、“発言したくない意思表示” として名前だけの静止画面にするのも一つですよね。「当てられちゃったら嫌だな」という理由で参加しづらい人の抵抗感がなくなると思います。背景の写真を設定してプライバシーを保護してもらうことも大切ですね。こういったお作法は、皆さん経験的にいろいろ学んでる最中じゃないでしょうか。

 保護者支援のためにインターネットを使うというのは、テクノロジーを用いた非常に新しい方法ですし、これまではなかなか乗り出せないことでした。踏み出さざるを得ない状況だったと思いますが、これからお互いにルール作りをしていくことで、新しい保護者支援の形ができていくのかなと思います。

―― 遠隔でのアセスメントはルール作りが大切ですね。ルール作りで気を付けるべきことはあるでしょうか。

 インフォームド・コンセントをしっかりとるということでしょう。基本に忠実にすれば問題はないと思います。つまり、普段から行っているインフォームド・コンセントをより丁寧にしていくことです。この検査の目的、方法、所要時間、費用、得られた情報がどのように保守されるのかなど、丁寧な説明が必要だと思います。

 従来から用いられている電話相談ではいくつかマニュアルがでていますが、WEBを使った遠隔でのマニュアルというのはまだありませんよね。電話だと表情が読めない、感情が読み取りづらいということから、沈黙の時間が非常に長く感じたり、電話を切りにくかったりということがあります。そのためルールをきちっと作ることで対応する動きがあったのですが、同様にインターネットでカウンセリングを行っていくうえでのルール作りや、先ほどお話したお作法、テクニックが必要になってくるように思いますね。

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―― ルールの整備などの課題はありますが、これからもインターネットを介した支援が続いていきそうですね。

 新しい親支援の形がポストコロナで出てくるんじゃないかなと思います。心理臨床でも遠隔で行える技術や研究はあるものの、今回で、「やっぱり対面じゃないとダメだよね」と思っていた部分が代替えできることが提供者の側でもわかってきました。使わざるを得なくなって、やってみたら意外にやれるじゃないかと。今後心理臨床のなかでも積極的に新しい支援の技術として確立していくべきじゃないかと思いますね。

 時間さえあえば、場所はどこだっていいわけです。もしかすると、これまでの親支援にはない支援が広がっていくのではないかと期待しています。

 ただ、インターネット活用の一方で、やり方がわからないという方もいらっしゃいます。若い親御さんでも苦手な人は苦手ですし、高齢者の支援ではリテラシーが壁になります。最初から「できて当然」というやり方で行くとうまくいかないですよね。機器を簡便にするとか、設定を代行するといった支援も必要になるでしょうね。

―― 支援者側もこれからインターネットを介した支援を取り入れていく必要がありそうですね。

 インターネットを利用したアセスメントや面接を拡充していく姿勢が支援者側には求められると思いますね。繰り返しになりますが、そのためのルール整備が必要になってきます。

 個人情報の保護、記録のプロテクトも大事です。勝手に録画をしてはいけないのはもちろんですが、録画した場合そのデータをどこに保存するのか、誰が見られるのか、あらかじめ決められた対応が必要でしょう。

 オフラインでもしっかりとした説明や同意をかわす必要がありますが、インターネットだったら余計です。しっかりしたルール作りが、セラピスト、クライアントお互いの安全を守ります

 これから相談専用のプラットフォームなんかも開発されるかもしれないですね。コロナ禍で大変なことも多くありましたが、プラスの側面かもしれませんね。

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<インタビューを終えて>
親子、そして支援者を案ずる気持ちとあたたかいメッセージをくださった井上先生。インタビュー中では、インターネットを介した新しい支援の形にも触れられました。
「その手段はどうあれ、支援を必要とする方のためになること」を第一にお考えになる井上先生の軸、そして支援者としての想いに触れることができました。

インタビュイー紹介

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井上雅彦(いのうえ・まさひこ)
鳥取大学大学院医学系研究科 臨床心理学講座 教授。
公認心理師、臨床心理士、専門行動療法士、自閉症スペクトラム支援士(エキスパート)。
応用行動分析学や臨床心理学、障害児心理学を専門とし、心身に障害のある人たちの支援を理論と実践の双方向から取り組む。 

*この記事は2020年6月9日に行われたインタビューをもとに金子書房編集部にて構成したものです。

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