
『Unlock Learning 特定分野の特異な才能への支援は、すべての子どもの学びにつながる』刊行にあたって(東京学芸大学附属小金井小学校教諭:鈴木秀樹)
今年(2025年)の2月に刊行する『Unlock Learning―特定分野の特異な才能への支援は、すべての子どもの学びにつながる』は、文部科学省の「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の1つとして小学校の現場で行なわれた取り組みの中で生まれた、生成AIの活用から自然体験まで、多様な特性を持つ子どもたちの成長を育むために学校教育で実装可能な最先端の実践を紹介する1冊です。 今回は本書『Unlock Learning』の刊行にあたり、本書の編者のお一人、鈴木秀樹先生(東京学芸大学附属小金井小学校教諭)にその内容の紹介を含めて、本書に込められたものについてご寄稿をいただきました。
裏表紙の物語
トップの画像は、2月に刊行する書籍『Unlock Learning 特定分野の特異な才能への支援は、すべての子どもの学びにつながる(以下『Unlock Learning』)』の裏表紙のイラストです。
閉じられたドアの前で、一人の子どもが大きな鍵を持って佇んでいます。この子は、なぜ閉じられたところにいなければならなかったのでしょうか。鍵を鍵穴に入れればドアは開きそうですが、一人でそれをするのは少々大変そうです。でも、友だちがいれば、見守る大人がいれば、できるかもしれません。
そんな物語が浮かんでこないでしょうか。
学校はまだまだできる
『Unlock Learning』は、令和5・6年度 文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の取り組みをベースに「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援」をどう考えればいいかということについてまとめたものです。
「ああ、だったらギフティッドの本ね」
と思われるかもしれません。そう言えなくもないのかもしれませんが、所謂「ギフティッドをどう支援していくか」のマニュアルをまとめた本ではありません。では、どんな本なのか、少しご紹介させていただきます。
ギフティッド支援について「学校になんか通うからダメなのだ。学校以外のもっと自由な学びの場こそが必要だ。」と、あたかも学校が全てダメであるような言説を目にすることがあります。
確かに、「学校が合わない」という場合はあるでしょう。それは否定しません。しかし、学校にももっともっと出来ることはあるのではないか、というのが我々の考えです。
例えば、学校ではない「もっと自由な学びの場」に行った方が良さそうな子どもがいたとします。1stプレイスである家庭から一足飛びに3rdプレイスである「もっと自由な学びの場」に進むのは、なかなかハードルが高いでしょう。2ndプレイスである学校がその間に入るのは難しいかもしれませんが、保健室が2.5プレイスとして存在していれば繋ぎやすくなるかもしれません。
「ん? 2.5プレイス?」と思った方は、この書籍の予約ボタンを押した方がいいと思いますが、大切なことは「学校にもまだまだできることがある」ということ。それと、サブタイトルにもありますが、特定分野の特異な才能への支援を行うことが、実はすべての子どもの学びを進めることにつながるということです。
これについては、実際の学校での授業実践を例に、どういった支援がどのようにすべての子どもの学びにつながるのかを明らかにしていきます。「特定分野に特異な才能のある児童への支援」の本なのに通常学級の普通の授業実践を取り上げているのはやや不思議に映るかもしれませんが、それこそが本書のウリの一つです。
その他、色々とウリはあるのですが、「特定分野に特異な才能のある児童」だった本校の卒業生へのインタビューを掲載できたのは大きかったな、と思っています。彼へのインタビューを読み直していると「学校にはまだまだやらねばならないことがあるな」と感じると共に、「学校はまだまだやれる」という思いを新たにもします。
表紙—ドアの向こうへ
本書の表紙は下のようなものになっています。

子どもたちが開いたドアの向こうを見て、今、まさに飛び出そうとしています。鍵を持ち上げている子が二人いますが、ドアが開いているところを見ると、どうやら協力して鍵を開けられた後のようですね。この子たちの中の誰が「特定分野に特異な才能のある児童」なのかはよくわかりません。よくわかりませんが、その子のために鍵を開けたら、みんなにとっての新しい世界が開かれた、といったところではないでしょうか。
『Unlock Learning』は、こんな世界を夢に描きながら書きました。この書籍が世に出ることで、一人でも多くの「特定分野に特異な才能のある児童」のドアが開かれ、その結果、みんなにとっての新しい世界が開かれるのであれば、こんな嬉しいことはありません。
※我々の「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の取り組みについては、以下のムービーを御覧ください。
【プロフィール】

鈴木秀樹(すずき・ひでき)
東京学芸大学附属小金井小学校教諭。慶應義塾大学非常勤講師。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻修士課程修了。私立小学校勤務を経て2016年より現職。著書に『ICT×インクルーシブ教育 誰一人取り残さない学びへの挑戦』(明治図書)など。
『Unlock Learning』目次
第1章「特定分野に特異な才能のある子どもへの支援」までの道筋
すべてはICT×インクルーシブ教育から
【解説】発達と学びの多様性を生かせる学校とは……藤野 博
第2章 授業で「特定分野に特異な才能のある子ども」を支援するには
[1]生成AIが特定分野に特異な才能のある子どものパートナーになるために
[2]「人ではない」「人とは違う」からこそ生成AIが生きる授業
【解説1】生成AIとの関わりと子どもの学び……中川一史
【解説2】多様な特性のグラデーションを包み込む授業の姿……狩野さやか
第3章 集団に入れない「特定分野に特異な才能のある子ども」への支援とは
「2.5プレイス」としての保健室
[寓話①]理想の時間割は自分でつくる
【解説1】学びの居場所を問う……加瀬 進
[寓話②]「みんなと同じ」をアンロック
【解説2】子どものSOSから支援へ―〈私〉の語りから見えること……宮下佳子
第4章 「特定分野に特異な才能をある子どもへの支援」がすべての子どもの学びをひらく
[1]「内容が高度」でもロックをかけずに取り組んだ宇宙の授業
[2]算数はナスカに通ず―「倍」の発想で地上絵をグラウンドに
【解説1】アンロックな内容が興味を広げる―子どもにこそ「子供騙し」でないものを……小林晋平
[3]学校の枠から自由になる校外活動―子どもの「やりたい」に寄り添う
【解説2】自然がほぐす子どもと大人の心……小森伸一
第5章 「好き」を大切にする教育
[1]卒業生との対話
[2]アンロック・ラーニングを目指して