「こころ」のための専門メディア 金子書房
「夢という眠りの中の自分と他者」(東洋大学社会学部社会心理学科・教授:松田英子) #自己と他者 異なる価値観への想像力
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「夢という眠りの中の自分と他者」(東洋大学社会学部社会心理学科・教授:松田英子) #自己と他者 異なる価値観への想像力

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時に夢は現実の出来事のように生々しく、起きてから「あれは夢だったのだ」と気持ちを収める時間が必要なくらい、強く感じられることがあります。まるでもう一人の自分の人生のように感じられることもある夢について、睡眠と夢からの心の健康について研究と実践を行っている松田英子先生にお書きいただきました。

「夢という眠りの中の自分と他者」

 あなたは昨晩みた夢を覚えていますか

 皆さんは毎晩みる夢を覚えていますか?ここ数年夢なんてみていないよという方もいらっしゃるでしょう。一方で、毎日のように夢をみるという方や、一晩に2個も3個も夢をみているという方もいます。時には夢が現実に起きたことのように生々しすぎて、目覚めたとき眠っていないかのように疲れているという経験がおありの方もおられるでしょう。

 1950年代以降夢をみる睡眠のメカニズムが解明され、実は私たちは毎晩平均3個から5個の夢をみていることがわかっています。つまり、夢をみていないのではなく、みた夢を忘れてしまい、覚えていないということなのです。事実、睡眠実験室でREM(Rapid Eye Movement)睡眠と呼ばれる、眼球だけが急速に動くが体が弛緩している睡眠のときにそっと起こすと、普段はほとんど夢を覚えていない人も夢を報告できて、ほんとはみていたんだ〜と驚くこともあります。普段の生活の中で夢を覚えているかどうかの個人差が大きいことに着目し、私の夢研究はこの個人差を夢みる人のパーソナリティとその人がおかれた状況(現実生活のストレス)で説明することから始まりました。

現実の「私」と夢の中の「私」の連続性

 夢に登場する情報の元となっているのは、起きているときの「私」がこれまでの現実生活でふれた膨大な情報で、意識できる情報からサブリミナルの情報まで様々です。情報の種類も、見る、聴く、触れる、嗅ぐ、味わうなど様々です。毎晩周期的に訪れるREM睡眠では、これらの情報を過去の情報と関連づけて、自分にとって重要な情報を保存したり、それほど重要でない情報を削除したりと整理作業を行っていると推測されています。ですから、現実生活の中の起きているときの「私」と睡眠中の夢の「私」は連続しているのです。一般的に夢みる(見る)と表現するのは視覚の夢が多いからですが、音楽に関わるお仕事や生活を送っている人は聴覚の夢の割合が比較的多いでしょうし、嗅覚や味覚の夢は割合としてはかなり少ないのですが、食品に関わるお仕事をしている方や食いしん坊の美食家は味わいや香りを楽しむ夢の体験が比較的多いでしょう。現実生活の中でふれる情報の選択には、その人らしさが表れていますが、さらに夢の中の「私」は膨大な情報から自分にとって優先順位の高い情報を抽出し、さらに思い出した夢の内容にはその情報を意味づけする「私」が現れていると私は捉えています。夢の内容はバラエティに富んでいますが、同じ人がみて報告する夢には共通の特徴があり、その人らしさやお人柄がにじみ出ています。

「私」の頭の中だけで上映される映画館

 睡眠中の心理現象である夢を説明するときに私はよく「脳の中の図書館」のたとえを使います。日中は大量の本やDVDなどの貸し出しや返却があって、人がいなくなった夜間にその整理をしているイメージです。返却された素材をカテゴリー別に整理しながら棚に戻していきます。また予約の入っている素材を翌日取り出せるように準備をしているところを想像して下さい。

 日中にあった出来事や寝る直前にふれた情報、心配事などは、一連の夢の内容を引きおこし、影響を与えるトリガーになります。私たちの脳内にある情報が保存されたカテゴリーから、トリガーに関連する素材や類似する素材が引っ張り出されて、連想され、まとめあげられた一連の情報(多くの場合は映像)の流れの一部が、翌朝思い出される夢の内容になります。たいていの方は夢を覚えていても一度の睡眠で1個ですが、夢をよく覚えている方は一晩の夢を複数個報告されます。

 そして夢の内容は自分だけが見られるもので、他の人は見ることはできません。毎晩脳の中で上映される一人映画館のようなものです。しかし、工学系の先生方が、夢をみているときの脳の画像から夢に登場した人物やモノを推論するという刺激的な研究をされていますので、第三者が夢みる人の夢の内容をリアルタイムでモニターできる将来がくるかもしれません。私は悪夢の心理療法が専門ですので、治療の効果が客観的に確認できるのは研究者としてはうれしいことですが、自分自身が実験参加者になるのは個人情報がダダもれになるので困ります。

夢を「他者」の視点からコントロールする明晰夢

 毎晩自分の脳の中で自分以外は見られない映画が何個か上映されていますが、自分自身は映画の主人公として、違和感なく夢の中で奮闘しています。夢は夢をみている最中は不合理とは思いませんが、起きてから思い出すと、奇怪で、そして多くの場合焦りや不安などの感情を伴っています。まるでもう一人の自分の人生のエピソードが展開されているように感じます。一般的には夢をみているときは夢だと気づいていません。悪夢であったら目が覚めたあと、ほっぺたをつねって夢でなかった~良かった~となります。ところが、夢をみているときに「自分は今夢をみている」と自覚する人もいます。そのような人は、夢の中で自分をつねったとすると、痛くないから夢だ!と気づくのです。この自覚する夢を明晰夢(lucid dream)と言います。

 明晰夢自体が稀な現象ですが、明晰夢の達人の中には、筋書きを自由にコントロールできる人がいます。自分の望むように行動を変えられる人、ここにこういうものがあったらいいな~と考えるモノを取り出し使う人もいます。この筋書きはあまり納得いかなかったので、最初からやり直す、あるいは途中まで巻き戻すなどして、納得いくまで夢を書き換えるという人もいます。この明晰夢の中では、まさに自分自身が映画の主人公でありながらも、同時に映画のプロデューサーのように第三者的な「他者」の視点で、夢をモニターする「自分」もいるのです。

夢の記憶は自分史を表す

 一番古い夢の記憶は早い人では3歳頃、大体の人は4~5歳頃からみた夢を思い出します。思春期から青年期にかけて夢を思い出すことはピークを迎え、成人期以降ゆるやかに減少します。しかしREM睡眠自体が減少するのは80代以降、私の研究でご協力いただいている方は小学生から90代のお元気な高齢者までおられます。私たちは人生を終えるときまで、眠りまた夢を見続けます。夢の記憶は自分の生きてきた歴史そのものであり、夢の中の自分は他者のように感じられるかもしれませんが、これもまた自分ということになります。夢の記憶は現実の記憶のアナグラムのようなものであり、自分史を良く表しているといえるでしょう。

執筆者

松田英子(まつだ・えいこ)
東洋大学社会学部社会心理学科・教授

専門:臨床心理学,健康心理学,パーソナリティ心理学
博士(人文科学),公認心理師,臨床心理士
臨床のフィールド:産業・キャリアカウンセリング,スクールカウンセリング
研究テーマ:睡眠と夢から心の健康を高めるための研究と実践を行っている。

著書に「はじめての明晰夢―夢をデザインする心理学」(朝日出版社),「夢を読み解く心理学」(ディスカヴァー21)

著書


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