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【第1回】心理検査の基本的な考え方(高瀬由嗣:明治大学 文学部心理社会学科 教授)#心理検査って何?#金子書房心理検査室

 このシリーズは、これから本格的に臨床心理学を学ぼうと考えている方、あるいは現在、臨床心理学を学び始めたばかりの方を対象に、心理検査の基本について理解を深めていくことを目的とした企画です。
 大学の学部で心理学全般の基礎的な考え方や方法をある程度学び、「さあ、これからいよいよ臨床心理学を専門的に学ぶぞ」という方が最適な読者です。もちろん、専門のコースに在籍する上級生の皆さんが読者として不向きであるというわけではありません。かつて学んだ内容であっても、後から新たな知識が加わることにより、それが補強され、より確実な知識として定着していくことはあるものです。こういった効果を狙い、上級生が読んでも決して退屈な内容にならないように心がけました。
 この企画は全4回の予定です。ここで、そのおおまかなラインナップをご紹介しておきましょう。
 第1回目は、臨床心理学における心理検査の位置づけやそれが果たす役割についてお話しします。第2回目は、心理検査における科学性の問題を取り上げます。第3回目は、一般的によく用いられている具体的な心理検査をいくつかピックアップし、それぞれの特徴を紹介します。そして最後の第4回目では、心理検査とそれを用いた援助のあり方について問うことにします。
 では、さっそく第1回目を始めましょう。

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臨床心理学における心理検査の位置づけ

 心理検査とは何でしょうか? 専門家は、どんな目的のためにそれを実施するのでしょうか?

 こういったことを論じる場合、一般の概論書ではその背景にある〈理論〉を取り上げるのでしょうが、本稿では少し視点を変えて、専門家の行う具体的な〈仕事〉という点に注目したいと思います。

 心理検査の実施や分析・解釈という仕事の中で、中心的な役割を担っているのは、臨床心理士や公認心理師など、臨床心理学に関わる高度専門職業人です。もちろん、医療や福祉の分野では、他の専門職がこの業務に関わることがまったくないとは言えませんが、心理検査のトレーニングの量や質、実践の数においては、やはり臨床心理学の専門家が他を圧倒しているといえるでしょう。

 そこで、まず、わが国の臨床心理学分野においてはもっとも歴史が深く、一般の認知度も高い臨床心理士の仕事に注目します。

 1990年に制定された「臨床心理士資格審査規定」の第11条には、臨床心理士の仕事は「臨床心理査定、臨床心理面接、臨床心理的地域援助及びそれらの研究調査等の業務」の4つであると明記されています。言うまでもなく、心理検査は、この1番目に書かれた「査定(アセスメント)」(※注1)業務の中に含まれます。

 ※注1:日本語の「査定」という言葉は、「中古車の査定」に代表されるように、ものの良否や等級の決定という意味合いがやや強いように感じられます。それは、あたかも差別や序列化につながるかのような語感があります。それゆえ、この言葉は人を対象とした仕事にはそぐわないと見る人も増えてきました。こういった風潮を受けて、最近では「評価」「見積もり」「判断」などを含意しながらも、よりソフトな印象を与える「アセスメント」という言葉が定着してきました。本稿では「規定」などに示された文言は原文に忠実に引用しましたが、それ以外はアセスメントという言葉に統一しました。

 もちろん、アセスメントの方法は心理検査ばかりではありません。対象者の特徴を記述することを目的とした「面接」「観察」といった手段もあります。ただし、心理検査に比べると、アセスメントのための面接や(特に成人を対象とした)観察の方法に関する研究が十分に行われているとは言い難く、学生がこれらを体系的に学ぶ機会も少ないのが現状です。それゆえ、心理検査の比重がどうしても大きくなってしまうのです。

 事実、かつては「アセスメント=検査」と見る向きもあったほどです。それは行き過ぎであるとしても、心理検査が臨床心理士の業務の中で中核的な役割を担っていることは間違いありません

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 さて、次に臨床心理学領域におけるわが国初の国家資格、公認心理師に目を向けたいと思います。

 この資格では、心理検査はどのように位置づけられているのでしょうか。そこで2015年に公布された「公認心理師法」にあたってみると、第2条に公認心理師が行うことのできる4つの行為が示されています。そして、その第一番目に「心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること」があげられています。

 この文章にざっと目を通してみると、狭義の観察法のことを述べているように読めなくもなく、何だかはっきりとしません。

 しかし、一般財団法人日本心理研修センターの定めるブループリント(公認心理師試験設計表)を参照すると、「心理状態を観察」する行為とは広義の心理アセスメントを指し、その中に、面接と心理検査が含まれていることが確認できます。いや、単に含まれているというだけではなく、面接・観察・心理検査という3つの技法の中でも、心理検査に関連するキーワードがもっとも多いのです。ここから、心理検査はアセスメントの行為の中でも相当に重要な位置を占めていることが見て取れます。

 ここまで読んでくだされば、臨床心理学の業務に携わる高度専門職は、その資格が何であろうと、対象者を適切に理解するための仕事を第一番目にあげていることがお分かりいただけるかと思います。そして、その仕事の中でもとりわけ重要な意味を持っているのが心理検査ということになるのです。

 次節からは、この心理検査がアセスメント業務の中で果たす役割を、理論的な視点から考えていきたいと思います。

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心理検査の定義

 ここで、心理検査がどのように定義されているかを押さえておきます。池田央は、心理検査を次のように定義しています。

「心理学で用いられる検査は、能力、知識、技能、その他の心的特性の存否や程度を明らかにする目的で、一定の条件のもとにあらかじめ定められた問題や作業を課し、被検者の行動やその成果を所定の観点から一定の標準に照らして質的あるいは量的に記述する組織的方法をさす」(池田央[1981].「検査」:藤永保 編 『心理学事典』平凡社.219-223.)

 これは、まことに簡にして要を得た説明です。

 この説明の中で特に重要なのは、第1に「一定の条件のもとにあらかじめ定められた」問題や課題を与えるという点、第2に、その結果を「一定の標準に照らして」、特徴を記述するという点です。これについて少しだけ説明を加えましょう。

 まず第1の点についてです。質問紙法による心理検査では、質問は常に一定であり、検査者が任意で変更することはできません。もちろん答え方も定まっています。知能検査に関してもまったく同様です。年齢が同程度の人たちであるならば、誰に対しても同じ問題や課題を与えますし、被検査者の答え方も一定です。

 では、文章完成法(SCT)やロールシャッハ・テストのような投映法はどうでしょうか。これらについても、与える刺激は常に一定であり、検査者が任意に変えることはできません。さらに、質問紙法や知能検査などに比べて反応の自由度が高いとされる投映法であっても、SCTでは書きかけの文章に対して言葉を補い、文章を完成させることが求められていますし、ロールシャッハ・テストは与えられた刺激に対して連想したものを言葉で返すことが要求されます。その意味では、反応のあり方も一定の枠組みの中におさまっているといってよいでしょう。

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 次に第2の点に移ります。一般に心理検査は、その開発の途上において、さまざな社会的背景をもつ数多くの人々に実施され、その反応や回答のパターンなどの膨大なデータが蓄積されています。

 例えば質問紙や知能検査の場合は、各種得点の平均値や分散、それぞれの項目に対する是認率(「はい」や「あてはまる」と答えた人の率)や通過率(正答を与えた人の率)といったデータが集められています。また、投映法ならびに描画法の場合は、特定の反応や表現様式が出現する頻度(実数値あるいは率)、そしてその集団差といったデータが蓄積されています。そしてこれらが、個々のテスト結果を分析・解釈する際の「標準」となっているのです。

 つまり、目の前のテスト結果は一般的と呼べる範囲に収まっているものか、もしそうでないとしたら、それはどの程度の外れ方か、あるいはどういったタイプの人々の中に見られるような外れ方であるかを、「標準」に照らして検討していくというわけです。これが、一般的に心理検査とよばれるものに共通する分析・解釈の方略なのです。

 以上をまとめますと、心理検査とは、一定の課題・問題に対する成果を一定の標準に照らして記述する方法、つまり実施から分析・解釈に至るまでひとつの規格が適用された手続きであると言えるでしょう。このことが、心理検査の必要条件であり、同時にそれがアセスメント業務において大きな強みとなっているのです。

心理アセスメントにおける心理検査の役割

 先にも述べたように、アセスメントという業務は、主に面接・観察・心理検査という3つの方法から成り立っています。では、その中で、心理検査はどのような役割を担っているのでしょう。このことについては例を引きながら考えてみたいと思います。

 例えば、学校の勉強になかなかついていけない児童がいるとしましょう。そして、臨床心理学の専門職は、この児童の問題に対する有効な支援策を検討するよう要請されたとします。

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 このようなとき、専門職は、まずは学校の先生や保護者から話を聴き、この児童の日常の行動のあり方や学習のあり方について情報を集めるでしょう。これがアセスメント面接です。

 ここから、児童が年齢相応の漢字の書き取りができないこと、図形の理解が難しいこと、それでも、先生や保護者の指示にはよく従っているということがある程度わかってきたとします。そうすると、専門職は、この児童について何らかの仮説を立てることができます。

 しかし、先生や保護者との面接を行うだけで、この児童の特徴をすべて判断しようとするのは危険です。なぜならば、語られる内容には、概して先生や保護者の主観的な評価や期待などが含まれているからです。

 そこで、専門職は実際に児童の教室に赴き、その行動の様子や、学習のあり方を観察しようとしました(言うまでもなく、それが行動観察です)。これによって、先生や保護者から聞いていた行動特徴、学習の様子は観察から裏づけられました。それだけなく、この児童が他児とうまくコミュニケーションを取り、良好な人間関係を作っている、という新事実まで発見しました。これは大いに役立つ情報です。

 ところが、本当の意味で専門職が知りたかった児童の認知の特徴までは把握できませんでした。いくら待っても、それを確かめることのできる場面に遭遇しないのです。

 ここで心理検査の登場です。認知機能や知能といった構成概念について、その特徴や水準を迅速かつ的確に捉えようとするならば、標準化された物差し、すなわち心理検査を用いるのがもっとも確実です。

 仮に特定の知能検査によって、この児童が視覚刺激の処理に弱さがあり、言語を理解したり伝達したりする力は高いことが発見できたとするならば、これまで面接や観察から得られてきた情報が客観的な証拠をもって裏づけられます。これにより、「漢字の書き取りや図形の理解の弱さは、おそらく視覚的な情報の処理の苦手さに由来する」という説明が成立します。

 もちろんそれだけなく、「この児童の有する能力は同年齢の児童のそれと比較しても著しい遅れがあるものではない。したがって、通常クラスでの指導が可能であろう」といったように、新たな仮説が引き出されることもあります。

 さらに、この結果に基づいて、有効な支援策が引き出されます。例えば、「この児童には、視覚情報を用いるよりも言葉による説明を徹底するほうが有効に機能するであろう」といったようなことです。

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 まとめると、アセスメントという業務に際しては、通常、専門職はまずは〈面接〉によって全体的な情報を得、大まかな仮説を立てます。そして、〈観察〉〈心理検査〉を通して、その仮説を採択したり、棄却したり、あるいは新たな仮説を生成したりといった作業を行います。この一連の作業の中で、〈心理検査〉は、話を聞いたり、行動を観察しただけでは分からないような心的特性に関して、客観的な情報を迅速にもたらします

 このようなことが可能になるのは、心理検査には、特定の心的特性を確実に明らかにしうる問題や課題が含まれており、適用範囲の人であるならば、誰に対しても常に一定のやり方で実施され、一定の標準に照らしてその成果が検討されるからなのです。

◆執筆者プロフィール

高瀬由嗣(たかせ ゆうじ)
明治大学 文学部心理社会学科 教授。日本ロールシャッハ学会 常任理事。専門は臨床心理学、心理アセスメントにおける科学的基盤の検討。主な著書に、『臨床心理学の実践――アセスメント・支援・研究』『RODS(Rorschach Data System)第3版 』(共著・金子書房)、『心理アセスメントの理論と実践――テスト・観察・面接の基礎から治療的活用まで』(共著・岩崎学術出版社)などがある。

◆著 書


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