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【イントロダクション】ケース紹介(阿部利彦:星槎大学大学院教育実践研究科教授/『ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』より)

弊社の人気タイトルである『クラスで気になる子の支援 ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』。本企画では本書の一部を無料で公開します!
計4回の掲載を予定しています。この4回は連続する内容なので、ぜひ引き続きチェックしてください。
この初回では編著者である阿部利彦先生のご執筆分を公開です。クラスで気になることをどのように支援していくのか――。まずはケース紹介です。それでは以下より、ご覧ください!

問題の背景が「見えにくい」とき

 本書(『ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL)で最初に検討するのは、「登校しぶり」「不登校傾向」のお子さんへのかかわり方です。

 「登校しぶり」には、一過性のタイプ、息切れタイプ、怠けタイプ、複合的タイプ、といった分類の仕方があり、家族関係やその子の性格、あるいは「心のエネルギー」との関連で検討されることがあります。しかし、それらの視点だけでは、問題の背景が「見えにくい」ケースも多いように思われます。

 学校現場で、「学校に行きたくない」と訴えるお子さんは6月くらいから増えるように私(阿部)は感じています。ゴールデンウィークを過ぎたころから、子どもたちも先生も新しいクラスに馴染んできて、よい意味でも悪い意味でも緊張感がゆるんできます。そして、いろいろと気になるサインや行動が見え始めます。たとえば、クラスの大半の子どもたちが登校のリズムをつかみ始めている中で、一部の子どもたちが登校をしぶり始めるのも、ちょうどそんな時期です。

 登校しぶりが出始めた初期の段階で、その子に合った適切な支援を提供できればいいのですが、ケースによっては登校しぶりの背景が見えにくく、そのため効果的な手立てが検討できないまま、どんどん登校しぶりが強くなってしまう場合があります。

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ケースファイルNo.1 登校しぶりがあるマモルさんの場合

 小学2年生のマモルさんは、授業中頭が痛くなる、ということで保健室に行くことがありました。だんだんと保健室の利用頻度が高くなってきて、2学期になると登校をしぶるようになってきました。そこで地域の教育センターに相談に行ったところ、マモルさんは担当のカウンセラーに「学校の勉強が大変で嫌だ」と話したのです。

 マモルさんは、算数の計算については問題ないのですが、ものさしを扱ったり、目盛りを読みとったりすることがうまくできません。また、板書や連絡帳を書くことが苦手で大変時間がかかります。漢字の筆順が覚えられない、字形が乱れる、罫線やマス目に字をおさめられないといった課題もあります。さらに、音読の時には、行を読み飛ばす、逐次読みになってしまうということがたびたびあります。姿勢も崩れがちで、鉛筆を正しく握って書くことができません。

 運動面においては、お母さんによると小さいころからボール遊びが苦手で、とても嫌がったとのことです。

 ここで、本ケースのマモルさんの行動特徴についてまとめた「状態把握表」を作成しました。

マモルさん状態把握表

 ご覧になられて、読者の皆さんなら、マモルさんにどうかかわってみますか? 「私なら、ここに注目してかかわってみたい」という支援の方法をイメージされてから、次に進んでみてください。

 さて、マモル君への支援について解説をする前に、本書では、「支援の前のクエスチョン」として、各ケースの前に、注目してほしいポイント、確認してほしいポイントを紹介したいと思います。

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支援の前のクエスチョン①「登校刺激を与える(あるいは控える)という対処で問題は解決する?」

 登校しぶりの子どもに「明日も来るんだよ」「先生待ってるよ」と、登校するよう声をかけるというのはよく聞かれる方法です。中には不登校や引きこもりの子どもの家庭に何度も足を運んで、あたたかく声をかけ続けている先生もいて、頭が下がる思いです。

 ただ、皆さんにぜひわかっていただきたいことがあります。それは、私のかかわってきた登校しぶりの子どもたちの多くが、「明日こそ学校へ行きたい」「行かないと先生(お母さん)に悪いな」などと、登校したい気持ちをもっているということです。それなのに、朝になるとその決意はゆらいでしまいます。どうしてかといいますと、その子にとってつらい状況や原因がまったく解決されていないからなのです。

 特に今回のケースでは「学校の勉強が大変だ」というサインに、具体的に目に見える形で対処してあげなければ、マモルさんの登校を維持させることはできません。

 「学習の苦手さやつまずき」による登校しぶりの場合には、登校するよう刺激を与えるのとは逆の方法、つまり「様子を見る」「登校刺激を与えない」「心のエネルギーがたまるのを待つ」といった対応も、同じく子どもの苦しみを引きのばすだけです。

 なぜならマモルさんは、「今日も学校に行かなくてすんでラッキー」と休みをエンジョイしているわけでは決してなく、「学校に行きたい、行かねばならない、でも行けない」ことに悩んでいるからです。ですからただ様子を見守るだけでは、その子に「今日も学校に行けなかった」「私はダメな子だ」と、自己否定感を毎日積み重ねさせてしまうことになります。

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支援の前のクエスチョン②「不登校傾向の子に学習のフォローをしていますか?」

 登校しぶりや不登校傾向の子どもの中には、能力のアンバランスさや学習のつまずきのある子がいます。学校はやはり勉強をする時間がほとんどですし、周りが「勉強なんて気にしなくていいよ」と言ってくれたとしても、本人にとって「わからないこと」や「できないこと」は、学校生活においてとても大きな苦痛です。

 特に「見えない障害」とも言われる学習障害の子どもなどの場合、特定の学習活動に課題が限局されていることがあるので、本人のつらさや学びにくさに周囲が気づいてあげられないことがあります。

 そういう「つまずき」が背景にある子どもには、気持ちを受け止めたり、はげましたり、学校に行けたことをほめたりするだけではまだ足りません。その子が抱えている「つまずき」を軽減するためのトレーニングや、その子が学習に参加しやすいような学級での工夫が重要となってくるでしょう。

 マモルさんの場合は、特に「細かいものを見る」「形をとらえる」「写す」など、「目」を使う作業に苦手さがあるようです。

 そこで本ケースでは、ビジョントレーニングの達人、増本利信先生に「第一の達人」として、ご登場いただき、支援の方法について解説をいただきたいと思います。

編著者プロフィール

阿部利彦(あべとしひこ)
星槎大学大学院教育実践研究科教授。
専門は特別支援教育、教育のユニバーサルデザイン、発達につまずきのある子の魅力やサポート法について、講演会・教員研修に全国を飛び回る。

■ 公開中の『ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』はこちらです!

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※ 本記事は『クラスで気になる子の支援 ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』を底本とし、使用上の都合により適宜編集を加え掲載したものです。