無気力の正体を知って、無気力から立ち直ろう!(櫻井茂男:筑波大学名誉教授)#立ち直る力
無気力の正体とは
これまでの研究によれば、無気力の根本的な原因は3つあります。それらは①無力感、②絶望感、そして③無目標です(拙著『無気力から立ち直る(近刊)』をご参照ください)。
無力感とはストレスフルでいやな状況を自分の力では改善できない(自分ではどうしようもない)という気持ちのこと、絶望感とは将来もそうした無力な状態が続くであろう(将来に期待がもてないであろう)という気持ちのことです。そして無目標とは文字通り、目標がもてない状態です。目標がもてなければやる気は湧いてきません。
こうした気持ちや状態にいたると誰もが無気力になります。無気力の影響から子どもが不登校になる場合、そして無気力が高じて大人でも子どもでも自殺につながる場合はありうるでしょう。
コロナ禍の状況では
それでは、コロナ禍ではどうして無気力になりやすいのでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大によって、つぎのような3つの状況が生じたからと考えられます。
ひとつは、外出の自粛など社会的な行動が制限されたから
この点は、子どもや若者に強く影響していると思われます。彼らは学校に通えない、それゆえ友達ができない、友達がいても交流できない、そして楽しいはずの部活やサークル活動もできないという状況になりました。こうした状況は自分一人の力ではどうすることもできません。それゆえ、無力感におちいり無気力になるのです。さらに、同じ状況が続けば絶望感に襲われ無気力はいっそう強まります。
二つめは、雇用環境の悪化などで経済的に困窮した人が増えたから
この点は、非正規労働者や女性に強く影響したものと思われます。解雇されたり、雇い止めにあったりして、生活の糧を奪われれば生きていくことさえままなりません。新型コロナウイルスの感染拡大が収束しないかぎり、こうした状況は続くと予想され、無力感や絶望感によって無気力になる可能性がきわめて高いのです。
三つめは、将来への不安が増大したから
コロナ禍では、将来への不安が大きくなり、そのために将来の目標が設定しにくくなっています。将来に期待をもって「こうしたい、ああしたい」という目標がもてなければ、やる気は発揮されず、結果的に無気力な状態になってしまいます。
コロナ禍における無気力への対処法は
こうした無気力にどう対処したらよいでしょうか。基本としては、3つの根本的な原因に対処することです。それにはつぎの3つの方法が考えられます。
ひとつは、信頼できる人に相談すること
自分一人の力ではどうしようもない状況でも、家族、友人、教師など周囲の信頼できる人に助けてもらえれば無気力から立ち直ることができます。無気力で登校できなくなっても、教育関係者との相談や協力によって、オンラインでの授業やクラスメイトとの交流など別の方法が可能になれば、徐々に無気力から立ち直れます。また、経済的に困窮して無気力になったとしても、役所の人に相談して生活保護が受けられれば、無気力からかなり立ち直れるはずです。まずは人とつながることが、とても大切です。
二つめは、自分から「助けて」と言える“勇気”をもつこと
ひとつめと関連していますが、無気力になっても、自分が悪いからだ、自分がダメだからだ、と自分を責めて他者や社会に援助を求めない人も多くいます。たしかに自立することは大事ですが、孤立して死んでしまっては元も子もありません。助けが必要なときには、勇気をもって「助けて」と言ってほしいです。他者に助けてもらったならば、つぎの機会には自分が助ける側になればよいのです。助け合いはもっとも大事です!「相互依存的な自立」が人にとって望ましい状況といえるのです。
三つめは、目標をもちその達成に向けて工夫し努力すること
コロナ禍では将来への不安が大きくなり、将来の目標がもちにくくなります。それゆえ無気力になりやすいのですが、そんな状況でもコロナ禍がずっと続くことはないと“楽観的”に考えることは必要です。たとえば海外留学の夢をもち、それを実現するために“いまは自宅で”英作文に磨きをかけたり、オンラインで海外の人と話をしたり、何か具体的な行動ができていれば、かならずや夢は叶うと思います。最大限の工夫をしてこの困難な状況を利用するくらいの気持ちで乗り越えてほしいです。やる気はかならず湧いてくるはずです。
以上のような対処法によって無気力から立ち直り、自殺をしようとする人や不登校になる子どもが早急に減ることを願ってやみません。ポストコロナになったとしても無気力になる人は多くいるかもしれません。しかし、こうした対処法によって、“あなたはかならず無気力から立ち直れる”と信じています!
執筆者プロフィール
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