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【第二の達人登場!】ズバッと解決ファイル4U ~時計の問題で混乱してしまう子~(久本卓人:神奈川県教育委員会子ども教育支援課指導主事)

前回は今井正司先生による「個別での支援」をご紹介いただきました。続く今回は、第二の達人として久本卓人先生にご登場いただきます!久本先生には「授業での支援」をご紹介いただき、ズバッと解決!していただきます。
それでは以下より本編スタートです!

全ての子が「分かる!」「できる!」をめざす5つの作戦!

 ここでは、「クラスでの支援」として、主に担任の先生が、普段の授業や学校生活の中でできる支援のアイデアを「作戦」と題して5つ紹介します。

 なお、紹介する内容は、クラスの中で、マサヒロくんを含めた全ての子が「分かる」「できる」をめざすための集団指導における支援を中心としています。

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その1「クラスのオリジナルキャラクター化」作戦!

 子どもの中には、二本の針が異なる規則性で動くことに混乱する子もいます。
 そこで、短針、長針の見た目の特徴と動きの規則性を踏まえ、針を擬人化して理解を図るようにします。

 例えば、まず、それぞれの「特徴」として、次のような説明をします。

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 説明する時には、短針、長針をキャラクター化したイラストを提示すると、子どもがイメージしやすくなります。顔つきや表情は、子どもたちと一緒に決めてもよいでしょう。

 さらに、それぞれのキャラクターには、みんなで名前を付けます。自分たちで名前を付けることにより、キャラクターに愛着が湧き、イメージがより定着しやすくなります。

 その後、キャラクターは、時刻と時間の説明をする際やプリントを自作する際の挿絵として活用します。

その2「へんてこ時計『まねっこゲーム』」作戦!

 「何分」を読み取ったり考えたりするために、5、10、15…と、5の倍数を唱える場面があると思います。5の倍数の暗唱がスムーズにできると、その他の作業も楽になります。

 しかし、数を暗唱する練習はつまらない、意欲を持てない、という子もいるでしょう。

 そこで、「時計の針ってとってもまじめだよね。いつも、ぴんっと全身まっすぐに伸びた状態で、『今、5分!』、『今、10分!』て指してる。でも、世の中には、『0』以外の数字のところで、いつもへんてなポーズをとる、へんてこ時計があるんです。今日は、その、へんてこ時計の針のまねをするゲームをしましょう。」と投げかけ、こんな遊びを紹介します。

① 数人で輪になり、全員で「0!」と声を合わせる。「0!」は、長針が12の位置を指すような気持ちで、全員が両手を挙げてピンとする。
② 一人が「5」と言いながらポーズをとる。それに続いて、まわりの人が「5」と言いながら同じポーズをとる。
③ 次の人が「10」と言いながらポーズをとる。それに続いて、まわりの人が「10」と言いながら同じポーズをとる。
④ 15、20…と続け、55の次は全員で「0!」と言いながら最初のポーズをとり、その場に座る。

 慣れてきた子は、「5」、「10」と、複数の数を言いながらその数の分のポーズをとるようにすると、盛り上がります。

 コツは、先生がおもいっきりユーモラスなポーズをとってお手本を見せること。休み時間に「5!」、「10!」という声が聞こえるようになったら、大成功です。

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その3「どこでも『しかけ』」作戦!

 学級担任制である小学校の先生の強みは、たくさんの時間を子どもと過ごしていることです。

 ですから、算数の学習内容を、算数の時間だけで詰めこもうとする必要はありません。様々な教科や学校生活の中で、繰り返しその学習内容に接する「しかけ」を設定すればいいのです。

 例えば、すでに紹介した「まねっこゲーム」。

 体育の準備体操にいかすと、「5」と言いながら一つの動き、「10」と言いながら次の動きをして、12種類の動きを行う「まねっこゲームたいそう」になります。しかも、単に、「準備体操をします。」と言われるよりも、「今日は『まねっこゲームたいそう』をしましょう!」と言われる方が、ずっと楽しそうです。

 大切なのは、楽しみながら、自然と学習内容が身についていく工夫をすることです。そうした「しかけ」は、マサヒロくんのように活発な子にとっても、大きな支援となります。

その4「時間の経過を見える化」作戦!

 「家を出る時こくは9時です。公園へつく時こくは9時20分です。家を出てから公園につくまでの時間はどれだけでしょうか。」という問題があったとします。

 このとき、ヒントとして、次のような時計のイラストを使うことがあります。

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 このイラストでは、20分間という時間の幅をイメージしやすいように、色をつけて視覚化しています。

 このような工夫が、模型時計にもできると便利です。
 そこで一工夫。クリアファイルを時計盤の大きさに切り取り、模型時計にはめます。

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 こうすると、ホワイトボード用のペンを使い、自由に書いたり消したりすることができます。

 針を回転させる方向に矢印を書き込んだり、時間を確かめるときにペンで点を打ちながら1分、2分…と数えたりと、作業の過程を視覚化したいときにも便利です。

その5「カードでバトル」作戦!

 子どもたちは、カードゲームが大好きです。
 時刻と時間の学習も、カードゲームで遊びながら学べるようにしちゃいましょう!

 ここでは、8時00分、8時10分、8時20分、8時30分、8時40分、8時50分、9時00分の時刻や時計の絵が描かれた7枚のカードを使ったゲームの例を2種類紹介します。
 なお、7枚のカードは、人数分用意します。

※ カードの台紙例(PDF)は以下よりダウンロードできます。針の絵や時間は、台紙を配付して子どもと一緒に描くと、よい学習の機会になります。

ゲーム例1「早い者勝ち!」

<ゲームの流れ>
① それぞれ、7枚のカードを裏向きにして並べる。
② 一枚を選び、せーの、で裏返す。
③ 早い時間のカードを出した人が、相手のカードをもらう。
  ※同じ時間であればひきわけ。どちらもカードはもらわない。
④ 7回繰り返して、相手よりたくさんカードを集めた人の勝ち。
⑤ 最後に相手にカードを返す。手持ちのカードは時間順に並べて、全てそろっていることを確認する。

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 もちろん、「遅いもの勝ち」もできます。

 ところで、このゲーム、最後にカードを時間順に並べるところがポイントです。これにより、時刻の順序性を自然と身につけることができるからです。何分前、何分後をスムーズに考えるためには、この時刻の順序性がしっかり身についていることが、とても重要になってきます。

ゲーム例2「できるだけ早い者勝ち!」

<ゲームの流れ>
① それぞれ、7枚のカードを裏向きにして並べる。
② 一枚を選び、せーの、で裏返す。
③ 早い時間のカードを出した人が、時間差を点数として獲得する。(8時40分と8時10分のカードなら、30点の獲得)。
④ 7回繰り返し、より大きな獲得点数をとっていた人の勝ち。
  ※合計点数を計算してもよいのですが、単に最高得点を競う方が、学年に合っていてシンプルです。

 その他にも、偶数セットのカードを裏返して神経衰弱を行う、「○時○分の○分後」といった指示が書かれているカードを先生や代表者が読み、できるだけ早くそのカードを探すなど、様々な遊びが考えられます。

 また、慣れてきた子はカードのデジタル表記の部分を切り落としてアナログ時計の部分だけを見ながらゲームに参加するなど、「上級者コース」用のアレンジも可能です。

 「楽しい」「もっとやりたい」という気持ちが、学習の原動力になっていきます。
 ※それぞれのゲームで使うカードの枚数や勝負の回数等は、子どもの実態によって調整します。

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さいごに…

 教材や教具は、本来の学習内容ではない、「無駄な違い」を減らすことで、学習内容に集中しやすくなることがあります。

 例えば、お子さんによっては、支援学級に在籍したり、取り出し指導の先生が付いたりしていることもあると思います。

 その場合には、通常の学級の先生とそれらの先生との間で、教材・教具についての情報交換や共有を行うことが大切です。まったく同じ教材・教具を使わない場合でも、デザインに統一感を持たせるなど、工夫できることはあると思います。

 さらに、時刻と時間の学習は、2年生だけで行うのではありません。1年生~3年生までの三年間をかけ、秒針の読み取りまでを行うことになっています。

 したがって、学年の垣根を超え、学校内で情報交換を行うことも効果的です。教科書でも、3学年間の時計のイラストは、色づかいなどの点で統一感のあるデザインになっているようです。

 情報交換を密にし、「チーム」で取り組む、という視点を大切にすることが、マサヒロくんを含め、全ての子たちへの大きな支援になると思います。

いかがだったでしょうか。ゲームの要素を取り入れ、体も使いながら楽しく学べる作戦が盛りだくさんでした。どんなねらいがあってこの作戦を用いるのか、これを知ることでコツとポイントも学べたのではないでしょうか。
次回はこのケースのまとめとして、阿部利彦先生に再度ご登場いただき、ズバッと解説!していただきます。
次回配信は10月21日(水)を予定!ぜひお楽しみに!

執筆者プロフィール

久本卓人(ひさもと・たくと)
神奈川県教育委員会子ども教育支援課 指導主事。日本授業UD学会湘南支部所属。同じ志を持った先生方とともに、支援教育の視点を参考にしながら、全ての子が「分かる」、「できる」を目指す授業づくりを追究しています。

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