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【第一の達人登場!】ズバッと解決ファイル4U ~時計の問題で混乱してしまう子~(今井正司:早稲田大学応用脳科学研究所・客員准教授)

前回の記事で阿部利彦先生にご紹介いただいたとおり、今回のケースは「時計の問題で混乱してしまう子」です。いったい、どんなつまずきがあり、その背景にはなにが潜んでいるのでしょうか…?
ケースをご紹介したあと、今井正司先生に個別支援の側面から「ズバッと!」解決していただきます。
それでは以下より、本編スタートです!

ケースファイル紹介 ~視覚情報によって混乱してしまうマサヒロくんの場合~

 小学3年生のマサヒロくんはクラスでも目立つ活発な子です。休み時間になると、テレビ番組のことなどを楽しそうに友だちに話して笑わせています。

 そんな陽気なマサヒロくんですが、「時間の経過」を計算する問題になるとイライラしてしまい、考えるのをやめてしまうことが度々あります。たとえば、「10時20分の30分前は何時何分ですか」という問題や、ある場所からの移動にかかった時間について、時計のイラストを参照しながら解く問題は特に苦手なようです。

 間違え方に一貫性があれば教えることもできるのですが、同じ問題を繰り返し解いていても毎回別の答えを書いているように感じます。たとえば、「10時20分の30分前は何時何分ですか」という先ほどの問題の場合は、「10時50分」や「9時10分」など、間違え方が一貫していないように思えます。

 マサヒロくんは時刻を読むことはできますし、60分が1時間であることなどの基本的な時計の規則については理解しています。イライラが原因でちゃんと能力が発揮できていないようにも感じたので、実際の時計やイラストを使って分かりやすく教えようとするのですが、かえって混乱させてしまうこともしばしばです。自宅でもお母さんと一緒に、目覚まし時計を使って復習をしようとしているようですが、「時計をみるのが嫌だ!」と怒ってしまうようです。「時刻と時間」の学習は、日常生活にも関わる大切な単元なので、どうにかしたいと思うのですが、どのように教えたらいいかがわかりません。

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⌘ 支援提案!

 時計を用いた「時刻と時間」の理解は、日常生活においても時計を見ながら行動するために必要な学習です。時間をかけて学習すれば身につくスキルなのですが、低学年の段階では認知発達に個人差がありますので、間違えやすいところやイライラしやすいポイントもそれぞれです。

 時計の問題を解くためのヒントは様々な媒体で紹介されていますし、教材も豊富です。それらの多くに共通するポイントをまとめると、「十進法ではないルールに従って計算すること」と「文字盤などのイラストを使って視覚的に時間のイメージを捉えやすくすること」の2点にまとめられると思います。しかし、マサヒロくんのように、算数の能力が学年相当であり、時計や時間のルールを知っているにもかかわらず、文字盤のイラストを見ると混乱してしまう子どもたちもいます。一般的に、イラストなどを用いた視覚提示の方法は、学習の補助教材として有効ですが、複数の情報が含まれている文字盤時計の場合は、頭の中で情報が整理しにくいこともあります。

 このケースでは、視覚提示によってもたらされる認知処理の観点から、時計や時間に関わる問題の難しさと面白さについて紹介したいと思います。具体的には、「視線」や「視点」をもとにした解答プロセスについて考えながら、支援方法の一例を紹介させていただきます。

 まずは、時計や時間の問題にかかわらず、子どもの間違えやすいポイントを整理して理解することが大切になります。しかし、低学年の子どもたちに「どこが難しいの?」と聞いても、自分の解き方のクセ(方略)や自分の思考プロセスを自分自身では理解できていないことが多いため、自分の苦手な部分を上手に説明することは難しいかもしれません。

 このような自分自身の解き方のクセ(方略)や思考プロセスについて理解するのは「メタ認知」と呼ばれる認知機能であり、10歳ごろに発達することがわかっています。そのため、メタ認知の発達過程である低学年の児童を対象に算数の個別支援をする際には、「発話思考法」という方法を用いて問題を解いてもらうことをお勧めします。発話思考法とは、頭で考えていることをそのまま話しながら問題を解く方法です。教室での一斉授業では行うことが難しい発話思考法ですが、この方法を使うと、子どもがどの箇所で何を考えているかを理解しやすくなります。そのため、解き方のクセや間違えのプロセスについて(また、理解できている箇所やそのプロセスについても)、多くの情報を得ることができます。

 マサヒロくんは、時刻を読むことはできますので、足し算や引き算ができれば問題を解くのは簡単だと思われるかもしれませんが、子どもたちの目線に立つと、時計の文字盤にはそれらの計算を混乱させる要素がたくさん詰まっています。ここでは、発話思考法で得られた情報や「視覚情報」を処理する認知発達の観点から、時計と時間の問題を教えるためのヒントについて提案していきたいと思います。

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⌘ 空間と時間における「前・後」という表現

 小学校低学年の子どもたちの中には、空間と時間における「前・後」の関係に混乱してしまうことがあります。文字盤を見ながら時間の前後間隔について計算する問題では、特に混乱が起きやすくなります。マサヒロくんが解いていた「10時20分の30分前は何時何分ですか」という問題では、「20分から30分前に進むから30、40、50で、50分で10時50分かな・・」という発話思考をしていました。つまり、「前」という言葉が空間的に(針が)前進するというイメージを想起しやすかったようです。しかし、マサヒロくんに、「今(9時40分)から10分後は何時何分?」と不意に質問したところ、「9時50分!」と正しい時刻を答えてくれました。マサヒロくんが言うには、「好きな番組が始まるのを待っていると、『この後すぐ』とよく聞くから、まだ始まっていない時間のことだよね」と答えてくれました。これらのことから、マサヒロくんは時計の文字盤のイラストを視覚的に参照する過程で、針を進めることを「前」と捉えてしまい、針が戻ることを「後」と間違って捉えやすいことがわかりました。

 時間と空間の「前・後」の表現は、日常生活で何気なく使いますし、そのルールも自然と身についているように感じてしまいます。しかし、低学年の子どもたちのなかには、それらのルールを知っているにも関わらず、文字盤を眺める時に「長針の立場」で前後を見る「視線」に切り替わってしまうことがあります。私はこの間違い方を知った時は「なるほど!」と感動した覚えがあります。低学年の段階では、ルールや視点の切り替えに関する認知能力に個人差もありますので、時計(時間)における「前・後」のルールを確認しながら問題を解くことが大切になります。どうしても長針の視線で前後関係を見てしまう場合には、「長針は後ろ向きで進んでいるんだよ」と教えると前・後の表現に納得してくれることがあります。

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⌘ 時刻と時間に関わる表現

 「3時15分」は時刻ですが、「3時間15分」は時間です。文章題にはこの時刻と時間の区別をしながら取り組まなければいけません。「3時15分から3時間15分の時間がたつと何時何分?」という問題だと混乱する子もいます。時間を表すときには「3時間」や「15分間」などの「間」などの言葉がつくことが多いのですが、日常的には「7時から30分テレビを見ていいよ」などの動作表現が伴うことで「間」がつかないことが多くありますので、時間の表現に慣れることがポイントになります。意外にも、これらの表現は耳で聴くと理解できているのに、目で文章を見ると混乱してしまう子が多くいます。3時15分と3時間15分という似通った文字情報によって混乱していることもありますので、声に出して読んでみたり(読んでもらったり)、3時間15分の部分を単純に10分に置き換えたらどうなるかなどを確かめる作業によって、時刻と時間の区別をしやすくすると良いでしょう。

 ご家庭でも、「7時から30分間、テレビを見ていいよ」などと時刻と時間を組み合わせた表現は日常的にも行われていると思いますが、それらの表現(情報)を視覚的にも理解できるように、紙に書き取る練習をすることも有効な手立てになります。また、算数の文章題には「15分前に出発しました」や「15分待ちました」などと動作の表現を含めたものもありますので、これらの表現にも日常生活で慣れていくことが大切です。その時は、時刻と時間の区別をするだけでなく、紙に書いたものを渡して読んでもらったり、慣れたら紙に書いてもらうなどの工夫があると良いでしょう。

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⌘ 文字盤時計の数字の意味を無視する能力

 「今は2時20分だけど、あと何分で3時になる?」とマサヒロくんに聞くと、文字盤の数字を指差ししながら、「まずは、(5を指差して)5分、(6を指差して)10分、(7を指差して)15分、・・20、25、30、35、40だから、40分!」と、5分刻みに問題を解いていることが発話思考の内容から分かりました。しかし、デジタル時計のイラストを使って、「今は3時10分だけど、あと何分で4時になる?」と類似した問題を出すと、「足して60だから、50分でしょ!」とすぐに正解を導くことができました。

 文字盤を用いた計算では、序数性の処理(継次処理)を生かした方法で答えを出していることがわかります。一方で、デジタル時計のイラストを用いた計算では、基数性の処理(同時処理)を生かした方法で答えを出しているように見えます。文字盤だとかなり慎重に解いているようにも見えましたので、もう1つ問題を出してみました。問題は、「1のところにある長い針を35分進めてみて」というものです。

 マサヒロくんは、「(2を指して)5、(3を指して)10、(4を指して)20、(5を指して)25・・」と、いつの間にか時刻の数字を読むことに変わってしまっていました。マサヒロくんが言うには、「時刻の数字が混乱の元なんだよ・・」と、数字の時刻情報に干渉されていることを教えてくれました。時刻を読むことはもともと得意ですから、どうしてもそれらの時刻情報を数字から読み取ってしま処理が強く働いたのかもしれません。つまり、文字盤時計を使って時間を進める問題の場合は、干渉制御(時刻情報を抑制)して問題を解くことが求められます。簡単にいうと、視覚提示された数字を見ることによって情報に混乱が生じているということです。試しに、全ての文字部分を「*」のマークに置き換えた文字盤イラストを用いて、同じ問題に取り組みました。すると、干渉効果は和らいだこともあって、間違えることはなくなりましたが、5分区切りで問題を解く序数性の処理(継次処理)を生かした方法を相変わらず用いているようでした。

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⌘ 文字盤の数字における間隔と感覚

 多くの時計の問題を解くための教材は、時刻と時間の関係性について計算することに主点が置かれていますが、もう少し踏み込んでサポートをしていただきたいことがあります。それは、「時間の感覚」についてです。先程の問題におけるマサヒロくんの解き方は、1文字(数字)ずつの間隔(5分間)で40分間分を進めていました。マサヒロくんの場合は、デジタル時計のイラストを使えばすぐに答えが出せるので、算数の問題を解くという点では工夫次第で正解を得やすくすることはできますが、時計と時間感覚に焦点をあてて別の視点から支援を行うことにしました。

 5分の時間感覚は文字盤時計の1数字分ですが、それらの視覚的な情報と実際の時間感覚がうまく結びついていない子がいます。これらの感覚が育っていないと、自分の行動を計画する時やそれらを遂行している時の進捗状況について、時計を見ながら予測・修正することが困難になってきます。時間が経過する感覚を体験するためには、砂時計を使って「*分くらい」という感覚を文字盤の数字間隔と対応づけながら学ぶことがポイントとなります。実際の個別支援では、漢字の書取り時間や計算を解く時間を砂時計と文字盤時計を使いながら、それらの「間隔」と「感覚」を一緒に体験してみました。

砂時計2

 まずは、10分用の砂時計を使い、砂が半分ぐらいになったところで、「この砂時計はあと何分ぐらいで全部なくなるのだろう?」という質問をしてみました。マサヒロくんからは、「あと5分ぐらいかな」と妥当な解答が得られました。この時に、数字の替わりに*の記号を用いた文字盤時計を参照しながら、2文字分であることを確かめます。20分用・25分用の砂時計も同様の手続きで確かめました。最終的には、自分で砂が入れられるように改良し「15分の砂をどちらがきっちり入れられるか競争しよう!」という課題を行いました。

 この支援のポイントは、時間感覚を時計の文字盤と対応づけること、基数的な処理で時間感覚を身につけるということの2点です。砂時計の時間感覚と文字盤の文字間隔を対応づけられるようになると、「今は10時10分だけど、25分後の長い針ってどのあたりに移動する?」という問題に対して、1文字ずつカウントする方法ではなく、「6で20(分)だから、7のところ」という解答ができるようになります。

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⌘ 視点をどの時(時刻・時間)に置くか

 ここまでは、視覚提示された時の視線や感覚について紹介してきました。学年が上がると時計の問題は、時間と時刻の情報を整理する問題へと変化していき、より複雑になっていきます。その時に必要になるのは「視点」の認知機能です。

 たとえば、「家を出発した時の時刻はAでした(問1:Aの時刻を解答させる)、友だちの家に到着した時に時刻はBでした(問2:Bの時刻を解答させる)。何分歩いたでしょう?(問3)」という問題構成(パターン1)と「家を出発した時の時刻は2時10分でした、友だちの家に到着した時に時刻は3時30分でした。何分歩いたでしょう?」という問題構成(パターン2)は、時刻が読める子どもにとっては全く同じ問題のように思えます。しかし、前者の問題の方が低い正解率になってしまうことがあります。それは、低学年の子どもの認知機能の特徴には、直前に行っていた課題に視点が固定されてしまう傾向があるからです。

パターン1

パターン2

 マサヒロくんの発話思考では、「Aは2時10で、Bは3時30分だね。簡単じゃん。3時30分が2時10分だから・・・、う〜ん・・。1時間前が2時30分だから・・・」という発話思考の内容でした。この後に、時刻を少し変えたパターン2の問題を解いてもらうと、出発時刻から計算してすぐに答えを出してる発話思考の内容を確認することができました。パターン1の場合は引き算をベースにした計算になりますし、さらに、60進法の計算に慣れていない状態での引き算となると、問題は一層難しく感じるかもしれません。つまり、計算過程やその結果を短期的に記憶しながら別の計算を同時にしていくという「ワーキングメモリ」をより多く使うことになります。つまり、問題を解くときには、どの時刻に視点を固定しておくか、または、どこからどこへ視点を移動するかによってワーキングメモリの負荷が異なってきます。

 「家を出発した時の時刻は2時10分でした。友だちの家に到着した時に時刻は3時30分でしたが、途中で20分座って休憩し、2時50分に出発しています。歩いたのは何分でしょう?」などの中継時点が含められた内容が書かれていたり、時系列が継次的でない場合は特に混乱する要因になります。このような多くの情報が記載されている問題を解くときには、全体地図の見取り図を書き、時刻と時間を区別し、視点をどこに置くかということについて問題を解く方法についてプランニングすることが大切になります。このような問題の場合は、時計の問題の難しさというよりは「算数全般に関わる文章題の難しさ」ともいえますが、複数のルールを使い分けたり、視点の置き場所を移動するという「時計の問題」で培える能力が役にたつと思います。

いかがだったでしょうか?きっと「そういうことだったのか!」という納得感とともに、これだけさまざまな要因が隠れていることに新発見の連続だったのではないでしょうか。
次回は久本卓人先生に “第二の達人”としてご登場いただき、「授業の側面」からどのような支援が考えられるか、ズバッと!解決していただきます。
次回配信は10月14日(水)を予定!ぜひお楽しみに!

執筆者プロフィール

今井正司(いまい・しょうじ)
早稲田大学総合研究機構応用脳科学研究所・客員准教授。公認心理師・臨床心理士・特別支援教育士・専門健康心理士。
認知行動科学や脳科学に基づいた教育支援や心理療法について研究を進めるほか、教育実践活動や学外活動も積極的に行っている。

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