私たちが復刊をしたワケ
このたび、金子書房では2タイトルの復刊をいたしました。
・『新装版 社会的学習理論の新展開』
・『新装版 モデリングの心理学 ――観察学習の理論と方法――』
タイトルをご覧になって原著の存在にピンときた方もいらっしゃるかもしれません。同時に「なぜいま復刊を?」と思われるかもしれません。
この記事では私たちがなぜ復刊をしたのか、その理由を書きたいと思います。
世界で4番目に著名な心理学者
心理学を学んだことがある方なら「バンデューラ」の存在をご存知のことでしょう。いえ、特段心理学に関わりがなかった方もその名をご存知かもしれません。
バンデューラ氏はとても有名な心理学者です。こちらの研究によると、20世紀の最も著名な心理学者として、スキナー、ピアジェ、フロイトに続き、4番目にランクされています。
バンデューラ氏と金子書房
私たち金子書房は、誇らしいことにバンデューラ氏による書籍を複数刊行しています。
うち冒頭に紹介した2タイトルの原著は、長期の品切れ状態となっていました。
なぜそうなったのでしょうか。その理由は、刊行から長い時間が経過したことにあります。ここでそれぞれの刊行年を調べてみます。
『社会的学習理論の新展開』は初版発行が1985年、『モデリングの心理学 ――観察学習の理論と方法――』は初版発行が1975年です。
35年前と45年前です。やはり、それなりの時間が経っていることがわかります。
名著だが品切れ
先ほどお伝えしたとおり、一般的に書籍の多くは、歳月と共に需要が減っていくことがほとんどだと思います。悲しいことのようにも思えますが、一方ではそれもそのはず、時代は変わり求められていく情報が変わっていくのです。そう考えると、自然なことなのかもしれません。
ここで「ではなぜいま復刊を?」という思いを強くされるかもしれません。それを説明するにあたり、少しばかり「きっかけ」を書かせてください。
心理学を専門とする学術出版社で働いていると、日々たくさんの原稿や論文を拝読します。そこでは、バンデューラ氏の文献がよく引用されることに気が付きます。
それも弊社が刊行した書籍であることが少なくありません。とても誇らしく感じるとともに、お会いしたことのない自社の先人たちに感謝をする瞬間でもあります。
私たちは内容の裏付けをとるために、引用元の文献に当たることがあります。バンデューラ氏の文献が引用されていた場合、私たちであれば、自社の保管庫に行き、古い原本を手に取れば確認ができます。
日の当たらないひんやりとした空気が漂う静かな書庫で、これ以上傷がつかないように、汚れないように、丁寧にページをめくり、力強い活版印刷の文字を目で追います。
ここでハッとしたのです。
私たちはすぐ手に取れるけれど、研究を重ねる先生方はどうされているんだろう…?
これが復刊のきっかけでした。
メーカーとして
私たちはすぐに本を手にできます。ですが、研究者の方の中にはそう簡単に手にできない方がいらっしゃるかもしれない。
もし手にするならば、国立国会図書館へ出向いたり、本書をお持ちのどなたかを探す必要があるのではないでしょうか。
よく引用されているのに品切れとなっている現状は、果たしてメーカーとして良いのだろうか…?
私たちの出した答えはもちろん、「復刊をしよう」でした。
やるからには、こだわりたい
復刊を実現するにはいろいろな方法があります。大きく分けるとつぎの3つになります。
① 原本の全ページを画像としてスキャニングして再現する
② 原本の文字をスキャニングし、テキスト自動読み取り機能を使用して再現する
③ テキストを一文字ずつすべて打ち直して再現する
作業量が少ない方法を選ぶことで製作にかかる費用も低く済みます。この例でいえば、①②③の順で費用が高くなっていきます。
私たちが選んだ方法は、もっとも費用がかかる③でした。
なぜ、わざわざ一番費用が高い方法を選んだのか。理由は明確です。
“読む人にとって、一番読みやすいものが作れるから”です。
本書の復刊では実際に、すべての文字を人の手で入力しています。人が行うことですから当然ミスもあります。そのため、原本と入力結果をすべて照らし合わせて、誤字脱字のチェックを行いました。ここには複数の人員が動員されています。
本文のレイアウトはもちろん、図版や表も当時と遜色がないよう、プロのオペレーターが緻密に再現してくださり、こだわって仕上げています。
カバーも原本が彷彿されるように意識しつつ、デザイナーによって装い新たに生まれ変わりました。
私たち出版社だけではなく、多くの方の協力があってこそ、復刊が実現したのです。
私たちが大切にしたいこと
ご説明したとおり、ここまで力を入れると費用は決して安くありません。ですが、私たちにとって大事だったのは学術専門の出版社として学術に向き合う姿勢です。
つまり、少々照れ臭い言い方になりますが、お金云々ではなく学術への貢献を大切にしたかったのです。
ここで、私たちのコーポレートビジョンを紹介させてください。
冒頭の「なぜいま復刊を?」という問いに対する答えは次のようにも言えます。
私たちは、書籍を手に取ってくださる方はもちろん、書籍をご執筆くださる先生、研究に励む先生方にも役立つ商品・サービスを提供したいためです。
今回は私たちの思いを語りました。
これらの復刊書籍が一人でも多くの方のお役に立つことを願っています。
“For the Hearts.”
―金子書房―
(文:H)