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コロナ禍における自閉スペクトラム症のこだわり行動への対処法(白石雅一:宮城学院女子大学教育学部教育学科・特別支援教育担当 教授)#つながれない社会のなかで心のつながりを

新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、生活に様々な変化と制限がある現在、急な変化への対応に困難がある自閉スペクトラム症(ASD)の子たちは、定型発達の子以上に大きなストレスを受けています。緊急事態宣言のもと、保護者や支援者はASDの子たちの「こだわり」にどう対応すればよいでしょうか? ASDのこだわり行動への支援の第一人者であり、9年前の東日本大震災の時も、ご自身も被災されながら支援を続けてこられた白石先生に支援のコツを学びたいと思います。

コロナ禍と東日本大震災 ~壊れた日常の相違~

 2019年の年末から広がり始めた新型コロナウィルス感染症は、2020年になってから、世界中で蔓延することになりました。我が国では、各種学校での行事が延期され、取りやめになって、卒業式までもが中止に至りました。
 その後、授業も休止、学校自体も休校になって、子どもたちは長い冬休みを与えられて、自宅待機を余儀なくされました。

 年度が変わっても入学式のめどは立たず、何度も延期された挙げ句に、中止となり、新学期もいつ始まるのか、誰も分からないカオスな状況が今も続いています。

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 今をさかのぼること9年前の東日本大震災の時は、大地震と大津波という事象により甚大な被害が出て、人々に直接的な苦痛や苦悩、不安、不自由をもたらしました。しかし、瓦礫を撤去し、家を片づけ、電気、水道、ガスが復旧をし、スーパーやコンビニが再開され、避難所から人々が帰宅していく度に、少しずつ、「失った日常の回復」が実感されて、安心や目標が見えてきました。

 それに比べて、この度のコロナ禍は、元凶のウィルスが目に見えないばかりか、「先が見えない」し「見通しが持てない」、「やるべきことは “stay home” だけ」で何ひとつ、「具体的」なものが示されてはいません。「緊急に配布される」と約束された「マスク」でさえも、手元に届いてはいないのです。

自閉スペクトラム症(ASD)とこだわり行動

 この「見通しが持てないこと」と「具体的でないこと(曖昧、抽象的なこと)」、そして、「変更されること」を大の苦手としているのが自閉スペクトラム症(以下、ASDと略します)の人たちです。彼らの多くは、「予定されていた行事が行われない!」「練習を重ねた卒業式が取りやめになった!」「4月になったら新学期ね、と思っていたら延期延期でいつ始業式なのかも分からない!」等々と相当なダメージを受けています。

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 すなわち、「予定の変更」「日課の変更」「スケジュールの変更」「ルーチンの変更」等の「変更」に最も弱いのがASDの人たちなのです。

 それは、彼らに「こだわり行動」があるからです。このこだわり行動がASDの大きな特徴であり、診断基準の一つになっていることは、周知の通りです。

 そして、このこだわり行動は、「変えない」「やめない」「始めない」という、3つの特徴を有しています(白石、2013)。具体的には「日課やスケジュールを変えない」「水遊びや砂遊び、お絵描きをやめない」「新しいことを受けつけない、始めない」等々です。

 今、ASDの人々の中でも特に子どもたちは、コロナ禍による「変更に次ぐ変更」でこだわり行動を阻害され、学校生活などの日常やルーチンを壊されて、不満を蓄積し、不安定になり、「見通しが持てない」「カオスな状況」によってますます不安を募らせています。

状態悪化の例

 ASDの子どもたちにとって、上述のストレスフルな状況は、様々な「二次障害」を発生させます。具体的には、パニック、フラッシュバック、感情爆発、暴言、不眠、偏食、引きこもり、対応拒否、自傷、他害、等々です。そして、これらに対応する家族や関係者も限界に近づいています。

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コロナ禍におけるこだわり行動の三つの例

①「変えない」A君
 A君は、小学校の特別支援学級に通っている3年生です。彼は「外出の自粛」に添って “stay home” を守っていましたが、「家から出ない!」ことを決め、その変更が出来なくなって、家から一歩も外に出られなくなりました。家族は、「Aはこのまま、不登校や引きこもりになってしまう」と言って、不安を隠せません。

②「やめない」B君
 B君は、小学校の通常学級に入学したばかりの1年生です。彼もまた、休校の中、母親と二人きりで一日の大半を家の中で暮らす日々を送っていました。ここに「何でも母親と一緒にやる、がやめられない」というこだわり行動が生じ、強められるに至って、「トイレですら “母子分離” できない」状態に陥り、母親を苦しめていました。

③「始めない」Cさん
 Cさんは、特別支援学校の小学部に通う4年生です。彼女は、虫や動物の絵を描いて過ごすことが大好きで、休校中の今は、朝からずっと「お絵描き」をして過ごしています。それに不安を抱いた両親が「もういいかげんにして、何か別の遊びを見つけなさい!」と注意し続けますが、「うるさい!」「いやだ!」と言って受けつけません。両親はそれでもCさんのことが心配になって、「小言」を連発してしまいます。Cさんはいっそう、気分を害してしまい、ムキになって絵を描き続ける状態になりました。

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コロナ禍におけるこだわり行動への対処例

 まず、A君の場合の対処は以下のようなものでした。
 A君は家に籠もって、一日中、YouTubeの動画を見続けていました。彼のYouTubeに関係するスマホやPCの操作技術や知識は、父親も舌を巻くほど高いものでした。折しも、休校中の小学校でもオンライン授業の試運転が始まって、A君の家のPC画面に小学校の教室でWEBカメラやマイク、タブレット等の機材に囲まれて悪戦苦闘する先生方の様子が映し出されたのでした。それを食い入るように見詰めるA君の姿。

 父親はヒラメキました!「ここにAの力を活かしてもらおう!」と。早速、父親は学校と交渉して、先生方の準備状況にA君の意見をオンラインで配信させてもらい、そこに関与することに成功したのでした。もう、A君は「学校に行きたい!」「学校に行って、機材をいじりたい!」「SkypeやZoom、Teams を使いたい!」と言って、「学校への新たな想い」を熱く語るように変化したのでした。

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 つぎにB君への対処ですが、
 私の療育相談室に母親とB君がやってきました。母親は相変わらず「もう、どこに行くのもこの子がベッタリとくっついてきて、堪りません!」と嘆いていました。私は、そのB君に「ここに来るまでに、いつものコンビニに寄ってきたの?何か変わってなかった?」と尋ねます。B君は「えーと、レジにお客さんが並ぶのに、クツのマークが床に描いてあった」「そして、前の人と離れて並んで、ってなってた」「それと、レジのおばさんがビニールのシートの向こう側にいた」と説明してくれました。私はすかさず、「そうなんだよ!今は、新型コロナウィルス感染症の脅威から身を守るために、三密は避けなければいけない世の中になっているんだね」と念を押しました。

 そして、「今日から相談室でも三密を避けるために、プレイルームを真ん中から衝立で区切って半分にして、白石先生とB君は一緒に、でもお母さんは衝立の向こうで過ごします」と宣言してみました。B君は、自分たちに与えられた “半分の空間” に、これまで遊んできた彼好みのオモチャや教材が詰まっていることを知って、安心して、「あぁ、いいよ」とあっさりと了解してくれました。

 その後、プレイルームのオモチャや教材で夢中になって遊んでいるB君に対して、私から「そろそろ、白石先生とお母さんは、向こうの面談室(別室)に移動して、お話し合いをしたいと思います。B君は、スタッフのお姉さんとこのまま、ここで遊んでいて」と提案してみました。「お母さんと離れる?!」と察して、一瞬、眉間にしわを寄せたB君。でも「いいよ」と言って、私とお母さんを見送ってくれたのでした。「信じられない!」と面談室で歓喜する母親。私は「B君が離れなくても無下に扱わなかったお母さんの忍耐があったことと、コンビニでコロナ対策の現実を見せてきたこと、そして、このプレイルームで “分けられても” “離れても” “大丈夫!”という成功体験を積んだことで、“母子分離” が出来たんですね」と母親のこれまでを評価するとともに、手順を踏んで対応することの大切さを伝えたのでした。

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 最後にCさんへの対処ですが、
 私は、まず両親に対して、「Cさんのお絵描きにあれこれと言うことは我慢して、今は、好きに絵を描かせましょう。壺に落ちて出られない蛙でも、壺が水で満たされれば自ずと壺の中から出てきますよ」と助言しました。つまり、こだわり行動による満足が土台になれば、小さなきっかけでも子どもは次のステージに登っていく、ことを暗示したのでした。

 数日後、私が米粉で出来たカラフルな粘土のセットと、その粘土を恐竜の型で挟んで恐竜のフィギュアを作るキットを提示すると、彼女はそれに飛びつきました。そして、「私、これで恐竜のジオラマを作る!」と宣言して、お絵描きから卒業していったのでした。

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まとめ:ASDのこだわり行動への対処「5つのポイント」

 ASDの人のこだわり行動への対処のポイントは、緊急事態時でも平時でも実は同じです。それを5つにまとめましたので、参考にしてください。

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①こだわり行動を大切にしましょう
 ASDの人にとってこだわり行動は、無くてはならないこと、で心の栄養であったり、行動のエネルギー源だったりします。それを大切にしてあげて、見守っていき、きっかけを与えますと、特定のこだわり行動から卒業していくことがあります。

②こだわり行動を活かす方向で工夫しましょう
 物事にこだわることで、活動や仕事、事業が大成し成功を収めることがあります。視点を変えると、こだわり行動はその人の「強み(strength)」になります。1ヶ月先、半年先、1年先を見越して、こだわり行動を導いてみてください。思わぬ成果が現れるかも知れません。

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③現実を見せ、置かれた状況や環境を利用しましょう
 学校への登校が出来なくなったら、オンライン授業を楽しむ方策を考えましょう。買い占めが起きて好きなお菓子が手に入らなくなったら、家でお菓子作りを始めましょう。ある生物学者が言いました。「進化の過程で、強いものが生き残ったのではない。弱いものが環境に応じて変化し、適応したから、繁栄したのだ」と。

④禁止、制止よりも「代替え」の方法を示しましょう
 私たちはついつい、ASDの人や子どもたちに「これダメ」「あれダメ」「やめて!」「我慢して!」と禁止や制止の言動を示してしまいます。その結果、彼らは「不快」や「不満」「怒り」の感情に包まれて、感情爆発を起こしたり、パニックに陥ったり、他害の行動に出たりします。

 このような「二次的な障害」を起こさせないためには、「その代わりに」「これをしたら」とか「あれがいいよ」、「これで行けば大丈夫」「こっちの方がスムーズに行くよ」と、常に「代替え」の方法を示してあげることが大切です。

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⑤手順を踏んで徐々に変えていきましょう
 周囲を困らせたり、迷惑になったりするこだわり行動の場合、「一刻も早く、無くしたい」とか「やめさせたい」と思うのは常でありましょう。しかし、一朝一夕には進みません。こだわり行動とつき合いながら、活かせる方向を探りつつ、現実や環境を良く見せ、分からせて、利用して、いくつもの代替え策を提示していく。この流れでもって、ASDのこだわり行動も適応行動へと徐々に変化していくものなのです。

(執筆者プロフィール)

白石雅一(しらいし・まさかず)
宮城学院女子大学教育学部教育学科・特別支援教育担当 教授。専門は、発達障害をもつ人が現す「行動の障害」の理解と対処。そして家族支援。こだわり行動やパニック、テンションコントロール、自傷行為、整理整頓術まで幅広くカバーする。主著は、『自閉症スペクトラム 親子いっしょの子どもの療育相談室』(2010)、『自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法』(2013)〈共に東京書籍〉、『こだわり行動 理解と対処と生かし方』(2018)〈本の種出版〉他。

<参考文献>
白石雅一(2013)自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法.東京書籍

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