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【第二の達人登場!】感覚統合の視点からの支援(川上康則:東京都立港特別支援学校主任教諭/『ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』より)

『クラスで気になる子の支援 ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』を一部無料で公開する本企画。今回で早くも3回目となりました。
前回に続き今回も達人にご登場いただきます。第二の達人として、感覚統合の視点からどのような支援が可能か、川上先生のアプローチに注目です!

「見る・見える」は目の機能だけにあらず

 私は「感覚レベル」のつまずきに着目し、感覚統合という視点からマモルさんの支援を考えていきます。

 実は、学習や運動のつまずきの要因である「視覚機能」と、その視覚機能を支える「感覚レベル」のつまずきは多層的に絡み合っているのです。それを表したのが以下の図の「氷山モデル」です。

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図1 氷山モデル

 私は、視覚機能のつまずきがある場合、目の使い方だけでなく、その背景に潜在する「平衡感覚(バランス感覚)=身体の傾きや移動、空間認知にかかわる感覚」のつまずきが原因かもしれないと考えます。「見る機能のつまずきなのに、なぜバランスをとる感覚が関係するの?」と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。それでは、こんな実験をしてみてください。

 このページから目を離し、顔を上げて正面を見てください。そして、頭を左右に何度か揺らしながら、周囲を見たり、特定の物に視線を向けたりします。多少の難しさはあるかもしれませんが、できると思います。

 今度は、ビデオカメラを構え、撮影しながら頭を左右に揺らしてください。終わったら、モニターで写した映像を見てみましょう。きっと、激しくブレる映像で気分が悪くなり、まともに見ていられないはずです。

 平衡感覚をつかさどる「三半規管」や「耳石器」といったセンサーは、耳の奥にあります。頭を上下・左右・前後に動かすと、平衡感覚を通して、「動いている・揺れている・回っている」などの刺激が脳に伝わります。平衡感覚からインプットされた情報が脳に伝わった瞬間、脳はアウトプット側の「眼球運動」に情報を伝え、「目の向け方の補正」を指示します。ビデオカメラに備えてある「手ブレ防止機能」とは比べものにならないほど、精密な機能です。この機能があるからこそ、私たちは急に立ち上がったり、鬼ごっこで走り回ったりしても、周りの景色が揺れて困るなんてことがなく済んでいるのです。

 ここで理解しておきたいのは、平衡感覚を受けとめる回路と眼球運動の回路が密接に関係し、しかも、目を覚まして起きている間は常にこの「目の向け方の補正」機能が働き続けているということです。「見る・見える」は、実は目の機能だけにあらず! いくつかの感覚の発達に支えられた総合的な機能だと言えます。この理解ができると、私たちが経験する不思議な事象を、改めて深く分析することができます。

 乗っている電車は動いていないのに、向かいの電車が動くのを見て、自分の電車が動いたと錯覚してしまう。インプットされた視覚情報に、平衡感覚が惑わされてしまった状態と考えることができる。

 ぐるぐると回り続けると目まいが起きる。目まいはインプットされた平衡感覚の情報を受けとめきれなくなった脳と眼球が示す「オーバーヒート」の状態と考えることができる。

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平衡感覚を受けとめる回路と「姿勢調整」や「自律神経」

 平衡感覚を受けとめる回路は、姿勢コントロールとも密接に関係していることがよく知られています。私たちは不意に押されてよろめいたり、つまずいたりして姿勢が崩れると、その場で踏んばったり、一歩踏み出したりしてバランスを保つことができます。しかし、インプット側の平衡感覚に機能不全があると、アウトプットである姿勢調整の回路も働きにくくなります。マモルさんも姿勢の崩れが目立つお子さんでした。

 また、平衡感覚を受けとめる回路は、「自律神経系」にも大きな影響を与えています。ジェットコースターに乗って興奮したり、ゆりかごでゆったりした気分になったりするのがその好例です。前述のような、目まいが起きるほどの回転や揺れを継続的に受け続けていると、気分が悪くなり、症状として血圧の変動、嘔吐、頭痛等がみられます。これらは自律神経系の影響によるものです。マモルさんの頭痛の訴えの遠因としても、平衡感覚の状況を把握しておく必要があると言えます。

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支援の具体的なプラン①「バランス感覚を育てる」

 マモルさんのように、視覚機能のつまずきや姿勢の崩れが目立つケースでは、平衡感覚を育てるトレーニングが有効です。といっても、強制的にじっと座らせたり、腕立て姿勢を何分も保持させたりするような「指導という名を借りた拷問」ではありませんのでご注意を!
 マモルさんの場合、平衡感覚を受けとめる回路の反応の鈍さが原因である可能性が高いので、「揺れ遊び」や「回転遊び」をふんだんに取り入れた感覚遊びを取り入れると効果が出ることが期待できます。

 木村(2006)は、回転する椅子や公園の遊具でグルグル回ることとダーツ遊びを組み合わせる、大人が手を貸してトランポリンで大ジャンプさせる、ブランコに乗りながら一瞬見えた数字を当てる、など、楽しみながら平衡感覚をめいっぱい使えるような遊びをたくさん紹介しています。

 どんな種類の遊びを、どの程度の強さ・回数で与えるのがよいのか心配な場合は、回転椅子に座らせ、その場で10回転ほど回転させた直後の「眼球運動の様子」を観察してください。目まいの感じをたずねると同時に、「眼振(=眼球が左右に小刻みに揺れる反応)」をチェックします。これは「前庭―動眼反射」といって、平衡感覚と眼球運動の回路の結びつきの証拠になります。通常は、10秒程度の規則正しい眼振が確認できます。この持続時間が短すぎたり、長すぎたり、眼振の振れ幅が不安定だったりすれば、平衡感覚につまずきありです。

 正常と考えられる「10秒程度」よりも長く回転が続いてしまう場合は、酔いが激しいタイプなので、ゆっくり、静かな揺れ遊びを好むと思います。反対に「一〇秒程度」には達しない、短い眼振である場合は、平衡感覚が低反応なので、強く、速く、激しめの揺れ・回転遊びをたくさん続けたほうがよいでしょう。

 感覚統合の専門家に助言をいただける場合は、家庭で毎日取り組める内容を教えてもらいましょう。他の習い事(たとえば、ピアノやそろばんなど)と同様に、短い時間でも毎日できる取り組みが大切です。

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支援の具体的なプラン② 「学校での達成感を育てよう」

 ここまで、感覚統合の視点からマモルさんへの支援を考えてきましたが、感覚遊びは万能薬ではありませんし、これだけでは本当の支援は実現しません。そこで、担任の先生が実践できる学校での支援も考えます。

 まず、マモルさんの視覚機能のつまずきを踏まえれば、「繰り返し、たくさん書かせる」ような指導はうまくいかないでしょう。板書の内容をあらかじめ記したワークシートを渡し、キーワードだけを記入させるなどで、書く負担を軽減します。連絡帳は、書き写しが苦手な子たちが書き写せた順に言葉を消していきます。こうすれば、いつ見ても写す言葉が一番目になります。

 また、「平たく重ねて書く練習」も大切です。例えば、二年生では「園」という漢字を学習します。マモルさんはきっと、「土」や「口」などの漢字をそのままの大きさで書いてしまうため、マスからはみ出してしまい、「くにがまえ」を継ぎ足して書くことが多くなると思います。文字の中に含まれるパーツの数やボリュームを考えて書けるように、平たく積み重ねて書く(横幅はそのままで、縦線の高さを短く書く)練習を取り入れます。

 マモルさんは、学校嫌いになってきていますが、「勉強が嫌だから、できなくてもよい」とは決して思っていないはずです。小さな達成感の積み重ねを通して、努力は実を結ぶという期待感を教室で育てたいものです。

「ズバッと」カードNo.1 2
「見る・見える」は、実は目の機能だけにあらず!
いくつかの感覚の発達に支えられた総合的な機能である。
[参考文献]
木村順(監修)『発達障害の子の感覚遊び・運動遊び―感覚統合をいかし適応力を育てよう』講談社、2010年
木村順『育てにくい子にはわけがある―感覚統合が教えてくれたもの』大月書店、2006年

執筆者プロフィール

川上康則(かわかみやすのり) *所属は当時
東京都立港特別支援学校主任教諭。専門は、特別支援教育、個別の指導計画、感覚統合。

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※ 本記事は『クラスで気になる子の支援 ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』を底本とし、使用上の都合により適宜編集を加え掲載したものです。