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人生の転機における友人関係(福岡県立大学教授:吉岡和子) #転機の心理学

 人生において友人関係が変わるとき,どのようなことが起こるのでしょうか。また,そのとき私たちは何を大切にするとよいのでしょうか。
 
 皆さんが,友人関係が変わったと最初に感じたのは,何歳頃ですか?小学校入学後に感じた方もいるかもしれませんが,多くの人は高校卒業時に,進学や就職などで大きな転機を迎えたのではないでしょうか。また,友人関係から恋愛関係に発展し結婚する人もいれば,恋愛関係が終わった後に友人関係へ戻る人もいるでしょう。そして,結婚し子どもができると,子どもを中心とした友人関係が生じます。その後,子どもが成人し夫婦のみの生活になったことで新たな変化が生じることもあります。さらに,離別や死別などの経験,転居,転職や退職などでも変化する可能性があります。このように,生涯にわたり,友人関係の転機が訪れ,その中で,サポートを受ける,自身の世界や考え方の幅が広がるなどのポジティブな体験も,裏切りや葛藤などのネガティブな体験もしていきます。
 
 今回は,2024年3月に金子書房から出版された『友人関係の心理学:生涯にわたる多様な友情の考察』から,まず【人生の転機における友人関係】に関連し,発達段階や移行における友人関係の変化に関する知見をご紹介します。次に,友人関係を長く維持するという点から,人生の転機における友人関係で【何を大切にするとよいのか】について,まとめてみたいと思います。

人生の転機における友人関係

 第1章「児童期青年期の友人関係」から,まず,乳幼児期から青年期までの対人関係の変化についての知見をお示します。Sullivan (1953)によると,乳児期(~2歳)の主要なニーズは優しさで,幼児期(2~6歳)には,楽しい会話や活動の共有であるコンパニオンシップが重要なニーズとして現れ,いずれも保護者によって満たされます。児童期(6~9歳)の主要なニーズは受容で,保護者はこのニーズを満たすことができますが,友人も同様に重要となることが示唆されています。前青年期(9~12歳)になると,親密さへのニーズが芽生え,主に同性の友人によって満たされますが,友人はさらに受容やコンパニオンシップなどのニーズを満たすうえで重要な役割も果たしています。最後に,青年期(12~16歳)では,性的関心に関するニーズが生じ,異性の友人によって満たされる場合もありますが,友人は他のニーズも満たすようになります。このように,年齢が上がるにつれて,発達的なニーズを満たすために友人の役割が重要になっていくことがわかります。

 そして,この時期の友人関係が変わるときとして,幼稚園や中学校への移行,また転校を取り上げた研究が紹介されています。園生活の開始時期に多くの友人がおり,その友人関係を維持し,新しい友人を作ることができた園児は,園に対する好感度が高まり,園でのパフォーマンスが向上することが示されています(Ladd, 1990) 。中学校への移行を調査したKingery, Erdley, & Marshall(2011)は,小学校での友人関係の質と数が,中学に入ってからの孤独感を予測することを明らかにしました。さらに,転校という新たな経験に直面したとき,質の高い友人関係は,子どもたちの安心感とウェルビーイングにとって特に価値があると考えられています。以上,移行前や移行時の友人関係の在り方が移行後のメンタルヘルスに影響するといえます。

 次に,第2章「若年成人期および中年期の友人関係」から,大学生頃から中年期頃までの友人関係の変化についてみていきます。

 児童期と青年期では,友人は主に(幼稚園,保育園を含む)学校の同じクラスか近所の子どもたちです。若年成人期は学校の友人をある程度維持し,日常生活で空間的に近い場所から新たな友人を獲得することもあります。たとえば,若年成人期では,大学の寮内で部屋が近いほど,友人になりやすいとされています。Back, Schmukle & Egloff(2008)では,ガイダンスの日に隣り合って座った学生は,同じガイダンスに参加した他の学生やのちに授業で出会った学生に比べて1年後に友人になっている可能性が高いことがわかりました。同じ部署で働いている人も,同じ会社の別の部署で働いている人に比べて友人になりやすいことが示唆されています。このように,若年成人期では定期的に会う人々と友人になっていく傾向があるといえます。

 そして,青年期の友人関係が自由時間を共に過ごす親友であり,仲間として親に取って代わるものである一方で,若年成人期および中年期では恋愛関係がより重要になってきます。自由時間を共に過ごす相手としての友人関係の機能は大部分維持されるものの,恋愛や結婚などの要素も加わるため,人によっては友人へのニーズが下がる場合もあることが考えられます。

 最後に,第3章「老年期の友人関係」では,退職,夫との死別,健康の衰え,退職後の移住など,高齢者に典型的にみられる移行は友人関係のパターンに影響を与える可能性が示されています。老年期の対人関係の変化の例として,Ha(2008)は,死別の時間経過とともにサポート源がどのように変化するかを示しました。パートナーの死後すぐは子どもが最も重要なサポート源ですが,長期的には友人がより重要になります。これは,死別への共感的反応,孤立感,情緒的な孤独など,喪失についての共有体験があるためと考えられています。また,ドイツの高齢者を対象としたHollstein(2002)とHahmann(2013)の研究では,夫との死別により,日常のルーティンのパターンが変化し,その結果,友人関係を構築したり維持したりする可能性が広がり,時に失ったパートナーの代わりになるほど友人関係が緊密になることを示しました。Hahmannの研究では,朝の電話など日常のケアに関わるルーティンが,とりわけ健康状態の悪化に直面したときの安心感のニーズに適い,主観的ウェルビーイングに寄与するとされています。

 これまで,日本ではあまり老年期の友人関係は注目されてきませんでしたが,高齢化社会の中でどのような変化が生じるのかについての検討が必要でしょう。

何を大切にするとよいのか

 人生の転機における友人関係で,私たちは何を大切にするとよいのか,第16章「友人関係を長く維持すること」から,知見をいくつかご紹介します。

 友人関係は,重要なソーシャルサポートと社会的つながりを供給し,友人との交流は精神的ウェルビーイング,幸福,社会的孤独の軽減に関連していることが指摘されています。そして,その重要性を考えると,友人関係がいかに始まりいかに形成されるかだけでなく,時の経過の中で人々が友人関係をどのように維持しているかを理解することが不可欠です。

 友人関係は,婚姻関係や家族関係のようなタイプの対人関係とは異なり,完全に自発的なものです。Roberts & Dunbar (2011)は,近しい/親密な友人との関係は,血縁関係に比べ,接触や共同活動が減少すると情緒的強度が大きく低下することをみいだしました。そして,「最も近しい友人であっても,高いレベルの情緒的な近しさを維持するためには,積極的な維持(接触し一緒に活動をする)が必要とされ,維持がなければ関係性は衰退しやすい」と指摘しています。友人関係が解消される方向での変化につながる接触や共同活動の減少の背景として,地理的な移動,子どもの誕生,離婚などが考えられます。一方,新しい友人関係が始まる方向での変化において,それまでの良好な友人関係を維持することは,重要なサポートになるでしょう。

 友人関係の維持行動を特定しようとする研究(Oswald, Clark, & Kelly ,2004)では,「支持性」,「ポジティブさ」,「開放性」,「相互作用」という4つの主要な友人関係の維持行動がみいだされました。「支持性」は,友人を安心させたり支えたりする行動(例:「相手に自分の良さを感じてもらえるようにしたり,どちらかがつらいときは互いに支え合う」)や,関係の確かさを支える行動(例:「この関係を長く続けたいと思っていることを互いに伝える」)などです。「ポジティブさ」は,友人関係における報酬行動(例:「友人が別の友人に対して何か良いことをしたときに賛辞を送り,一緒にいるときは明るく陽気でいようとする」),友人関係に悪影響を及ぼすような利己的な行動をしない(例:「メッセージを返さない」)などです。「開放性」は,自己開示(例:「自分の想いを打ち明ける」),一般的な会話(例:「知的刺激になる会話をする」)などです。「相互作用」は,友人と共にする行動や活動(例:「お互いの家を訪問したり,特別な日を一緒に祝ったりする」)などです。男女ともに同様の結果が得られたようです。これら4つの行動をお互いに自然にできる関係が長続きする関係であるともいえそうです。
 
 人生の転機において新しい友人関係を築くにあたり,それまでの友人関係が支えになると考えられます。また,その時々で,自身がどのような友人関係を必要としているのか,つまりニーズを明らかにしておくこと,そしてそのニーズに合った友人関係を主体的に維持する行動をとることが友人関係を良好に築いていくうえで重要であると思われます。新年度を迎えた今すぐはむずかしくても,連休頃に旧交を温めることはお互いにとっても良いことかもしれません。

文献

Back, M.D., Schmukle, S.C.,& Egloff, B.(2008).Becoming friends by chance. Psychological Science,19,439-440.doi:10.1111/j.1467-9280.2008.02106.x
 
Ha, J.H.(2008).Changes in support from confidants, children, and friends following widowhood. Journal of Marriage and Family,70,306-318.doi:10.1111/j.1741-3737.2008.00483.x
 
Hahmann, J.(2013). Freundchafstypen älterer Menschen : Von der individuellen Konstruktion der Freundschaftsrolle zum Unterstützuungsnetzwerk. Eine Analyse der Beziehungssysteme älterer Menschen〔Friendship types : The construction of the friendship role and its consequences on social support networks : Analysis of older people’s relationship systems〕. Wiesbaden : Springer.
 
Hollestein, B.(2002).Soziale Netzwerke nach der Verwitwung. Eine Rekonstruktion der Veärnderung informeller Beziehungen〔Social networks and widowhood: A reconstruction of changes in informal relationships〕. Opladen : Leske and Budrich.
 
Kingery, J.N., Erdley, C.A.,& Marshall ,K.C.(2011).Peer acceptance and friendship as predictors of early adolescents’ adjustment across the middle school transition. Merrill-Palmer Quarterly,57,215-243.
 
Ladd, g.w. (1990).Having friends, keeping friends, making friends, and being liked by peers in the classroom: Predictors of children’s early school adjustment? Child Development,61,1081-1100.
 
Oswald, D.L. , Clark ,E.M.,& Kelly, C.M.(2004).Friendship maintenance: An analysis of individual and dyad behaviors, Journal of Social and Clinical Psychology,23,413-441.
 
Roberts, S.G.B.,& Dunbar, R.I.M.(2011).The costs of family and friends : An 18-month longitudinal study of relationship maintenance and decay. Evolution and Human Behavior,32,186-197.
 
Sullivan, H.S. (1953).The interpersonal theory of psychiatry. New York, NY :Norton.


執筆者

吉岡和子(よしおか・かずこ)
福岡県立大学教授。専門は臨床心理学。友人関係を主とした研究と家族支援にかかわる臨床実践を行っている。

著書