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子どもの不安と発達障害(岡 琢哉:発達障害クリニック 児童精神科医)#不安との向き合い方

自閉症スペクトラム(ASD)をはじめとする発達障害やその傾向のある子どもや大人は、定型発達の子どもや大人よりも不安を抱えており、うつ症状や不安症状を合併するケースも多いと言われています。いっぽうで発達障害の特性と不安症状の違いについては専門家でも分かりにくいところがあります。発達障害と不安の関係について、児童精神科医の岡琢哉先生に詳しく解説をいただきます。

はじめに

 コロナウィルスの感染拡大に伴い、「不安」というフレーズを目にすることが増えたように感じます。不安自体は人間が生きていく中で当たり前に持つ感情です。しかし、普段の生活の中では意識されることはそれほど多くなかったかもしれません。なぜなら、私たちは日常の中で生じる不安に対して、ある程度簡単に対処することができていたからです。少し遠出をしてみる、美味しいものを食べてみる、誰かと話をする、そういった何気ない余暇の過ごし方も私たちの不安を和らげ、不快な感情を遠ざける1つの方法でした。しかし、現在の状況はそういった対処行動を行うことが困難であり、多くの人が不安と向き合う必要が出てきました。このような変化が「不安」というフレーズに注目が集まるようになった一因かもしれません。

 また、子どものメンタルヘルスの問題も合わせて注目されるようになりました。登校の制限に始まり、学校での活動が再会される中でも集団活動に関しては引き続き大きな制限がかかっています。日常の形が変わっていくことは多くの家庭にとってストレスとなります。特に環境の変化への順応が苦手な自閉症スペクトラム(以下ASD)をはじめとした発達障害を持つ子ども達にとって、現在の状況は不安が大きくなりやすい環境です。

 本項ではこれらを踏まえ、改めて「不安」という感情について精神医学の観点からの一般的な説明と発達障害との関連について記していきます。

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正常な不安と病的な不安

 不安は全ての人が体験することのある感情です。不安は心理的には「対象を持たず、広く、曖昧な」もので「不快」に感じられます。不安を感じると身体にも影響が現れ、頭痛や発汗、動悸(胸のドキドキ)、胸が締め付けられる感覚、吐き気といった自律神経の症状が生じます。こういった症状が一時的あるいは心配している出来事(試験や人前に出るイベントなど)が終わることで改善する場合には、正常な不安と言えます。しかし、長期間続いたり、日常生活に支障が出ていたりする場合には「不安症」という病気の可能性が考えられます。精神科では不安症という病気はよく見られるもので、アメリカの研究では成人の4人に1人が、何らかの不安障害に一生に1回はかかるというデータがあり、うつ病と並んで最も有病率の高い精神疾患の1つとされています。子どもの精神科の分野でも不安症は最も多い疾患の1つで、有病率は研究によって異なりますが5~30%程度とされています。さらに発達障害を持った子ども達では、定型発達を持った子どもよりも不安症のリスクは高く、ASDを持つ子どもの約40%が不安症を有していることが知られています。

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不安症について

 アメリカの精神医学会が作成した診断基準であるDSM-5では、不安症は「過度の恐怖と不安、そしてそれらに関連した行動上の障害を特徴として共有する疾患」と定義されています。また下位分類として、限局性恐怖症、分離不安症、選択性緘黙、社交不安症、パニック症、広場恐怖症、全般性不安症が含まれています。各種不安症の症状は、それぞれの診断基準を完全に満たす形で現れるよりも、不完全な形で存在することが多いと言われています。また1つの不安症、例えば、社交不安症の症状は完全な形で持っていても、その他の不安症の症状がまったく見られないというケースはあまりありません。つまり、社交不安症が主な診断となる子どもは、診断に満たない程度の分離不安の症状や暗闇などに対する恐怖症の症状を併せ持っていることは少なくありません。そのため、最も生活上の障害となっている不安症状が何かを判断し、包括的に症状を評価することが重要です。

 恐怖や不安の訴えは、日本だけでなく世界各国で同じ様に、年齢に応じて変化していくことが知られています。そのため、各不安症が起きやすい年齢も異なります。表に、各不安症の典型的な発症時期、不安の対象、症状を示します。

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 このように恐怖や不安の対象は児童期から青年期にかけて、具体的なものからより抽象的な対象に変化していきます。これに伴って、発症する不安症が、動物や高所・暗所に対する限局性恐怖症や両親と離れることを恐れる分離不安症といった疾患から、思春期に前後して社交不安症や全般性不安症といった疾患が増え、青年期後期〜成人にかけてパニック症や広場恐怖症といった疾患の発症がみられるようになります。

子どもの不安の見つけ方

 子どもは言語能力や内省能力が発達する途上にあるため、心の中で起きていることと身体に起きた変化を区別することが難しく、これに加えて「行動の問題」が起きてしまうことも少なくありません。心の中で起きることとしては、大人と同じように緊張感や焦り、緊張感が続くことによって「疲れやすさ」を感じることもあります。こういった心の中で起きることをうまく言葉で表現できないことが多い点には注意が必要です。また、身体的な問題としては「お腹が痛い」「気持ち悪い」といった消化器症状、頭痛やめまい、「胸がドキドキする」といった複数の身体症状が生じることがあります。「行動の問題」として代表的なのは、両親に対する急な「赤ちゃんがえり」や焦りが原因となって生じる「落ち着きのなさ」、反抗的な態度や暴言といったことが生じます。ですから、これまで問題行動を示すことがなかった子どもが急に問題となるような行動を起こすようになった時には、背景として「不安の問題」を考えることが重要です。特にASDの子ども達はこれらの問題を通常のコミュニケーションの中で伝えることが困難で、周囲の大人を困らせるような行動(急な飛び出しやかんしゃく、大声をあげる)で表現されることがあるため、注意して見守る必要があります。

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 こういった不安の兆候が見られた時には、まず身体の病気があるかどうかを調べることが重要です。もし身体の病気があった場合には当然身体の治療が優先されます。身体の病気が良くなっても、どこかしら不調が続く場合に不安症や不安と関連する心理的な問題への介入が必要になります。心理的な介入では、まず環境の変化や不安が強くなる状況を評価すること、認知行動療法の考え方をベースとした心理教育や保護者への説明、実際の環境調整(学校との連携)等が組み合わせて行われます。不安に対する認知行動療法の重要な視点は、「不安を経験すること自体は病的ではないが、不安症の状態では不安を過度に感じる『認知』に陥っていること」と「不安に対して、『不安を避ける行動(=回避)』を繰り返すことでかえって不安を強めてしまう『行動』となっていること」の2点です。子どもに対してはこれらの視点を、「辛い気分をもっと辛くさせる『頭の中のおじゃま虫(=偏った認知)』」、「不安を軽くするための階段づくり(=適応的行動を行うための段階的な暴露)」といった簡単な言葉を用いて伝えていきます。

不安を正しく理解すること

 ある情報サイトでは全般性不安の症状に当てはまる「失敗を極端に怖がること」がASDの特徴の1つであるかのように説明されていました。確かにASDの子どもの多くが全般性不安症を併存することが多いという事実からすると一見特性のように見えてしまうことも理解できます。しかし、重要なことは永続的に続く特性とは異なり、不安は治療可能な症状であるということです。そのことを知らずに不安の問題が「特性の1つ」として認識されてしまうことは、本人が新しい体験をする機会が失われてしまうことが気がかりです。しかしその一方で、あまりに早期から不安に対峙させようと暴露することは外傷的な体験となり得ることにももちろん注意しなければなりません。子どものペースをしっかりと見守り、何を不安に思っているのか、言葉にならない感情や思いを共に考え、子どもたちの成長に繋がるよう支援者が関わっていくことが重要だと考えます。また、今回は主に子どもの不安症と発達障害の関連に関する説明となりましたが、成人の発達障害の方にとっても不安の問題は日常生活において非常に重要な問題です。周囲の人からは気づかれない部分で不安を抱えていても、コミュニケーションの中で上手く伝えることができず、辛い思いをされている方は多くおられます。誰もが経験するからこそ、言葉にして理解・説明されることが少ない「不安の問題」を多くの方が知ることで、子どもも大人も不安が強くなった時に一人で抱え込まずに周囲の支援が得られるようになることが望まれます。

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【参考文献】
Kessler, R.C., Berglund, P., Demler, O., et al.: Lifetime prevalence and age-of-onset distributions of DSM -IV disorders in the National Comorbidity Survey Replication.Arch Gen Psychiatry, 62; 593-602, 2005
Merikangas, K. R., He, J. P., Burstein, M., Swanson, S. A., Avenevoli, S., Cui, L., ... & Swendsen, J. (2010). Lifetime prevalence of mental disorders in US adolescents: results from the National Comorbidity Survey Replication–Adolescent Supplement (NCS-A). Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 49(10), 980-989.
Polanczyk, G. V., Salum, G. A., Sugaya, L. S., Caye, A., & Rohde, L. A. (2015). Annual research review: A meta‐analysis of the worldwide prevalence of mental disorders in children and adolescents. Journal of child psychology and psychiatry, 56(3), 345-365.
Van Steensel, F. J., Bögels, S. M., & Perrin, S. (2011). Anxiety disorders in children and adolescents with autistic spectrum disorders: a meta-analysis. Clinical child and family psychology review, 14(3), 302.
岡 琢哉,神尾 陽子(2019). 不安症.小児内科, 51巻12号 1932-1936

執筆者プロフィール

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岡 琢哉(おか・たくや)
1987年生まれ。児童精神科医。岐阜阜大学医学部卒業後、羽島市民病院で初期研修を修了。岐阜大学医学部附属病院精神神経科、東京都立小児総合医療センター児童思春期精神科の勤務を経て、現在は医療法人社団神尾陽子記念会 発達障害クリニック、岐阜大学医学系研究科博士課程に在籍。国立精神神経医療研究センター精神保健研究所 児童予防部 研究生として児童のメンタルヘルス予防やASD児の不安症治療に関する研究にも従事している。
Twitter:@oktk0501

著書


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