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【ズバッと解説!】ケースのまとめにかえて(阿部利彦:星槎大学大学院教育実践研究科教授)/『ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』より)

クラスで気になる子の支援 ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』を一部無料で公開する本企画。今回で最終回となります。
最終回には編著者である阿部先生に再登場していただきます!阿部先生による解説で、より理解を深めていきましょう!

<ズバッと1>解決のためのアプローチ:子どもの立場に立ってみる

 増本先生、そして川上先生は、ビジョントレーニングと感覚統合という、異なる視点をお持ちでありながらも、支援者としてのスピリッツは共通しておられます。たとえば、増本先生は、「加えて、そのようなトレーニングは苦手な子にとってきつい思いを与えるということを忘れるべきではないと思っています」、そして川上先生は「マモルさんの視覚機能のつまずきを踏まえれば、『繰り返し、たくさん書かせる』ような指導はうまくいかないでしょう」というように、お二人とも子どもの立場に立ったトレーニングのあり方を絶えず考えてくださっていることに感謝したいと思います。

 残念ながら支援者・指導者の中には、子どものつらさやプライドに配慮することを忘れているのではないか、と感じられる専門家がいることも事実なのです。

 私たちが忘れてはいけないのは、支援や指導が、ときに子どもにとって「苦痛」や「余計なお世話」、「自分の苦手さを思い知らされる場所・時間」となる場合があるということです。トレーニングに限らず、特別なカードやツールを使う場面や、特別支援教育支援員が個別でつく場面でも、もしかしたら私たちは特別支援教育という「善意」の名の下で子どもたちに「自分はダメな子だ」と感じさせているのかもしれないのです。

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<ズバッと2>解決のためのアプローチ:「視覚化」は子どものためになっているか? の検討

 特別支援教育が通常学級でも浸透してきて、先生方がさまざまな工夫を取り入れてくださっていることは、とてもありがたいことです。ただ、時には少し、惜しいな、残念だな、と思う場面にも遭遇します。

 たとえば、「視覚化」という手法、これは大変取り入れやすく、また効果的なので、多くの学校で実践されています。多くの書籍で紹介されているので、それをそのまま取り入れている現場もあるでしょう。しかし、取り入れるその前に、増本先生や川上先生のように、「目の前のその子にとって本当に役立つものか、その子に合っているのか」をよく検討していただきたいと思います。

 拙著(阿部、2009)でも、たとえば「クラスの決まり」「給食当番の分担表」「お道具箱の整理の仕方」「発表のルール」……など多数ご紹介しています。でも、これらをすべて教室内に掲示していったならどうなるでしょう? 支援が必要な子を「多すぎる視覚刺激で混乱させてしまう」可能性があるのです。必要な刺激とそうでない刺激を吟味し、「視覚刺激過多」にならないよう、常に注意しなくてはなりません。

 ですからマモルさんのような子の場合、「視覚的支援を絞り込む」ことが重要になります。授業で使う写真なども工夫が必要です。たとえば「種」や「実」などを示すための写真なら、「背景とのコントラストがくっきりして形がとらえやすいもの」を選択する必要があるでしょう。

 さらに、提示のタイミングも非常に重要で、授業中どこでどのように印象深く視覚的手がかりを示すか、という先生側の見通しが欠かせません。あまりにさりげなく掲示してしまうと、子どもがその写真に関心を示さず、せっかくの視覚支援が機能しないこともあるからです。

 また、ワークシートを製作する際には「文字の大きさ」や「行間」「字体」にも配慮できるとよいです。教科書体を使う方が読みやすい子、ゴシック体の方が見やすいという子、ケースによって対応してあげましょう。

 「見る」ことに苦手さがある子どもにとって、視覚支援は大変重要な意味をもちます。その子にとってどのような視覚刺激が機能するかを、その都度、丁寧に検討することがとても大切なのです。

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<ズバッと3>解決のためのアプローチ:「様子を見る」という対応の検討

 登校しぶりの対応として「登校刺激を与えない」あるいは「様子を見る」よう専門家から助言された、という保護者や先生方に一時期多く出会いました。しかし、その助言は子どもの実態からかけ離れた、通り一遍のもののように感じられることもありました。

 確かに、これまで大人の言いつけをしっかり守り、ノートもきれいに書き、忘れ物もせずに過ごしていた子どもが、ある時を境に急に大人のそばから離れなくなったり、忘れ物が多くなったり、字が雑になって、学校に行く前にはため息をつく、といった様子が見られたならば「息切れ型」の登校しぶりを検討する必要があるでしょう。そういう子には、今回のようなトレーニング的なアプローチよりも、学校生活や家庭生活で心のゆとりを感じさせるように配慮した上で「様子を見る」ことが大切になってきます。

 また、頭痛や腹痛を激しく訴える、学校に連れて行こうとするとどこかにしがみついて離れない、といった強い抵抗感を示す子に、「学校」や「勉強」などの言葉を使って登校をうながすことは避けた方がいいと思われます。

 ただし、頭痛などを訴えるとストレスからくる身体症状か、と着目してしまいがちですが、「物の見え方」からくる機能的な問題も検討する必要があるようです。登校しぶりや不登校を「心の問題」とだけ思い込んで解決しようとしてしまうのは、子どもに対して申し訳ないことなのでは、と反省させられます。

 もし、このケースにおいて、親の愛情不足や母子関係にのみとらわれた対応をしてしまったとしたら、その時大事なものが「ちゃんと見えていない」のは、マモルさんではなく、私たち大人の方なのかもしれません。

[参考文献]
阿部利彦『クラスで気になる子のサッとツール&ふわっとサポート333―LD、ADHD、高機能自閉症を持つ子が教えてくれた』ほんの森出版、2009年

編著者プロフィール

阿部利彦(あべとしひこ)
星槎大学大学院教育実践研究科教授。
専門は特別支援教育、教育のユニバーサルデザイン、発達につまずきのある子の魅力やサポート法について、講演会・教員研修に全国を飛び回る。

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※ 本記事は『クラスで気になる子の支援 ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL』を底本とし、使用上の都合により適宜編集を加え掲載したものです。