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この状況だから考える 〜院内学級の子どもたちが教えてくれた大切なこと〜(副島 賢和:昭和大学大学院 准教授 附属病院内学級担当/学校心理士SV)#つながれない社会のなかでこころのつながりを

赤はなせんせいとして知られる副島先生。院内学級でのご活動を専門の一つとされ、メディアでも取り上げられる人気の先生です。
そんな副島先生がいま伝えたい “大切なこと” とは。教育にかかわる方、またお子さんをもつあなたへ向けたあたたかいメッセージでもあります。ぜひご一読ください。

 みなさんの目の前にいる子どもたちは今どんな様子でしょうか?家庭で外出の自粛をしているために会えない子どもたちはどんな風に過ごしているでしょうか?

 今回の感染症による休校要請によって、子どもたちに対するネガティヴな影響は、

○ 学習の空白
○ 学習時間の確保
○ 運動やあそびの制限
○ 集団活動の不足
○ 経験の不足や偏り
○ 人との関わりの制限

などが考えられます。

 これらのことへの対応は、病弱教育の教員や病棟保育士さんが今までも考えておこなってきたことだと思うのです。
 ただし、特に今回の難しいところは、人と関わることが悪い方向にいきかねないというところ、人との関わりの制限にあります。友だちと関わる、人と関わることを大切に考えてきた学校教育においてはノウハウの蓄積がされてこなかったところでしょう。しかし、これも病弱教育では、みんなで試行錯誤をしながらおこなってきたことです。感染のために、家族とも会うことができない。学校に通うことができず、日常から切り離されてしまっている子どもたち。学校に戻る時にたくさんの配慮が必要な子どもたち。そんな子どもたちの発達をどのように保障していくかを考えて取り組んできた、病弱教育に関わる教員の臨床の知が少しはお役に立てるのではないかと考えています。

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1.安全と安心「ふれる」

 無菌室などで治療を行い、人と関わることに制限がある時にも、私たち病院内学級の教員に、病室で子どもに関わる許可をいただけるときがあります。
 そのような時に心がけていることは、できるだけ「ふれる」ことです。ふれることによって、「あなたは一人ぼっちではないよ」ということを伝えることです。もちろん、手で触れることができれば、握手をしたり背中をさすったりしますが、その許可が出ない時も、言葉や表情、動きや雰囲気で伝える努力をします。マスクやエプロンをし、手袋をつけなければ会わせてもらえないこともあります。そんな時は、子どもたちからわずかに見える、目の周りの表情を使って、できる限り思いを伝えられるようにします。体を大きく動かして、態度や行動で思いを伝えようとします。伝える言葉も、精選し、気をつけて発します。その子にあった、いろいろなふれ方が、二人の関係の中であるはずなのです。それをさがして、「あなたが大切」ということを伝えたいと思います。

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2.学習の保障

 このような状況となり改めて、学校や教師、教育の役割について考える日々です。
 「休校期間中に、家庭に学習をお願いしているのですがなかなか難しいとの訴えがあります。どうしたら……」
というお話をいただきます。
 病院内の学級に通ってきてくれる子どもたちの学習の取り組みは、大きく4つあると考えて関わってきました。

① ひとりでできる子
② 誰かが声をかければできる子
③ 誰かと一緒ならできる子
④ 誰かがいても難しい子

 ①の子どもたちに対しては、時々世界を広げたり深めたりするかかわりが必要になります。ずっとそばにいるわけでなく、遠くから見守り、声をかける。「困ったら呼んでね」と伝えておく。「そろそろ休憩したら?」「どこまでやる予定?」「自分で取り組めてすごいなあ」などと声をかける。そして、このような子は、教師に頼らないでやるということに価値を置いているので、援助が求められない子も多い。そんな子が教師を欲した時のサインを見逃さないようにしています。

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 ②の子どもたちに対しては、時々そばに座って、「何をやっているの?」「教えてほしいところはないかな?」「こんなプリントあるけど」とかかわる。「じゃあ、この問題終わったら教えてね」と言って、その子から離れ、自分一人で取り組む時間も確保する。定期的にそばに行き、かかわることで意欲が続くので、気にしているからねというメッセージを伝え続けています。

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 ③の子どもたちには、一対一の時間をもつことを心がけてきました。物理的にそばにいる時間を一番多く取るのはこのような子です。おしゃべりをしながら、学習を進めることもあります。その子が、我慢をしながら頑張りながら学習に取り組んでいることに、褒め言葉や認める言葉を渡していきます。課題のレベルや量が合っているかを考えます。意欲が落ちてきた時に、もう一問を渡して、「私はできる」という感覚を持ってもらうかかわりをしています。

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 ④の子どもたちは、もともと苦手意識などから学習から遠ざかっていたり、発達の課題があったりして、一人では学習にむかえない子たちです。間違うことや失敗する自分をダメだと思っていることも多いので、ダメではないということを学びやあそびを通して渡していく必要があると考えています。好きなことや得意なことをたくさんやってもらったり、この機会を使って学年を遡って自信を持てたりするようにかかわります。ただし、ずっとくっついていると見張られていると感じてしまい、そこから逃げようとしてしまいます。集中をしている時は見守り、飽きてきたら、そばにいるというかかわりを心がけてきました。
 このかかわりは、40人いる学級で行うことは難しいかもしれません。特別支援のかかわりでしょう。それでも、一人や二人の教師で、別々の課題に取り組んでいる5〜6人の子どもたちの学習を見ていく病院内学級での授業で大切にしていたことは、今、お家で学習に取り組んでいる子どもたちへの保護者のかかわりへのアドバイスのヒントになるかもしれません。

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 そして、実は、⑤学びにむかえない家庭の状況の子がいます。「勉強を否定することに価値を置く」文化を持つ家庭があります。病気のある子どもたちでしたら、「こんな時に勉強なんかやらなくていいんだよ」と言われます。この状況でも「勉強なんて……」と子どもに伝えるお家があるかもしれません。それが現実です。そのような時は、学ぶということの大切さを、時間をかけても、親御さんにわかってもらうかかわりが必要になります。教育の専門家として、伝えていかなければならないでしょう。子どもは学びたがっているのですから。

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 ただ、ご家庭で子どもの学習を学校のように見てもらうのは、とても難しい場合があります。
 その一つは、子どもが、自分のできないことや失敗をお家の人に見られたくない時です。学習をするということは、自分のできないことや失敗を人にさらさなければいけない時があります。安心してそれができない時は、学習を進めることはとても難しくなります。

 そしてもう一つは、「在宅ワーク=子どもに関わる時間が取れる」というわけではないからです。親御さんはお家にいますが、仕事をしているのです。そのような親御さんに学校が担ってきた学習の保障を押し付けるわけにはいかないと考えています。

 きっと今、「この時期に勉強すれば友だちと差がつく」と子どものお尻を叩いている親御さんもいると思います。そのことで、焦りや不安を感じている親御さんたちもいることでしょう。確かにそのことは学校が再開した時に成績の差として影響が出ると思います。でも、長期的に見ると果たしてそうなのだろうかと思います。ここでもやらされる勉強を3ヶ月続けた子と、ワクワクドキドキする学びを味わった子どもとは、将来きっと違いが出るでしょう。

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 私は、長期に学校への登校がなくなったような時、自分でその時間の過ごし方を考え取り組むことのできる子どもを今まで育ててこなかったのではないか。私が、学校での教育と考えていたものは、教師が正しいと渡したものをできるだけ正確に受け取る訓練であったのではないか。自分で考えることを禁じ、大人の要求に応えることを第一義にしてきたのではないか。主体的な学びと言いつつ、大人の想定の範囲の中での子どもの主体性であったのではないか。私が行ってきた教育は、果たして子どもが主体の教育だったのだろうか。そんなことを今思っています。勿論そんなふうにするつもりはありませんでした。ただ、現状を見ると反省すべき点があります。
 ワクワクドキドキの学びをこの期間にどれだけ子どもたちに提供できるかが教師の力だと考えます。

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3.つながり

 病院内学級の担任として、その子の学校や担任の先生にお伝えしてきたことがあります。

 「お見舞いに来られなくてもいいです。ただ、どんな方法でも良いので、その子とつながっていることを伝えてください」とお願いしてきました。
 「あなたは私のクラスの大事な子。会いたいと思っている。いつも応援している」と。

 どんな形でもいいのです。直接でも、メールでも、お手紙でも、誰かを通してでもいいので伝えてもらえたら、それがその子が今の状況を凌ぐ、治療に向き合うエネルギーになるのです。学校の先生がそうしてくれているというだけで、その関わりを知った親御さんも安心してくださいました。

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 学校の役割は、学習の保障が大きいと思います。しかし、この状況において、当たり前のように担ってきた役割を再確認しています。子どもたちのメンタル面のケアをしてきたのです。子どもの声を聞いてくれる大人や友だちがいる場所が学校でした。言葉にならない声も含め、自分の声に耳を傾けてもらうことで、子どもがある程度の傷つきを回復させてきた場所なのです。その役割を維持していきたいと思うのです。

 この状況でも、親御さんが病気になり、つらい状況の家庭は今まで通りにあります。今まででしたら、病院から学校と連携を取り、子どもたちのケアを相談してきました。でも今は、それができないのです。新しい担任の先生も子どもの様子がよくわからない。家庭も学校に頼ることに躊躇する姿が見られます。そんなことを言っていられない状況です。「学校には先生方やスクールカウンセラーやソーシャルワーカーがいます。ぜひ連絡を取ってください」とお願いをしています。子どもたちを支えるためのネットワークを強化していただきたいと思うのです。

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4.これからの教育

 今、授業時数や学習の空白ができないように、学力低下をしないために、先生方は必死でがんばっていらっしゃいます。とてもありがたいことです。
 ただ、今まで病気で入院している子どもたちや不登校の子どもたちに対しても、学校はこんなに必死になってくださっていたかなと思うことも正直あります。
 この状況が落ち着いたあとも、会いに行く、学習を渡す、オンラインを使う、心のケアをするというような、今取り組まれている関わりが、学校を休んでいる子どもたちへのスタンダードな当たり前の関わりになると良いなと願っています。

 大変な状況です。ケアをする人ご自身のケアを大切になさってください。お大事にお過ごしいただきたいと思います。

あかはなそえじ o(´・●・`)o

(著者プロフィール)

副島先生

副島 賢和(そえじま・まさかず)
昭和大学大学院 准教授 附属病院内学級担当。学校心理士SV。
“赤はなせんせい” として知られ、NHKドキュメンタリー番組への出演や、日本テレビドラマのモチーフにもなった。子ども、保護者、教師のこころを大切にした多数の著書と講演が人気を博している。
応援ありがとうございます。ぜひフォローもお待ちしています。
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「こころの健康」のための情報発信や、心理検査を開発・販売しています。 そのほか、中の人が色々書いたりします😊

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