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【第3回】最近のロールシャッハ・テスト事情(高瀬由嗣:明治大学 文学部心理社会学科 教授)#心理検査って何?#金子書房心理検査室

 このシリーズも折り返し地点に入りました。これまでは、心理検査の基本的な概念や位置づけ、信頼性・妥当性などの理論的なお話が主でしたが、これからは少し実際的な内容に触れていくことにします。そこで、最近の心理検査事情をテーマに取り上げることにしました。わけても今回は、心理臨床場面において使用頻度の高いロールシャッハ・テストに焦点を当てます。この記事では、アメリカにおいて隆盛と衰退、そして復活を経験したこのテストの歴史を振り返るとともに、テストが今後どのような方向を目指していくのか、展望してみます。 

ロールシャッハ・テスト小史:黎明期と第一次流行

 ヘルマン・ロールシャッハがその主著『精神診断学』とともに10枚のインクブロットを出版したのは、今からおよそ100年前の1921年のことです。この本には、数々の清新なアイディアが詰まっているとともに、深い人間理解が示されていました。しかし、その出版からわずか7か月後のこと、ロールシャッハは志半ばにして37歳という若さでこの世を去ります。ほどなくして、彼のインクブロットはスイスからアメリカへと渡ります。米国人の精神分析医で、後に「同胞葛藤」という概念を生み出したデイヴィッド・レヴィが、たまたまロールシャッハの盟友エミール・オーバーホルツァーのもとで共同研究を行っていたためです。レヴィが持ち帰ったインクブロットは、アメリカの地で発展を遂げ、やがて大流行するのです。

 アメリカで最初にロールシャッハ・テストの研究に本格的に取り組んだのはサミュエル・ベックです。1927年のこと、コロンビア大学の大学院で博士論文のテーマを決めかねていたベックは、レヴィからロールシャッハの著書とインクブロットを紹介されました。これらは彼の博士論文のテーマだけに留まらず、ライフワークとなるほど、彼の心を強く捉えました。ベックは飛び級により若くしてハーバード大学で古典文学を学んだ秀才でしたが、それに飽き足らず、科学に基づいて人間を知るためにコロンビア大学大学院の心理学のコースに入学した人物です。科学に忠実であった彼は、生涯にわたり実証的な方向からこのインクブロット・テストを発展させます。後述しますが、のちに「Comprehensive System(包括システム)」と呼ばれる体系を構築したエクスナーは、ベックの下で助手を務めた経験を持ち、その影響を強く受けています。

 ベックの対極に位置するのがブルーノ・クロッパーです。ユダヤ系ドイツ人の彼は、ナチス・ドイツが台頭し始めたドイツをユングの手助けを得て脱出した後、しばらくスイスに滞在します。彼がロールシャッハ・テストの手ほどきを受けたのは、ロールシャッハ生誕の地チューリッヒでした。そこで、このテストをわがものとした彼は、やがてコロンビア大学の人類学者フランツ・ボアズの研究助手として1934年にアメリカに渡ります。そして、ニューヨークを拠点にテストの普及啓蒙を始めました。クロッパーは、ロールシャッハの考えを独自の解釈で発展させ、新たな反応カテゴリーを思いつくままに増やしていきました。彼の思想の背景にあるのはヨーロッパ流の現象学です。ベックのように実証研究に基づかず、どちらかと言えば、自らの臨床経験と直観に従ってテストを改変していったのです。

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 ベックとクロッパーという2人の卓越した研究者の活躍により、インクブロット・テストは瞬く間に全米に広がっていきます。クロッパーの尽力によって、専門の協会が設立され、研究発表と交流のための専門誌もできました(これが、現在の『Journal of Personality Assessment』の原点です)。時はくだり1950年代に入ると、アメリカのロールシャッハ業界には、この二大巨頭のほかにも何人かの理論家が登場しました。そして、それぞれが独自の実施法・分析法・解釈法を主張し、ロールシャッハ・テストはまさに百花繚乱の時代を迎えました。それはテストにとっては華やかな時代ですが、実践する側にとっては困ったことでもありました。流派によってテスト実施や分析・解釈の仕方が異なるため、一体何に基づいてテストを行えばよいのか分からなくなってしまったからです。

包括システムの興隆

 全米に5つのロールシャッハ体系(ベック、クロッパー、ハーツ、ピオロトフスキー、ラパポートがそれぞれに提唱するアプローチ)が群雄割拠していた頃、ジョン・E・エクスナーは、師匠のベックからある提案を受けます。それは、ベック自身の体系をクロッパーのそれと比較し、論文にまとめたらどうかというものでした。エクスナーは、師匠の要請に応えるため、ベックとクロッパーの方法を比較し始めます。ところが、いざ作業を始めると、その2つだけでなく、5つの体系のすべて取り上げたいという欲が出てきたようです。当初は短い論文を書くつもりで始まった彼の仕事は、結局、完成までに10年の歳月を費やし、1969年にようやく1冊の著書として世に出ました。この本は、わが国でも当時早稲田大学の教授であった本明寛らの手で翻訳され、『ロールシャッハ・テスト:分析と解釈の基本』(1972年、実務教育出版)という書名で出版されています。関心のある方は図書館などで探してみてください。

 さて、5つの体系を詳細に検討したエクスナーは、やがて、これらを実証性に耐えうるかたちで統合することに心血を注ぐようになります。当時、ロールシャッハ・テストはその解釈の信ぴょう性に疑問が呈され、流行にも翳りが見え始めていました。こういった状況下でテストが生き残る道は、科学的基盤に支えられたひとつの共通言語を創り出すことでした。そこで、エクスナーは5大体系で用いられている様々なコード(ロールシャッハ反応を分類するための記号)の信頼性を検証するとともに、その解釈仮説の妥当性を点検しました。結果として、数あるコードの中でも、評定者間信頼性の乏しいものは葬られ、解釈仮説があいまいなものや、実際のデータでの解釈仮説の裏づけが得られないものも棄却されました。かくして一定の信頼性と妥当性の認められたコードや指標が抽出され、新たなロールシャッハ体系が完成したのです。5大体系をまとめたこの新たな方法は「包括システム」と名付けられ、1974年に解説書が出版されました。その後、たびたびの改訂を経て、この方法はやがて米国のロールシャッハ・システムの主流へと成長していきます。

 20世紀も終わりを迎える頃のアメリカでは、包括システムはロールシャッハ・テストの代名詞となり、医療をはじめ、福祉や司法犯罪領域における心理アセスメント場面を席捲します。アメリカ心理学会はエクスナーに生涯功績賞を授与し、ロールシャッハ・テストを見事に復活させ、第一級の心理検査に仕立て上げた彼を称賛します。そして、この検査を臨床場面で活用することにお墨付きを与えました。こうして、包括システムは盤石の地位を築いていったのです。

アメリカ

包括システム批判

 歴史においては、何かが隆盛をきわめると、必ずといっていいほど反動が起こります。ロールシャッハ・テストの歴史の中でも、御多分に漏れず、エクスナーの包括システムに対する批判の嵐が吹き荒れました。わけても大きな声を上げたのが、ジム・ウッドを始めとする4人の心理学者でした。一連の批判は一冊の書物にまとめられ、2003年にアメリカで(わが国では、2006年に宮崎謙一の翻訳によりロールシャッハテストはまちがっている:科学からの異議の書名で)上梓されました。

 ここで彼らの批判を3つの観点からまとめておきます。それは、今後のテストのあり方を考えるうえで大切なことですので、少し紙幅を割きます。

 第一は、テストの妥当性に関わる批判です。著者らは、包括システムを構成する複数の指標に関して、その妥当性の検証が不十分であることを指摘しました。さらに、これらの指標をシステムに取り入れるに至った根拠データが公開されていない点を取り上げ、その不透明さも批判しました。彼らの言葉はいずれも辛辣なのですが、わけても同書の冒頭で筆頭著者のウッドが示した攻撃は際立っています。彼は、包括システムにより「うつ病」と判定されたある事例を提示します。この事例を一通り紹介した後で、彼は、それが自分自身の与えたロールシャッハ結果であることを暴露し、自分にはうつ病の片鱗もないことを根拠に包括システムの「役に立たなさ」を挙げつらいました。こうしたやり方が「科学的」であるかどうかはともかく、テストをあまりよく知らない読者に一定の印象を方向づけるには十分な効果があったと思われます。

 第二が規準(ノルム)に関する批判です。実は、この規準にまつわる問題は批判者たちが発見したことではなく、ロールシャッハ・テスト関連の学会あるいはエクスナーの関係者によって指摘されたことです。すなわち、規準集団がとりわけ健康度の高い人に偏って構成されていたり、規準データの一部が二重にカウントされ、あろうことか規準集団のサイズが水増しされていたり、といったことが学会内部の点検によって明らかにされたのです。言うまでもなく、このような規準に照らすと、各人のスコアの意味は適正に判断できません。ごく普通の人でも「病気」と見なされやすくなります。さすがに二重カウントについては、エクスナーもミスを認めて重複分を取り除いたのですが、批判者にとっては恰好の攻撃材料となりました。

 第三の批判は、システムの構造上の問題に関することです。ロールシャッハ・テストでは反応数(R)が増加すれば、それに伴い不適応性を反映する反応群(例えば、拡散反応や無生物運動反応など)も自然に増加します。そうなると、反応数の多い生産的な人、あるいは検査に協力的な人ほど、「不適応的」と判定されるということにもなりかねません。つまり、反応数の多寡が各種指標得点に大きな影響を与えているのです。これは、「R問題」とも呼ばれ、包括システムのように、解釈に際し特に量的データを重んじる体系にあっては非常に重い意味を持ちます。批判者たちはシステムが内包するこの弱点をついてきたのです。

 同書は刺激的なタイトルや挑発的な言辞(ありていに言えば悪口)に満ち溢れ、読者を穏やかならぬ気分にさせます。それでも批判を行うに際して、著者らが膨大な量の文献にあたり、このテストを多方面から事細かに調べ上げたことは特筆に値します。試しに巻末に示された引用文献を数えてみたところ、なんと764編も挙げられていました。彼らに都合の良い文献ばかりが引用されていると指摘する研究者もいます。しかし、これほどの量の文献を探し出し、読み込んだエネルギーは相当のものです。この種の徹底性は、批判者のあるべき姿とも言えるでしょう。なかには誤解や的外れな主張も含まれてはいたものの、少なくとも上に示した3つの批判は真実を突いていました。それゆえに、ロールシャッハ研究者はその対応を余儀なくされることになるのです。

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新たな体系、R-PASの登場

 ウッドらの批判が過熱してきた1990年代の終わりごろから2000年代初頭にかけて、エクスナーが設立したロールシャッハ研究評議会は、その批判への対応を最重要検討課題のひとつに掲げました。しかし、そのさなかの2006年にエクスナーが亡くなります。彼の死後、大きな問題が浮上しました。生前、エクスナーは包括システムの更新や改訂の責任を持つものとして、いかなる個人も団体も法的に指名しませんでした。加えて、包括システムの著作権を相続したエクスナーの遺族も、システムに手を加えることを許しませんでした。これにより「包括システム」という名の下で、その内容を改訂する機会は失われてしまったのです。こういった事情から、当時、ロールシャッハ研究評議会の中心メンバーであったグレゴリー・メイヤーら4人の研究者は、評議会と袂を分かつことを選択します。そこに司法心理学者1名が加わり、5人のチーム体制で新たなロールシャッハ体系を創り上げることを目指しました。それが2011年に公表されたロールシャッハ・パフォーマンス・アセスメント・システム(略称、R-PAS)です。以下にこのシステムの主な内容とその成立過程をみていきましょう。

 新たな体系を構築するにあたり、R-PAS開発チームが心を砕いたのは、この体系を構成するコードや指標の妥当性を担保することでした。そこでメイヤーの夫人、ジョニ・ミウラを中心とするグループは、従来のコード・指標の妥当性を実証的に検討した2467編の論文を取り上げてメタ分析を行いました。彼女たちは、まず、この膨大な量の論文を丹念に読み込み、論文の著者がそれぞれのコード・指標に関してどのような仮説を立てているかを調べました。そして、その仮説を検証するための基準の適合性を審査し、適合しているものだけを分析対象としたのです。包括システムの中核的な65の変数について、すべてこの手続きを踏むのは、気が遠くなるような作業だったようです。さらに、複数の先行研究のデータを一括して統計処理できるように、各々のデータを調整するのもきわめて煩雑な作業でした。それでも彼女たちは長い時間をかけてメタ分析をやり通し、65の変数に関する経験的な支持を「きわめて高い」「高い」「適度」「ほとんどない」「根拠なし(実証研究が存在せず)」に選別しました。

 R-PASはこの分析結果に全面的に依拠し、体系に採用するコード・指標を決定しました。妥当性の乏しいものや、たとえ妥当性が支持されていても解釈上の意味が他と重複するものは容赦なく切り捨てたため、結果として体系全体がずいぶんスリム化されました。また、メタ分析結果に忠実に従って体系を構成したという点で、その透明性も確保されました。
 なお、このメタ分析に関わる論文は心理学の学術誌の最高峰とも言われる『Psychological Bulletin』に掲載されています。この論文にはウッドら批判者グループもコメントを寄せています。さしもの批判者もこの論文は「公平かつ信頼に値するもの」と認めざるを得ませんでした。それほど、質の高い研究だったのです。

 次の課題は規準の確立です。このプロジェクトを進めるにあたり、メイヤーは、各国の研究者に協力を要請します。複数の研究者がこれに応じ、結果として世界各地15か所から健常者のデータが大量に集まりました。メイヤーらは、この15か所のデータから、それぞれ最大で100個ずつのプロトコルを偏りなく選び出し、合わせて1396個のプロトコルからなる「国際規準標本」を作り上げたのです。この標本は、約20%が米国、約70%がヨーロッパの9か国、残りの10%がイスラエル、アルゼンチン、ブラジルといった国々の人で構成されています。この規準集団は、アジア圏(特に日本)の標本は含んでいないものの、ロールシャッハ・テストの使用頻度の比較的高い地域に暮らす、さまざまな文化を背景にもった、ごく普通の人を代表する人々で構成されていることが見て取れます。したがって、少なくとも北米、ヨーロッパ、南米、イスラエルなどの地域でテストを実施する際には、この規準が大いに役立つことでしょう。

 さらにR-PAS開発チームは「R問題」にも取り組みました。結局、R-PASは、この難問に対して、受検者のRを統制するという、思いもよらない方法で解決をはかりました。すなわち、各カードへの反応を2つ、あるいは多くても3つに限定したのです(「R最適化法」)。こうすることにより、10枚のカードにおける総反応数(R)は一定範囲に収まり、指標得点は安定します。R最適化法は、それまでの常識に照らすと奇想天外ですが、この方法を導入したことによってRにまつわる懸案は収束に向かいました。
 しかし、各カードの反応数は、受検者を理解するうえでたいへん役立つ情報であるため、これを統制することに疑問を感じる人もいるかと思います。確かにそのとおりです。それは、R-PASの限界と言わざるを得ないでしょう。R-PASは、あくまでもRの多寡による指標得点への悪影響を減ずるほうを優先したのです。

 ところで、Rの数を統制し、国際規準標本を確立したことにより、心理検査としてたいへん有用な副産物がもたらされました。それは各個人のロールシャッハ・スコアを標準得点化できるようになったということです。たとえば、人間運動反応が7個与えられたという情報だけでは、それが多いのか少ないのか判然としません。しかし、仮に標準得点=130(これは偏差IQと同等の意味を持つ得点です)という情報が入ったら、この数が相当に多いことはすぐに理解できます。R-PASでは、コンピュータの活用により、このようにすべてのスコアを標準得点化し、グラフ上にプロフィールを描くことが可能になったのです。これは、投映法の領域では初の試みということができるでしょう。それは、R-PASの新機軸のひとつです。

 R-PASはこの他にも、反応の質を表す形態水準の評定にあたり、従来から行われていた頻度からの判定だけではなく、適合度の視点も加えるといった工夫を行っています。Ⅰカードに「コウモリ」を見る人が規準集団にどれほど存在するかは頻度の問題です。それに対し、Ⅰカードが実際に「コウモリ」に見えるかどうかは適合度の問題です。R-PASでは米国、ブラジル、イタリア、トルコ、台湾、日本……といった様々な文化圏に暮らす人々に協力を要請し、13000個以上のロールシャッハ反応の適合度を評定してもらいました。そして、その判定結果を加味した形態水準表を作成したのです。反応の質は、頻度からだけでは捉えきれません。適合度という視点を加えたことは理に適っていると思われます。

 以上、R-PASと呼ばれる最新のロールシャッハ体系の内容と成立過程をざっと見てきました。こうして改めて見てみると、この体系が1990年代後半から盛んに起こったロールシャッハ批判に対するひとつの答えとして成立したことがお分かりいただけると思います。その観点に立てば、批判者たちも良い仕事をしたと言えるかもしれません。

大きな木

これらからのロールシャッハ・テスト

 この記事では、主にアメリカにおけるロールシャッハ・テスト小史を取り上げました。中でも、特に多くの紙幅を割いたのが、従来のテスト批判とそれへの答えとして誕生した新しい体系の話です。
 現在、アメリカにおいてロールシャッハ・テストは往年の勢いはさすがに失ったものの、それでも最近では大学院教育の中で取り上げられる機会は増え、2015年の調査では約61%の大学院でロールシャッハ・テスト教育が行われているようです(Searls,  2017)。わけても、R-PASが普及し始め、勢いを持ちつつあるとのことです。

 一方、わが国においては、クロッパーの方法をベースとした片口法と包括システムが拮抗している状況です。R-PASに関しては、2014年12月に高橋依子監訳によるマニュアルの翻訳が出版されました。また、2016年11月に日本ロールシャッハ学会がメイヤーを招聘し、東京にてR-PASの分析・解釈方略に関するワークショップを開催しました。しかし、この体系がわが国に普及しているとは、とても言えない状況です。R-PASを教育できる者がまだまだ少ないからです。

 さて、こういった現状を踏まえ、ロールシャッハ・テストは今後、どのような方向を目指していくのか考えてみたいと思います。アメリカにおける、テストの興隆・衰退・復活の歴史にそのヒントが隠されていますが、このテストにとって必要なことのひとつは、いずれの体系に依拠するにせよ、その科学的基盤をしっかりと整えることにあると思います。臨床心理学の仕事に携わる専門職は説明責任を負います。アセスメント結果について説明を求められたとき、専門職は一定の客観的な証拠を示し、それに応えていく必要があります。このことを確実に遂行するには、検査の信頼性・妥当性を確保するとともに、各人の結果を照らす規準(ノルム)をしっかりと確立する必要があります。こういった基礎研究は終わりのないものです。自戒の意味も込めて、このことを強調しておきたいと思います。

 しかし、それだけではテストは生き残ることはできません。ロールシャッハ・テストをはじめとする心理検査は、あくまでも対象者の支援に資するものでなくてはなりません。専門職は心理検査という道具を用い、対象者を深く理解し、それを何らかのかたちで相手に伝えることを目指します。その行為はときに治療的に作用します。この面をさらに強化することも、テストの存在意義を高めるもうひとつの道だと思います。そこで、次回(最終回)は、心理検査の持つ治療的な側面に焦点を当ててみたいと思います。

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◆この記事を書くにあたって参考にした文献

1.歴史
Searls, D. (2017). The inkblots: Hermann Rorschach, his iconic test, and the power of seeing. New York: Crown/Random House. 

Exner, J. E., Jr. (2003): The Rorschach; A comprehensive system: Vol. 1. Basic  foundation and principles of interpretation (4th ed.). New York: Wiley. [中村紀子・野田昌道監訳(2009).ロールシャッハ・テスト:包括システムの基礎と解釈の原理.金剛出版.]

Exner, J. E. (1969). Rorschach systems. New York: Grune and Stratton. [本明寛・今井もと子・和田美代子共訳(1972).ロールシャッハ・テスト:分析と解釈の基本.実務教育出版.]

Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O. & Garb, H. N. (2003). What’s wrong with the Rorschach: Science confronts the controversial inkblot test. San Francisco: Jossey-Bass. [宮崎謙一訳(2006).ロールシャッハテストはまちがっている:科学からの異議.北大路書房.]

2.R-PAS
Meyer, G. J., Viglione, D. J., Mihura, J. L., Erard, R. E., & Erdberg, P. (2011). Rorschach Performance Assessment System: Administration, coding, interpretation, and technical manual. Toledo: Rorschach Performance Assessment System. [高橋依子監訳・高橋真理子訳(2014).ロールシャッハ・アセスメント・システム:実施、コーディング、解釈の手引き.金剛出版.]

Meyer, G. J., & Eblin, J. J. (2012). An overview of the Rorschach Performance Assessment System (R-PAS). Psychological Injury and Law, 5, 107-121.

Mihura, J. L., Meyer, G. J., Dumitrascu, N., & Bombel, G. (2012). The Validity of Individual Rorschach Variables: Systematic Reviews and Meta-Analyses of the Comprehensive System. Psychological Bulletin. Advance online publication. doi:10.1037/a0029406.

Meyer, G. J. (2018). A perspective on the Rorschach: What Rorschach performance adds to assessing and understanding people. Journal of the Japanese Society for the Rorschach and Projective Methods, 21-s1, 58-82. [高瀬由嗣訳(2018).ロールシャッハ法展望:ロールシャッハ・パフォーマンスがアセスメントと人間理解にもたらすもの.ロールシャッハ法研究, 21(s1), 日本ロールシャッハ学会20周年記念特別号.58-82.]

◆執筆者プロフィール

高瀬由嗣(たかせ ゆうじ)
明治大学 文学部心理社会学科 教授。日本ロールシャッハ学会 常任理事。専門は臨床心理学、心理アセスメントにおける科学的基盤の検討。主な著書に、『臨床心理学の実践――アセスメント・支援・研究』『RODS(Rorschach Data System)第3版 』(共著・金子書房)、『心理アセスメントの理論と実践――テスト・観察・面接の基礎から治療的活用まで』(共著・岩崎学術出版社)などがある。


 ◆著 書

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