言葉と行動と(櫻日和 鮎実:漫画家)#私が安心した言葉
パニック障害は、不安障害(不安症)の一種で、場所と時間を選ばずにパニック発作(動悸、震え、発汗など)が起きる症状があります。実は100人に一人が罹患する、我々が思う以上に身近なこころの病気で、多くの人たちが苦しんでいます。いっぽうで、パニック障害を「甘え」や「怠け」と誤解する理解のない人たちも少なくありません。今回は、自身が突然パニック障害になった体験談をマンガに描かれている、櫻日和 鮎実先生に、パニック障害になったときに「安心を得ることができた周囲からの言葉」についてご紹介いただきました。
―パニック障害は突然に
私がパニック障害を発症したのは、6年前のちょうどこのくらいの時期でした。
寒さもあったのでしょう、気付かぬストレスもあったのでしょう。
本当に突然の発症で、当時まだ今ほどの知名度がなかったパニック障害。
自分でも状況が解らず対応が後手後手に回り、病院選びを失敗し、転がるように悪化していきました。
―パニック障害になって具体的に何が起きたのか?
食料も買いに行くことができず、当時一緒に住んでいた友達に頼んでいました。一日ごとに狭まる行動範囲、昨日できていたことが今日にはできなくなっている。入浴・着替え・睡眠…それどころか、話すこと・あくび…そんな当たり前のことすらできなくなっていくのです。
最終的には 家から出ることもできなくなり 、
自力で電車に乗って実家に帰ることすら不可能になりました。
その後なんとか実家から迎えに来てもらって車で帰ることになりました。
そこから数年、最寄りのかかりつけ医に頼る事になります。
―最初に安心できた言葉
寝ることもできず 部屋から出ることもできず 食事もまともにとれない、そんな日々が続いていました。
しかしお医者さんが言ってくれた
「ちょっと時間はかかりますが、ちゃんと良くなりますからね。
心配いりませんよ」
という言葉にとても勇気付けられました。
その場限りではなく、時間がかかるということや薬の種類や効き方
具体的に効果の出るまでの時間や日数。
ここまでしっかり教えてもらえたのは感謝でした。
なにせその時は一日ごとに目に見えて悪化していく体調に恐怖と不安しかなかったのです。
明日が今日よりダメになっていく日々の中で、どこまで耐えればいいのかが解る。希望に繋がりました。
―なにも見られない、聞けない。
パニック障害を発症してから、文字や絵、画像や音楽が辛くなりました。すべての刺激が発作の引き金になり、私の場合はそれが過呼吸という形で表れてしまうからです。
なので書物の中から気付きの言葉を得たり、映画や漫画の言葉に感銘を受ける機会はありませんでした。
―その代わりにもらえた言葉たち
その代わり、身の回りの家族や友人達からたくさんの安心する言葉をいただいたと思います。
それは不特定多数の人ではなく私だけに向けられた言葉であり、格言でもなんでもないけれど何よりもありがたいものでした。
普段の生活の中では 家族や友人に気を使わせることが多く、 申し訳ない気持ちになるのですが
そんな中でも
「急がなくていいよ」
「少し休む?」
ふとした時にそういったことを尋ねてくれたり言ってくれたり、あるいは歩幅を合わせてくれたり、そういったところにとても安心を覚えました。
「ヤバくなってもうちらがいるから」
発症からしばらく、初めて実家から友達に会いに一人で旅行をしたときも友人達の理解と対応、そして必要以上に気を使わず、使わせず。そんな軽く流してくれるけど、ちゃんと押さえるところは押さえてくれる言葉にも安心しました。
安心する言葉をかけられればそこは居心地のいい場所に変わり、恐怖心も和らいでいきます。そういう人達と行動を共にすることで再び行ける場所が広がり、少しずつ前のように戻っていける。
―この言葉は絶対ダメ
「何故」「どうして」「他の人は治った」
他者のこういった言葉はどうしても付き物でしょう。
もし自分が目に見えない病気で悩む人にそんな言葉を投げかけていたのなら自省してほしいです。そんなことは他者よりも当事者が一番思っているのです。他者が言うより圧倒的に、常に頭の中に渦開いているのです。
追い詰めるような言葉は簡単に思いつきます。
簡単に思いつくような言葉は今一度自分の中で確認して相手に渡して欲しいのです。
―安心する言葉とは…
「安心する言葉」とは身近な人達に貰えることもあれば、私が誰かに与えることもできる、けして特別なものではないのだと思いました。
少しの理解と気遣い。
それだけで一度は駄目になりかけた人の人生を大きく動かすことができます。
パニくる!? パニック障害、「焦らない!」が効くクスリ。
突然、「パニック障害」になってしまった私。焦らず快復の道を歩んでます。
ある日、コミケで心臓がバクバクに!!?突然、パニック障害になってしまったマンガ家の実話エッセイマンガ。マンガ家の身におきた、本当にあった大変なお話……。
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―経験を通して描かせていただいた漫画
発作の初期症状から悪化していく経緯、そこでの判断ミスや偏見によってみるみる悪化していく私、そしてどうやって這い上がろうとしたのか…といった体験談です。
全年齢に読みやすく、まだパニック障害になったことがない人、あるいは身近にパニック障害を発症した人がいる、そういう人たちに是非読んでほしい漫画です。
―焦らないで欲しい、ダメな日はダメでいい。私が許す!
病気だから病人らしくしていなくちゃいけない、
いつも悲しい思いをしていなくちゃいけない、
治ってもいないのに遊びに行くだなんて…!
そんなことないんだよ!!楽しんでいいんだよ!!大事な栄養なんだ!!!
そんな思いも綴らせていただきました。
自分の体、病気は誰も代わってくれません。
だからこそ自分で守り、時には親しかろうと距離を取らねばならないこともあります。必要以上に苦しむことはないはず。
安心する言葉、楽しい思い出、ワクワクすること…そういったものを集めて生きていくべきだと思うのです。せっかく一度の人生なのだから。
執筆者プロフィール
櫻日和 鮎実(さくらかわ・あゆみ)
漫画家。
作家デビューの年にパニック障害を発症。その後、自身の経験からパニック障害実録漫画を執筆。現在は薬と定期的な通院で順調に回復中。
他作品『口裂け姐さん』(スクウェア・エニックス)、『生まれ変わらないでいてくれ』(KADOKAWA)など。
Twitter:@ayuneo