コロナ禍に引き込まれた子どもたちの不安を取り除く(神谷和宏:The Grand Coach代表)#不安との向き合い方
コロナ感染症の蔓延、天候変化の激しい変化、社会状況の不安定さなど、不安を感じる要素には事欠かない現在、それに飲み込まれずに生きていくために、私たちには何ができるでしょうか。今回は長年教員として第一線で関わってきて、現在はプロコーチとして各種セミナーを運営されている神谷和宏さんに、不安を取り除く方法についてご執筆いただきました。
子どもはよくないことを予期して不安になる
今、コロナ禍の真っ最中、子どもたちは不安に怯えています。また、相次ぐ台風や浸水、近年起こると予想されている大震災など不安の種はつきません。そんな中でも、目標を持ち、将来を切り開いていく子どももいます。まさに、この不安に勝とうという姿でしょう。この差は、どこから生まれるのでしょうか。
そこで、まずはこの不安の正体を追究します。
不安には、「現実的な不安」と「神経症的不安」と二種類あります。
現実的な不安とは、たとえば留学に行くのに、英語がうまく話せない人が、自分は大丈夫だろうかと思う不安です。木は水が欲しい、でも明日もまた晴れかもしれない、どうしよう? と思う不安です。私たちの不安には、そのように誰もが持つ不安があります。
しかし、もうーつそうではない別の種類の不安があります。心理的に健康な人から見ると、理屈に合わない不安や恐怖、憔悴感(しょうすいかん)を持っています。それを感じている本人も理屈に合わないとわかっているが、その不安をどうすることもできないのです。そういう不安を「神経症的不安」と言います。神経症的不安とは、自分が自分ではないというところから生まれる不安です。
現実的不安と神経的不安について
現実的な不安は、状況によります。たとえば、小さい頃、東京駅で迷子になり置き去りにされたとします。すると、大人になっても東京駅に来るとそれを思い出すことです。ただ、心理的に健康な人は、東京駅以外ではそのような不安な気持ちにはなりませんが、ところが神経症的傾向の強い人は、どこの駅でも不安になります。つまり、自分の弱点を意識している人は、その弱点が人目にさらされるのではないかといつも怯えています。
そして、神経症的不安の子どもは、「よくないことを予期して不安になる」傾向があります。ほとんど起こらないコロナに過剰に反応したり(誤解の無いように言いますが、もちろん対策を怠ってはいけません)津波が来たらどうしよう。親が今日帰らぬ人になったら……。もし、自分が重い病になったら……。続けざまに巨大台風が来たら……。今、大地震が来たら……。来年は気温がさらに上がったら……。
もちろん、それなりの対策は必要です。しかし、あまりにも過敏になって、行動を止めてはいないでしょうか。自分ではどうにもならないことには、心を奪われないようにすべきです。
現実が大変なのか、不安だから大変だと思うのか
不安の問題を考えるときに、いつも不安に怯えている性格の問題と、現実的に不安な問題を分けて考える必要があります。
「将来が不安だ」と言うときに、まさに「将来が不安だ」と思う人と、将来ばかりではなく、なにもかもが不安な人がいます。「将来も不安」だし、今日友達に言った一言が気に入ってもらえるかどうかも不安だし、昨日テストの点数も不安だというように、なにもかもが不安な人がいます。そういう人は、まず自分の性格を考える必要があります。どうして、なにもかもが不安な性格になってしまったのかを考えることから出発しなければなりません。慢性的に不安な人が不安をしずめるためには、その生き方を基本から直さなければなりません。
つまり、現実が本当に大変なのか? それとも、現実は大変ではないのに、自分の内面の不安をもとに現実に反応するから大変と感じているのか? 後者の場合は、大変なのは現実ではなく、その人の内面です。
原因と向き合えば不安は解消できる
不安なときに、「自分の不安はなんなのか?」を考えることが、まず第一歩となります。「種類は? 原因は?」と考えていくことです。たとえば、家庭内暴力で暴れている少年に、理屈で説明しても暴力はやめません。暴力を振るうのは、不安だからです。不安になって凶暴性を発揮しているのです。人が理屈に合わないことをしているときには、心理的には理由がきちんとあります。その一番の理由は不安です。しかし、その不安の原因と向き合えば解決できます。
小さい頃、優秀でないと親から認めてもらえなかった人がいます。そこで、大人になってからも優秀でないと人から認めてもらえないと思い込んでいます。こういう人は、なにかをするときに「失敗するのではないか?」と不安になります。それは失敗したら自分は周囲の人から「認めてもらえない」と思うからです。こういう人は、思い込みを直せばいいだけです。失敗したって人は認めてくれます。小さい頃の不安の再体験をやめる努力をすればいいのです。
不安要素は事実の10分の1
私は不安なときに、次の三つのことを勧めています。
不安がおそってくるとき、私は「不安要素は事実の10分の1」と自分に言い聞かせています。これが第一です。
小さい頃、たとえば風邪をひいたときに、「大丈夫だよ」と言ってくれる親がいた人は、案外いろいろな事態に安心しています。不安なときに、「大丈夫よ」と毛布をかけてくれる、その安らぎが子どもを強くします。悩みの遺伝子を持って生まれても、それほどには心配しないようになっているでしょう。不安な人は、「大丈夫よ」と毛布をかけてくれる人を探しています。不幸にして、「大丈夫よ」と毛布をかけてくれる人がいない人は、自分で自分を安心させる訓練をするしかありません。そのときに、今述べたように解釈をして、事態そのものはそんなに深刻ではないのだ、と自分に言い聞かせることです。事態が不安なのではありません。その人がその事態を不安に感じているだけなのです。自分は、今、あることを100のことだと思っています。しかし、実はそれは10のことでしかないのです。 だから100だと思ったときには、これは自分が100と思っているだけで、本当は10なのだと頭で自分に言い聞かせることです。
他人ならどうするか
私が不安なときに勧める第二のことは、「同じような状況に他の人が巻き込まれたらどうであろうか?」を考えることです。つまり、もし自分が悩みの遺伝子を持っていると思うなら、悩みの遺伝子を持っていない人ならどう思うかと考えるのです。すると、「気にしないのではないか」という気がすることが多いものです。そのことが怖くて気になって眠れないのは、その事態が自分にとって事実、脅威なのではなく、自分が脅威に感じているにすぎないと気がつきます。
私たちは、悩みの遣伝子を持って生まれたことも、生まれ育った環境も、自分の運命として受け入れるしか、ありません。もしそれを自分の運命としてうけいれられないならば、生涯、不安や心配に悩まされ続けるでしょう。
最も起きてほしくないこと
私が不安なときに勧める第三のことは、「今、自分が最も恐れていることはなにか」と考えることです。「最も起きてほしくないことはなにか」と考えます。 たとえば、「ガンに冒される」とか、「あの人が死んでしまう」とかである。 とにかく自分が最も起きてほしくないことを考えます。
すると案外、今の事態を比べてみる。今の事態が大事件ではないと気がつくことが多いようです。
執筆者プロフィール
神谷和宏(かみや・かずひろ)
The Grand Coach代表。
長年教育者をして小・中・高校生も指導の後、起業。全国約500か所でセミナーを主催している。コーチング、カウンセリング、NLPなどを学び、人材育成論、目標達成論、自己肯定感をテーマとしている。
▶ ホームページ http://www.katch.ne.jp/~k-kami/
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