米国オルタナティブスクールの最前線から:ガーザ高校訪問記(竹之内裕一:ソリューションランド主宰)
ガーザ高校との出会い
米国テキサス州オースティンにあるゴンザーロ・ガーザ独立高校(以下、ガーザ)。近年、K-12(米国で公教育が無償で提供される、幼稚園~高校卒業までの期間)の教育から外れる学校選択のオプションとして、米国で注目を集めているオルタナティブスクールのひとつです。
私がガーザを知るきっかけとなったのは、解決志向の創始者の一人であるインスー・キム・バーグ博士の面接のビデオを見たことでした。インスーが面接をしていたカールという高校生を、縁あって日本に招くことができ、インタビューを行ったのです。その際、彼が通っていたというガーザの名を聞き、興味をもって調べてみると、解決志向アプローチ(Solution Focused Approach)を学校運営全体に適用している珍しい学校だとわかりました。
いつか直接訪れて、学校を見てみたいと思っていたところ、念願がかなって、ガーザを訪問することができました。2017年1月のことです。高校の名前の由来となった ゴンザーロ・ガーザ(Gonzalo Garza)博士が、日本から来た私たちを歓迎してくれたのは、とても栄誉なことでした。
ガーザ高校への入学
ガーザへの入学には事前に10単位取得する必要があるそうです。これは1年半高校に通えば取れる単位です。入学すると、学校は生徒との関係づくりを始めます。校長または副校長との面談があり、保護者とも会います(保護者がいないこともあります)。そこで生徒の特別なニーズを理解するための質問をします。その後、オリエンテーションを行います。
オリエンテーションではhonor code(オナーコード)について話をします。どのように過ごすのか、行動規範のようなもので、次の3つが挙げられます。
生徒が教師と合意できないことが出てきたときには、このオナーコードに照らして判断します。「あなたは名誉と高潔を示していますか?」と。これを学ぶことは、社会に出たときにも役に立ちます。ある生徒は、「これはガーザのコミュニティにおけるあらゆる行動面に現れます。この学校では、いじめは問題になっておらず、学校の中でも外でも互いに敬意をもって接しています」と語っていました。このことは保護者も教職員も同様で、それが学校の基盤となっています。
ガーザには3人の常任カウンセラーがいます。1人目は、どの科目を履修したらいいのか、どうすればその科目を終えられるかなどの問題に対応します。2人目は、進学・就職カウンセラー。3人目はコミュニティ・イン・スクールから派遣されているカウンセラーです。コミュニティ・イン・スクールとは、学校と連携して行われる児童生徒支援活動のことです。ガーザではテキサス大学のシンシア先生のチームから研修生が来て、グループカウンセリングを行っています。こうして、学業をこなすためのサポート体制ができているのです。
ガーザのカリキュラム
ガーザはそのカリキュラムにも特徴があります。カリキュラムのほとんどはオンラインで提供されていて、セルフペースで取り組むことができます。セルフペースカリキュラムのメリットは、習得に時間が必要な生徒に対し、柔軟にスケジュールを組めることです。
例えば、ある生徒が数学が苦手で遅れているとしたら、国語の授業のかわりに数学の授業を2コマ受けることができます。国語の単位がその年に取れなくても構いません。まず数学を進めるようにします。
従来の教育手法とセルフペースカリキュラムとの一番の違いは、カリキュラムを作成する段階です。セルフペースのほうが、より簡単なわけでもなければ、最後の選択でもありません。期限や時間管理が不要なわけでもありません。州の基準から外れてもいません。自主学習とも違います。それは生徒主導で挑戦を必要とする厳格なものです。先生方はカリキュラムを作るときに「目的を持って始める(Begin with the end in mind)」ことを心がけています。到達する場所を考えれば、そこへ行きつく方法を考えられるという意味です。
また、カリキュラムの作成では「ブルームの目標分類学」をベースにしています。教師は生徒に一人ずつ会って目標設定の話をします。他の生徒との比較ではなく、自分自身がどの段階にいるかを話し合うため、恥ずかしい思いをすることもありません。「ここがわからない。このままでいいのかわからない。ここまでやりたい。」と生徒が言えば、先生は「わかりました。ではこの単元のこの部分はいつまでに終えられそう?」と聞いて、一緒にカレンダーを見ながら、時間管理のアドバイスを行います。
授業の方法もユニークです。ガーザでは、生徒は「不満を抱えたまま教室にいることはない」のです。先生はクラスを歩き回り、「助けが必要ですか? 順調に行っている?」と聞きます。行き詰まっている生徒がいれば、隣に座って手助けします。ガーザのカリキュラムや授業方法は、生徒の精神的な支えになっているのです。
ちなみに、ガーザは学年制ではなくクラスもあるのですが、クラス単位で何かをするのは「アドバイザリー」という、いわゆるホームルームだけです。日本の学級制度とは少し異なる点です。
解決志向アプローチを学校に取り入れる
ガーザのある先生はこんなふうに話してくれました。
解決志向アプローチは学校の文化にとてもよい影響を与えていると、先生は言います。教職員も生徒もみなで協働して学校のアイデンティをつくることで、学校全体にポジティブな雰囲気がもたらされます。解決志向はまた、遅刻や欠席を繰り返す生徒や学習がなかなか進まない生徒と話をするときにも有効です。
ガーザの教職員は全員、解決志向のトレーニングを受けています。例えば、生徒にアプローチする際は「まだやっていないの、早くやりなさい」と言うのではなく、「今日、調子はどう?」と話しかけることから始めるのが大切です。トレーニングでは、生徒と個人的な人間関係を築くことの重要性を学び、さらに解決構築のための質問を教わります。教師は生徒と1対1で座って、「今日はどこまで進めたいか」「どこまでできると思うか」など、具体的な質問をしながら目標設定を行っていきます。
実際に、ガーザの生徒は私にこう話してくれました。
別の生徒はこんなふうにも話していました。
ウェッブ校長先生の思い
最後に、ガーザ校長のウェッブ先生に、ガーザについて一番誇りに思っていることを聞いてみました。
ウェッブ校長先生は、解決志向アプローチの主要技法のひとつである「コンプリメント」(褒める・労う・称賛する)についても言及されました。
おわりに
私たちがガーザを訪問した翌年の2018年、ガーザの取り組みについて書かれた、”Solution Focused Brief Therapy in Alternative Schools: Ensuring Student Success and Preventing Dropout"が出版されました。この本を読んで、ガーザを訪問してうかがった話をさらに明確に理解することができました。そして、ガーザで出会った人々がどうしてあのように笑顔で、熱意をもって学校のことを語れるのかがわかった気がしました。
私たちは、この本をぜひ日本の多くの方々に読んでいただきたいと思い、翻訳を決意しました。
日本でも、解決志向アプローチが学校の活動全般に、少しずつ、部分的にでも広がっていくことを願っています。