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HSPブームの今を問う(飯村周平:東京大学・日本学術振興会PD)

テレビ、雑誌、ネットなどの各種メディアでよく目にするHSP。心理学はいま、HSPについてどのようなことを明らかにしているのでしょうか?
今回はHSPに関する研究をご専門とされる飯村周平先生に、いまわかっていること、そして私たちが日常でよく目にする情報について、ご解説いただきます。

「HSPブーム」の到来と本記事のねらい

 いま、SNSやメディアでは、HSP(Highly Sensitive Person)という言葉が注目を集めています。精神科医やHSP専門カウンセラー、当事者など、さまざまな肩書をもつ人たちが、書籍を積極的に出版したり、情報を発信したりしています。

 例えば、Twitterで「HSP」と検索してみてください。「#HSPあるある」「#HSPさんとつながりたい」「#HSP診断テスト」「#HSS型HSP」などのタグとともに、様々な情報が発信されていることがわかります。また、「生きづらさ」や「生きづらい経験」にHSPというラベルが貼られる傾向があることも知ることができるでしょう。本記事では、このような最近の動向を「HSPブーム」と便宜的に呼びます。

 本記事のねらいは、(1)HSPに関する学術的な見方を紹介すること、(2)HSPブーム下で発信される情報を学術的な見方をもとに解釈すること、の2点です。

感受性の違いに目を向けよう

 私たちは、環境からの影響の受けやすさ・反応の仕方が一人ひとり異なります。例えば、不慣れな場所で見知らぬ人たちと生活しなければならなくなったとしましょう。みなさんは、どのような行動を示すでしょうか?ある人は、いつもと全く変わらないかもしれません。ある人は、より活発になる人もいるでしょう。また、ある人は、慎重になったり、シャイになったりするかもしれません。これは一例にすぎませんが、私たちは、ある性質の環境に置かれたとき、その受け取り方や反応の仕方(感受性)に個人差がみられます。

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環境感受性という考え方

 とくに発達科学などの領域では、こうした感受性の個人差を「環境感受性」(Environmental Sensitivity)という概念で説明しています(例えば、Pluess, 2015)。環境感受性とは「ポジティブ・ネガティブ両方の環境刺激に対する処理や登録の仕方の個人差」を表す概念です。本記事では、環境感受性あるいは感受性と呼びます。

 とても広範囲な概念ですが、私たちの心理社会的な発達メカニズムを考えるうえで、重要な役割を担います(例えば、Belsky & Pluess, 2009)。詳細は参考文献に譲りますが、私たちは環境との交互作用のなかで自身を発達させており、その際に環境感受性の個人差によって発達の方向性が調整されることが想定されています。環境感受性は誰もがもつ普遍的な性質であり、高い人から低い人までグラデーションがあります。その特徴は、正規分布することが示唆されています。

 HSPブーム下では、感受性を「生きづらさ」と結びつける傾向がみられますが、定義にあるように、感受性それ自体は「生きづらさ」を表す言葉ではありません。

感受性の個人差を確認する

 私たちの環境感受性の個人差は、次の三つの特徴(マーカー)から把握することができます。

 一つ目は、遺伝子的なマーカー(感受性遺伝子型)です。セロトニン作動性の5-HTTLPR s型、ドーパミン作動性のDRD4 7Rなどの遺伝子型が、感受性の個人差に関与することが指摘されています。ある感受性遺伝子型をもつ人は、その遺伝子型をもたない人と比較して、感受性が高い傾向があるとみなされます。最近のゲノムワイド研究によると、一つの感受性遺伝子型の効果は小さく、複数の遺伝子型が累積的に感受性を形成することが示唆されています(Keers et al., 2016)。

 二つ目は、神経生理学的なマーカーです。fMRIを用いた神経・生理心理学的な実験によって、ある刺激を受けた際の脳領域の賦活化に個人差がみられることが報告されています。最近のレビューによれば、自閉スペクトラム症(ASD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの感覚過敏症状と環境感受性の脳領域の賦活化は、一部に共通点もあるものの、基本的には弁別されうるものだと指摘されています。例えば、環境感受性が高い人では、扁桃体(感情)、海馬(記憶)、島皮質(共感)などが賦活化する傾向がみられるのに対して、ASD者では不活性の傾向がみられるようです(Acevedo et al., 2018)。

 三つ目は、気質的なマーカーです。幼少期から行動レベルで観察することができる感受性気質には、ネガティブ情動性や困難気質などが挙げられます。特に最近では、多言語版の尺度が開発されたことをきっかけに、感覚処理感受性(Sensory-Processing Sensitivity)の研究が増えています(Greven et al., 2019)。HSPの「一般書」でも頻繁に取り上げられてますが、感覚処理感受性が高い人の特徴には、環境刺激に対する(1)深い認知的処理、(2)圧倒されやすさ、(3)情動的・共感的な反応の高まり、(4)気づきやすさ、が挙げられています。

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HSPとは何か?

 では、学術的にはHSPとは一体何を表す言葉なのでしょうか?すでにおわかりでしょうが、「環境感受性が非常に高い人たち」のことを表すラベルあるいはカテゴリです。したがって、本来、HSPブームでよくみられるような「生きづらさ」を表すためのラベルではありません。

 また、HSPブームでは、「HSPは5人に1人いる」と称されることがありますが、現在の研究では、感受性の程度が上位30%程度の人のことを「HSP」とカテゴリ化する傾向があります(Lionetti et al., 2018; Pluess et al., 2018)。この割合は研究者の「勘」で決めているわけではなく、潜在プロフィール分析などの分類学的な統計解析手法によって抽出されたものです。

 環境感受性が高い人たちですので、HSPは「生きづらい人」「弱い人」ではなく、「良くも悪くも環境から影響を受けやすい人」として説明されます。「良くも悪くも影響を受けやすい」ことは、発達心理学において差次感受性(Differential Susceptibility)という枠組みで説明されることがあります(例えば、Belsky et al, 2007)。

 以下の図は、差次感受性の特徴を表したものです。差次感受性は、感受性と環境の交互作用によって、発達のパターンに差異がみられることを説明します。縦軸は、発達的アウトカムです。例えば、社会情緒的な適応状態(精神的健康)などをイメージしてみてください。横軸は、環境の質です。例えば、家庭環境(養育)の質などをイメージしましょう。破線は、感受性が高い人(HSP)の発達パターンを表します。実線は、感受性が低い人です。

 感受性が高い人は、環境の質が悪ければ、感受性が低い人と比べて、望ましくない方向に発達する傾向がありますが、環境の質が良好であれば、望ましい方向に発達しやすい傾向があります。つまり、良くも悪くも環境の質に応じて、変化しやすい人です。一方で、感受性が低い人は、環境の質が悪い場合には影響を受けにくいですが、同時に良好な環境であってもそこから利益を享受しにくい傾向がみられます。

 研究では、感受性が高い人が悪い環境から悪い影響を受けやすいことを「脆弱性」、良い環境から利益を享受しやすいことを「ヴァンテージ感受性」と呼びます。これらの詳細については、私のNote(※後半有料)をご覧ください。

 感受性の高低のどちらか一方が優れているわけではありません。差次感受性の例が示すように、感受性が高くても低くても、ある環境ではメリットにもデメリットにもなるだけです。

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図1 差次感受性の特徴

ネットでのHSP情報とその実際

 ここからは、ネットで発信されるHSP情報が、学術的な視点からどのように解釈できるのかを記したいと思います。以下に挙げるHSP情報の例は、私が実際に目にしたものですが、(発信者に配慮をして)オリジナル情報の表現を一部変更しています。

①「HSPうつを磁気刺激療法で治療する」
 あるクリニックでは、HSPであることによって生じるうつ症状を「HSPうつ」と名づけ、磁気刺激療法による治療を勧めています。しかし、まず前提として、心理学でも精神医学でも「HSPうつ」という概念/疾患は存在しません。それゆえ、「HSPうつ」なるものが磁気刺激療法で改善するというエビデンスも全くありません。

②「HSPはミラーニューロンの働きが強い」
 環境感受性が高い人では、恋人あるいは見知らぬ人の笑った顔や悲しんでいる顔の写真を提示されると、共感性を司る島皮質が活性化することが示唆されています(Acevedo et al., 2014)。しかし、これまでミラーニューロンとの関連を直接的に実証した研究エビデンスはありません(本記事執筆時現在)。現状では、飛躍した主張だといえるでしょう。

③「ネットのHSP診断テストでHSPと診断された」
 Googleで「HSP」と検索すると、上位に「HSP診断テスト」というサイトが表示されます。このサイトで自身がHSPかどうかを判断される人が多いようです。しかし、このサイトの項目は研究で用いられているものではありません。また、明らかに感受性の個人差を測定するものではない項目も含まれます。さらに判定基準も不明です。したがって、学術的には、信頼性と妥当性が不明瞭なテストだといえます。

④「HSPチェックリスト:一日中憂うつな気分が続く」
 複数のクリニックのサイトでは、HSPチェックリストが紹介されていることがあります。私が確認したサイトでは、「一日中憂うつな気分が続く」「もともと興味があったことに興味がもてなくなってきた」「自殺を考えてしまうことがある」といった項目がHSPかどうかを判断するものと提示されていました。しかし、これらの項目は、明らかに感受性の個人差を測定する内容ではありません。

⑤「HSPは魂のレベルが高い」
 とあるサイトにおいて、「HSPは魂のレベルが高い人たち」と書かれていました。研究では、魂の存在は証明されていません。HSPとは無関係な情報です。このサイト以外にも、HSPという言葉を入り口にスピリチュアルな世界に誘導する情報があります。

⑥「魔法の言葉を唱えておなかをさするとHSPであることのストレスが和らぎ効果的」
 「魔法の言葉を唱えておなかをさすると、HSPのストレスが和らぐので効果的」と書かれた医療系のネット記事が話題になりました。しかし、「魔法の言葉」やそれがHSPのストレスを和らげるかどうかも、エビデンスはありません。やはりこれもスピリチュアルな世界の話であり、HSPとは無関係です。

⑦「HSS型HSP、内向型HSP、外向型HSP」
 Twitterでは「○○型HSP」などの言葉をよく見かけます。例えば「HSS型HSP」は刺激希求性が高いHSP、「内向型HSP」は内向的なHSPを表すようです。実は、このようなタイプ分けの研究は全く行われていません。こうしたタイプ分けの妥当性も不明です。血液型診断のようにわかりやすいため、流行るのは納得できますが、研究にもとづくものではない点は留意すべきかもしれません。

 ほかにもHSPは「遅刻しにくい」「職場でうつになりやすい」「学校が苦手」「0か100の両極端に考える」「頼まれると断れない」「両親に愛された記憶がないとよく言う」などの情報がありますが、いずれもエビデンスはありません。

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おわりに

 本記事では、学術的なHSPの考え方を紹介したうえで、学術的な視点からHSPブームでよく発信される情報を補足しました。学術的な見方については、ほんの入り口しか触れておりませんので、参考文献をご覧いただくとより適切な理解につながるはずです。

 HSPブーム下で発信される情報は玉石混交です。学術的なHSPの見方と大きな乖離があるようにもみえます。また、HSPブームには様々な功罪(良い面、悪い面)があります。

 みなさんは、このブームをどのように解釈しますか?Twitterでは「#HSPの功罪」というタグで議論されていますので、ぜひみなさんの意見を発信してみてください。

参考・引用文献
1. Acevedo, B., Aron, E., Pospos, S., & Jessen, D. (2018). The functional highly sensitive brain: A review of the brain circuits underlying sensory processing sensitivity and seemingly related disorders. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 373, 20170161.
2. Belsky, J., Bakermans-Kranenburg, M. J., & Van IJzendoorn, M. H. (2007). For better and for worse: Differential susceptibility to environmental influences. Current Directions in Psychological Science, 16, 300-304.
3. Belsky, J., & Pluess, M. (2009). Beyond diathesis stress: Differential susceptibility to environmental influences. Psychological Bulletin, 135, 885-908.
4. Greven, C. U., Lionetti, F., Booth, C., Aron, E. N., Fox, E., Schendan, H. E.,... & Homberg, J. (2019). Sensory processing sensitivity in the context of environmental sensitivity: A critical review and development of research agenda. Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 98, 287-305.
5. Keers, R., Coleman, J. R., Lester, K. J., Roberts, S., Breen, G., Thastum, M., ... & Nauta, M. (2016). A genome-wide test of the differential susceptibility hypothesis reveals a genetic predictor of differential response to psychological treatments for child anxiety disorders. Psychotherapy and Psychosomatics, 85, 146-158.
6. Lionetti, F., Aron, A., Aron, E. N., Burns, G. L., Jagiellowicz, J., & Pluess, M. (2018). Dandelions, tulips and orchids: Evidence for the existence of low-sensitive, medium-sensitive and high-sensitive individuals. Translational Psychiatry, 8, 24.
7. Pluess, M. (2015). Individual differences in environmental sensitivity. Child Development Perspectives, 9, 138-143.
8. Pluess, M., Assary, E., Lionetti, F., Lester, K. J., Krapohl, E., Aron, E. N., & Aron, A. (2018). Environmental sensitivity in children: Development of the Highly Sensitive Child Scale and identification of sensitivity groups. Developmental Psychology, 54, 51-70.

著者プロフィール

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飯村周平(いいむら・しゅうへい)
東京大学・日本学術振興会PD。Twitter ID:Tokyo6Heart。2018年、中央大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。思春期・青年期を対象に、環境感受性理論に関する発達心理学的研究を行っている。代表的な論文は、Iimura, S. & Kibe, C. (2020). Highly sensitive adolescent benefits in positive school transitions: Evidence for vantage sensitivity in Japanese high-schoolers. Developmental Psychology, 56, 1565-1581.

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