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これからの部活動のあり方について (長沼 豊:学習院大学文学部教授) #子どもたちのためにこれからできること

感染症は今までの学校の在り方に、大きな変化をもたらしました。中学校や高等学校で大きな位置を占めていた部活動も、活動ができず、大会などが軒並み中止となりました。多くの時間と力を注いできた生徒さんや教師の方々の落胆は、如何ほどだったでしょう。一方、これまでずっと続いてきた活動が止まることで、新たな可能性や、これまでの問題点も、見えてきたのではないでしょうか。日本部活動学会の初代会長を務められた長沼豊先生に、これから部活動の目指すべき方向について、お書きいただきました。

   新型コロナウイルスによる感染症拡大予防のため、全国の学校が休校になり、生徒が何日も学校に行けない期間があった。このことは生徒の居場所としての機能を有する学校の価値を改めて見つめ直す機会になった。それは物理的な居場所だけでなく、心の居場所も含めてである。

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休校中の部活動の様子から

   休校中に部活動は、どうしていたのだろうか。新聞記事等によると、例えば音楽系の部の生徒はプロの演奏動画を見ながら自宅で練習していたという。運動部の生徒たちは過去の試合の動画を自宅で見ながら、どのようにすれば良かったかをSNSを活用して部員同士で相談したり、アスリートによるストレッチの動画を見て練習したりしていた。自宅で自主的に練習メニューを考えトレーニングをしていた生徒もいたという。いずれも、今までには取り組んだことがなかった工夫だ。

    これは部活動の本来の姿である「同好の生徒が集まり、自分たちで企画し、自分たちで実践する活動」になっている。自主的・主体的に工夫して練習した経験は、学校再開後の活動でも生かされていることだろう。いや、生かしていかなければならない。つまり部活動を本来の姿にリニューアルする機会だと捉えたい。以下に今後の部活動のあり方を2つ提案する。

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勝利至上主義ではなく

    第1に、学校で部活動を続けるのであれば、学校教育の趣旨を生かしたもの、つまり生徒の成長・発達を最上位目標にした活動にすることである。
具体的には、大会やコンクールで成果を出すことが第一義的な価値(勝利至上主義)ではなく、活動を通して多様な知識・技能を身につけ、思考力・判断力・表現力を向上させ、人間として成長・発達することを第一の目的とするのである。

   そのためには、これまで多くの学校で見られたような、大人(顧問や指導者)の指示・命令に従って動く活動ではなく、生徒主体の活動にする。自分たちで計画を立て、活動内容・方法を考え、実践し、評価する。レギュラーメンバーや役割も自分たちで考える。大人は支援役に徹するのである。顧問も辞書の意味通りの顧問でよい。休校中に自宅で色々な工夫をして活動していた生徒たちなら出来るだろう。

    誤解のないように追記するが、勝つことを目指さないのではない。競技スポーツは勝負が決まるものだからである。しかしそれは学校部活動の第一の目的ではないと述べたのである。

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小学校のクラブ活動を参考に

 ちなみに「小学校学習指導要領解説 特別活動編」のクラブ活動の活動過程を見ると、児童が自分たちでクラブを創るところから始まる。年間計画も自分たちで立てる。主体性を育み、企画力や実践的な力を向上させることが大切にされているからである。都内のある小学校では、クラブ活動の顧問は、あえて当該クラブの技術的な指導が出来ない教員を充てているという。教員の役割は技術的な指導ではなく、児童たちが主体的に活動できるように指導助言することだからである。小学校のクラブ活動をモデルにして、中学・高校の部活動も生徒の主体性を尊重した活動にリニューアルしたらどうか。

    以上が1番目の提案であるが、換言すれば部活動でも主体的・対話的で深い学び、アクティブ・ラーニングを実現するということである。

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少子化に対応した拠点校方式に

    第2に、目的別に再編して、地域で出来ることは地域で実施することである。

    現在の部活動には、趣味程度でよいという生徒と、取り組んでいることを将来の仕事にしたいという生徒が混在している。目的が違うのである。その結果、後者を意識して多くの学校が大会やコンクールで上位に入りたいと考え、生徒に無理な活動を課してしまう。前者の生徒はそんな部活動に疲弊し、やりたいと思っていたはずのスポーツや芸術活動を嫌いになり、卒業後には続けないということもある。本来好きで始めたことを嫌いにさせてしまう教育活動とは一体何なのだろうか。目的と活動内容がミスマッチになっているのが、日本の部活動の実態である。

    そこで、目的別に再編する。大別すれば上記の2種であるが、一つの学校で同種目の2つの部の存立は無理である。部員数が少なくなり活動できなくなるからである。そこで、例えばA校のサッカー部は上位を目指す生徒向き、近隣のB校のサッカー部は趣味として活動する生徒向きとし、生徒は好きな方を選んで放課後に移動して行う。拠点校方式の一種である。拠点校方式とは、人口が減少した地域で行っている合同部活動の方法で、何校かまとまって行う(例えば北海道士別市の中学校が実施している)。A校ではバスケット部、B校ではバレーボール部というように、その種目を行う学校を決めて拠点校とする(A校ではバレーボール部は置かない)。この方式を種目別ではなく同じ種目の目的別にしたのが上記の方式である(「目的別拠点校方式」と呼ぼう)。

    このような目的別拠点校方式への移行は、当該の学校だけでなく、地域でまとめて行う方が効果的であるから、教育委員会の主導で、自治体ごとに複数校をまとめて実施すると良い。実際には、種目別と目的別を組み合わせて、さらに地域で出来ることは地域に任せて実施する方が無理はない。というのも、少子化の影響で今後ますます生徒数が減り、一つの学校で行う部活動は現在の種類を維持できなくなるからである。また、この方式では無理に教員に顧問を充てる必要がなくなるため、全員顧問制は必要なく、教員の働き方改革にも寄与する。目的別拠点校方式は、今後確実に求められる方式なのである。

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地域移行も含めて再編を

    この目的別拠点校方式が軌道に乗れば部活動の地域移行が進むきっかけになる。一つの学校で行うという縛りが弱くなり、地域全体で考えれば良いという発想で考えられるようになるからである。目的別の拠点のいくつかを地域の組織や団体が担い、地域部活動を展開する。しばらくは学校部活動と共存させて、時間をかけて緩やかに地域部活動へ移行していくのである(拠点校の校が取れて「目的別拠点方式」となる)。国会の附帯決議では学校部活動を地域部活動に移行することが決まっているが、この方式はそれを後押しすることにもなる。これが少子化に左右されない持続可能な部活動のあり方である。

    その場合、BDK(部活大好き教員)はどうすれば良いかと言えば、地域部活の方で契約して指導者になれば良い。もちろんそれは副業として教育委員会が兼務を認めることが前提となる。部活動改革ではBDKの生きがいを奪わないことも重要である。

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令和の時代の倶楽部を目指す

    以上述べてきたように、今後の部活動のあり方は、①勝利至上主義をやめ、生徒主体の活動にすること、②地域全体で目的別に再編して持続可能な形にすることである。

    部活動はもともと海外を真似てclub活動として導入されたが、クラブには当て字として「倶楽部」が用いられた。漢字3文字の意味は「ともに楽しむ場所」である。この明治時代の原点に立ち返って、昭和初期の鍛錬主義や軍隊の論理、滅私奉公をベースにした活動ではなく、同好の仲間が異年齢で集まり、主体的に創って運営していく活動を目指す。令和の時代の新しいスタイルの倶楽部活動を創っていきたいものである。

執筆者プロフィール

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長沼 豊(ながぬま・ゆたか)
学習院大学文学部教育学科教授。日本部活動学会を設立発起人として立ち上げ初代会長に。現在は副会長。教科外教育を専門とする。

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