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ゲーム・ネット・スマホとどう付き合うか(吉川 徹:愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科) #こころのディスタンス

今や、スマホやPCは、ゲームやネット動画などを楽しむ娯楽ツールとしてだけでなく、他者とつながり生活に必要な情報を得るための、生活に不可欠なツールとなっています。一方で、それらに没頭し過ぎてしまう「依存」の問題も、昨今は注目されつつあります。
私たちや子どもたちたちの生活を豊かにしてくれるゲーム・スマホ・ネットと、どううまく付き合えば良いのか。児童精神科医の吉川 徹先生に解説いただきます。

■ ICTを上手に使うための「3つのリテラシー」

 現代の子どもたちにとって、ゲームやインターネット、スマートフォンなどは、常に身近にある、生活の一部といってよいものになってきています。それは余暇の活動に留まらず、家族や学校との連絡、学習やアルバイトなど、様々な場面で当たり前のように使われるようになってきました。特にこの予想もしなかった新型コロナウイルスがもたらした「新しい生活様式」の中で、ICT(Information Communication Technology: 情報通信技術)の存在感はさらに大きなものになっています。

 一方で子どもたちにとって、ICTを上手に使いこなすことは、容易なことではありません。ICTリテラシーという言葉がありますが、読み書きと同じようにICTを使いこなすスキルは学んではじめて身につくものであって、自然に獲得されるものではありません。自分はICTのリテラシーについて、①使えるリテラシー、②使いすぎないリテラシー、③安全に使うリテラシーの3つにわけて考えるようにしています。この中で子どもの精神科医にとって特に関心があるのは②の使いすぎないリテラシーです。ゲーム、ネット、スマホなどは余りにも魅力的すぎて、子どもがすぐに自分で使う量をコントロールできるものではありません。それなのに大人になるまでに使い方を覚えておかなければいけないものでもあります。そのために必要なのが早期からのリテラシー教育です。

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■ 使う時間の約束を守らせるにはどうしたらよいか?

 よくゲームやネットは使う時間を約束するのがよいと言われます。これはその通りなのですが、ゲームやネットに関する約束は子どもが守るものではありません。いや、守れるものではありません。それは余りにも魅力的過ぎるので、多くの子どもにとっては自分の力で守るのが難しい約束になります。ですからゲームやネットに関する約束は、大人が守らせるものと考えた方がよいでしょう。このため、約束をするときには「どんな約束を守れるのか」ではなく「どんな約束なら守らせることができるのか」を考えることになります。守られていない約束が放置されているのは、約束がないより悪い状況です。なぜならそれはゲームやネットに限らず、大人と子どもとの約束、それ自体の価値を脅かすからです。「ゲームは1日1時間て言ってたけど、守ってなくても平気じゃん。大人と子どもの約束ってそんなもんなんだな」と。

 ICTにいつから触れるのがよいのか、学術の世界でも論争が続いています。しかし自分の知る限りでは早いほうがよいという決定的な証拠も、遅い方がよいという充分な根拠もまだ見当たりません。ただ一つ自分に言えるのは、大人が約束を守ることをしっかりサポートしながら使い始めるためには、それは早い時期の方がよいかもしれないということです。ICTに関する知識や技術や熱意、そして交渉力や腕力は、思ったより早い時期に子どもの方が大人を上回ります。そうなってから約束を守る練習を始めるのは、なかなかに難しそうです。大人がICTについて学び続けて、常に子どもより上手でありつづけることができる家庭はそれほど多くはありません。ペアレンタル・コントロールを使うことは大いにお勧めしますが、それが有効である期間も長くはないのです。

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■ 上手に「おしまい」ができるようにするために

 子どものICTリテラシーの獲得で最も大切なことの一つが「おしまい」の練習です。ゲームやネットはとても魅力的なので、「おしまい」にするときに子どもの気持ちが乱れるのは、わりと当たり前のことです。少なくとも歯医者さんで子どもが泣くのと同じくらいに当たり前だと言えるでしょう。この不快さを、大人がお手伝いすることで、子どもが受け入れられるものにしていくことがリテラシー獲得の第一歩です。ゲームやネットをおしまいにするのは、それほど辛く悲しい嫌な気分になることではないのだと、日々の暮らしの中で学んでいくことが目標になります。自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などのいわゆる発達障害のある子どもは、それでなくても「おしまい」が苦手であることが多いので、この「おしまい」の練習はより重要になってきます。

 このためには子どもが少しでも楽に、気分よく「おしまい」にできるような演出が必要です。例えばゲームは必ずおやつの前の時間にする、ゲームを時間までに終わらせることができたら次回から使えるゲーム10分間の回数券を用意する、次にゲームを使える時間がそれほど遠くない将来に予告されている、などなど「おしまい」を受け入れやすくなる設定はいろいろあります。また大人の気力と体力と時間の余裕があるならば、1日に複数回、ゲームやネットの時間がある方がよいかもしれません。そのぶんたくさん「おしまい」の練習ができるのですから。ゲームは1日1回60分よりも、1日3回各20分とか。

 逆に「ゲームをやめて宿題をやりなさい」とか「今日はゲームをしてもいいよ」とお父さんが許可した時だけゲームができるといった設定は、「おしまい」の苦痛を増幅します。「おしまい」がますます嫌いになってしまうかもしれません。

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 子どもが気分よく「おしまい」にできるようになってきたら、子どもの年齢が上がってきたら、だんだんと子どもの自律に任せる約束に変えていくのがよいでしょう。1日の合計時間だけは決めて配分は任せるとか、使い終わる時間(20時とか21時とか)だけ決めてあとは任せてしまうとか。それぞれの子どもの発達の状況にもよりますが、高校生や大学生の年齢になってきたら完全に自律に任せるのがよいかもしれません。というより、その年齢で大人が「約束を守らせる」ことは多くの場合できないでしょうし、それこそが健全な子どもの発達かもしれません。

 この厳しい制限を緩い制限におきかえていくという流れは、ネットやゲームの使用に限らず、子育ての大原則と言えるでしょう。もちろん原則なので例外はありますが、逆は子どもから強い反発を受けるし、受けるべきでもあるでしょう。大人が手伝わせてもらえる間にいかに自律のための基本的な力を身につけていくかということが、将来の「使いすぎないリテラシー」に繋がるのだと信じてトライしてみる価値はありそうです。そしてこれは「安全に使うリテラシー」でも同じことかもしれません。大人の充分な庇護(チュートリアル)のもとで、恐る恐るネットのコミュニケーションの世界に漕ぎ出して、だんだんと大人の手を離れて素晴らしい宝物を求めて未知なる冒険に飛び込んでいく……コンピューターRPGのやり過ぎと言われそうですが、そんなイメージも浮かびます。

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■ ネット以外にも世界を広げる

 そしてもう一つ、使いすぎないリテラシーのために大切なことは、デジタルの世界の活動の他にも、楽しくやりがいのある活動がたくさんあるということを子どもに知ってもらうことです。インドネシアのある地域では子どもたちをスマホから引き離すために、一人一羽ずつひよこを配ったそうです。これを紹介した記事によると子どもは「スマートフォンで遊ぶ方が面白い」と話していたそうで、期待したほどの効果はないのかもしれません。でもひょっとすると50人に一人、100人に一人の子どもは、ひよこの飼育の魅力に目覚めてくれるのかもしれません。だとすれば、あと100種類、同じような試みをしていけば、多くの子どもに一つの趣味が増えるのかも知れないのです。釣りが好きになる子がいるかもしれない、編み物が好きになるかもしれない、サッカー少女になるかもしれない……などなど。

 これを考えていくと、小学生くらいの子どもに勉強なんかしている時間はないのではないか、とわりと本気で思います。中学生になる頃までに、一つでも二つでもデジタルの世界だけではない本気で楽しめる趣味があること、できればその趣味を一緒に楽しむ仲間がいることは、ゲームやネットへの依存の防波堤になるかもしれません。「役にたつこと」だけを子どもにやらせすぎないというのは、依存の予防のために大事なことです。その意味では子どもに「使えるリテラシー」を身につけるための大人の努力が、かえって逆効果になることも実は少し心配しています。学校で教えられたせいでプログラミングやデジタルの世界での創作活動が嫌いになるというのは、なかなかもったいないことでもあります。

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■ 大人自身がゲーム・ネットとどう向き合うか

 子どもたちにICTリテラシーを教えていくためには大人もICTに関する知識を身につける必要があります。さらに大人がそれを子どもに教えるための時間、気力、体力、時には経済力の余裕も必要です。子育てを支援する専門家や行政の立場からは、これらの資源をどのように確保していくかということが大きな課題となってきます。全ての家庭が子どもにICTリテラシーを教えることができる「余裕」を持つこと、あるいはそれを誰かが手伝ったり代行したりしてくれること、これが現代の育児支援の一つの目標になるのかもしれません。

 子どもたちが大人になったときにどのような世界がそこにあるのか、そのとき人類にとってICTがどのような存在になっているのか。それを予測し、想像することさえもとても難しいことです。僕はこの新型コロナウイルスの流行で、ますますその思いを強くしました。自分の仕事の仕方が、こんなに短期間に、こんなに大きく変わるとは予想もしていなかったのです。将来の世界について考えるときに一つの試金石になるのが、大人としてeスポーツに対してどのような態度を取るかということかもしれないと思っています。大人の狭い視野でそれを否定することができるのか、将棋や野球との違いはなんなのか。安心して飛び込める業界にするために必要なことはなんなのか。考える材料がたくさんあります。誰にも予測しきれない子どもたちの将来のためにいま大人に何ができるのか、考え続けていきたいと思っています。

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執筆者プロフィール

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吉川 徹(よしかわ・とおる)
児童精神科医。愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科(児童精神科)部長・あいち発達障害者支援センター副センター長。ほかにNPO法人日本ペアレント・メンター研究会副理事長、日本児童青年精神医学会代議員などを担当。
愛知県を中心に発達障害のある児童青年の臨床に長年携わっている。主な編著書に『子どもの発達と情緒の障害』(岩崎学術出版社)、『ペアレント・メンター入門講座 発達障害の子どもをもつ親が行なう親支援』(学苑社)、『日常診療における成人発達障害の支援: 10分間で何ができるか』(星和書店)ほか。


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