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【第2回】韓国の修能(大学修学能力試験)不正防止対策について 連載:大学入試における不正行為の未然防止について考える

大学入学共通テストで、スマホを使っての問題流出事件が起きました。これを受け文部科学省からは不正行為の未然防止の徹底が通知されています。今後の日本の防止対策を考える上で、ずっと不正防止対策を進めている中国と韓国の情報に詳しい東北大学の南紅玉先生に、両国の対策について二回に分けてお書きいただきました。第二回は韓国の対策についてです。

はじめに

 第一回目の中国の大学入試に続き今回は、韓国の大学修学能力試験(略称:修能)における不正防止対策について紹介する。

1. 韓国の大学修学能力試験

 韓国では、毎年11月中旬の木曜日に日本の大学入学共通テストに当たる「大学修学能力試験」、通称「修能スヌン」(以下、修能)が実施される。前回紹介した中国の場合は一貫して高考の成績のみでほとんどの受験者の進学状況が決められる。一方、韓国では,大学入試改革が何度も行われ、1990年代以降推薦入試やAO入試に当たる随時選考が導入・拡大されるなど大学入試の機会と方法は多様化してきている。とはいえ、修能試験の重要性に変わりはない。各大学では修能終了後に面接や小論文などの2次試験も実施されるが、受験生たちが最も本腰を入れて取り組むのが修能である。

2. 携帯電話を使った大規模カンニング事件

 2004年11月17日に実施された「2005年度大学修学能力試験(修能)」で携帯電話を使った組織的なカンニングが発覚した。この事件では、韓国全土で計314人が摘発され、大きな社会問題となった。カンニングを主導した受験生らは、中学校または高校時代の同級生だった。各自得意な科目の解答を送り、苦手な科目の解答を送ってもらうことで互いに点数を上げようとした。手口として、各学校で成績が優秀な受験生を確保し、送信用と受信用の携帯電話2台を肩や足の付け根に着け試験会場に入る。正解の解答番号の数字と同じ数だけ送信用携帯を叩くことで、会場外にいる仲間に送信する。仲間たちは、集約した解答から正解を導き出し、試験会場で解答を待つ受験生にメールで送信するという。正答を送ったものは数万円の謝礼を得て、受信者は数万円で答えを買っていた。この事件で受験生ら31人が「偽計公務執行妨害罪」で起訴された。

 それ以前にも代理受験や携帯電話の受送信等による不正行為者が多く検挙されていた。2004年の大規模カンニング事件については、修能前にインターネット上でカンニングについての噂が流布され、実際に警察にも通報があった。しかし、当時の法律では警察の介入が許されておらず、事前の捜査には至らなかった。事件発生後、未然の防止策が取れなかったことに対し、世論による批判は強まった。

3. 修能における不正防止対策を強化

 2004年の事件を受けて、韓国教育部は不正行為防止対策を出した。例えば、願書受付時から本人確認を徹底し代理受験を防止する、1つの試験室の受験生の数を32名から28名に減らし、電子機器を持ち込み禁止物品に指定し、摘発された場合、試験の成績を全て無効にするなどである。試験会場の廊下にて金属探知機を使用し電子機器の所持について検査する。代理試験防止のため、OMR(光学表示判読)答案用紙で筆跡確認欄を導入し、筆記用具を試験会場で配布し、試験直前に配布したコンピューター用サインペンと鉛筆以外は持ち込み禁止にする。補聴器や拡大鏡など身体的条件や医療に必要な物品についても科目ごとに事前点検する。

 不正行為に関連する法改正にも踏み切り、一般的な持ち込み不正は「試験無効」とするが、計画的、組織的な悪質不正行為には即時に試験無効にするだけに留まらず、翌年の受験資格を停止するなど厳しい措置を取る。

 表1は、韓国教育部で出している「2022年度の修能における不正行為防止対策」に規定している物品所持に関する規定の詳細である。試験会場への持ち込み禁止物品として携帯電話および通信機能付きの全ての電子機器が含まれている。

表1 2022年度 修能における物品所持に関する規定

注:出典「2022年度の修能における不正行為防止対策」より筆者翻訳

 次に2021年11月に実施された「2022年度の修能における不正行為防止対策」の内容について具体的に紹介する。

4. 2022年度の修能における不正行為防止対策

 2021年10月13日、韓国教育部より2022年度の大学修学能力試験が公正かつ安定的に施行できるよう、「2022年度の修能における不正行為防止対策」が発表された。修能試験で不正行為が摘発された場合、該当受験生の試験結果が無効になる、または翌年の修能受験資格が停止される場合がある。

(1) 試験会場及び試験室(教室)の環境作り

 1つの試験室の受験生は最大24人とし、各試験室(教室)に2~3人の試験監督を配置し、受験生の電子機器所持可否検査のために金属探知機が支給された廊下監督官(連絡員)を配置する。また、地域の警察の支援を要請し、修能当日の試験会場周辺のパトロールも強化する。

(2) 試験における管理・監督の強化

 試験監督は、試験時間中に受験生の本人確認、所持可能な時計等について確認する。1時間目と3時間目には、確認のための時間を特別に設定し、より綿密に確認する。また、試験会場への持ち込み禁止物品、試験中に所持可能な物品以外の物品等に対する確認も強化する。携帯電話などすべての電子機器は試験会場に持ち込み禁止物品となっている。試験会場への持ち込み禁止物品などを所持した不正行為の摘発が毎年多数発生しているため、受験生に対して厳しく注意が行われる。試験中の所持可能な物品以外の物品は、その種類によって押収措置が行われる場合や、直ちに不正行為として処理される場合がある。受験生本人による所持物品の徹底的な確認が行われる。

(3) 修能における不正行為のオンライン通報センターの運営

 修能における不正行為を防止し、迅速な措置を行うため、韓国教育部と市・都の教育庁は、各機関のネットハウス(Webページ)に「修能における不正行為のオンライン通報センター」を設置して運営する。運営期間は、修能施行2週間前から修能試験当日までである。不正行為の計画の情報や目撃内容などを通報することができる。教育部と市・都教育庁は、オンライン通報センターなどを通じて受けた修能における不正行為に対し、必要に応じて警察庁など関係機関と協力体制を設け、協同で対応する。

(4) 不正行為者への措置

 韓国教育部に設置された「修能における不正行為に関する審議委員会」は、修能当日の現場で摘発された不正行為を含め、試験の事後に報告された案件について、関連規定に従い制裁程度等を審議し、修能の成績通知前に当事者に審議結果を通知する。代理受験等の組織的で計画的な不正行為については、警察に捜査依頼をする。教育部では、各市・都の教育庁及び韓国教育課程評価員とともに、修能における不正行為に関する内容が受験生に十分に通達されるよう、映像物や冊子などの資料を製作・配布するなど広報を強化する。不正行為に関する詳細を資料「受験生留意事項」に詳しく盛り込み、10月中に各市・都の教育庁及び関係機関に通知する。高校3年の在学生以外の志願者の場合、相対的に不正行為関連の留意事項などに触れる機会が少ないことも考えられるため、「女性家族部」(政府部門)など関係省庁と自治体の協力を得て積極的に広報する。

 以上、韓国の修能における不正防止対策の現況を紹介した。韓国においては、2004年の入試不正事件が社会に与えた衝撃が非常に大きかった。世論での不正防止を求める意見も強く、韓国政府はその対応策に急を要することとなった。韓国教育部を始めとする関連機関がその後の修能試験施行と管理総合対策について協議をし、案として試験会場の電波遮断装置の設置、金属探知機の設置、持ち物検査の強化など技術的な不正防止対策と試験監督の増員、試験用紙種類の多様化など試験管理法案等を具体的に論議した。これらの案に対し、当時は様々な意見があり、例えば、持ち物検査が人権侵害に当たらないか、電波遮断器の設置等の多額の予算をどうするかなど、すぐ施行するには課題が多すぎるとされた。しかし、結果的には2005年11月に実施された2006年度修能から大幅に不正行為の防止対策を強化することとなり、現在に至る。

 第一回目の中国の時も言及したが、不正行為防止対策を強化したからといってすぐに根絶することは難しい。韓国でも、いまだに毎年約200件の不正行為が発覚している。科学技術の更なる発達に伴い、今後もっと多様で巧妙な不正行為の手口が登場する可能性は十分考えられる。日本においても、今回の共通テストで起きた不正行為は氷山の一角である可能性がある。共通テストのように毎年大規模で行われる入試の不正行為に対する徹底的な予防と管理、監督が今後強く求められるだろう。 

参考資料

2004.11.21「교육부“뾰족수 없다”」경향신문https://news.naver.com/main/read.naver?mode=LSD&mid=sec&sid1=102&oid=032&aid=0000094972
2005.3.30「[2006학년도 수능]부정행위 처벌강화」 N뉴스 https://news.naver.com/main/read.naver?mode=LSD&mid=sec&sid1=100&oid=011&aid=0000076342
2021.10.13「2022학년도 수능 부정행위 방지 대책 발표」(대한민국 교육부)
https://if-blog.tistory.com/12663

執筆者プロフィール


南紅玉(なん・こうぎょく)
東北大学高度教養教育・学生支援機構助教。博士(教育学)。「農村の国際結婚」をテーマに、外国人の日本社会への適応についてジェンダーの視点から研究している。また、留学生の受け入れや大学入試に関する日・中・韓の比較研究にも取り組んでいる。

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