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「ウィズコロナ」の時代のメンタルヘルスケアと心理職のあり方について(櫻本真理:株式会社cotree CEO) #つながれない社会の中でこころのつながりを

 このコロナ禍では、オンラインによるメンタルヘルスケアが間違いなく欠かせないものとなってきています。そこで、オンラインカウンセリングサービスを提供し続けている株式会社 cotreeの櫻本真理さんにご寄稿いただきました。
 言うまでもなく、テクノロジーは間違いなく私たちの生活を大きく変えています。しかし、テクノロジーを使ってカウンセリングの提供をするということについて、既存の専門家たちから、理解されにくく孤独な道を歩んできたことがこの記事では触れられています。
 テクノロジーで多くのサービスの在り方が大きく変わる世の中で、心理職はこれからどのようにテクノロジーと向き合うべきか。櫻本さんの強い意志と決意を感じられる一文です。ぜひご一読ください。

オンラインカウンセリングのこれまでと今

 株式会社cotreeという会社は、2014年に設立して以降、オンラインカウンセリングサービスを提供し続けている。当時初めてのオンラインカウンセリングではなかったし、それ以前もそれ以降も毎年のように「オンライン相談/カウンセリング」サービスは数えられないほどに生まれては消えていった。

 2014年当時、心理療法系の学会等に参加した時には「オンラインのカウンセリングなんて、自分たちのやってる心理療法とは別物」だと言われた。非言語情報のない中で、正当な心理療法はできないのだと。2019年にはいくつかの学会や大学の授業で登壇依頼をされるようになったから、少し業界環境は変わっていたのだと思う。だがやはり一部の先生からの「オンライン、ねぇ」という視線を感じながら、肩身の狭さを感じていた。

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 そして2020年、「オンラインでしか繋がれない世界」が突如としてやってきた。

 有事とはいえ対面カウンセリングの現場が失われた今、cotreeには今までの倍以上のペースで専門家からの登録審査申込が届くようになった。「オンラインでやらざるを得ない」状況で、心理職の皆様も変化を求められているのだと思う。

 今まで語られてきた「カウンセリングは対面で」は、提供者側の論理だったことが、今改めて証明されているように思う。カウンセラーにとって、オンラインは極めて情報が限局され、やりづらくなる。海外の研究を参照すると、オンラインカウンセリングの満足度は、クライアント側では対面と同等かそれ以上というものが多い。一方、カウンセラーはオンラインでの実施を「やりづらい」と感じているのだ。

 ここから改めて私たちが問わなければならないのは「提供者の論理で、クライアントの自由を奪っていなかったか。そしてそれをあたかも動かし得ぬ真実のように語っていなかったか」ということだ。

 コロナ以降の社会的変化や経済的不安の高まりとともに、メンタルヘルスの問題は長期的な社会課題として顕在化していくはずである。過去に心理療法が贅沢品だった時代には、ラグジュアリーブランドのように通販禁止・客が来るのを待っているだけ、と言う世界が成立していたかもしれないが、今やメンタルヘルスケアは贅沢品であってはいけない。

 より多くの人に支援を届けねばならぬ時に「デリバリー」は心理療法に内包される価値の重要な一部を構成する。技術の進化に伴ってデリバリーのあり方も多様化する一方、技術の活用が進むことで人が担うべき役割の範囲は狭まっていく。そしてその時代において、専門家のあるべき姿は大きく変化するはずなのである。したがってここでは、ウィズコロナ時代の専門家に必要とされるマインドセットについて感じるところを挙げてみたい。


「顧客志向」で自身の技術とテクノロジーを使う力

 オンラインカウンセリングの運営者としてオンラインカウンセリングを実施するにあたっての「倫理は?」「技術は?」「リスクは?」と問われることがあるが、それ以前に専門家に必要なのは「正しい心理療法をクライアントに提供する」という専門家主体の考え方ではなく、「クライアントのwell-beingを実現するために、自分の技術と、テクノロジーと、リソースをいかにつなぎ合わせることができるのか」という顧客重視の考え方なのではないか。

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 オンラインをはじめとする新たな技術や新しいサービスに対し、心理専門家が「それは正しく心理療法的ではない」と争っているだけでは、ただクライアントに受け入れられず滅んでいくだけである。技術や新しいサービスをうまく組み合わせながら「クライアントにとって最適な」、専門性の高い支援を提供できる専門家の存在が求められているのではないか。専門家は「技術のよき使い手」である必要性が高まるはずである。

「枠」を問い直す力

 「オンラインか対面か」は、カウンセリングのためのアプローチの一つの側面に過ぎない。「書く」か「話す」か。「バーチャル」か「リアル」か。「教育」か「内省」か。「個人」か「集団」か。例えば「歩きながら」「いつでもどこでも」「私的空間」「思いついたらすぐできる」なども、従来の心理療法の「枠」を外れた概念である。しかし、それはオンラインカウンセリングであれば、あるいはこれからのカウンセリングにおいては、十分に想定しておくべき事態である。

 伝統的な心理療法で大切にされていた「枠」はその支援が発展した時代の支援のあり方を前提に最適化した考え方であり、技術がクライアントの状態や環境についての無限の可能性を広げた現代においては「枠の意義」自体を問い直し続けなければならない。

「正解」から始めない力

 カウンセリングにおいて「目的」すなわち「クライアントのwell-being」は定数ではなく変数でありうる点が極めて一般のサービスと異なる点である。そして、社会が変化し、個人が多様化する中でこの視点はさらに重要になる。そこに答えがない中で、少しずつ正解を紡いでいく見立てと介入の技術が必要となる。

 たとえば心理専門家向けに勉強会を開催すると「わからないから、できない」という声を多く耳にする。「エビデンスは」「論文は」。これだけ変化が大きな時代に「エビデンスと論文」からスタートしようとすれば、変化し続ける顧客のニーズと社会に合致したサービスは提供できるはずがない。答えがないなりに、小さく始めて知恵を積み重ねる姿勢が必要である。

 もちろん、このようなリスク度外視でやることを推奨しているわけではない。言いたいのは、多くの職業と同様、環境変化の中で専門家は「変化」が求められていると言うことである。その中で「技術志向」「枠への囚われ」「正解へのこだわり」は大きなハードルとして立ち現れる可能性があるということだ。

 変化の時だからこそ、私たちは独善的になるのではなく、相互につながりながら、支え合いながら、新しい環境と技術、そしてそれを支え合う関係性を自ら作っていく姿勢が必要であると考えている。

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 その意味で、今回の発信の取り組みのように、金子書房さんという心理の世界における「老舗」的な存在が、今までの枠を取り払って「過去」と「未来」、「心理職」と「テクノロジー」、「心理職」と「心理職」の架け橋を作って行こうというチャレンジをされているのは、希望だとも感じるのである。

(執筆者プロフィール)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社cotree/株式会社コーチェット代表取締役。京都大学教育学部卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社。ゴールドマン・サックス証券に転職し,証券アナリストとして勤務中に軽いうつ状態に。より身近に心理的な支援を受けられる仕組みづくりをするため, 2014 年 5 月にオンラインカウンセリングのcotree を設立。2020年1月株式会社コーチェットを設立。2017年よりNPO法人Soar理事、2020年より株式会社CAMPFIRE社外取締役。


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