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2022年9月刊行『続・発達障害のある女の子・女性の支援』(川上ちひろ・木谷秀勝/編著)《書籍の序文をまるっと無料公開》

 この9月に『発達障害のある女の子・女性の支援』の続編、『続・発達障害のある女の子・女性の支援』が、弊社より刊行されます。
 前著は、情報の少ない発達障害の女の子・女性の「からだ・こころ・人間関係」の支援について、ライフステージごとの事例から学べる本として2019年3月に刊行されました。
 カバー表紙に描かれた、鎧を身に纏った勇敢な女性の姿が印象的な1冊です。


 そして今回刊行される「続編」は、昨今、発達障害の研究領域で注目を集めている「カモフラージュ」をテーマに、発達障害のある女の子・女性が抱える諸問題を取り上げています。ぜひ多くの人たちに手に取っていただきたい1冊です。
 なお、今回の「続編」のカバーは、ヴェールを背にかけた和装の女性のイラストが目印です。

 この度、特別に9月刊行の書籍の「はじめに」(序文)を先行公開いたします(執筆者は編者のお一人の木谷秀勝先生です)。
 なぜ、今回の「続編」のテーマが「カモフラージュ」となったのか、発達障害のある人たちの「カモフラージュ」とは、「自分らしさ」とは、何なのか・・・それらの読者の疑問に応える導入にもなっております。ぜひご一読いただき、続きは書籍をお読みいただければ幸いです。

 それでは、以下、「はじめに」の紹介です!


 朝の6時、いつものウォーキングから一日が始まります。今日の空色や風を感じ取りながら、一日の予定をシミュレーションしつつ、一歩一歩進んでいきます。今日はどんな講義を、今日は誰と面接を、今日は(やれやれ)会議が・・・などと頭の中を整理する作業が続きます。

 もうおわかりかと思いますが、私たちは通学、通勤など朝の移動の時間で、一日の状況に応じて複数の仮面を準備します。筆者が毎朝行なっているウォーキングと同じように、こうした準備する時間があるからこそ、また、意識しているからこそ、「本当(素)の自分」と「仮面の自分」の間に齟齬なく、一日を過ごすことができます。筆者の場合も、大学の教授、カウンセラー、朝のウォーキング愛好者などの仮面を使い分けています。

 ところが、筆者が出会う発達障害の子どもたちや大人たち、その中でも特に女の子や女性たちにとって、複数の仮面を相手や社会的状況にタイミングよく合わせるだけでなく、「自分らしさ」や「本当の自分」もどこかで期待しながら生きていくことが、とても困難であることが臨床的にもわかってきました。しかも、こうした発達障害のある女の子・女性が抱える「カモフラージュ」の誘因や行動特徴だけでなく、その結果生じるメンタルヘルス上の諸問題への関心が国内外でも高まってきています。

 そこで、川上ちひろ氏と筆者が編集した前著『発達障害のある女の子・女性の支援──「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』に続く第2弾として、本書では「カモフラージュ」を中心に企画した次第です。

 この「カモフラージュ」については、筆者が担当した第1章を参考にしてもらえると幸いですが、その導入として、イプセン著『人形の家』(1996年,原千代海訳,岩波文庫)と森口奈緒美氏の紹介から始めましょう。

 『人形の家』は1879年(明治12年)に出版されました。男性中心だった当時の社会状況に対して「訳者【解説】」では次のように書いています。

「イプセンがこの戯曲で示したのは、何よりも自分自身が何者なのか、まずそれを確かめるのが人間の義務であり、そういう人間になるべきだ」

 と、当時の考え方に「爆弾を投じたようなこの作品」と評しています。主人公ノーラの「あたしは、何よりもまず人間よ」の言葉は、けっして世間知らずな戯言ではなく、現在の女性の生き方にも通じる、そして今回の「カモフラージュ」にも通じる新たな時代への一言だと考えることができます。

 一方、森口奈緒美氏は、皆さんもよく知ってのとおり、わが国で最初(1996年)に発達障害のある女性として自らの体験を『変光星──ある自閉症者の少女期の回想』(その後、2014年に遠見書房から再出版)に著した当事者です。その後も発表されている森口氏の一連の作品を読んでいると、まさに「カモフラージュ」と「自分らしさ」の狭間に苦悩している(現在も)姿が、20年以上も前から表現されていたことに驚くばかりです。同時に、森口氏のように当事者の視点からずっと訴えられてきた支援のあり方が、いまだに理解されない現実にも驚きます。

 本書では、ノーラや森口氏と同じように日々苦悩しながらも、前向きに生きていこうとする発達障害のある女の子・女性の姿とともに、彼女たちの率直な思いを、出来るだけ多くの方々にご理解いただきたく、多様な領域の専門家とともに、発達障害のある女性当事者にも執筆を依頼しています。是非、最後までご高覧いただき、奇譚のないご意見・ご助言を賜りますようお願いいたします。


 また、刊行後の9月23日(金・祝)には、川上ちひろ先生を講師に、10月8日(土)には、木谷秀勝先生を講師にオンラインセミナーも行われます。
こちらもぜひご参加ください。
※詳細・お申込みは以下のリンクから。

編著者紹介

川上ちひろ(かわかみ・ちひろ)
岐阜大学医学教育開発研究センター併任講師。名古屋大学大学院医学系研究科博士課程修了、博士(医学)。岐阜大学医学教育開発研究センター助教を経て現職。専門は医療者教育(多職種連携、医療面接、学習者支援)、特別支援教育における性教育など。NPO法人アスペ・エルデの会のディレクターとして、長年発達障害の特性がある子や保護者に関わる。「性と関係性の教育」ということで、性に関する教育方法について広めている。
おもな著書に『続・発達障害のある女の子・女性の支援 ──自分らしさとカモフラージュの狭間を生きる』(金子書房,2022年9月発売予定)、『発達障害のある子どもの性・人間関係の成長と支援』(遠見書房,2020)『発達障害のある女の子・女性の支援』(金子書房,2019)、『自閉スペクトラム症のある子への性と関係性の教育』(金子書房,2015)など。

木谷秀勝(きや・ひでかつ)
山口大学教育学部附属教育実践総合センター教授。九州大学大学院教育学研究科博士後期課程単位満期退学。九州女子短期大学講師、助教授、山口大学教育学部准教授を経て現職。専門はカウンセリング。青年期ASDの地域支援など。長年に渡り自閉症のある子どもや大人の支援に関わるエキスパート。「『自分らしく生きる』ってなんだろう?」をASD当事者と一緒に考えるプログラムの実践活動に取り組んでいる。
おもな著書に『続・発達障害のある女の子・女性の支援 ──自分らしさとカモフラージュの狭間を生きる』(金子書房,2022年9月発売予定)、『発達障害のある女の子・女性の支援』(共編,金子書房,2019)、『子どもの発達支援と心理アセスメント』(金子書房,2013)、『発達障害の「本当の理解」とは』(共著,金子書房,2014)など。