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自分の間違いを認められない葛藤をどうするのか(豊岡短期大学教授:鈴木由美) #葛藤するということ

 私たちは日々、さまざまな葛藤に出会っています。何か一つを選ばなければいけないとき、やりたくないのにやらなければならないことがあるとき、他の人の言葉や行動に納得がいかないとき、自分の間違いが受け取められないとき……これらの葛藤はどのような心理から生まれているのでしょうか。
 また、どのように対応するのがよいのでしょうか。
 鈴木由美先生にお書きいただきました。

葛藤って何

 皆さんは日々迷いや悩みがあると思います。葛藤する場面はどんな時でしょうか。葛藤には3種類あります。①目の前にケーキとおせんべいがあり,いずれかを選択しなければならない時,これを接近―接近の葛藤といいます。②宿題をしないといけないが,やりたくない。しかし,やらないで学校に行くと友だちに不真面目な人と思われる。どちらも避けたい葛藤で,回避―回避の葛藤といいます。③朝はもっと寝ていたいが,寝ていたら遅刻して怒られる。寝られることは嬉しいが,その後怒られるのは嫌だという,接近-回避葛藤になります。葛藤とは,さまざまな欲求の対立が生じ,その選択で困難になることを言います。あなたはどんな葛藤をしているでしょうか。

自分の葛藤をどうやって解決するの

 普段の生活の中で,ちょっとした葛藤はよくあることではないでしょうか。接近―接近の例で考えれば,勉強やお仕事でもちょくちょく起きることです。皆さんが葛藤をうまく回避できるのは,今までの経験や,自分なりのルールでどちらかを選ぶことができるからでしょう。さて,自分はいつもどんなやり方をしているでしょうか。オーストリアの精神科医ジグムント・フロイトは,自分の欲求が叶わなかった時,自分なりに心が壊れないように,無意識に心を守ろうとする働きがあると述べています。ケーキとおせんべいの究極の選択の時,お母さんが素早くケーキを選択した場合,あなたは「ケーキは太るから,おせんべいのほうがいい」と考えたとします。これはフロイトの考えでは,合理化という防衛機制を働かせていると考えます。合理化とは,自分にとってイヤな葛藤を高めないための行動・考え方・態度や感情のことです。つまり食べたかったケーキが食べられなくても,これは太ると考え,心の安定を図っているのです。小さい頃にイソップ物語のすっぱい葡萄というお話を聴いたことがないでしょうか。おなかがすいた狐が,木になった葡萄を見つけて食べようとするのですが,どんなにジャンプしても葡萄に届かない,その時に狐は「この葡萄はすっぱいにちがいない」と考え,食べられなくて良かったと去っていくのです。今までの経験から,自分の欲求が叶わなくても,対処できる方法を身に着けているのだと思います。でも,葛藤をうまく回避できない場合もあるのではないでしょうか。

葛藤はいけないこと

 葛藤で苦しくなるのは,対人葛藤だと言われています。食べ物の選択や,自分内の葛藤は一人で対応ができますが,相手がいるとなると,自分の力だけでは葛藤から抜け出すことが難しくなるでしょう。対人葛藤とは,人と対立する状態で,ある人の言動が他の人の期待や願望を妨害している事と言われています。自分はこうしたいのに,どうして怒られなければいけないのか,自分が正しいのに,なぜ間違っていると思える上司に従わなければならないのか,と葛藤がおこるのです。葛藤で確かに苦しくなるのですが,もう一度自分の考えを確認する事や,上司にもう一度話してみるなど,自分の考えから一歩進めることができる可能性もあります。まったく葛藤のない社会がいいとは限らないと思うのです。誰も何も言わない,直接言われなければ葛藤はないかもしれませんが,成長もないと思います。葛藤があってもそれを適切に対処することが,対人関係では重要なことなのではないでしょうか。私自身も大学生になり,一人暮らしを始めたころ,ごろごろしながら,漫画を読み,お菓子を食べている時に,ふと,いつもなら怒られ葛藤するのに,怒る人がいないことに物足りない感じがしたことを覚えています。

 でも,間違えを認められない葛藤はどうしたらいいのでしょうか

 自分が間違えてしまった時,それを認めることは難しい事だと思います。間違いをすぐ認められるのは,タイミングがよく,周りの雰囲気が良かったりした場合だと思いますが,いつも言いやすいチャンスがあるわけではありません。なぜ認められないのでしょうか。アメリカの心理学者アブラハム・マズローは人間の欲求を5段階の階層で理論化しました。これは三角形で表されるのですが,この下から4段目に承認欲求があります。これは「誰からも認められたい・褒められたい」という思いです。私たちはできれば,すべての人から認めてもらい・褒められたいと思っているのです。これが葛藤を生んでいるのです。自分が間違いを認めたら,この人は間違いをする人だと思われて,ダメな人間になってしまう・自分は人から信頼されなくなると考えて,間違いを認められなくなってしまうのです。なぜこのような考えを持ってしまうのでしょうか。

褒められると脳が活性化する

 皆さんが幼い頃に,家族や先生などから褒められた時,とてもうれしい気持ちになったことはないでしょうか。また,褒められている子の側にいて,「いいなあ 私も褒められたい」と思ったことはないでしょうか。褒められるようになりたい,褒められる行動をしないと,といつの間にか自分に言い聞かせて,「褒められなければいけない」と信念を持ってしまうのです。なぜそうなるのでしょうか。実は私たちの脳は,褒められると元気になるのです。人に褒められると脳は,やる気がでる脳内物質のドーパミンと幸せな気持ちになるセロトニンが放出されることが明らかになっています。前頭前野のやる気脳が刺激され,前頭葉が活性化されるのです。ですから自分の気持ちだけではなく,脳からの影響で「褒められたい」と思ってしまうのです。しかし,いつもどこでも褒められるでしょうか。同じことをしていても,褒められる時もあれば,何も言われないこともあります。しかし脳は「褒められたい」を求めるので,褒められない時は欲求不満になります。

 葛藤の対応はどうすればいいのでしょうか

 大切なことは,褒められることもあれば,褒められないこともあることを理解することです。他人はいつでも自分を見ているわけではないので,他人に褒めてもらえることを考えて,何かをするのではなく,自分で自分の行動を「頑張っている,努力している,正直な人だ」と思えればいいと思うのです。自分が失敗をしたとしても,他人は理解しないかもしれないが,自分で間違いを認め修正すれば,その方が正直な生き方なのではないでしょうか。いつも他人の顔色を窺って,本当の自分の良さを発揮できないのは,とてももったいないと思います。

葛藤との付き合い方

 さて,ここまで読まれて,葛藤についてどんなイメージを持たれたでしょうか。葛藤してはいけない,これが欲求不満で人を苦しめるのだ,と思っていた人は,少し葛藤に対する考えが変化したのではないでしょうか。人は様々な考えや色んな行動をします,多くの人と接すれば接するほど,葛藤に出会うことになります。そんな時は,この人はどんな考えを持って,何を想い,私と接しているのかを巡らせてみるといいと思います。きっと葛藤するときの自分は成長していく自分だと思えるようになるのでないでしょうか。

執筆者

鈴木由美(すずき・ゆみ)
1961年生まれ。豊岡短期大学教授。筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科生命システム医学専攻満期退学。修士(カウンセリング) 専門は、カウンセリング心理学,論理情動療法,対人関係ゲーム。
著書『子どもが変わる 親の話し方・接し方』(ベースボールマガジン社、2007)、分担執筆『家族心理学』(ナカニシヤ出版、2020)、『新・保育と環境』(嵯峨野書院、2019)、『伝説のセラピストの言葉』(コスモライブラリー、2014)など。

著書