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「コロナ失業」の心理的な支援 ~つながりの喪失と再生へむけてできること~(廣川 進:法政大学キャリアデザイン学部教授/日本産業カウンセリング学会会長 ) #こころのディスタンス

コロナ禍で報道が相次ぐ失業。職を失うことはその人にとって深刻な問題であることは言うまでもありません。今回は失業者への支援をご専門の一つとされる廣川 進先生に、失業が心に及ぼす影響とその支援について、ご寄稿いただきました。

1)失業と自殺の相関

 まず図1をご覧いただきたい。日本においては失業率と自殺率は非常に相関が高い。失業率が5%を超えると自殺率(10万人当りの自殺者数)が25人、実数で3万人を超えていたが、近年は失業率が3%を切り、自殺者も2万人にまで下がっていた。

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図1 失業率と自殺率の相関
(引用元:リクルートワークス研究所 自殺の影響は広範囲にわたる―新型コロナウイルスによる失業が健康や自殺に与える影響―(2)茂木洋之より)

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 コロナ禍の影響による景気の悪化はリーマンショックを上回る可能性も高く、265万人が職を失い、失業率は6%を超えるという予測もでている。そうなったら戦後最悪となる。

 また狭義の失業とはカウントされないが、休業状態の実質的な失業者数(隠れ失業者数)は500万人を超え、失業率は10%を超えるという予測まである(木内, 2020)。相関の高さから単純計算したら自殺者はどれだけ増えることになるのか。

 急増するであろう失業者への総合的な支援が少しでも自殺者を増やさない対策につながるのである。私は失業者への心理的な支援について研究と実践を行ってきた(廣川, 2006)。支援のヒントとなりそうなことをこれから述べていく。

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2)失業者のメンタルヘルス調査から

 私が関わった失業者のメンタルヘルス調査を紹介し、失業中の人の心理と支援の可能性について検討したい(廣川, 2016)。この研究はX県の自殺対策事業の一環としてY市の保健所が企画し、ハローワークの協力を得て、利用者(失業中で求職中の方)へのインタビュー調査を行ったものである(2012年)。

 対象者は男性20名(46.7歳)、女性10名(41.9歳)、計30名(45.1歳)。失業期間は男性(8.6ヶ月)、女性(3.4ヶ月)、全体(6.8ヶ月)。対象者はインタビューの趣旨を説明し同意書を書いて「メンタルヘルスモニター」として協力してくれた方である。

 まずメンタルヘルスの状態を把握するためにうつ病の尺度であるSDS(自己評価式抑うつ尺度)を受けてもらったところ、平均点が45.3であった。評価基準は40点台で「軽度の抑うつ性あり」、50点台で「中程度のうつ病の疑い」、60点以上で「重度のうつ病の疑い」となっており、平均値で「軽度と中程度の間」とは非常に高い結果である。

 次にSDS得点の高群(48点以上14人)と低群(47点以下16人)に分けて比較したところ、顕著に差があったのが、自殺念慮・企図(高群50%>低群6%)、生活保護を給付中・または希望(50%>6%)、借金を抱えている(36%>6%)、独身(36%>13%)大学卒(14%<38%)、正社員だった(29%<56%)、転職回数10回以上(36%>0%)の項目であった。調査の性質上、対象者の選定がランダムではなく趣旨を理解し協力してくれる方に限定したため偏りがみられることは否めないが、それにしても30人中7人に自殺念慮・企図・未遂が見られたことは予想以上に失業中の方のメンタルヘルス状況は厳しいと考えられる。

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3)失業で失うもの

 インタビューの逐語録をKJ法で分類分析した。彼らの多くは失業前の労働環境も過酷で、失業、転職、転居転地、加齢を重ねるごとに雇用環境が悪化してきた。その負のスパイラルの過程で喪失の範囲と程度が深刻化していく(図2、図3)。失うものは安定した収入だけではない。社会的なつながり、血縁、職場のつながり(職縁)、地域のつながり(地縁)などの関係性や心理的な居場所も失い、未来への展望や時間感覚も薄れ、心身の不調や抑うつ感が強まっていく。

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図2 雇用環境の負のスパイラルで喪失するもの

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図3  失業のプロセスと考えられるソーシャルサポート

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 インタビューで得られた情報を以下に整理する。失業者がどのような状況に置かれ、どのような心境であったかがわかる。

① 失業前から過酷な環境にいた:リストラ、肩たたき、上司や同僚からのパワハラやセクハラ、いじめなどにあい、人間不信になったり体調を崩したりして自分から辞めた。

② 支えてほしい家族からの疎外:重なる転職で妻からは離婚を切り出され、親からも見捨てられ、うつ病なのに家族の理解がない。高齢の親の年金で小遣いをもらって生活している、家に2人きりでいることがストレス。

③ 失業で失ったもの:家と希望と精神的ゆとり、ライフライン、経済的心理的安心感、職場への信頼感、気のおけない同期入社の仲間、仕事をしていないことでなまって緩んで衰えていく気力、能力、職を求めて各地を転々として故郷を失った。無職だと友人、親、きょうだい連絡を取りづらくなる。

④ これまでに受けた支援:福祉センターの人やハローワークの人は親身に真剣に対応してくれた、市役所の人からは「こんな状況になってから来ても遅い」と言われた。こんな状況になったからいくのじゃないですか。いのちの電話にたくさん電話して「死んじゃいたい」って言うと、そんなこと言わないでください、って言われるもんで何とか思いとどまっている…。

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4)支援の可能性

 引き続きKJ法でのまとめから支援の方向性を検討する。あったらいい支援としては、

失業前に職場のハラスメント相談ができるところ、NPOやボランティアの情報、転職後の定着フォローサポート、失敗した体験談や今の境遇を語り合うシェアリングの研修会、面接に行く交通費・スーツを借りる程度の資金を貸してほしい、必要なときに簡単に借りれるお金、人と気楽に喋れる場、生活保護のもらい方のアドバイス、家のペットで癒される、破産の仕方を簡単に教えてくれる所、シルバー人材センターの若者版、病院や保健所とバックアップ体制を取って健康診断、健康証明を出す、茶話会・家族会(フィーリングカップル的な)、障害者雇用、職業訓練の煩雑な手続きを手伝ってくれるところ、生活の中に小さな目標をみつけること、収入に直結しなくても得意分野を活かした仕事で認めてほしい・人が喜ぶと良かったと思う。

 これらを踏まえて、行政、公的機関で働く人、失業中の求職者を支援する際に考えるべき点を上げた。

① 彼らの失ったもの、傷つきを察すること
・職、職場、お金、人間関係、健康、プライド、自負自信、社会的信用、他者・社会への信頼感など多くの喪失を抱えていることを理解する。
・この国で無職であることの刻印(スティグマ)は深い。世間体、体面、倫理観、見栄、プライドなどの視点から理解する。
・雇用の負のスパイラルは心身の負のスパイラルにつながる。不信感、怒り、無力感、無気力、抑うつ、自暴自棄、虚無、刹那的、その日暮らし、過去現在未来がつながらない、見通しが立たない、そして自殺念慮・企図へとつながっていく。

② 中高年男性の特徴を理解すること
・そもそも、おしゃべり、相談、ぐちで発散というストレス対処法をあまり使ってこなかった人も多い。インタビュー中も寡黙で言語化することが難しく、自分の気持ちを表現する語彙が乏しい方がいた。
・さらに無職であることの引け目や辞める前からの他者への不信感などが加わると、援助を求めにくい心性が強まる可能性もある。親きょうだい、友人知人にも助けを求められない。したがっていかに相談へのハードルを下げるかがポイントになる。

③ つながりとは双方向である
・一方的な施しでなく(少なくともそう見えないような)「お互いさま」「これまで働き愛し生きてことへの敬意、リスペクト」が伝わるような態度、言動、演出を支援者側が心がける。
・ギブアンドテイク。彼らが必要とされる場、居場所の創出。他人に迷惑をかけるダメな存在から誰かに必要とされる役割があり、誰かのために存在する目的があれば、がんばれる、生きられる。

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④ 相談のハードルを下げる工夫
・いきなり相談、言語化も難しい。動作・作業と組み合わせる。イベント、茶話会、歌、ダンス、体操、気功、趣味、将棋囲碁、スポーツなどの企画。
・利用者同士の交流と、スタッフの見守り、相談、支援を組み合わせる。

⑤ 支援の発想のヒント
 支援の発想を広げるために、調査当該地域の周辺の施設以下にあげてみた。
 保健センター、ハローワーク、市民病院、メンタルクリニック、歯科医、産婦人科医院、薬局、商工会議所介護施設、総合福祉センター、保育園、幼稚園、准看護師学校、小中学校、スーパー、コンビニ、ファミリーレストラン、回転寿司、スターボウル、パチンコスロット、美容室、理髪店、銭湯、ホテルリバー、お寺、教会、駐輪場、駐車場など。
 彼らが立ち寄れる場所、彼らがちょっとお手伝い、ボランティアのできる場所はないだろうか。

⑥ 私が長期間の失業中だったとして、あったらいいもの
・ほっとできる、和める空間:ハローワーク近くに猫カフェ、犬を撫でられる所・足湯、肩もみ。
・ハローワークで知り合った人とちょっと立ち寄れる所:喫茶店、レストラン、居酒屋、卓球、ボウリング。できるだけ安価に、割引券を配ったり、場所を提供して持ち寄りで茶話会とかできないか。
・ちょっとボランティア:保育園幼稚園小学校、駐輪場の整理、介護施設の雑用、配達、おしゃべり。
・頭を柔らかく心に余裕をもって、キャリアチェンジの探索の機会を広げる。例)製造業から人的サービス業への転換のためにアルバイトの機会を増やす。

⑦ 保健所とハローワークの連携
 うつ病チェックリストの活用。失業期間の長短にかかわらず求職者とうつ病(SDS)の親和性が高いという調査結果を踏まえて、ハローワークの来所者にできるだけ多く心身の健康度チェックをやってもらう機会を設けられないか。高得点の人は自発的に相談窓口に来てもらうか、その場で面談させてもらう。来所者の全体状況を把握して、適切な機関に迅速にリファーする。
サポート案:ハローワークでの多様な研修会の実施。ストレス・マネジメント研修、心身のリラックス、現在の境遇と気持ちのシェアリングの会、研修中の様子から要ケア者のスクリーニングを行ったり、保健所の心の健康相談との連携、ボランティア活動やレク活動などで地域とのつながりをつなぎ直すことなどが考えられる。

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5)取り組みのその後

 自殺対策の一環として求職者のメンタルヘルスにY市の保健所の担当者が強い問題意識をもち、近接するハローワークの署長も理解があったため上記の調査が可能になった。縦割り行政の壁の中で、横断的な連携による調査ができたことは全国でも稀なケースだったのではないかと思われる。調査結果を踏まえて、このハローワークでは筆者も講師を勤めて「求職中のストレスマネジメント」研修を実施し、グループワークを行ったり、保健所でも月1回の集まりを行ってきた。保健所、ハローワークをはじめ、市役所、社会福祉協議会、商工会議所、地元商店組合、病院などが集まった会議で調査結果を元にした討議も数回行われた。しかし地域の関連機関がそれ以上連携することはなく、数年が経過する中で、担当者もそれぞれ異動になって、現在は限定された活動になっている。

 「after / withコロナ」の世界で、格差と不寛容の社会の象徴のような失業者の就労支援の現場にあって、私たちにこれからできることは何だろうか。

<参考文献>
・木内登英(2020)コロナショックで日本の失業率は6%突破、戦後最悪シナリオの中身 野村総合研究所 HP連載 政策・マーケットラボ 2020.5.26
・廣川 進(2006)失業のキャリアカウンセリング 金剛出版
・廣川 進(2010)失業が本人心理および周囲に与える影響 日本労働研究雑誌『失業研究の今』No.598 May 2010
・水口 勲、廣川 進(2015)失業がもたらす貧困および自殺のリスクと心理的変化 大正大学大学院研究論集 第39号 
・廣川 進(2016)つながりの喪失と再生にむけて――失業者のメンタルヘルス調査を中心に 神奈川大学評論 第84号

※ 本記事は『神奈川大学評論 第84号』に掲載された「つながりの喪失と再生にむけて――失業者のメンタルヘルス調査を中心に」(廣川 進, 2016)を一部書き換えのうえ掲載したものである。

執筆者プロフィール

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廣川 進(ひろかわ・すすむ)
公認心理師、臨床心理士。法政大学キャリアデザイン学部教授。日本産業カウンセリング学会会長。海上保安庁メンタルヘルス対策アドバイザー。
慶応義塾大学文学部卒業後、出版社に勤務のかたわら、大正大学大学院修士課程(臨床心理学専攻)、同博士課程を終える。編集部で育児雑誌『ひよこクラブ』、人事部でヘルスケア部門の立ち上げ等の業務も経験した。退社ののち、官公庁や民間企業で非常勤カウンセラーとして勤務。
著書として、『失業のキャリアカウンセリング 再就職支援の現場から』(金剛出版・2006年)、『実践家のためのナラティブ/社会構成主義キャリア・カウンセリング』(共著・福村出版・2017年)、『〔新訂版〕職場のメンタルヘルス100のレシピ』(共著・金子書房・2017年)などがある。


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