精神科へのかかりかた ー#不登校 、#発達障害 疑い、#身体症状 …子どものことが気になる親へ (尾形広行 臨床心理士/井原裕 精神科医)
問診票から考えること
わたしたちの外来にはどんな子どもたちがやってくるのでしょうか?わたしたちのように医療機関で子どもの治療を引き受ける立場からすれば、子どもとの最初の出会いは、問診票から始まります。
当科の初診は予約制になっていて、当日の受付後に問診票を書くことになっています。まずはこの問診票からわたしたちが何を知り、どのように治療につなげるのかをお伝えしたいと思います。医療機関によってさまざまな問診票があると思いますが、今回は当科の問診票の質問事項をモデルに使って考えてみたいと思います。
問診票の最初の記載は患者さんのお名前と、その下に問診票を記入された方のお名前とその方の本人との関係を記載してもらいます。
そして
「現在の症状は何ですか?」
という質問から始まります。その下に症状のチェック項目などがあります。
例えば、
・「朝起きれない」
・「不安」
・「元気がない」
・「気が沈む」
などです。そして
・「いつごろから症状が始まりましたか?」
・「症状がでるきっかけと思われるものはありますか?」
・「今までこの症状の治療を受けましたか?」
など症状に関する質問が続いていきます。
次の項目からが、治療やカウンセリングを行うにあたってわたしたちにとってとても興味のある質問項目が並んでいます。それは具体的な日常生活についてです。
・学校(部活、好きな教科、嫌いな教科など)
・生活習慣(起床時間、就床時間、ゲームに費やす時間、趣味や好きなことなど)
・家族構成
についての質問があります。
もちろん困りごとや症状についての情報も大切ですが(そのために来院するわけですから)、わたしたちにとってはむしろ困りごと以外の情報のほうがもっと大切かもしれません。
というのも日常生活についての情報のほうがその子のイメージをイキイキと浮かぴ上がらせ、本来の元気だった姿との違いを子ども本人や保護者も語りやすくなるからです。医療の場にいるわたしたちは、目の前に「患者」として訪れている子どもに会っているので、症状以前の本来の子どもの姿を知りません。
またわたしたちは問診票をみて、これから始まる面接のイメージを作ります。
「子ども本人とはこんな話題から入ろうか。いやこっちのほうがいいだろうか。この話題だったらのってきてくれるだろうか」
などと想像します。子どもの側は、
「これからどんな人と何を話すのだろうか」
と、緊張しているはずです。
その緊張を少しでもやわらげることがわたしたちの最初の仕事です。問診票を読みながら、どんな話題だったら子どもたちがのってくれて、話しやすくなるのかということをうことを想像していくのです。
また、問診票を読みながら、保護者との会話もイメージします。保護者にはその困りごとが起こる前後にどんなことが起こったのかを時系列で聞いていきます。
例えば九月上旬から学校に行かなくなって、九月中旬に数回学校に行ったが、その後から昼夜逆転になっている。それで今は10時に起きていて、朝ご飯を食べて……などです。
以上、問診票に記載された情報からわたしたちが子どもに心を開いてもらうための話の糸口や、過去から今につながる時系列でのストーリーの把握の仕方について説明しました。
この問診票をもとに診察が始まります。診察の流れとしては最初は子どもと保護者が一緒で、そのあとに別々で話を聴くことが多いように思います。保護者の前で見せる顔と保護者がいないところで見せる顔が違う子どももいれば、保護者と別は嫌だという子どももいます。また保護者だけ来院する場合もあります。
子どもが病院には絶対に行きたくないと主張する場合や、子どもには内緒で来院される保護者の方などもいます。そのときはどうやって子どもを連れてくるのかを相談すると思います。
どんな子どもたちが来院するのか?
それぞれの子どもによって事情は異なりますが、当科に来院する子どもたちは大きく分けて三つあるように思います。①不登校、②発達障害疑い、③身体症状の三つです。具体的にこの三点の例を挙げていきたいと思います。
どんな子どもたちが来院するのか?-⑴不登校
まずは①不登校です。それぞれの事情は大きく異なりますが、共通していることがあります。それは生活習慣が乱れている可能性が高いということです。
不登校は、最初は何らかのきっかけであったとしても、その後時間が経つにつれて、朝起きられなくなり、それが不登校を遷延させます。
例えば、昼近くに起き、学校には行かず、家でゲームやTVなど自分の好きなことをしています。そして夜になると、身体も疲れていない上に朝の起床時間も遅いのでなかなか眠くなりません。そして寝る時間も遅くなり、自然と起きる時間も遅くなっていきます。
そして、それが悪しき生活習慣として本人の身についてしまいます。無理して、朝早く起こしたとしても、身体はまだ寝ている時間なので眠くて仕方がありません。眠くてイライラしますし、保護者と言い合いになるかもしれません。
そうなると最初のきっかけなど後回しにすべきで、まずは生活習慣を戻すことを優先する必要が出てくるのです。いわゆる「宵っ張りの朝寝坊」です。ただそれを家族だけで直そうとするとうまくいかないことも多いのも事実です。
当科では世界地図を見せて、時差をたとえに、睡眠時間がズレることを説明して、睡眠リズムの大切さを子どもや保護者にお伝えしています。まずは生活習慣を戻すことを優先する必要が出てくるのです。
そして睡眠日誌(毎日の起床・就床時刻や運動の状況を自分で記録する冊子)を渡して、次回の予約日までにそれを書いてきてもらいます。それをもとに睡眠リズムを戻していくことを今後の足掛かりにしていきます。
どんな子どもたちが来院するのか?-⑵発達障害疑い
次は②の発達障害疑いです。保護者が心配してというよりは、担任が学校での本人の様子を心配して、それを保護者に伝え来院に至るという流れが最も多いと思います。
「落ち着きがない」
「集団行動ができない」
「場が読めない」
などという行動面での困りごとが多いと思います。
当然ながら家よりも学校では刺激が多く、子ども本人がいろいろなことに反応してしまいます。それで学校ではその子の行動が目立ってしまうのだと思います。
そのために家での様子と学校での様子にギャップがあり、担任と保護者がお互いの立場から意見を言い合い、なかなか協力関係にならないといった事態も生じてきます。
こういった場合は、本人の特徴を周りが理解しつつ、本人のやる気を伸ばしていくことが大切でしょう。そのために知能検査(得意・不得意なことを把握するため)や保護者からの家での様子や担任からの学校での様子を聞きながら、本人の特性を理解していきます。
そしてそれを本人や保護者、担任と共有し、協力関係をつくりながら少しでも本人が生活しやすいように作戦を練っていくことになります。つまり、発達障害と診断することも大切ですが、同時に、関係者一同でその子の特性を理解し、協力してその子の援助に向かっていくことも大切なのです。
どんな子どもたちが来院するのか?-⑶身体症状
最後は③の身体症状です。頭痛もあれば腹痛、過呼吸などもあります。この症状でよくある来院経緯は小児科からの紹介です。
どんな保護者でも子どもの体調が悪かったら、まずはかかりつけの小児科の先生のところに行くと思います。そして検査をしたり、薬をだしてもらうと思います。しかしなかなかよくならない場合もあります。検査の異常はないけれど、症状は続いているという場合です。
そんなときに小児科の先生に
「精神的なことが関係しているかもしれない」
などと言われ、精神科に紹介されてくることになります。
たまに、小児科に行かないでいきなり精神科を受診する場合もあります。このときは一度小児科で検査などをしてから当科を受診するように勧めることもあります。初めから、「症状の原因は精神的なこと」と決めつけてはいけません。まずは身体が優先です。
この場合も、先ほどの不登校の場合と同じく、生活習慣のことを詳しく聞いていくと思います。仮に精神的な原因があったとしても、睡眠を中心とした生活習慣を整えることで劇的に身体症状が良くなる場合もあるからです。
またこの年代の子どもたちは言葉で困っていることを話すのが苦手な子どもが多く、そのために何らかのストレスが身体にでているという見方も可能です。そのために子どもたちが自分の気持ちなどをうまく話すことができるようになれば、身体症状もなくなるという考え方があります。
ただ、自分の気持ちを言葉で表せるようになるには、時間がかかる場合もあり、元来話すのが苦手な人であればなおさらすぐに得意になるのは難しいのです。話すのが苦手な人がすぐに得意になることは難しいと思います。その方向性よりも生活習慣を整えるほうが子ども本人にとってもハードルは低いと思います。
三つの共通点
わかりやすいように、受診理由の主な三点にそって説明しました。もちろん他の症状をもった子どもたちもたくさん来院されます。困っていることや症状は違いますが、共通点があります。
それは子どもたちやその保護者や担任などの関係者が、困っていることをなんとか解消しようと試行錯誤しているという点です。
いろいろと試行錯誤している間に困っていることが解決することも多いと思います。特に子ども本人というよりは、保護者や担任などの周りの大人が、子どもとの対応の仕方を変えたり、環境調整することで解消することが多いと思います。しかしそうならずに問題が持続した場合に、精神科を受診することが解決の糸口になりえるかもしれません。
改めて、いつ精神科に?
どんな困りごとであれ、子ども本人や保護者、担任などの関係者は何らかの対応をし、子どもの困っていることが解消するように働きかけているはずです。
それで問題が解消すればいいのですが、解消しない場合には保護者や担任などの関係者らとは異なる視点からの対応も有効かもしれません。
そんなときに専門家に相談してみるのはいかがでしょうか?
何といっても親子ですので、当然ながら、子どもと保護者の距離は近く、その近さゆえに客観的に何が起こっているのかを検討するのは難しいと思います。
先ほどから強調している生活習慣にしても、毎日寝坊している本人をただ非難するだけではなく、「七時に起きて、その後、何時に何をして」という、一日二四時間の新しい行動のパターンを作ることが必要なのです。
このパターンを作るのは結構大変です。習慣というものは一度身についてしまえば、なかなか変わるものではなく、それなりに工夫しなければ変わらないことが多いのです。
私たちは第三者的立場から、家族や担任とは違う視点でアドバイスをします。いわばスポーツで言うところのコーチのような役割です。
困っていることや症状は何であれ、何らかの試行錯誤をしてもそれが解消しない場合には、今までと異なる視点を求めて来院してはいかがでしょうか。解決の糸口になるかもしれません。
尾形 広行(おがた ひろゆき)
臨床心理士 / 獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科
井原 裕(いはら ひろし)
(c)TAKUMI JUN
精神科医 / 獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科 教授
日本の大学病院で唯一の「薬に頼らない精神科」を主宰。生活習慣と精神療法を重視。『精神科医と考える薬に頼らないこころの健康法』(産学社)など著書多数。
※この記事は『児童心理』2014年2月号臨時増刊「『子どもの精神医学』を学ぶ」に掲載されたものに加筆修正を加えています。