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子どもの不安を解きほぐすかかわり  ~コロナ禍で周りの大人ができること~(石川信一:同志社大学心理学部教授) #不安との向き合い方

未曽有の事態であるコロナ禍は、私たちに多くの不安や心配、恐怖を引き起こしています。この状況下で多感な時期を過ごすことを余儀なくされている子どもたちへの影響も、見過ごすことはできません。子どもの不安との向き合い方、不安を解きほぐすかかわりについて、臨床児童心理学が専門の石川信一先生に解説いただきました。


自然な不安 vs. 支援が必要な不安

 不安は誰にでもある感情です。感染に関する不安があるからこそ、私たちはソーシャルディスタンスを保ち、マスクを着け、手洗い・うがいをしています。不安は私たちを守るために必要な感情です。しかしながら、いくつかの条件が備わった場合に、不安は支援の対象となります。

① 慢性的であること
 面接の前に緊張することは自然なことですが、面接が決まった日から眠れなくなってしまった場合は支援が必要かもしれません。
② 程度が強すぎること
 幼児がお母さんと別れるときに泣いてしまうことは比較的よく見られますが、小学校高学年になっても同じ状態が続く場合は支援が必要かもしれません。
③ 日常生活に支障をきたしていること
 少し緊張しても学校で発言ができていれば問題ないですが、指名されるからといって教室に入れなくなってしまう場合は支援が必要かもしれません。

悩む子

 不安は自然なものではあるけれども、以上のような状況が続く場合、早めに支援をしてあげることが望まれます。

不安を感じている子どもを見逃さない

 不安が強い子どもたちは、学校でどのように過ごしていると思いますか? 多くの場合、授業を遮ったり、立ち歩きをしたりといった逸脱行動を示すことはありません。それどころか、教師からはあまり問題がなさそうで、指示に従っている子どもであると認識されているという報告もあります¹⁾。自ら苦しみを訴えられる子どもばかりではありません。そのため、周りは不安で苦しんでいる子どもを見つけてあげる努力が求められます²⁾

 子どもの不安症状は多岐にわたっています。ここでは、見つけるためのポイントを3つお伝えします。
 第一に、身体的な症状として不安を訴える場合です。おなかが痛い、頭が痛い、あるいは発熱するといった症状を示す子どももいます。イライラ、疲れやすさ、睡眠の問題、集中力の問題を示す場合もあります。
 第二に、心配や不安に関連した特徴的な考えがあります。コロナ禍であれば、感染に対する心配、自身あるいは家族の健康への不安、もしくは親が職を失う、金銭に関する不安もあるかもしれません。「もしコロナにかかったらどうなっちゃうの?」「今私の学校には感染者がいる?」などと、何度も親や先生に確認を求める場合、注意が必要です。
 第三に、不安を引き起こす対象を避けてしまうという回避行動があります。コロナが怖いから学校に行けないとか、スーパーについていけない、ものに触れないなどが考えられます。

 以上のような特徴は、すべて見られるというものではなく、子どもによってあらわれ方は違います。さまざまな特徴があるということを念頭に置いて注意深く見てあげてください。

考える女の子

不安を解きほぐす声かけ

 不安を克服していく方法として、ここでは2つ紹介します。まずは、不安に特有の考えを解きほぐしていくことです。非現実的で偏った思考に固執してしまうと不安の問題が改善しません。

 「学校に行ったらコロナに感染するから学校に行かない」という考えを例にとってみましょう。新型コロナウイルスに感染する可能性はゼロではないです。先に述べたように、不安をゼロにすることは危険なので、「学校に行っても絶対感染しない」と根拠なく無責任に安心させるような声かけは不適当だと思いますし、結果として子どもを益々不安にさせてしまうことになるでしょう。

 重要なポイントは、現実的で多様性のある、そして柔軟な視点を提供することです。年齢に応じた声かけで、現在までに分かっている事実を伝えられるようにしましょう。現在までに新型コロナウイルスについて明確な事実は多くはないかもしれませんが、重症患者の数、死者数、重症化リスク、公になっている感染者数などは参照できます。そこで、現実的な観点から「最も起こりそうなことは何か?」という質問をしてみます。感染の確率や、感染が明らかになった場合、その後に起こる現実的なことについて話し合っていきます。不安は形のないもののうちは扱いが難しいので、具体的で現実的に話し合うことは有益になります。

 その後に「じゃあ、私たちに今できることは何か?」という声かけをします。これが最も大切です。子どもは自身の責任を超えて行動する必要はありません。ソーシャルディスタンス、手洗い・消毒、マスクの着用など、子どもができることをしっかり実施していくことが、子どもとその周りの人たちを守ることにつながるのだという点を常に確認していきましょう。

くまマスク

不安を乗り越えていくチャレンジ

 もうひとつは、不安の対象を現実的かつ段階的に克服していく方法です。「学校に行ったらコロナに感染するから学校に行かない」という対処は、現時点(2020年9月)では、政府や地域が設定しているガイドラインと比べると過剰な行動であるといえます。いうまでもなく、この基準を選定するのは子どもではなく、専門家、国や地方自治体です。そこで、現在行動が許されている範囲の中で、子どもができそうなことから徐々に不安を乗り越えていくチャレンジをします。

 もし、子どもが一歩も外出ができていないなら、「近くまで散歩をする」ということが最初の目標になるかもしれません。あるいは、外には出られているが、お店に入れない場合、比較的人が少ない、あるいは近所の人しか訪れないような店に行ってみるのもよいと思います。ここで重要な点は、「どうして子どもが不安を感じているのか?」という点をしっかり把握したうえで実施していくことです。お店の例でいえば、子どもが「人がたくさんいる店ほど感染のリスクが高い」と考えているから、先ほどのスモールステップに意味があるのであって、そうではなく、「同級生に見られたらどうしよう」と考えている場合には、同級生が来なさそうな学区外のお店ばかりを使ってもあまり練習にはならないでしょう。

 少しずつ乗り越えていくチャレンジは、不安の改善のカギとなる要素なので³⁾、ぜひ子どもに体験させてあげてください。ただし、親や教師が自分たちの願いや思いだけで課題を設定するようにしないように注意が必要です。子どもにこれまでとは異なる成功体験を積んでもらい、さらなる不安場面に挑むためのモチベーションを高めることが肝心なので、最初から難しい場面に強引に挑むのは、この支援方法の本質とはかけ離れています⁴⁾。現実的に考えて実行可能であるにもかかわらず、過剰に避けてしまっている場面に、無理なくスモールステップでチャレンジすることが大切です。

男の子

周りの大人ができること

 これまでお伝えしてきたことをまとめながら、不安を抱える子どもの周囲の大人ができることを確認していきたいと思います(詳細な情報は他の資料もご参照ください⁵⁾⁶⁾)。また、今回紹介した手続きの詳細は【関連書籍】をご参照ください。

① 不安や心配を抱えることは普通であると伝えること
 不安は誰にでもあります。誰も見通しを持つことができていない現状では、不安を感じることはある意味自然なことです。ただし、先に述べたように、非現実的に程度が強い不安に対する支援では、現実的で節度のある行動を目指していくようにしましょう。

② 子どもの話に耳を傾けること
 子どもの言うことを否定しないようにして、根拠のない慰めや励ましはしないようにします。あくまで現実的な立場に立って不安を解きほぐす声かけをしましょう。あまりにも長い時間、心配してしまう場合は、そのことについて話をする「心配タイム」を一日の中で設定します。子どもはそこに向けて言いたいことを紙に書くなどまとめておきます。約束したらその時間は必ず守ってください。時間は10分程度で構いません。寝る前は睡眠に悪影響があるかもしれないので止めておきましょう。十分に腰を据えてお話しできる時間を準備してください。

③ できるだけ中立的な事実を伝えること
 非現実的な情報は子どもの不安を煽ってしまいます。センセーショナルなメディア報道、ネットのフェイクニュースなどからは、子どもを守りましょう。心配なことを確認するために、スマホやタブレットを眺める時間を必要以上に長くしないことも大切です。これらの機器の使い方のルールについて、子どもと話し合ってください。

④ 子どもができることを伝えること
 最も重要な点は、国や地方自治体の感染症拡大防止のガイドラインに従った行動を心がけることです。小さなことかもしれませんが、その積み重ねが自分と周囲を安全にすることを強調してください。先に述べた、不安を乗り越えていくチャレンジをする際にもこの点は遵守するようにしましょう。

⑤ 自身の健康に気をつけること
 ケアをする側が精神的に追い込まれている場合は、子どもを温かく支援することは難しくなります。自分自身のために休息する時間や、家族で家事を分担すること、仕事と家庭のバランスなどを考えてみてください。今は誰にとっても大変な状況なので、頑張りすぎは禁物です。また、自身の心配について子どもに口にしてもよいと思いますが、その場合はその心配に対処する適切なモデルも併せて示せるようにしましょう。

⑥ それでも難しい場合は専門家に相談すること
 もし専門的な支援が必要でしたら、スクールカウンセラーや、教育相談機関、あるいは医療機関に相談してみてください。ただし、相談先の種別よりは支援にかかる専門家の経験が重要になってきます²⁾。現在までに、不安に効果的な支援は研究で明らかになっていますので³⁾⁷⁾、もし相談が必要な場合は、例えば「不安に悩むみなさんへ」などをご参照ください。

手をつなぐ

【関連書籍】今回紹介した支援方法が説明されています。
石川信一(2018).イラストでわかる子どもの認知行動療法――困ったときの解決スキル36.合同出版.

1) Ollendick, T. H., & Ishikawa, S. (2013). Interpersonal and social factors in childhood anxiety disorders. In C. A. Essau & T. H. Ollendick (Eds.), Treatment of childhood and Adolescent Anxiety Diso. London: Wiley-Blackwell, Pp. 117-139.
2) 石川信一(2020).第5章 子どもの不安症、うつ病――目立たないけど苦しんでいる子どもを救いたい[岡島義・金井嘉宏(編) 使う使える臨床心理学 弘文堂、Pp. 83-102].
3) Higa-McMillan, C. K., Francis, S. E., Rith-Najarian, L., & Chorpita, B. F. (2016). Evidence base update: 50 years of research on treatment for child and adolescent anxiety. Journal of Clinical Child and Adolescent Psychology, 45, 91 -113.
4) 石川信一(2013).子どもの不安と抑うつに対する認知行動療法――理論と実践 金子書房.
5) Waite, P., Button, R., Dodd, H., & Creswell C. (2020). Supporting children and young people with worries about COVID-19 Supporting children and young people with worries about COVID-19. Universities of Oxford and Reading, UK. [ウエイト、P.バトン、R.ドッド、H.クレシュウェル、C. 石川信一・岸田広平(訳)(2020).新型コロナウイルスを心配している子どもや若者の支援ガイド
6) Macquarie University Centre for Emotional Health and School of Education (2020). COVID-19: We've got this covered!: Helping prevent anxiety and depression in children and young people during the COVID-19 pandemic. 
7) Ishikawa, S., Kikuta, K., Sakai, M., Mitamura, T., Motomura, N., & Hudson, J. L. (2019). A randomized controlled trial of a bidirectional cultural adaptation of cognitive behavior therapy for children and adolescents with anxiety disorders. Behavior research and Therapy, 120, 103432.

◆執筆者プロフィール

石川先生プロフィール

石川信一(いしかわしんいち)
同志社大学心理学部教授。専門は臨床児童心理学。子どもの不安に対する認知行動療法に関する研究、および学校でのメンタルヘルスの増進を目指したプログラムの研究を中心に行っている。
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