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[第5回]怒りの感情にアサーションで向かい合う:後編(園田雅代:創価大学大学院臨床心理専修課程教授) #アサーション

 この連載では、「私はOK、あなたもOK」という自他尊重の「アサーション」の視点を紹介してきました。最後のテーマとして、前後編の2回に分け、前編ではアサーションの視点から怒りの感情をとらえることと、怒りの表現のかたちにはどのようなものがありがちなのか(とくに怒りを爆発させることと、がまんしてしまうこと)についてみてきました。後編では、怒りの爆発やがまんではない、第三のアサーションによる怒りの表現のしかたについて詳しくみていきます。
 前編に引き続き、園田雅代先生に怒りの感情に向き合う際に、アサーションを用いてどのように表現できるかをご紹介いただきます。 

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自分の気持ちをキャッチできるアンテナをはる

 怒りの感情をどのように扱ったらよいのかわからないという場合、「私はOK、あなたもOK」という自他尊重のアサーションに足場を置き、そこから怒りの感情に対応することをお勧めします。

 まず、前編で述べたように、怒りの気持ちやその源には、それなりに正当な理由があることも多いものです。

 「今の自分は~に不安になっている」「そういうことを言われるとこわい(不愉快だ)なあ、やめてほしい」「相手にもっと自分を大切にしてほしいのだけれど」など、自分の気持ちにアンテナを鋭敏にはたらかせ、〈何を今、自分は感じているか〉、自分の気持ちへの「良き聴き手」になることをぜひ意識してみましょう。

 そのためにはあまりにかっかとしていると、その余裕ももてなくなりがちですので、まずは「ちょっと落ち着いてみよう」などと、ご自分のよきコーチになるようなつもりで挑戦してみましょう。

 もしそれでもとても余裕がもてないようなときには、その場を離れてみるとか深呼吸してみるとか、あるいは、これも大切なアサーションですが「今はうまく言葉にできそうにない。もう少し自分の言いたいことをつかめたら言葉にするので、そのときには聞いてほしい」と相手に言っておくのもOKです。

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「私は」から始めて自分の気持ちを伝える

 そして、「怒り」について言いたいことをつかめたら、つぎはどう表現するかです。言葉で表現するなら、「私はこう感じている。できたらこうしてほしいのだけれどどうだろうか?」というモードで話すようにしましょう。たとえば「家でいろいろと要求されて、私は(僕は)しんどい。もう少し、こちらのペースを許容してくれませんか?」「あなたも(君も)××をやってくれないだろうか」などというような具合です。

 この際に「あなたは(君は)文句ばかり言う。そっちこそ何かしろ!」などの攻撃ではなく、また「わかってくれよ。こっちだって……(沈黙)」とそんたくを相手にただ期待するようなあいまいな言い方ではなく、わかりやすく、かつ自分の思いや相手への希望をアサーションで伝えることがポイントです。

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コミュニケーションの結果はさまざま

 そのように伝える際、相手にわかってほしいと望み、こちらの期待通りの反応が戻ってきてほしいと願うことは、ごく自然な感情です。でも、だからといって「当然、相手はイエスと言うべきだ」と思い込まないことです。

 アサーションには、「自分も大切に」だけでなく「相手も大切に」も含まれますから、つまり、相手もいろいろな意見や考えがあって当たり前です。互いの意見がすぐに一致しないのはごく自然なことと見なし、そこをどうお互いにやりとりしていけるか、その点が問われます。

 すぐにその場で結論が出なくてもかまいません。「あとで落ち着いて話し合おう」もOKですし、お互いに少し譲り合うでもいいですし、自分が納得して、最初に述べた相手へのお願いを取り下げてもいいのです。

 アサーションは自分の意見を機械的に主張し続けたり、あるいは言い分を相手に飲ませて「勝った~!」などと自己満足したりすることではありません。「自分も大切に、相手も大切に」の精神に基づいて、あるいはそれをめざしつつ、どう互いにコミュニケーションできるかがポイントなのです。

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怒りを常に表現しなくてもよいということ

 怒りの気持ちに気づいたとき、それを表現しようか、それともこれは表現しなくてもいいかな?と思うことも大切です。どうぞ、その選択もご自分で決めるように心がけてください。

「言わない」を選ぶのは、ただがまんして押し殺すのとはまったく異なります。今、それを言う必要は感じないとか、あるいは相手に言うだけのエネルギーや時間をかける意味がない、もしくは価値がないと判断するとか、または言うと余計に相手からこわいことをされそうだから、自分を大切に守るためには言わないことを選ぶということもあり得ます。

 それらもすべてOKです。「言わない」の選択は、見た目は「言えない」と似ているかもしれませんが、本人の心持ちはまったく異なるのです。

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まとめとして

 怒りの気持ちをいだいている自分を認めつつ、そのうえで、言うか言わないか、を自分で選択します。そして、相手に言うとしたらどんなふうにアサーションの表現で伝えるかを決め、なおかつ、言ってもすぐに良い反応が相手から得られないこともあるとあらかじめわかっておきます。そのような方法を知っていれば、「怒り」のせいでキレないし、または「もう何も言えない」とため込むだけにはならないでしょう。

 こういった一連のことが、単に表現の巧拙ではなく、自分の自尊感情――自分について、短所や失敗なども多々あるけれど、基本的に大事な人間であると認める気持ち――を確かめたり、それを育てたりすることに直結するといえるでしょう。

 今のこの新しい日常に慣れない中で、怒りをアサーションで表現するのを試みるのは、ハードルが高いことかも知れませんが、それだけ取り組み甲斐もあります。もしかしたら、怒りのアサーションは、あなたにとって大切な人との、より良い人間関係育てにつながるかもしれません。

 すぐに無理と決めつけずに、気長にご自分を少しでもほめたり認めたりしながら、うまくできない自分はダメだなどと即座に否定したりしないで、試みていただけたらと願っています。
(了)

全5回にわたる連載、「アサーションの視点で人とのかかわりを見直す」は、今回で最終回となります。ご覧いただきありがとうございました。

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著者プロフィール

園田雅代(そのだ・まさよ)
創価大学大学院臨床心理専修課程教授。専門は臨床心理学。アサーションについては、とくに、子どものためのアサーション、対人援助職者のアサーション、怒りのアサーションの実践等に力を入れてきている。
✿ 金子書房での主な書籍
教師のためのアサーション』(編著,2002年)
「『自己の語り』研究」(『児童心理学の進歩』2005年版,159-180頁)

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