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僕が考える「むしろ別れた方がよいこと」(今一生:フリーライター・編集者)#出会いと別れの心理学

 別れはつらいことが多いですが、新たな出発になると考えることもできます。過去を断ち切ることで、人生に新しい風を呼び込む体験をされたことはないでしょうか。
 フリーライターの今一生先生に、むしろ別れた方がよいと思われることについてお書きいただきました。

新型コロナが教えてくれた「関係の内実」

 僕が「むしろ別れた方がよいこと」を考える時、真っ先に思い浮かぶのは、虐待の加害者・被害者に分断された親子だ。

 昨年7月、朝日新聞デジタルにこんな記事が載った。
「国際刑事警察機構(ICPO)は(中略)配偶者などからの暴力(DV)、児童虐待が増加傾向にあることを示す調査結果を発表。『世界人口の3分の1が閉じこもったことで、変化が見え始めた』と警鐘を鳴らした」
 この世界的傾向は、もちろん日本でも同様。
 昨年10月、東京新聞はこう伝えていた。
「政府や地方自治体の相談窓口に寄せられたドメスティックバイオレンス(DV)の5、6月の相談件数が、前年同月比でそれぞれ約1.6倍に増えていた」
 今年2月、東洋経済ONLINEは、こう伝えている。
「警察庁が2月4日に公表した2020年の犯罪情勢統計によると、虐待の疑いで警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数は、10万6960人(暫定値)だった。前年が9万8222人だったから、8738人(8.9%)の増加で、統計を取りはじめて以来、初めて10万人を超えて過去最多」

 虐待相談の半数は警察から児相へ持ち込まれるため、2020年は年間でおよそ20万件以上の子ども虐待の相談が児相へ寄せられたことが見込まれる。
 虐待の相談件数を調査した初年の1990年が年間1100件程度だったが、日本の子ども虐待は防止策の失政によって、30年間で一度も減ることなく約200倍に増え続けてきた。

 そして、2020年は、世界的なパンデミックによって政府や自治体が盛んに「ステイホーム」(家にいろ)と呼びかけた結果、親はリモートワークで在宅し、子どもも休校で家にいるようになった。
 すると、ふだんは気づきにくかった夫婦・親子の関係のまずさが露呈し、DVや子ども虐待の相談件数として顕在化したのだ。
 「親子とは本来、殺し合いの関係にある」と喝破したのは、今は亡き碩学・小室直樹氏だ。
 夫婦なら大人どうしなのだから、たがいに依存し合う関係に双方とも疲弊したなら、殺し合いをするなり、別れるなり、自由にすればいい。
 しかし、日本の子どもには、自己決定の裁量範囲があまりに乏しく、何をするにも親権者の許可が必要になる。

今先生 挿入写真 新聞2

日本の子どもは、親権者の奴隷

 子どもはどこへ行くにも親権者の同意を必要とし、法的手続きにも親権者の同意が必要となり、自分で稼いだ金銭や資産も親権者に管理され、体罰を伴わないならいくらでも親権者から一方的に懲戒される。
 親との交渉の余地すら法的な権利として認められておらず、家の中でどんなに虐待されても、発覚して親が逮捕されれば、稼ぎ手を失って生活できなくなる恐れから、誰にも相談できない。

 そうした恐ろしい親権者から親権をはく奪できるよう、家庭裁判所に親権制限事件として訴える権利が子どもにはある。
 だが、学校でも児相でもその権利を教わる機会がない。
 そのため、事実上、自分が育てられたくない親権者に対する拒否権もないに等しい。

 これは、法律に、「成年に達しない者は父母の親権に服する」(民法第818条第1項)と明記されているからだ。
 この条文は、どう読んでも以下の二つの意味しかない。

① 子どもは、親の奴隷である(子どもに命令できるのは親権者だけ)
② 子育ての全責任は、親権をもつ父母だけが負う

 以上をふまえると、児童相談所が被虐待児を保護しても、親権者が「子どもを返せ」とすごんできたら、子どもを差し出すことになりかねないのも理解できるだろう。
 これは、誰が「子どもの居場所」を作りたくても、親権者の許可なしに子どもをかくまえば、かくまった人が誘拐罪で逮捕される危険を負うことも意味している。

 なんでこんな理不尽な法律があるのか?
 終戦後すぐに作られた民法を、有権者の国民が70年以上も放置しているからだ。

 そして今日も、父母だけが「仕事と子育ての両立」という無理ゲーも強いられ続け、親がコロナによる失業や所得減で貧困化すれば、子どもを巻き込んでの無理心中も後を絶たない。

 こうした子ども虐待の基礎知識と新しい防止策については、拙著『子ども虐待は、なくせる 当事者の声で変えていこう』(日本評論社)を読んでみてほしい。
 親権制度を変えない限り、子どもは虐待され続け、精神病を患ったり、自殺に追いつめられたり、親に殺される(あるいは親を殺す)恐れが高まる。

 親権制度を変えないまま、子どもが虐待の被害から生き残ろうとすれば、児相へ相談してもその2割弱の案件しか保護されないため、その選択肢はいくつもない。

① 自分で商品・サービスを作り、親に隠した収益で家の外で暮らせるようになること
② 年齢詐称をしてでも住み込みの職場へ家出して、自分の生活拠点を確保すること
③ 親の資産を盗んで家以外の生活拠点へ身を隠し、18歳(※)の誕生日を待つこと(※2022年4月1日以降は、18歳の誕生日に成年になる。成人後は、親権者からの法的支配から解放される)

 日本には、父親からレイプされて、実の親の子どもを妊娠・中絶させられている娘もいれば、幼い頃から教育虐待を受け続けて精神障がい者にさせられた人もいる。
 そのように、日常的に虐待される家庭にいるより、家から出る自主避難を選ぶ方が、心身共に健全なあり方だろう。

 警察庁は公式サイトで「未成年の行方不明届け出数のうち、犯罪の被害に遭ったのは2%未満」と発表し、内閣府は家出を「虐待回避型非行」と発表している。
 家出取材を継続的にやらない新聞やテレビの記者は、こうした公式統計にすら目を通さないまま、読者や視聴者を釣り上げたいために家出を危険視している。
 だが、虐待される日々が続く家庭は、家出よりはるかに恐ろしい場所なのだ。

今先生 挿入写真 玄関

春は、人間関係の断捨離のチャンス!

 今年2月上旬から3月半ばにかけて、自民党の若手議員による「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会」が、子どもに関する問題を解決するために省庁の縦割りの垣根を越えた「子ども家庭庁」の新設を目的に開催されていた。

 しかし、勉強会に招かれた虐待サバイバーから「子どもファーストなら、家庭はセカンド。家庭は自らを救ってくれる場所ではなかったし、被虐待児にとって地獄」という指摘を受け、「こども庁」という名称に変更。
 次の衆院選に、「こども庁」の新設を自民党の選挙公約として掲げることを調整中と報じられた。

 子どもファーストなら、虐待の加害者・被害者として分断された親子を「家族統合」の名の下に同居させることを前提に解決を目指すのは、とんでもないことだと理解できる。

 親に虐待されてしまうと、学校の教室でいじめられやすくなるという指摘もある。
 親に虐待され、学校でも生徒や先生にいじめられて、自殺する子もいる。

 それならば、学校なんて行かなくていい。
 市販の問題集を一人で解けば、生きていくのに必要十分な学力は得られる。
 義務教育だって、1日も通学しなくても卒業できる。
 高認(高等学校卒業程度認定試験)に合格してしまえば、大学だって受験できる。

 いじめっ子に会うために通学する必要はないし、クラスメイトと何年いっしょに通おうとも、卒業でみんなバラバラの進路へ歩む。
 だから、苦手な人間関係は、早めに断捨離してもいいのだ。

 親子関係も、教室での人間関係も、選べない。
 しかし、家の外、学校の外では、自分がつき合いたい人間とだけつき合える。
 春は、卒業や進学、転勤や海外赴任など、苦手な人間関係から離れるのに好都合なタイミングだ。

 勤務先での同僚や上司との関係が大きすぎるストレスになっているなら、雇われるのではなく、自分で商品・サービスを作り出す自営業を試みてもいい。
 不景気に加え、コロナ禍で売り上げが落ち続け、社員に「副業OK」と言い出す会社が増える昨今、副業で所得増を試しながら、自営業として独立することを真剣に考えてみてほしい。

 社会の中で一番の弱者である子どもが、自分の生存権を守るために、経済的自立によって虐待親から避難する準備をしなければならない大変さにピンとくるようになるだろう。
 自営業として独立する大人が増えれば、学校が社畜にしかなれない教育しかしていないことにもピンとくる。
 ストレスフルな人間関係にガマンしながら生活を安定させる「やすらぎ」よりも、「すばらしいもの」はいくらでもある。
 それに気づくと、子ども虐待が他人事ではないことにも気づくだろう。

 さあ、春だ。
 つきあいきれない人間に、さよならを!

今先生 挿入写真 桜

執筆者プロフィール

今先生 ご本人お写真

今一生(こん・いっしょう)
フリーライター・編集者。1965 年、群馬県生まれ。
千葉県立木更津高校卒。早稲田大学第一文学部除籍。
1997 年、親から虐待された人たちから公募した手紙集『日本一醜い親への手紙』3部作を Create Media 名義で企画・編集。
1999 年、『完全家出マニ ュア ル』(同) を発表。造語した「プチ家出」は流行語に。
2007 年、東京大学で自主ゼミの講師に招かれ、1 年間、社会起業を教える。
2011 年 3 月 11 日以後は、地方自治体や日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。
2017年、20年ぶりに『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)を発表。
2018年から、虐待サバイバー×市民×政治家を集めて新しい虐待防止策を作り出す画期的なイベント『子ども虐待防止策イベント』を全国各地でプロデュース。
最新刊は、『子ども虐待は、なくせる 当事者の声で変えていこう』(日本評論社)。
2021年6月、『よのなかを変える技術』の中国語版が中国で発売予定。
https://createmedia2020.blogspot.com/



 


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