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「引きこもりのすゝめ」~発達障害のある人たちも「からだ」の声を聴きましょう~ (木谷秀勝:山口大学教育学部附属教育実践総合センター教授)

新型コロナの影響で、外出自粛や臨時休校の続く中、ストレスフルになっているお子さんやご家族も増えていると思います。特に、感覚過敏があったり見通しが立たない状況が苦手だったりする発達障害のある人、そして一緒に過ごしているご家族中には不安とストレスで、体調を崩しているケースも少なくないでしょう。
今回は、長年にわたり「からだ」と「こころ」の両方の視点から、発達障害のある青年や女の子たちの支援を続けている、山口大学の木谷秀勝(きや ひでかつ)先生に、心身の調子を崩さず過ごす「引きこもり」のコツについてご紹介いただきます。

上手に「引きこもりましょう」

 薫風の候を迎えています。薫風とは「風薫(かお)る」という季語です。桜から躑躅(つつじ)へ、若葉から新緑そして深緑(これも「しんりょく」)へ。外の景色は、日々色彩が文字通り「彩(いろどり)」豊かに変化しています。でも、皆さんが目にしている風景は、日々変わりなく、ちょっと暗めの部屋の明るさの中で、目まぐるしく変化するゲームの世界と電子音に包まれて、正岡子規の「病牀六尺」(「牀」は「床」を意味し、六尺は約1.8メートルです)に擬(なぞら)えば、「ゲーム無尺」(無尺は、仮想空間だったらどこまでも可能)でしょうか。

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 その正岡子規は、こう言っています。

「病牀六尺、これが我世界である。しかもこの六尺の病牀が余には広過ぎるのである。…生きて居ればいひたい事はいひたいもので、毎日見るものは新聞雑誌に限って居れど、…読めば腹の立つ事、癪にさはる事、たまには何となく嬉しくてために病苦を忘るるような事がないでもない。」

 きっと、皆さんも同じ気持ちでしょうか。毎日「新型コロナが…」のニュースばかりの中で、「たまには何となく嬉しくて」も感じなくなっている毎日かもしれません。

 では、そんな時にどうすれば「病苦を忘るる」ことができるでしょうか? その答えは…「上手に引きこもりましょう」です。「え、どうやって?」と焦ってしまうと「上手に」はいかないですよ。まあ、3回ほど、深呼吸をしてみてください……できましたか? それはよかったです。それでは、まずは「引きこもり」ってどんなことから考えてみましょう(「えっ、まだ?」と思っていませんか?)

 「引きこもり」という言葉を分解すると「引く‐籠る」となります。さらに「引く」は「曳く」に代表されるように、日本人は鋸や包丁を手前に「曳く」時に力を入れて、物を切ります(西洋は「押す」時です)。また「籠る」は、何もしないのではなく、「力を蓄える」行為を示します。つまり、「ひきこもり」は、「自分自身で、外側からエネルギーを引き寄せて、力を蓄える」積極的な行為と見ることが可能です(「へえー」と思いましたか?)。だから、「上手に引きこもる」ことで、非常事態宣言が解除された後には、蓄えたエネルギーを上手に使うことで、新たな行動が生まれるきっかけにもなります。

 ところが、発達障害のある人たちは、なかなか上手にできないことが多いですね、それは何故かを次に考えてみましょう(いよいよですよ)。

「からだ」からの声に耳を傾けましょう。

 ところで、皆さんは、今どんな姿勢ですか? ちょっと、気分を変えて、「大の字」になって床(牀)に寝てみてください。できましたか? では、次に目をつむって、深呼吸を3回してから、そのまま3分間横になっていてください(すみません、これを読んでいたらできないですね)。では、今から3分間です。

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(…3分経過…)

 どうでした? 力が抜けたままで、ずっと大の字でいられた人はいますか?

 これがけっこう難しいと思います。体のどこかがむずむずしたり、力が入っていたり、逆に何も感じないけど、等々の「力が抜けている」感覚を理解することが、多くの発達障害のある人たちは苦手です。その背景には、感覚過敏や協調運動障害(不器用さ)という「からだ」の症状が考えられます。これでは、「からだ」が発している声を聴き取ることができません。

 それでは、どうしたらいいでしょうか。もちろん、個人差はありますが、「大の字」でも力を抜くことができる方は、そのままでも大丈夫です。それが難しい場合には、膝を抱くように少し丸まった姿勢(横向き)のままゆったりとして、夕方位の部屋の暗さの状態でしばらく過ごすことがいいようです。こうした工夫を通して、自分自身の「からだ」から発している声に耳を傾けてみてください。心臓の音もですが、「生きているよね」と実感できると思います。また、こうした何もしていない状態を「デフォルトモード」と言って、脳科学の世界では、新たな発想(前向きな考え)が生まれると指摘されています。

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幸せなら、手を叩こう!

 辛い毎日を乗り切るための音楽として、故坂本九さんが歌う『上を向いて歩こう』がリバイバルしています。その坂本九さんが歌っていた曲に『幸せなら、手を叩こう』があります。ご存知の方も多いかと思いますが、「幸せなら♪」(木谷が歌うとイメージが崩れそうなので、ご自身でどうぞ)に続いて、「手を叩こう♪」「足ならそう♪」などが続きます。こうした楽しいリズムに「からだ」をのせながら、自分の「からだ」からの声(あるいは音)を感じることが、先に紹介したデフォルトモードでもあり、そこから「こころ」自体も前向きになっていきます。

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 このように、「からだ」の声を感じ取りながら、自分のリズムを刻むことができていれば、「上手な引きこもり」ができていると思ってください。むしろ、「上手に引きこもり」を続ける皆さんの側で、大丈夫かなあとソワソワしているお母さんや、テレワークをしながらも目の前のパソコンから離れることができなくなっているお父さんの方が心配だと思いませんか。

 医療従事者や介護などの最前線で日々闘っている方々への感謝の気持ちを表す「フライデー・オーベーション」ではないですが、「事態を予測する」ことが苦手な発達障害のある人たち、そして家族の皆さんが、この「予測」ができない毎日をゆったりとした「からだ」とゆっくりでいいんだという安心感ある「こころ」で過ごすことができるように、自分自身にも大きな拍手を送ってあげてください。「幸せなら、手を叩こう!」そして、「上手に引きこもりましょう!」

(執筆者プロフィール)

木谷秀勝(きやひでかつ)
山口大学教育学部附属教育実践総合センター教授。専門はカウンセリング、青年期のASD者の支援。「『自分らしく生きる』ってなんだろう?」をASD当事者と一緒に考えるプログラムの実践活動をしています。

(著書)


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