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長すぎる春を過ごすわが子の小1スタートに向けて いま家庭でできる 「UD的 小1スタートカリキュラム」のレシピ ~授業のユニバーサルデザインの味をご家庭で④~(日本授業UD学会湘南支部)

連載企画の第4弾です!
今回はとっても充実したスタートカリキュラムを先生にお教えいただきました!

「スタートカリキュラムってなに?」「難しいのでは?」と思った方もご安心ください。わかりやすく、丁寧に、そしてお子さんの笑顔を大事にしながらご家庭でチャレンジいただける内容です。

この春から小学1年生になったけど学校に行けなくて心配…。そんな親御さんも必見です。無料でダウンロードできる資料までご提供いただきました。

今回も贅沢なレシピを伝授していただいています!ぜひご家庭で味わってください!

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――日本授業UD学会湘南支部 presents――

はじめに

 一部の地域では、休校期間が長期化しています。実を言うと、私はそのどんぴしゃな地域に住んでいます。
 さらに付け加えると、我が家の第一子はちょうど今年、小学一年生。4月から毎日背負うはずだったランドセルは、家具にひっかけられたまま、なんだか寂しそうです…。
 同様の地域にお住まいの方の中には、「休業期間がなかったとしたら、子どもたちは何を学んでいたはずなのだろう?」と、悲しい気持ち、不安な気持ちを抱いている方もいるかもしれません。

 そこで、私は、UDの考え方も取り入れながら、小学校入学、あるいは休業中だった学校の再開を間近にひかえた新一年生の子どもたちへのサポートとして、家庭で楽しみながら取り組める「UD的スタートカリキュラム」をご紹介しようと思います。

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学校で行う「スタートカリキュラム」を家庭にとりいれてみよう

 幼児教育は、「健康」、「人間関係」、「環境」、「言葉」、「表現」の5領域を総合的に学んでいく教育課程等にもとづいて行われています。
 それに対し、小学校教育は、主に教科等の学習内容を系統的に配列した教育課程にもとづいて行われてきました。これが、幼児教育と小学校教育の大きな違いです。
 教育過程の基本構造が大きく異なるため、子どもたちが小学校生活に無理なく慣れていくためには、それなりの工夫が必要です。そこで「スタートカリキュラム」が必要となるのです。

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 スタートカリキュラムでは、生活科を中心として、国語や算数など、他の教科と合科的に学習を進めることが求められています。
 これは、子どもたちが安心して小学校生活をスタートさせるための家庭での過ごし方を考える際のヒントにもなると思います。

 難しく考える必要はありません。

 子どもの「好き」「できること」「一日の過ごし方」をいかした学習方法の工夫を考えていくと、それが、その子にとってのスタートカリキュラムとなるのです。

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1)その子の「今」を考える。

 子どもたちは、決して「ゼロ」の状態から学校生活をスタートさせるわけではありません。
 日常生活はもちろん、幼稚園、保育園、認定こども園での遊びや体験を通し、たくさんの「学びの芽生え」を育んできています。
 そこで、まず、子どもの「今」、とくに好きなことできることを考えてみます。たとえば…

・色えんぴつやクレヨンなどで線を描くことができる。
・歌を歌うことがすき。
・虫が好き。
・乗り物のおもちゃや本には、すさまじい集中力を発揮する。

 …などなど。

名称未設定のデザイン

 生まれたときのことを思い出すと、あっという間だったような、でも、その間にいろいろな事件…もとい、出来事もあったような…。
忙しい中では、思わず「もう6才(7才)なのに恥ずかしいよ!」、「○○ちゃんはできてるよ!」なんて言いたくなる瞬間もあるけれど、「できるようになったこと」の多さを実感するひとときです。

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2)「目指す先」を考える

 次に、子どもの成長した姿を「目指す先」として考えます。
 この時期に大切なことは、何よりも学校に慣れていくことです。

 そこで、学習内容の目標自体は、ひらがなや1~10の数に親しむ、好きな絵本の読み聞かせを聞く、絵を描いたり工作をしたりするなど、無理のないものにして、その範囲の学習を通して「学校が楽しみ」と思えることを「目指す先」とします。

 なお、参考に、小学校1年生が、4月~5月にどのような学習を行っているかを紹介します。
学校ごとの行事や使っている教科書によっても多少異なりますが、おおよそこのような内容です。

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3)予定表づくりを一緒にする

 子どもの「今」と「目指す先」を考えたら、次は「予定表」づくりです。できる範囲で子どもと相談しながら、数日~1週間程度の予定表を作ります。

予定表づくりの流れ(例)

① 会話を通して子どもの「やりたいこと」を相談する。あるいは、あらかじめ作っておいた「やりたいことカード」から選ばせる。
※子どもの発達段階を踏まえ、数分~15分以内でできるボリュームの内容にします。
②「やりたいこと」の日にちや順番をきめる。
※百円ショップで小さなホワイトボードと、マグネットシートを買うと、組み替えが自由にできる予定表掲示板をつくれて便利です。
※学校から予定表づくりのプリントが配られている時にはそれを使います。

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一週間の予定表のイメージ(実物は以下からDLできます)

 子どもたちにとって大切なことは、予定表という概念を知り、生活の中で意識するきっかけをつくることです。ですから、まずは「一緒に予定を立てる」こと自体を楽しみます
 会話を通して子どもの「やりたいこと」を相談していってもいいですし、あらかじめ「やりたいことカード」をいくつか作っておいて、そこから選べるようにするのも一つの方法です。

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4)スタートカリキュラムの作成例

 「1~3」の流れで考えたスタートカリキュラム(5日間)の作成例を紹介します。
 それぞれの学習の時間については、図工以外は3~5分程度を想定しています。

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月曜日
1 生活「これは何かな?」
 各教科の教科書を見て、それぞれ、何の教科書か、どんな学習をするのかを知り、したいことを聞きます。
2 国語「お話を聞こう」
 教科書に載っているお話の読み聞かせを聞きます。好きな絵本でもかまいません。

火曜日
1 算数「いくつあるかな?」
 乗り物のおもちゃを箱や袋にいれて、数当てクイズをします。袋の場合、答えを考える時は、触って数えてよいルールにすることもできます。また、親子で交代交代に問題を出すこともできます。答えを数える時には、運動会の玉入れのように一緒に数えてもいいでしょう。
2 音楽「手をあらう歌をさがそう」
 一説によると、石けんによる手洗いのめやすは30秒、すすぎは20秒だそうです。そこで、好きな歌の中から、おおよそ30秒になる歌のフレーズを考えます。その際、30秒のものをずばり見つけるよりも、10~15秒程度のフレーズを見つけて2~3回繰り返す方が楽です。「ハッピーバースデートゥーユー」を2回繰り返すと約30秒、ということが話題になっていますね。

水曜日
1 生活「どこを歩けばいいかな?」
 通学路の写真をスマホなどで写真にとっておき、道のどの場所を歩けばいいか、交差点の安全な渡り方などを話し合います。クイズ形式にすると楽しくなります。
2 国語「しりとりでしょうぶ!」
 親子でしりとり対決をします。言葉は、「ねこ → こま」のように書いてあげると、ひらがなに親しむことができます。

木曜日
1 算数「あわせていくつ?」
 車のおもちゃを2つの箱や袋にいれて、合計の数当てクイズをします。始めは合わせて5以下の数、慣れてきたら合わせて10以下の数で行います。
2 図工「わたしがすきなもの」
 好きな物の絵を描きます。描き終わった後は、一番気に入っている部分や好きな理由などを聞いてみます。

金曜日
1 生活「しょうがっこうの生活」
 教科書に載っている学校の挿絵や、あらかじめ撮影しておいた写真などを見ながら、子どもが知っているもの、興味を抱くものについて話します。写真は、校舎の中でなくても、校庭にある鉄棒や体育倉庫などもお薦めです。
2 国語「○がつく言葉あつめをしよう!」
 「あ」が付く言葉、「か」の付く言葉、というように、特定の文字が付く言葉をたくさん考えます。教科書の巻末等にある50音表を見ながら子どもに文字を選んでもらいます。考えた言葉は紙に書き出してあげると、考えた言葉の量が見えて、より楽しくなります。

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5)ポイント(留意点)

 スタートカリキュラムを立てたり実際に行ったりするときのポイントや補足の説明をいくつか紹介します。

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① 遊びや日常生活との関連
 「4)スタートカリキュラムの作成例」で紹介した例は、その後、兄姉や友だち、日常生活のちょっとした時間にできそうなものを集めています。これは、楽しみながら反復練習にもつながること、そこでのアレンジが子どもの自主性や思考力・判断力の育成につながることを期待しているためです。

② その子なりの成長
 「ほめる」時には、その子なりの成長やがんばりについてほめます。このスタートカリキュラムでは、前向きな気持ちになることが何より重要ですから、楽しくできればそれだけでも素晴らしいと思います。

③ がんばりの跡を残す
 がんばりが形に残ることで、子どもの達成感が生まれやすくなり、それが次への意欲につながります。
 また、絵や時を書く時は、失敗したからとむやみに消す必要はなく、新しく書き直すことで自分の成長やがんばりの形跡を確認することができます。
 予定表の取り組み終わった部分には、シールを貼ってあげたりハナマルを付けてあげたりするのもお薦めです。

 なお、学校では、一週間の予定表の他に、その日の予定を示す表や札が掲示板に貼られていて、その時間が終わると一枚ずつカードをめくれるようになっていることがあります。
 そこで、この「スタートカリキュラム」で使える表の例を用意しました。

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その日の予定を表す表のイメージ(実物は以下からDLできます)

④ 予定変更は柔軟に
 実際には、子どもの気分次第でスケジュール通りにいかないことも多いと思います。子どもの気持ちが乗らないときには、立てた予定表にこだわりすぎず、柔軟に対応します。その時、ホワイトボードとマグネットシートを使ったオリジナルの予定表掲示板であれば、「じゃあ、どれかと入れ替えようか」と、子どもの気持ちに合わせた対応もしやすくなります。

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おわりに

 ちまたでは、小学校準備段階から取り組める様々な教材の宣伝も見かけます。それが悪いとは思いません。実際、この時期の子どもは、けっこう勉強大好き!だったりします。
 ただ、むやみに難しい課題に取り組む必要はないと思います。それよりも、小学校生活に向けた前向きな気持ちを維持したり、予定表にそって何かに取り組むといった習慣的な準備をしたりする方が大切だと思うのです。なにしろ、子どもたちの小学校生活6年間は、まだ始まったばかりなのですから。

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(執筆者プロフィール)

日本授業UD学会湘南支部
日本授業UD学会湘南支部は、「すべての子どもたちの笑顔あふれる学級創り」「すべての子どもたちの笑顔あふれる人間関係創り」「すべての子どもたちの笑顔あふれる授業創り」をコンセプトに神奈川県の湘南地区に拠点をもつ支部(HPより)。特別支援の理論や技術を取り入れた通常学級での授業の在り方、教育の在り方を追究している。

<参考資料>
文部科学省 国立教育政策研究所 教育課程研究センター『スタートカリキュラムの編成の仕方・進め方が分かる スタートカリキュラム スタートブック』(2015)
阿部利彦(著)『決定版! 授業のユニバーサルデザインと合理的配慮 ――子どもたちが安心して学べる授業づくり・学級づくりのワザ―― 』金子書房(2017)

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―― 連載第1弾――

―― 連載第2弾――

―― 連載第3弾――

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