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外出自粛中によい睡眠を確保するための5つのヒント(山本 隆一郎:江戸川大学  社会学部 人間心理学科 准教授/江戸川大学 睡眠研究所 研究所併任教員)

人文系大学として国内初となる「睡眠研究所」を設立した江戸川大学人間心理学科。今回は同大学の准教授であり研究所の併任教員でもある山本 隆一郎先生にご寄稿いただきました。睡眠リズムが崩れてしまいがちなこの状況で、私たちがよい睡眠を確保するためにはどうすればよいのでしょうか?
睡眠の専門家から贈る5つのヒントで、あなたはもちろん周りの方も、よい睡眠を手に入れましょう。

COVID-19対策に伴う外出自粛が及ぼす睡眠への影響

 国や自治体からの外出自粛要請に伴い、人々のライフスタイルが激変し、生活時間の多くを自宅で過ごす方が急増しました。在宅中心で自由のきかない生活は、ストレスも多く、社会生活と家庭生活の境界や昼と夜の境界が曖昧になりやすく、睡眠が乱れやすくなっています。「通勤時間がないことにより起床時刻がいつもより遅くなった」、「学校がないのでふと昼寝してしまう」、「生活習慣を乱さないように意識していても夜布団に入るとあれこれ考えてしまって眠れない」、このようなことを経験している方は少なくないのではないでしょうか?

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睡眠と健康との関連

 “よい睡眠”を確保することは、日中にたまった頭や身体の疲れを回復させるだけでなく、さまざまな恩恵があることが知られています。逆に“よい睡眠”が確保できないとさまざまな問題に繋がることも多くの研究で報告されています。睡眠の問題は、神経・免疫・内分泌の機能の乱れに繋がり、高血圧や高脂血症、肥満といった生活習慣病のリスクを高めます。精神的な面では、衝動性の制御困難や不安症、うつ病の発症や増悪リスクを高めます。さらに、子どもの場合には実行機能の発達などにも悪影響があるとされています。また、睡眠と免疫には密接な関係があります。睡眠不足の状態になると、予防接種の効果が小さくなったり、風邪を引きやすくなることが知られています。

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よい睡眠とは?

 何をもって“よい睡眠”とするかは非常に難しい問題ですが、

①個人にとって必要な睡眠時間を確保できているか(睡眠の“量”
②毎日規則正しく眠っているか(睡眠の“位相”
③睡眠が妨害されていないか(睡眠の“質”

という観点が重要です。

 必要な睡眠時間は、年齢によって異なります。個人差はありますが、成人以降であれば7時間程度、中高生であれば8時間程度、小学生であれば9時間程度が推奨される睡眠時間の“下限”であるといわれています。

 また、1日の中で昼寝や夜間の睡眠を合計してこれらの睡眠時間を確保すればよいのではなく、毎日規則正しく夜間に1回の睡眠で確保することが重要です。睡眠の量だけではなく“位相”が重要であることは、時差ボケのような強制的に不規則な生活になったことを想像してみるとわかりやすいでしょう。現地の生活リズムに適応できるまでは、体内時計が乱れていて調子が悪くなります。

 最後に、取り上げる観点が睡眠の“質”です。睡眠の“質”は非常に誤解の多い言葉です。何を質とするのか説明のないまま実態の不明瞭な“良質な睡眠”を謳い、「良質な睡眠がとれていれば睡眠時間が短くても…」という無責任な説明も世の中に散見されます。研究者によっても“質”の解釈や取り扱い方は異なりますが、ここでは、質の良い睡眠とは睡眠が妨害されていないこと、と理解してください。寝室が明るくうるさい環境だったり、生活習慣病などの基礎疾患、ストレスや悩み事があると覚醒水準が高まりやすく睡眠が妨害されてしまいます。

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 まとめると、毎日規則正しく1回で、個人にとって十分な時間、妨害されずに睡眠をとれているというのが、よい睡眠といえるでしょう。もちろん、睡眠の“量”、“位相”、“質”の3側面は互いに独立しているわけではなく、互いに影響しあっています。例えば、体内時計が乱れてくると、夜に眠るための準備が整っていないわけですから、寝つけなかったり途中で目が覚めたりといった質の問題にも繋がります。現在の在宅中心で自由のきかないストレスの多い生活は、睡眠の位相を乱し、睡眠の質を低下させ、ひいては心身の健康に大きな悪影響を及ぼすことが推察されます。

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外出自粛中によい睡眠を確保するための5つのヒント

 江戸川大学睡眠研究所では、人々の睡眠が乱されやすい状況下において貢献できることはないかと考え、実証的な研究成果に基づくミニマムな情報をできるだけ早く多くの方にお伝えしたいと思い、『(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に伴う)外出自粛中によい睡眠を確保するための5つのヒント』(以下、5つのヒント)を作成しました。5つのヒントは、この状況下で特に生じやすい、睡眠覚醒リズムの乱れと不眠症状の予防や悪化防止に焦点をあてて、心がけるべき生活習慣や生活の中での意識を取り上げたものになります。

ヒント1:毎日、普段通りの時間に起きて日光を取り入れましょう
ヒント2:長い時間の昼寝をしないようにしましょう
ヒント3:布団は夜眠る時にのみ使用しましょう
ヒント4:お昼と夜のメリハリをつけましょう
ヒント5:1日2日眠れないことがあっても気にしない

 5つのヒントは、多くの人が情報を利用し身近な人に広めやすいようにA4判1枚もののポスター(PDF)の形で、江戸川大学睡眠研究所HP内の特設サイトで公開されています。

 また、5つのヒントの目的や意図、ポスターの利用について、各ヒントの解説を記した説明書類も同サイト内で公開されています。ぜひ、サイトをご覧ください。なお、5つのヒントは、公開後に学識経験豊富な睡眠研究者に趣旨や目的、内容についてご確認いただき、50名近くの賛同をいただいています。

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5つのヒントの特徴・ポイント

 それぞれヒントが推奨される背景の学術的根拠や解説については、特設サイト内の解説資料に詳しく書いてありますのでご参照ください。ここでは、5つのヒントの内容全体を通した特徴・ポイントについて説明したいと思います。

(1)就寝時刻について言及していない

 5つのヒントの最も大きな特徴は、“起床時刻の一貫性”については強調しているけれども、就寝(入眠)時刻については言及していない点です。意図的な努力で生活を調整して、床に就く(go to bed)することは可能です。しかしながら、1日を通した眠る(sleep)準備なくして、努力で入眠することはできません。眠る準備ができていないのに寝床で眠ろうと努力することは、覚醒を高めかえって不眠に繋がります。これは、ヒントの5でも強調しています。まずは、覚醒の仕方を“意識的に”工夫することで取り組むことが可能な「起床時刻の一貫化」だけに焦点を当てて、昼寝をしないようにすること(ヒント2)、生活のメリハリをつけること(ヒント4)を通して、夜間に眠気が高まるように導き、結果として就寝時刻が遅れず一貫できるように、また不眠にならないように導いています。

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(2)睡眠時間について言及していない

 確かに睡眠時間を確保することは健康にとって重要です。しかしながら、この睡眠が乱れやすい時期に、早い段階で理想的な睡眠時間を強調することは得策ではありません。「睡眠時間が足りないのではないか」と、昼寝で補おうとして睡眠覚醒リズムが乱れたり、眠れないにも関わらず早くから布団に入り、不眠で苦しい時間を過ごす人たちが増えてしまうことが危惧されます。睡眠時間と就寝時刻に言及せずに、日中覚醒を維持し、メリハリをつけることで、リズムが整い、夜の早い時間に眠気が来て、睡眠が妨害されなくなり、結果的に安定して睡眠時間が確保できるようになります。

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(3)置かれている状況に関係なく誰もが安全に使用できる

 5つのヒントを設計する際に気をつけた点として、簡単で効果が認められることが期待できることはもとより、(睡眠覚醒リズムの確立した幼児以降の)子どもから高齢者までに適用可能であること、ヒントを参考に行動や意識を変えた際に有害になることが極力少ないことが挙げられます。就寝時刻や睡眠時間について言及しないというポイントもある意味では、このポイントと重なるところがあります。
 身体活動や嗜好品の摂取状況など、自粛中の睡眠に影響を与える要因はさまざまあります。しかしながら、これらの個別性が強い内容(健康状態や住宅環境や仕事の形態などに依存する内容など)や年齢依存的な内容(飲酒・喫煙など)の提示は、「自分と関係ない内容だ」、「自分にはそんなこと言われても自分には無理だ」と扱われがちになります。
 例えば、ヒント4「お昼と夜のメリハリをつけましょう」は、ヒント1~3と比較して抽象的な表現になっているかと思います。解説では、誰にも適用可能であり個人の状況に依存しない、日照周期に合わせた明暗周期のメリハリをつけることの重要性を具体的に挙げています。
 しかし、ヒントの文言は「メリハリ」と少し幅のある表現とすることによって、メッセージの受け手が置かれている状況に合わせて行動を考えられるようにしています。メリハリをつけるために「お昼に少し家でできる運動をしよう」という方もいていいでしょう。「(テレワークで)終業時刻から1時間したらPCに布をかぶせてしまおう」という方がいてもいいでしょう。

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最後に

 5つのヒントは、誰もが取り組みやすく安全で効果が見込める内容を考え作成されました。また、特設サイトにあるポスターを見ていただくと、デザインの様々な工夫や意図にも気づいていただけるかと思います。ぜひ一度サイトを訪れてください。こうしたパブリック・ヘルス・アプローチは、多くの方に届いて、実際の行動変容、そして健康に寄与してこそ意味をもちます。ぜひ、このヒントが多くの方のStay home中の「ぐっすり(good sleep)」に、そして健康に資することを祈念しております。

(執筆者プロフィール)

山本 隆一郎(やまもと・りゅういちろう)
江戸川大学 社会学部 人間心理学科 准教授。江戸川大学 睡眠研究所 研究所併任教員。専門は、睡眠行動医学、臨床心理学。不眠の認知行動論からの理解と支援や睡眠教育、睡眠公衆衛生に関する研究と実践を行っている。

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