著者が語る:渡辺慶一郎 編著『大人の発達障害の理解と支援』(ハンディシリーズ「発達障害支援・特別支援教育ナビ」)
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著者が語る:渡辺慶一郎 編著『大人の発達障害の理解と支援』(ハンディシリーズ「発達障害支援・特別支援教育ナビ」)

 金子書房では、2014年から、シリーズ企画「発達障害支援・特別支援教育ナビ」(シリーズ監修・柘植雅義)の刊行を続けております。
今年の10月に、シリーズとしては14冊目となる、『大人の発達障害の理解と支援』を(渡辺慶一郎・編著)を刊行いたしました。
 本書の特徴やお勧めのポイント、また昨今の青年期・成人期の発達障害への支援の現状や課題について、本書の編者、東京大学相談支援研究開発センター精神保健支援室室長(准教授)の渡辺慶一郎先生にお話を伺いました。
(聞き手・金子総合研究所所長・加藤)

■本書『大人の発達障害の理解と支援』について

――この度、刊行された『大人の発達障害の理解と支援』について読者に特に注目して欲しいポイントなどをお教えください。

 まず、発達障害のある大人の人たちは、主体的に人生を生きるという課題が子どもよりも大きくなっていると思います。本書は、執筆者の切り口はそれぞれ違いますが、「大人になった発達障害のある人たちが主体的に人生を生きるために、支援者は何ができるのか」について書いてくれています。本人たちが元気に、幸せに生きるために、どんな支援ができるのか、医療、心理、教育、当事者と、さまざま視点から書いていただきました。

 また、いわゆるマジョリティ(多数派)に合わせる・適応させるための支援ではなく(もちろん、大多数の人たちにどう合わせるか、に関心のある読者の中も一定数いるとは思いますが)、本人の選択や考えを尊重することに重きを置いて編集しているのも、特徴と言えると思います。児童期は、社会の仕組みや対人関係のことを教えるなどの面で、大人のガイドが必要な時期です。一方で青年期・成人期では、発達障害のある本人が、主体的に何を選択しどう生きていくか、セルフアドボカシーなども含めて、そういった視点で関わることが大切だと思っています。
 本書では様々な関わりの切り口を紹介していて、明確な一貫性が示されている訳ではないのですが、「人生とは一直線で進むものではない」ということが構成としても表れてしているということでしょうか(笑)。

渡辺先生 写真 迷路

――確かに(笑)…本書では、就労支援、生活支援、余暇支援、女性の支援、災害時の支援など、本当にさまざまなトピックで、大人の発達障害の支援について語られていますが、その中でも編者として、読者の方々に注目して欲しい所はありますか?

 個人的には、第5章の「発達障害の支援でない支援とは?」(尾崎ミオ)と、第6章「発達障害のある若者の青年期支援」(綿貫愛子)がお勧めだと思っています。どちらの方にも、発達凸凹のある若者たちを対象にした、世田谷区にある「みつけばルーム」の取り組みをベースに、余暇支援や自分らしく生きることについて書いていただいています。

 「みつけばルーム」は、たくさんの面白いワークショップを通じて、発達凸凹のある人たちが生きるヒントになる「ナニか」をみつける場所なんですが、その活動のコンセプトに込められているものは、就労とか就学といった所謂社会適応を目指すのではなく、その前段階の生きるための活力、自分の人生を肯定しようというメッセージであり、また神経多様性(ニューロダイバーシティ)の視点なんですね。本書以外にもニューロダイバーシティやニューロマイノリティに触れている本は多いと思いますが、その「実践」を報告している本は少ないと思います。

 いっぽうで、本人が生きたいように自由に生きればいいんだ、というのが本書の目標ではありません。働くことへの支援についても忘れてはいけないと思います。定型発達の社会に完全に合わせてゆくことはできないし、かといって極端にマイペースなやり方だけでは、安定した収入は得難いでしょう。収入がなければほとんどの人が実際に生活していくのも難しく、そのバランスをどう見るか、どう折り合いをつけていくかも考えていかないといけないと思います。その点については、第2章「職場における発達障害のある大人への理解と支援」(村山光子)や、第3章「継続して働くために必要な理解と支援・環境とは」(鈴木慶太)で、発達障害のある人の「働くこと」を周囲がどう支援していくかについて具体的に書いていただきました。

 大人の発達障害は本人もその家族も色々と大変ですが、実は様々な道があることを伝えたいと思っています。就労したいと思う人がいれば、就労に向けての道をサポートしてくれる機関や企業がありますし、また会社などの組織に縛られない生き方だってある、と。人生に選択できる道が(見えにくいものも含めて)色々あるんだということ。それは発達障害のある大人だけではなく、多数派の人たちにとっても同じだとは思います。

渡辺先生 写真 道しるべ

■大人の発達障害の支援についての進歩と課題

――現在、成人期の発達障害の支援は、本書で紹介されていないものも含めて、さまざまな実践が取り組まれていると思いますが、これまでに比べて良くなっている点、同時に新たな課題、などはありますか?

 支援技術の面や制度的な支援は、以前よりも良くなってきていると思います。何より、「大人の発達障害」がメディアなどでも取り上げられるようになり、認知が広がってきていることも大きな変化ではないでしょうか。あとは、今回の本の第10章「成人の発達障害者に対する薬物療法」(渡辺慶一郎)でも触れていますが、発達障害のある成人の方に使える薬が増えてきています。ADHDの薬の選択肢は増えていますし、あとはASDに対するオキシトシンの研究なども進められています。そういった面は進歩と言えると思います。

 同時に、医学研究が進めば進むほど、発達障害は薬をのむなど医療的支援で治療するべきものなのか、マジョリティと合わせて適応することを求めるのが正しいのかという議論は出てくると思います。
 医学モデルから社会モデルへと以前から謳われていますが、発達障害の脱病理化や診断基準から外れるということまでにはならないと私は思います。発達障害には、先ほどのような薬物療法や脳のデフォルトモードネットワークにより診断できるという主張もあり、バイオロジカルな違いがはっきりしています。良い悪いの議論は続くでしょうが、発達障害と医療は切り離せないのではないかと思っています。

渡辺先生 写真 脳

 また、発達障害のある成人の人たちと関わる側としての課題には、既に専門家の中で効果があると分かっているもの、良いものと言われているプログラムや支援方法を、臨床現場でうまく使いこなせていない、ということがあると思っています。臨床家の側の研鑽がまだ足りないというか、研究などで明らかになった知見や技術を自分のものにする努力は、まだ必要だと思っています。本書の中で、発達障害のある女性の恋愛・結婚(第8章)や、災害時の支援のこと(第11章)など、非常に重要な内容も紹介されていますが、私自身もこれらの知見を生きた知恵として臨床で使いこなせていないです。まずは足元から、という感じですね(笑)

■大学の発達障害学生支援:彼らが社会に出て活躍するために

――最後に、大学での支援に取り組まれているお立場から、大学における発達障害のある学生についての現状と、彼らが社会に出ることを見据えた支援についてお聞かせください。

 大学、特に私立はさらに厳しい状況かもしれないですが、4年という期間内に卒業させる圧力が強くかかっています。修学支援をして、就労支援をして、何とか卒業まで持っていかなければならない。しかし、そんな追い立てるような状況では、学生自身が立ち止まって、卒後のことも含めた自分の将来について考えたり、自分の人生そのものについて考えたりする時間がないんですよね。発達障害のある学生はこうした状況に特にワリを食っている感じがします。ご本人の能力もあって、うまく就職できる人もいますけど、そういう人たちばかりではないのです。

 大学は学校と社会の最後の狭間のところです。ドイツでは大学によっては企業の人間が大学の教壇に立ち、企業で活躍できる「企業戦士」を育てるための授業をしている、と聞いたことがあります。企業の予備校のようなイメージです。そうした考え方にはメリットもあるのだと思いますし、発達障害のある人の中で、それが合う人もいるかもしれませんが、私はそちらに偏るのは少し危険な気がしています。

 大学の相談窓口に相談に来る学生たちは、発達障害の診断がついている学生もいますし、診断はついていないですがその傾向がある、いわゆるグレーゾーンと呼ばれるタイプもいます。明らかに発達障害の診断がつくだろうという方で、これまで何とかやってこれていたので、本人も家族も大学に入ってしばらくするまで気付かなかったケースもあります。

 相談内容も、所属している研究室になじめないとか、就職活動の面接がうまくいかない、といった相談が一定数あります。3-4年生になって卒業という出口が見えてくると焦ってしまう。それを回避するために大学院に進学するという選択をする学生もいます、もちろんその選択肢を否定するつもりはありませんが、問題を先送りにしているだけではダメなんですよね。大学院を出るときも同じことが起きますし。

 彼らが社会に出て、どうやって自分の人生を生きるのか。就職や進学といった「何をするのか」という選択だけで精一杯なようですので、もう少し時間や気持に余裕が欲しいところです。人生のどのような姿勢で進めるのかという課題には、試行錯誤は勿論ですが、仲間の存在が大切だと思います。発達障害の性質がある人には難しい場合もありますが、余暇活動や趣味の場で集まって時間を過ごすような、居場所というか、受け止めてくれる相手がいる、相談できる相手がいることがこれからの大人の発達障害の支援としても大事になると思います。

渡辺先生 写真 仲間

――ありがとうございました。

インタビュイー紹介

自分の写真_2019

渡辺慶一郎(わたなべ・けいいちろう)
東京大学相談支援研究開発センター精神保健支援室室長(准教授)。医学博士。精神科医。専門は、発達障害を含む臨床精神医学。主に大学生を対象にした精神科診療や学生生活支援を行っており、研究活動は発達障害当事者のQOLや自殺を取り扱っている。主な著書に『発達障害・知的障害のための合理的配慮ハンドブック』(編集・分担執筆、有斐閣、2020)『改訂版 特別支援教育の基礎』(編集・分担執筆、東京書籍、2017)、『自閉スペクトラム症の医療・療育・教育』(編集・分担執筆、金芳堂、2016)など。

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