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SNSカウンセリングのいま(杉原保史:京都大学 学生総合支援センター センター長/教授)#こころのディスタンス

新型コロナウイルスの影響により私たちの生活は様変わりしました。そのなかでもインターネットを介したコミュニケーションが増えたのではないでしょうか。心理的な支援においても、インターネットを利用した支援が強く注目されました。今回はSNSカウンセリングにおいて多数の著著や論文をもつ杉原保史先生にご寄稿いただきました。

新型コロナ・ウイルスが遠隔カウンセリングを普及させた?

 いま、新型コロナ・ウイルスの感染予防措置として、いわゆる「3密」を避けることが社会から強く要請されている。密室で対面して行うオーソドックスなカウンセリングは、実施するのが難しい状況が続いている。その結果、情報通信技術を用いた遠隔のカウンセリングが急速に広がりを見せている。しかし、ここでの遠隔カウンセリングの広がりは、あくまで対面のカウンセリングができないからという消極的な理由に基づくものである。

 「やってみたら意外に使えることがわかった」という声もよく聞く。しかし、それでもなお、カウンセラーの間で、遠隔カウンセリングは対面のカウンセリングの貧弱な代替品であるという見方は根強いように見える。ビデオ通話のカウンセリングは、対面のそれと比較して、視線が合わない、微妙なディレイがある、微妙な表情が見えない、肩から下が見えない、などなどの特徴がある。カウンセラーの多くは、こうした特徴をデメリットとのみ捉えている。そういう捉え方においては、ビデオ通話による遠隔カウンセリングは、コロナ禍という緊急事態におけるやむを得ない代替措置にすぎない。この捉え方を脱却しない限り、現在、広がりを見せている遠隔カウンセリングも、コロナ禍の収束とともに下火になってしまう可能性が高い。

 遠隔カウンセリングの可能性を適切に理解しているカウンセラーはなお少ないように思える。以下においては、遠隔カウンセリングの中でも特にSNSカウンセリングを取り上げ、その可能性を考えてみたい。SNSカウンセリングは、新型コロナ・ウイルスの流行以前に、2017年から急速に社会に浸透している遠隔カウンセリングの新しい形である。

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SNSカウンセリングの有用性

 SNSカウンセリングとは、LINE、Twitter、Instagram、Facebookなどのソーシャル・ネットワーキング・サービスを活用した遠隔の心理支援のことである。ビデオも音声もなく、主にテキストによってなされるカウンセリングである。ビデオ通話でさえ、微妙な表情が読み取れないなどと不満を抱くカウンセラーにとっては、ほぼ文字情報だけしか得られないSNSではカウンセリングなどできっこないということになってしまうだろう。

 対面の面接では、SNSによるチャットよりも、ビデオ通話よりも、やりとりされる情報量は多い。それは紛れもない事実である。そこで多くのカウンセラーが、情報量が多いのだから、その分、効果も大きいと単純に考えている。しかしこれは必ずしも正しくない。

 カウンセラーの側からすると、面接室での対面のカウンセリングは、自分のホームグラウンドにクライエントを招き入れるのだから、落ち着いてやりやすい形式である。しかし、カウンセリングを受けた経験がなく、自分の悩みを人に話すことそのものが不安であるようなクライエントにとっては、面接室はきわめてアウェイな空間であり、そこに出かけて行って悩みを話すのはとても心細く不安なものである。このとき、やりとりされる情報量が多いことは、喚起される不安を高める方向に作用しやすい。対面の相談が常に最も効果的だと素朴に信じているカウンセラーは、クライエントのこうした不安を軽く考えているのだと思う。

 結果的に、クライエントが対面のカウンセリングに現れるのは、不安であってもそこに行かざるを得ないほどに問題が大きくなってからになる。対面こそが最強・最適の形式であると素朴に考えているカウンセラーは、援助がそこからスタートすることに疑問を抱いていないという点で、こうしたクライエントにとって冷ややかな存在となっている。そこまで問題が大きくなる前に支援を受けたかったというクライエントの無念さを繊細に感じ取り、真剣に受け止めて行動することが必要だと思う。

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 また、深刻な苦悩を抱えていながら、面接室まで出かけて行くのが現実的に困難な人もたくさんいる。幼児を抱えていて失業中のシングルマザーが、わざわざ予約して相談に出かけていけるだろうか? 親から適切な養育的関心を向けられていない思春期の子供が、自ら予約して相談に出かけていけるだろうか? 対面のカウンセリングを最強だと素朴に信じているカウンセラーは、こうした人たちの存在に気づいていないのだろう。こうした人たちは面接室には現れないので、カウンセラーにとっては、面接室の外の社会で起きている問題に積極的に関心を向け、想像力を働かせない限り、その存在に気づくのは難しい。

 ただし、こうした問題の責任を現場のカウンセラーだけに負わせるのは酷である。話は少し脱線するが、このことについてもぜひここで、一言、言っておきたい。現在の日本においては、児童相談所でも学校でも医療機関でも企業でも、カウンセラーが働く現場の多くにおいて、末端のカウンセラーに過重な負荷がかかっている。社会全般の心の問題への関心は高まっているものの、心理的問題への対応に割かれる予算は、現場に押し寄せる相談ニードの量に見合ったものとなっていない。その責任にふさわしい報酬も支払われず、不安定な雇用形態で、現場の最前線に立っているカウンセラーが、面接室に現れない人たちの苦悩に気づく余裕がないのは当然のことであろう。

 話を本題に戻すと、上に挙げたようなクライエントにとっては、SNSカウンセリングの方が対面カウンセリングよりもずっと効果を上げやすい。対面カウンセリングこそが最強であり、遠隔は常に対面より効果が劣るという神話は、カウンセラーの独りよがりな思い込みにすぎない。

 実際、SNSカウンセリングは、多くのクライエントから歓迎されている。SNSカウンセリングはこの3年ほどの間に急速に社会に広がり、いじめ、自殺予防、メンタルヘルス、児童虐待、子育て、DV、ハラスメント、引きこもり、性的マイノリティなどなど、あらゆる相談がSNSで行われるようになっている。しかも、SNSで相談を受け付けたところ、従来の対面や電話による相談の数倍、数十倍に上る件数の相談が寄せられたという報告が至る所から上がっている。

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「SNSカウンセリング」はカウンセリングなのか?

 SNSのチャットによって、対面による対話よりも効果的に支援できる人が存在するとしても、モニターに映る文字のやりとりだけで、「カウンセリング」と呼ぶに値するような作業が本当に可能なのだろうかと疑問に思っている人もいるかもしれない。

 もちろん、対面のカウンセリングとSNSのチャットによるカウンセリングはどう転んでも同じものにはならない。だからSNSのチャットによるカウンセリングは対面のカウンセリングとは別物だと言われれば、はいその通りですとしか言いようがない。私が「SNSカウンセリング」と呼んでいるものを、そんなのはカウンセリングじゃないと言う人もいるだろう。それならそれでいい。そんなことはどうでもいい。私にとって大事なことは、苦悩を抱えている人、助けが必要な人に、より効果的な支援を届けることであり、それにどんな名前を付けるかなんて、セカンダリーな問題なのである。

 あくまでセカンダリーな問題ではあるが、それでもなお私はそういった旧来の概念化そのものを、いま、アップデートする必要があると強く思っている。旧来の概念化が、新しい、時代に即したより効果的な支援の開発を邪魔するのであれば、それを黙って放置しておくわけにはいかない。

 SNSによるチャット、メール、音声通話、ビデオ通話、訪問、対面といった多様なコミュニケーション形式それぞれのメリット・デメリットを理解し、クライエントのニードや生活条件に合わせて使い分け、組み合わせることにより、より効果的な心理支援を構築することこそ、今、我々に課されている課題であると思う。時代に即したこうした心理支援をトータルに推進するためには、それら全てをカウンセリングと総称することが有用であると私は考える。心理カウンセリングの専門性を背景に、一貫した考え方で、連続的ないし並行的になされる一連の支援について、その一部だけをカウンセリングと呼び、他のものはカウンセリングではないという概念化をしてしまうと、幅広い方法を用いた包括的な心理支援の全体像が描きにくくなってしまう。

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SNSカウンセリングから見た「こころのディスタンス」

 以上、「SNSカウンセリングのいま」というテーマで思うことを書き連ねてきた。最後に、ソーシャル・ディスタンスが求められているいま、SNSカウンセリングの経験から「こころのディスタンス」について感じるところを述べて終わりにしたい。

 SNSカウンセリングをしていると、心の距離とはいったい何なのか、改めて考えさせられる。顔を突き合わせていたら恥ずかくてなかなか言えないようなことや、相手の反応が怖くて言えないようなことが、文字でなら言えるということはよくある。SNSカウンセリングでは、クライエントもセラピストも、より率直になりやすい。たとえモニターに映る文字だけのやりとりであっても、それを見て涙ぐんでしまうこともある。おそらく、モニターの向こうにいるクライエントもスマホの画面を見て涙ぐむことがあるだろう。1時間あまりのやりとりで、互いの心の深いところが響き合ったと感じられることがある。

 一方で、同じ部屋にいて手を伸ばせば触れ合えるほど近くにいても、心が通う感じがしないことも、よくあることである。相手からどう見られるかばかりが気になって、本心が言えないこともある。わざわざ言葉にしなくても、きっと表情などで伝わっているだろうという期待に逃げ込み、はっきり言わずに済ますこともある。

 このことが教えてくれるのは、物理的に近くにいても心は離れていることがあるし、物理的な距離があっても心は通いあうこともあるということである。やりとりされる情報量が多ければ多いほど、より心が触れ合うというものではないということでもある。

 この記事を読んで、SNSカウンセリングに興味を持つ方が一人でも増えてくれれば、嬉しく思う。SNSカウンセリングについてもっと詳しく知りたい方は、以下の書籍を参照していただければ幸いである。

杉原保史・宮田智基(2018)SNSカウンセリング入門 北大路書房
杉原保史・宮田智基 編著(2019)SNSカウンセリング・ハンドブック 誠信書房
杉原保史・宮田智基・畑中千紘・樋口隆弘 編著(2020刊行予定)SNSカウンセリング・ケースブック 誠信書房

執筆者プロフィール

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杉原保史(すぎはら・やすし)
京都大学学 生総合支援センター センター長/教授。教育学博士、公認心理師、臨床心理士。
著書として、『プロカウンセラーの薬だけにたよらずうつを乗り越える方法』(2019/創元社)、『公認心理師標準テキスト 心理学的支援法』(2019/北大路書房)、『キャリアコンサルタントのためのカウンセリング入門』(2016/北大路書房)など多数。


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