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ロックダウン下のハワイから ~カウンセラー イン ホノルル~(袰岩奈々:Kids Hurt Too Hawaii ファシリテーター )#つながれない社会のなかでこころのつながりを

今回の感染症は、海外の情報もリアルタイムで入って来て、多くの人が日本の状況と比較できるのも、今までとは違うところです。
日本でカウンセラーとして活躍し、今、オアフ島にお住いの袰岩奈々先生に、現地に住む臨床家だからこそわかるロックダウン下のホノルルについてお書きいただきました。

 3月26日にロックダウンが始まって以来、約1ヶ月半たったハワイ。ゴールデンウィークの時期には日本から毎日約6000人もの人が観光で訪れる地域であることを考えると、異様なひとけの無さです。ロックダウン以降、レストランやバー、クラブ内での飲食が禁止されているため、多くのレストランが休業、あるいはテイクアウトのみの営業に切り替え、大手のホテルもほぼ休業。小売店も閉じており、1月には2.7%だった失業率は現在、10%を超えるといいます。

 この稿では、ロックダウン後のホノルルの雰囲気と公立学校の様子、筆者の関わっているNPO、Kids Hurt Too Hawaiiの試み、日本人留学生が多数を占める短大の相談室の対応などについてお伝えしたいと思います。

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自宅待機命令が出て、ロックダウンが始まった

 ハワイ州では3月25日、自宅待機命令が出され、ロックダウンが始まりました。ロックダウン中、生活用品の買い物、通院、エッセンシャル・ワークへの通勤、ジョギングなど、具体的にやっていいこと、ダメなことが示されています。毎日、イゲ州知事、医師でもありホームレス支援で注目されているグリーン副知事、コールドウェルホノルル市長らの現状と今後の見通しなどについての会見がTV放送されるので、州とホノルル市で食い違いがあったり、市民から方針への反対や不満はありながらも、ホノルル市内は比較的落ち着いた雰囲気を保っています。

 ロックダウンが出たあとすぐに、数件5000ドル(約57万円)の罰金を課される逮捕のニュースが流れ、州の自宅待機への本気度が伝わりました。ネット上で、現在の感染者数と入院者数、呼吸器の全体数と現在使用されている数が確認できる形になっています。銀行や一部のスーパーマーケットでは入店制限をしたり、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)が分かるように立ち位置に✖️マークが提示され、受付の周りにテープが貼られたり、入口にアルコール消毒液のディスペンサーが設置されたりと素早い対応がありました。

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公立学校での対応

 アメリカは高校までが義務教育です。ロックダウンが決まった時期が春休み明けと重なり、休み明けの延期が告げられ、その後、4月以降はオンラインでの授業となることが決定しました。卒業式や学期末のパーティ(プロム)などが取りやめになったり、リモートで行う形に移行したり、実際に登校するのは今のところ、夏休み明け(例年、8月の初め)以降となるようです。

 授業はネット経由で行われ、パソコンやネット環境のない子どもたちにはプリントの形で数週間分、手渡すなどの対応をしているとのことです。
私立学校では外出禁止命令を待たずに、保護者の友人に発症者が出た時点で早々とオンライン授業に切り替えたところもありました。

 もともと、成績や宿題の提出状況などがメールで送られてくるなど、オンラインでのやりとりに慣れているせいか、何とか子どもたちも対応しているようです。

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意外に落ち着いているホノルル

 現在、オアフ島と日本の間での航空便は全便が運休しており、医療機器や医療体制が非常に限られていることを背景に、観光が主産業であるにもかかわらず思い切ったシャットアウトをしたことで、5月5日現在で、感染者625名、死者17名。来週から徐々に規制が緩んでいくとのこと。課題はどのように州外からの訪問客を受け入れるかになりそうです。

 これだけのロックダウン状況でありながら、大きな騒動にはなっていない理由を考えてみると、

*Alohaという共通の価値規範があるため、困ったときに助け合う文化がある

*入学時の調査票などにデフォルトで20カ国以上の人種が選択肢として並ぶほど、多様な人種で暮らすことに慣れているためか、特定の人種に対しての批難がナンセンスであることが共有されている

*貧困の問題が常にあるため、早くから拠点校での無料給食の配布が始まり、他にも寄付による家族向けの無料の食糧配布が行われるなど、経済が止まり多くの失業者が出た場合に、どこに危機が起こるかについての理解があり、対応に慣れている

*国からの大人1人1200ドル、子ども1人500ドルといった援助が4月の中旬には届き始め、ロックダウンによる失業などが理由で家賃が未払いになった場合、契約解除を認めないといった措置、中小企業への給料支給用の資金調達の申請や、失業保険の申請がオンラインでできる体制があり、経済面へのサポートがあるため、ある程度の安心が保てる

などが考えられます。

Kids Hurt Too Hawaiiでの取り組み

 以前ボードメンバーをつとめ、現在はファシリテーターとして関わっているKids Hurt Too Hawaii(以下KHTH)は親や身近な人を死別、離別などで失い、グリーフやトラウマを体験した子どもたちをサポートするNPOです。年齢は3歳から18歳ぐらいまでが対象で、死別のグループ、離別のグループ、混合グループなどいくつかのグループが月に1回、または2回の頻度で集まり、ファシリテーターを交えてピアサポートグループを行っています。

 自宅待機命令が出たあとは、フェイスブックのライブ機能を使って月曜日から金曜日に子どもたち向けに、ヨガのクラスを始め、スタッフが交代で絵本の読み聞かせや、工作の時間、グリーフに関してのレクチャーなどを続け、今後、参加人数や遊びの内容をコントロールしながら、再開する可能性を探っているところです。

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ロックダウンとグリーフ

 KHTHの創立者、Cynthia Whiteが「変化」はグリーフを伴うと言う通り、今回のように日常が大きく変わる体験はグリーフ体験と見なすことができます。朝起きて、学校へ行って、友だちと勉強したり遊んだりするといった、毎日のルーティンが失われました。友だちとハグすることや、祖父母や親戚と会うこともできなくなりました。お馴染みのレストランで食事をしたり、ウィンドーショッピングを楽しんだりすることもできません。ロックダウンはたくさんの「いつもの楽しみ」を失う体験と見ることもできるでしょう。

 一般的にグリーフを体験すると、悲しみ、落ち込み、怒りなどの感情を抱いたり、無感情になったりすると言われています。大人にとっては主に「話すこと」、子どもたちは「遊ぶこと」がグリーフへのサポートになります。子どもたちは遊びを通して自分を表現するからです。小さなエネルギーを使って遊ぶ子どもたちにとっては、絵を描くことや、折り紙を折る、アクセサリー作り、お菓子を作るなどのような遊びが、ぴったりするかもしれません。大人にとっても指先を使い、始めと終わりがあり、完成したものが見える料理や手芸、工芸などの活動はおすすめです。

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 大きなエネルギーを使って遊ぶ子どもたちとは、鬼ごっこやキャッチボール、ハワイだとサーフィンなども取り入れて大きな動きを伴った遊びを選びます。ロックダウン中のハワイでは、ビーチで寝そべったり、公園でピクニックしたりすることは禁止されていますが、ジョギングやウォーキング、そしてサーフィンなどは推奨されています。その際にも家族以外の人とは6フィート(約2メートル)のソーシャル・ディスタンスを保つようにと言われています。

 メディテーションやヨガを使った深い呼吸や身体への気づきも不安、焦燥感、グリーフ体験、トラウマ体験への対処として大きな効果があるとされているので、KHTHでも始まりの時間や終了時間などに取り入れていました。現在はネット越しに、子どもたちとヨガやメディテーションを続けています。

日本からの留学生を多く抱える短期大学での取り組み

 日本からの留学生が多くを占める勤務先の短大では、自宅待機命令後、スタッフは自宅勤務となり、授業はオンラインとなりました。大半の学生は出入国が難しくなる前に日本に戻り、寮には10人前後の学生が残っています。筆者は学生の心理面のサポートを行うカレッジライフ・カウンセリング室に所属しており、メールでの相談やZoomを使ってのチャットの時間を設定するなどの対応をしています。学生向けにカウンセラーのDr. Yoko Kitami作成による下記のような案内を出し、オンラインでの学習や自宅待機中のストレスへの対処方法などを伝えました。一斉メールをきっかけにメールでの相談やZoomを使ったチャットルームへのチェックインなどで、つながった学生たちもいます。慣れないオンライン学習に、集中しにくい、わからないことがあるときに周りの友だちに聞けないのが辛いなどの声があります。

 9月まで遠隔での授業が続くことが決まったため、長期のオンラインのみの授業の影響について、モチベーション維持などをどうサポートするかが、今後の課題と言えるでしょう。

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終わりに

 断片的な情報や身近なところから聞いた話などをもとに5月5日現在で書いたものなので、間違いなどありましたらご指摘をいただければ幸いです。非常事態のハワイに対して感じていることの一つに、走りながら次の手を考える、「じゃあどうするか」という対処を考えるのが上手いな、ということがあります。感染拡大を防ぎ人命を第一に考えることを軸にして、必ずしもベストではないにしても、「今、このように考え、このようにやっている」とか「この点については変更する」など、実態にそった形で、そこに暮らす人々の理解が得られるように、日々の方針を伝え、軌道修正しながら進めている。なぜそのような対策を取ったのか、どのようなサポートを考えているかという説明が透明ならば、見通しがつけにくい状況下であったとしても、希望が感じられます。

(参考)
ハワイ報知
* My ハワイ歩き方
日刊サン
アロハストリート
* BIHI Hawaii
* Kids Hurt Too Hawaii facebook
* Cynthia White、Hiro Ito「子どものグリーフとトラウマに寄りそう〜ハワイの経験に学ぶ〜」一般社団法人グリーフサポートせたがや

(執筆者プロフィール)

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袰岩奈々(ほろいわ・なな)
Kids Hurt Too Hawaii ファシリテーター。カウンセラーとして東京に「カウンセリングルーム プリメイラ」を開設。著書の『感じない子ども こころを扱えない大人』(集英社)は長年にわたって売れ続けているロングセラー。他に『〇のない大人 ×だらけの子ども』(集英社)などの著書がある。



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