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子育てにおけるひいきを考える(塩﨑 尚美:日本女子大学教授)#もやもやする気持ちへの処方箋

不便であること、不自由なことには我慢できても、不公平なことには我慢ができない。「あの子は先生にひいきされている」という言葉は、今も聞くことが多い子どもたちの不満ではないでしょうか。そして、このことが根強い問題になるのが、きょうだい間における親の扱いの差です。違いが生じるのは致し方ないところもあるかと思われますが、かなりの年月が経っても、心にもやもやとしたわだかまりを抱えている人も多いようです。子育てにおけるひいきについて、臨床心理学がご専門の塩﨑先生にお書きいただきました。

どうして子どもによって対応が変わってしまうのか

 コロナ禍で、生活様式は大きく変化し、親の在宅勤務や子どものオンライン授業のために親子が関わる時間は増えています。しかし、子どもが大きくなればなるほど、関わりの時間が増えることは必ずしも楽しいことではなくなります。家族は、とても近い存在ゆえに、自分の姿が相手に映しだされて嫌な気持ちになったり、嫌な面を相手から引き出し合ってしまうからです。

 親子の関わりに現れる問題はさまざまですが、ここでは兄弟(姉妹)で親の対応が極端に違うという「子育てにおけるひいき」について考えてみたいと思います。

 「下の子はかわいいのに、上の子はどうしてもかわいく思えない」、「息子のいうことは何でも聞いてあげたいのに、同じことを娘に言われると腹が立つ」といった話は、とても良く耳にしますよね。ご自身がそうである、という方も多いと思います。兄弟で親の対応が極端に違うことで傷ついてきた方の話もよく聞きます。特に親から否定されることの多い方の子どもは、それによってストレスを抱えたり、自分のことを受け入れられなくなることもありますので、子どもにとってマイナスの影響があることは否めません。しかし、親の立場の方からは「良くないとわかっているけれど、どうしても変えられない」というのです。もちろん、悪いと思っていない親もいますが、多くの親は悪いと思っていても、実際に子どもを前にすると対応を変えることができないようで、そのことで悩んで相談に来られる方もいます。

きょうだい親子

親は子どもに自分の姿を見てしまう

 では、なぜ子どもによって関わりに差が出てしまうのでしょうか。それには、我々の心のなかにある自己表象(自分について持っているイメージ)と他者表象(他者がどのような人であるかについてのイメージ)が影響しています。われわれは、他者を客観的事実に基づいて理解しているわけではありません。相手が何を感じているか、どのように考えているのかなどについて、言葉で表現されない部分も推測しながら、理解しています。その推測は、自身の主観を通してなされるものです。ですから、相手の意図の読みとりには、「こんな風に思っているに違いない」という思い込みが入り込んできます。このような時の主観や思いこみを形作っているのが、自己表象と他者表象です。どちらも、乳幼児期の親との関わりを通して形成されてきたものであり、自身の親との関係が反映されています。スターンは生後2,3か月を過ぎたころには、日々の親子の相互交流の体験が平均化されて構造をもつようになり、それが相互交流に関する表象となり、中核自己表象が形成されると論じています(Stern,1985)。

 自己表象は、その後も親子の関わりの中でいろいろな側面を持つようになっていきます。親から受け入れられることが多い側面は自己表象として根付きますが、受け入れられなかった面は自己表象から切り離されて心の奥に潜んでいきます。精神分析的な言葉を使うと、無意識の中に抑圧されていくのです。無意識に抑圧された自己表象の断片は、苦手な他者に投影される(他者の中にその特性を見る)ことがあります。ユングはこのような現象を「影」の元型として説明しています(河合,1967)。そして、特に、親子のような親密な関係の中ではこうした投影が起こりやすくなるのです。

 例えば、子どもの頃に両親が、自由な感情の表現を許してくれず、いつも感情を抑えて我慢強くあろうとしてきた人は、「我慢強く、感情抑制的である」という自己表象を持つようになるでしょう。そうすると、自由に感情を表現できるのびのびとした子どもと接したときに激しい怒りを引き出されて、その子どもを怒ってばかりになるということがあります。無意識に抑圧していた、自由に感情表現をする側面が活性化され、それを抑え込まなければならないという衝動に駆られるからです。子どもに投影されているので、子どもを押さえつけようとしますが、本当は自分の中で強くなっている自由な感情を抑え込もうとしているのです。そして、まるで自分の自由な側面を𠮟りつけるような感覚で、子どもを否定してしまいます。子どもの中の一人がそういうタイプだと、その子どもをかわいく思えなくなり、自分と似ているタイプの子どもかわいがるということが起こります。

 また反対に、自分と同じように我慢強く感情を出さない子どもに対して、「いつも我慢ばかりしていて悲しかった子ども時代の葛藤」が呼び起こされると、自分に対する苛立ちを子どもに向けてしまうこともあります。その場合には、自分とよく似た子どもをかわいく思えず、自分とは違う子どもをかわいがるようになります。

 このように、他者の表象は自己表象の影響を受け、結果的に他者との関係を方向づけていきます。これは人間関係全般に言えることですが、親子のように親密な関係ではその影響は一層強くなるのです。

 自己表象や他者表象がどのように子どもへの関わりに影響するのかはケースバイケースですが、子どもへの関わりに影響する場合は、何らかの傷つきの体験と結びついていることが多いです。そして、その傷つきが癒えずにそのまま無意識に抑圧されている場合に、特定の子どもへの関わりとして現れてくるのです。

塩崎先生 子ども傷つき

特定の子どもをひいきしないために

 では、どうしたら、そのような関わりを減らすことができるでしょうか。そのためにできることは、自分自身の親との関係を振り返ってみることです。特に兄弟がいる方は、親の関わりに違いがなかったか思い出してみてください。小さい頃のことは忘れてしまっていることも多いので、思い出せるように親に聞いてみたり、第三者に話をきいてもらうといいかもしれません。かわいがられたかどうか、ということを基準に考えがちですが、兄弟よりもかわいがられたことが幸福な体験として影響していることばかりではありません。かわいがられた分、親の期待が大きく、親の引いたレールを進まざるを得ないということもあります。そうすると、子どもにも同じように、期待に応えることを前提にして他の兄弟よりもかわいがるということをしてしまうかもしれません。かわいがられなかった体験が、辛い体験として残っている場合は、自分と似たようなタイプの子どもをやはりかわいがることができないかもしれません。親にかわいがられない自分という否定的な自己表象が、自分と似ているタイプの子どもの表象に投影されるからです。

 このように、親から受けた関わりが子どもへの関わりにどのように影響するのかは、単純に図式化できるものではありません。かわいがられた経験もかわいがられなかった経験も、どちらも子どもへの関わりに影響します。その要因となるのは、辛かったり、苦しかったりする否定的な感情体験と結びついているかどうかです。また、否定的な感情体験を意識しないようにして無意識に抑圧している場合に、その影響は強く出ます。無意識に抑圧されている感情は、何らかの刺激によって活性化されると、コントロールが効かずに暴走してしまうことがあるからです。しかし、意識できていればそれほど強い影響は出ません。

 ですから、子どもに対してひいきをしてしまう場合には、まずは、自分自身の子ども時代を振り返り、何が子どものひいきに影響しているのかを考えてみる必要があります。どんなにつらい体験であっても、それを意識して受け入れられるようになると、無意識のうちに行動してしまうことが少なくなります。そして子どもへの関わりも変化していきます。

 とはいえ、自分自身の過去のつらかった体験を思い出すことは大変な作業ですよね。そこまでのことをしなくても、ひいきしてしまっていることを意識できているだけで、その影響は小さくなります。また、意識できていれば、自分以外の親や祖父母に、自分ではやってあげられない関わりを代わりにやってもらうこともできます。ひとりですべての責任を負う必要はないのです。誰にでも、「分かっているけれどどうしても変えられないこと」があるものです。そういうことは、自分以外の人の力を借りる工夫ができるといいですね。

 子どもへのひいきを自覚することは、子どもの育ちにプラスに働くだけでなく、親としての自分自身の心を軽くすることにもつながります。コロナ禍で子どもとの関わりが密になる今こそ、そういうことを振り返ってみる良い機会かもしれません。

塩崎先生 子ども 支え

<引用文献>
河合隼雄 (1967).ユング心理学入門 培風館
Stern, D. N.  (1985). The Interpersonal World of the Infant: A View from Psychoanalysis and Developmental Psychology. Basic Books Inc, New York. (D. N. スターン 小此木啓吾・丸田俊彦(監訳)神庭靖子・神庭重信(訳)(1989).乳児の対人世界 理論編 岩崎学術出版社)

執筆者プロフィール

塩崎尚美先生 縮小版ご本人お写真

塩﨑尚美(しおざき・なおみ)
日本女子大学教授。専門は臨床心理学。乳幼児とその親との関係と、その支援の研究を行っている。
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