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「血液型性格関連説」を通して心理学を考える(立正大学心理学部講師:下司忠大) #その心理学ホント?

血液型で性格がわかるとする大衆的な「心理学」は,日本では今日でも受け入れられていますが,十分な科学的根拠に基づいているとはいえません。しかし,この「血液型性格関連説」を否定するためには,そもそも「血液型と性格に関連がある」とはどのような意味なのかを考えなければなりません。今回のnoteでは,パーソナリティ心理学がご専門の下司忠大先生に,「血液型と性格に関連がある」という主張をテーマに,心理学における差や関連の解釈に関して注意すべき点をご解説いただきました。

 いつ頃からそのような話を聞いていたのか覚えていないのですが,ABO式血液型から性格を見抜くことができるという都市伝説のような話は子どもの頃から何となく知っていましたし,そう信じていたこともあります。血液型と性格に関するテーマは世間一般で話題にのぼりやすく,古くから現在に至るまで,血液型と性格に関する書籍・一般向け雑誌が発売され続け,ときには一種のブームと化すこともあります (佐藤・渡邊, 1992)。書籍販売サイトで「血液型 性格」と検索してみれば,現在でも「血液型から性格がわかる」という主旨の書籍・一般向け雑誌が発刊されていることがわかります。

 このような「血液型で性格がわかる」という類の,いわゆる「血液型性格関連説」(上村・サトウ,2006) と呼ばれる俗説は,心理学の分野において厳しく批判されています。例えば,長谷川 (1985) はこの説を「非科学的俗説」であると主張していますし,上村・サトウ (2006) はこの説を「疑似性格理論」と記述しています。実際のところ,長年にわたる心理学的研究の結果からは血液型性格関連説を支持する知見は報告されておらず,それだけでなく「血液型と性格は無関連」(縄田, 2014 p.155) であることを積極的に主張する知見も報告されています。また,このことは心理学者の書籍・個人サイトや学会の広報記事においても広く取り上げられてきました (まとめとして,日本社会心理学会の広報委員会の記事があります)。

 それでは,なぜ未だに「血液型から性格がわかる」という主旨の書籍・一般向け雑誌が発刊されているのでしょうか。これについては統計や確率についての誤解 (長谷川, 1994; 小塩, 2011など),テレビ番組の影響 (上村・サトウ,2006; 山岡, 2011など),血液型性格診断を信じやすい認知バイアス (伊藤, 1994; 大村, 2012など),などの様々な要因が考えられますが,あまり取りあげられることの少ない観点として「『血液型と性格が関連する・しない』というフレーズが曖昧で,多義的であること」も挙げられるかもしれません。そしてこの点について論じることは,一般に「差」や「関連」を扱う心理学の知見を理解したり,解釈したりする上でも示唆するものがあるように思います (※1)。

 そこで本記事では,上記のような観点から,「血液型性格関連説」を通して,心理学の知見を理解・解釈する際に注意すべき点について論じたいと思います。

「血液型と性格の関連」とは?

 血液型と性格に関連が「ある」と主張するにせよ「ない」と主張するにせよ,まずは「血液型」「性格」「関連がある・ない」の意味がそれぞれ明確にならなければ,それを検討することもできません。血液型にもABO式だけでなくRh式やMNSs式血液型,P式血液型などがありますし (高田, 1994),性格にもパーソナリティ心理学の学問領域内で様々な捉え方があります (若林, 2009; 渡邊, 2010)。関連がある,というのも「血液型ごとの平均値差が0ではない」(※2) という意味なのか「血液型ごとの平均値差が○○以上である」という意味なのか,後者であれば○○には何が入るのか,などが問題になります。また,そもそも「関連がある」と言うときに想定されているのは平均値差の問題なのでしょうか。各血液型に固有の分子生物学的特徴が行動形質と関連しているという議論もありえます。

 このうち,それぞれどの意味内容を選択するかは,どのような問題意識で「血液型と性格の関連」を検討するのかによります。血液型性格関連説は,主に「(例えば)『あなたはA型だから△△だ』というように,血液型から性格を見抜くことができる」ことを主張するものです。この説を支持する結果が得られるかどうかを検討するためには,血液型についてはABO式血液型を,性格については質問紙調査で測定された得点を使うことができるかもしれません。関連がある,の意味については,先ほどの主張を鑑みると「0ではない」どころか,極めて大きい平均値差 (と各血液型内での得点のばらつきの少なさ) が必要になります。この場合,もし,ABO式の各血液型間で質問紙調査により測定された性格の得点に極めて大きい平均値差があるとすれば,血液型性格関連説は支持されることになります。

 では実際に性格の得点にどの程度の平均値差があるのかといえば,様々な研究知見を踏まえても,各血液型間で性格の得点に「血液型から性格を見抜くことができる」といえるほどの平均値差を示した知見はありません。代表的な知見として,縄田 (2014) は最も大きな平均値差でさえ,1-5点の評定でわずか0.25点の差しかないことを示しています。したがって「血液型から性格を見抜くことができる」という,血液型性格関連説の主張を支持する根拠は現在のところない,ということになります。

 他方で「ABO式血液型の各血液型間の平均値差は0ではない」ということを示した知見はいくつか報告されています (例えば,Tsuchimine et al., 2015など)。しかし「平均値差が0ではない」ことと「極めて大きい平均値差がある」こととの間には天と地ほどの差があり,実際のところ「平均値差が0ではない」ということから「血液型から性格を見抜くことができる」という主張をすることは困難であると言えます。このことは例えばTsuchimine et al. (2015) でも前提として認識されていると考えられ,この研究知見は特に「血液型から性格を見抜く」というような主張をするために実施されたものではありませんでした。

 ただし「ABO式血液型の各血液型間の平均値差は0ではない」ということを示すことに全く意味がないかといえば,そうとは限りません。では「ABO式血液型の各血液型間の性格の得点の平均値差は0ではない」という知見から,何を主張できるのでしょうか。例えば,ひとつの例ですが「ABO式血液型による性格判断の知識が社会に広まることで,『予言の自己成就』として血液型と性格に関連が生じる」という仮説を支持するものとして捉えることが可能です。ここでは,その予言の自己成就が性格得点の個人差を決定づけることまでは想定されないため,これを支持するために「極めて大きい平均値差」は必要なく,予測通りの方向性で「平均値差は0ではない」ことが示されれば,先ほどの仮説が支持されることになります (※3※4)。

 以上まで,単に「血液型と性格との関連」といってもその意味内容は多種多様で,どのような問題意識で検討を行うのかによってその意味内容や結論が変わってくることを述べてきました。このような観点からみれば「血液型と性格との関連」とは,あくまでも何かしらの仮説や問題意識を検討するための“手段”であり,それ自体が一義的に検討すべき“目的”とはならない,と言えるのではないかと思います。そしてこのことは,血液型性格関連説に限らず,一般に心理学の知見を解釈する際にも重要な観点なのではないかと思います。

血液型性格関連説の議論からみる心理学の知見

 ここまで述べてきた血液型性格関連説の議論から,心理学の結果を見たり解釈したりする際には「関連・差がある・ない」という結論そのものよりも,その著者が何をどうやって明らかにしたのか,その問題意識を含め理解することが重要であることが示唆されます。ダットンとアロンによる有名な「吊り橋効果」(Dutton & Aron, 1974) にしても,彼らは「なかなか振り向いてくれない意中の相手を落とす方法」を考案するために研究を行ったわけではなく,性的魅力や情動反応についてのこれまでの学術的理解を発展させるために検討を行っているので,その知見をいわゆる「恋愛テクニック」として理解すると,血液型性格関連説と同じような問題が生じます (その他の問題については森 (2010) を参照のこと)。

 もちろん,心理学の知見の中にはその知見を生み出した著者でも気づかないような,あるいは記述されなかった応用可能性がある場合もあると思います。しかし,そのような場合があるとしても,どのような問題意識で何をどうやって明らかにしたのかを正確に理解しておくことは,応用可能性の範囲を考える上で重要な情報です。そうでなければ,心理学の知見を鵜呑みにして誇張して理解することにつながってしまうでしょう。

 学術情報の検索サイトやネット記事,SNSにおいて,専門家でなくとも心理学の知見に触れることが容易になってきています。それとともに,心理学的な知見が簡略化されて表面的な情報のみが伝達されやすくなってしまっているという側面もあるかもしれません。そのような「結果のひとり歩き」を防ぐためには,心理学の知見を理解・解釈する際に単に「関連・差のある・なし」ではなく,その知見が私たちの知識の何を増やしてくれるのかを吟味することが重要になるのではないでしょうか。

脚注

※1 血液型性格関連説から心理学を考察した論考としては他に,渡邊 (1994) があります。

※2 「平均値差が0ではない」という主張は,一般に心理学研究において平均値差を検討する際に,統計的仮説検定で帰無仮説を棄却した際に主張されるものです。これ以降の「平均値差が0ではない」という記述は,統計的仮説検定の結果として示される主張であることを念頭に置いています。

※3 ただし「ABO式血液型の各血液型間の性格の得点の平均値差は0ではない」という知見から個人内の分子生物学的なプロセスを導出できない点にも注意が必要です。すなわち「(例えば) A型の血液に含まれる××遺伝子が行動形質に影響を与えているかどうか」という仮説を検討するために質問紙調査を実施して「平均値差は0ではない」ことを確認しても,その結果から先ほどの仮説を支持することはできないと考えられます。というのも,この「平均値差は0ではない」ことは個人間関係の話であり,A型の血液に含まれる××遺伝子が行動に影響を与えているかどうかは個人内関係の話であるため,両者は独立であると考えられるからです (同様の議論は,長谷川 (1985) でも言及されています)。個人内の分子生物学的なプロセスを明らかにするためには,個人間関係の検討は適した方法ではないように思います (村山, 2012; 吉田, 2018など; 本特集の三枝高大の記事『“心”の個人差研究の結果を解釈する』も参照のこと)。

※4 実際には,縄田 (2014) の研究知見ではこの仮説も支持されていません。

引用文献

Dutton, D. G. & Aron, A. P. (1974). Some evidence for heightened sexual attraction under conditions of high anxiety. Journal of Personality and Social Psychology, 30, 510-517. https://doi.org/10.1037/h0037031.
長谷川 芳典 (1985). 「血液型と性格」についての非科学的俗説を否定する 日本教育心理学会第27回総会発表論文集, 422-423.
長谷川 芳典 (1994). 目分量統計の心理と血液型人間「学」 詫摩武俊・佐藤達哉 (編) 現代のエスプリ, 324, 121-129.
伊藤 哲司 (1994). 血液型性格判断と信じる心 詫摩武俊・佐藤達哉 (編) 現代のエスプリ, 324, 106-113.
森 直久 (2010). 心理学の法則ってどのぐらい確かなものですか?: 心理学ふしぎふしぎ 心理学ワールド, 51, 43.
村山 航 (2012). 妥当性――概念の歴史的変遷と心理測定学的観点からの考察―― 教育心理学年報, 51, 118-130. https://doi.org/10.5926/arepj.51.118
縄田 健悟 (2014). 血液型と性格の無関連性――日本と米国の大規模社会調査を用いた実証的論拠―― 心理学研究, 85, 148-156. https://doi.org/10.4992/jjpsy.85.13016
大村 政男 (2012). 新編 血液型と性格 福村出版.
小塩 真司 (2011). 性格を科学する心理学のはなし――血液型性格判断に別れを告げよう―― 新曜社.
高田 明和 (1994). 血液型学から見た血液型と性格の関係への疑義――血液型…発見から最新知識まで 現代のエスプリ, 324, 161-167.
上村 晃弘・サトウ タツヤ (2006). 疑似性格理論としての血液型性格関連説の多様性 パーソナリティ研究, 15, 33-47. https://doi.org/10.2132/personality.15.33
佐藤 達哉・渡邊 芳之 (1992). 現代の血液型性格判断ブームとその心理学的研究 心理学評論, 35, 234-268. https://doi.org/10.24602/sjpr.35.2_234
Tsuchimine S, Saruwatari J, Kaneda A, Yasui-Furukori N. (2015). ABO Blood Type and Personality Traits in Healthy Japanese Subjects. PLOS ONE 10, e0126983. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0126983
山岡 重行 (2011). テレビ番組が増幅させる血液型差別 心理学ワールド, 52, 5-8.
吉田 寿夫(2018).本当にわかりやすいすごく大切なことが書いてあるちょっと進んだ心に関わる統計的研究法の本Ⅲ 北大路書房.
若林 明雄 (2009). パーソナリティとは何か――その概念と理論―― 培風館.
渡邊 芳之 (1994). 性格心理学は血液型性格関連説を否定できるか 現代のエスプリ, 324, 187-193.
渡邊 芳之 (2010). 性格とはなんだったのか――心理学と日常概念 新曜社.

執筆者プロフィール

下司忠大(しもつかさ・ただひろ)
立正大学心理学部講師。専門はパーソナリティ心理学。
【主要業績】『パーソナリティのダークサイド』(監訳,2021,福村出版),『パーソナリティのHファクター』(共訳,2022,北大路書房),『心を測る』(共訳,2022,金子書房)など。
HP:https://sites.google.com/site/tshimo121107/ https://researchmap.jp/shimotsukasa

著訳書

ヴァージル ジーグラー・ヒルデヴィッド K. マーカス 下司 忠大・阿部 晋吾・小塩 真司(監訳)川本 哲也・喜入 暁・田村 紋女・増井 啓太(訳)『パーソナリティのダークサイド―社会・人格・臨床心理学による科学と実践―』福村出版

K. リー・M. C. アシュトン 小塩 真司(監訳)三枝 高大・橋本 泰央・下司 忠大・吉野 伸哉(訳)『パーソナリティのHファクター―自己中心的で,欺瞞的で,貪欲な人たち―』北大路書房

デニー ボースブーム 仲嶺 真(監訳)下司 忠大・三枝 高大・須藤 竜之介・武藤 拓之(訳)『心を測る―現代の心理測定における諸問題―』金子書房


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