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いま上司が気を付けたい部下と接するときのポイント(渡部 卓:帝京平成大学 現代ライフ学部 教授/ライフバランスマネジメント研究所 代表)#つながれない社会のなかでこころのつながりを

ニューヨーク、シリコンバレー、日本を往来し、ビジネスの第一線でご活躍の経験を持つ渡部先生。現在は働く人の “こころ” の研究と支援を積み重ね、著書や講演も人気を博しています。ビジネスとこころにお詳しい渡部先生に、このコロナ禍で上司が気を付けたいポイント、そしてコツをお伺いしました。

 歴史のうえでも特異であったゴールデンウイークが終わり、いま各所で活動は再開されつつあります。そこには安堵感や緊張感、複雑な心理がうずき、今後は以前とは異なる状況下で勤務をしていくことが必然となりそうです。

 私は本職である大学教員の仕事をしながら、産業カウンセラーやビジネスコーチとして、また研修講師として職場改善の活動をしてきました。ただ多くの心理の専門家の方々と違い、私は経営陣からの相談応対やコーチングが多いことが特徴だと思います。じつは幹部職や経営陣にはご本人のことだけでなく、部下との関係での悩みや相談がとても多いのです。

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コミュニケーションのヒント

 本稿ではこれからのアフター・コロナの職場において、新たなストレスやコミュニケーションについて、そして管理職や経営陣の皆さんがどのように部下の人たちとコミュニケーションしたら良いか、いくつかのヒントを交えてお話したいと思います。

 私はアフター・コロナの職場には「新型ストレス」が生まれてきていると思います。15年ほどまえに、やはり「新型うつ」という言葉がメディアで良く取り上げられたことがありました。心理学に関心のある読者なら、そのことをよく覚えているのではないでしょうか。今回もその「新型ストレス」がどんなストレスなのかを見定める必要があります。私はその特徴の4つのポイントを以下に説明したいと思います。

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注目したい4つのポイント

 1つ目は社員間の距離感がつかめないことです。私は管理職研修会などで「部下とは2.5人称で接するとストレス問題やハラスメントが生じにくい」とアドバイスしてきました。二人称は you です。あなた、おまえ、君、などの感覚ですと、職場では距離が近すぎて、ストレスとなります。三人称はhe, she, they などですから、彼(女)、彼(女)たち、という感じとなり、これでは少し距離が離れる感覚で良くありません。中間である、2.5人称の距離感をつかめると、上司と部下のストレス予防には良いと思うのです。

 在宅やテレワークがアフター・コロナの職場では定着ていく流れは今後もつづき、3密ともいえる以前の職場にはもう完全には戻らないと思います。たしかに、オンラインミーティングで急速に広まった、Zoom や Microsoft Teams はとても便利なのです。

 しかし相手や参加者が自分の顔が映し出されるこれらのツールでの「顔出し」を上司たちが強制してくる、それがすごくストレスだという訴えも多いのです。そんな甘い認識ではダメだ、などとの管理職の声も少なからずあり、賛否はあるかと思います。ただそのようなストレスは無視できないことに上司たちは配慮が必要です。

 私は米国で勤務をしていたとき、働くオフィスでの物理的な構造やレイアウトが、社員たちの視線や距離、動線、音、声にまで配慮されていたという現実を知りました。そしてそれは私が訪問した中国やインド、タイなどの先端企業などでも同様なのです。

 一方、日本の典型職場では管理職の目が届くように、あるいは同僚と物理的には密接ともいえるように机を並べて働くことが普通です。そしてそれがコミュニケーションを円滑にする、チーム力を高めるという信奉が日本の経営陣には根強くあります。しかし管理職や経営陣はアフターコロナの職場では、それが「新型ストレス」の要因になること、生産性の低下も招きかねないリスクでもあることへの認識が重要です。

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 2つ目の特徴は、公私の垣根のコントロールが今までより難しくなっているという新型のストレスです。在宅でのオンライン会議ですと、日本の住宅事情で自分の部屋をもてる人も少ないので、居間などで行うことになります。そうなると子供やペットが邪魔をしたり、宅急便が届いたり、そんな日常が隣り合わせで、オンライン会議に集中できないなどのストレスが発生するケースも多くあります。

 ただそのことは管理職や経営陣も事情は同じなのが実情です。管理職たちも、逆に子育てや介護の現実などのプライバシーをあえて映像のなかで公開し、かえって部下たちから親しみや安堵感を引き出し距離感を縮めたケースもあります。

 またオンラインですと時間と距離の感覚がなくなり、管理職が夜や週末に部下への対応をもとめてストレスとなるケース、会議時間がずるずる長引くケースも出ています。私も海外との学会に絡んだオンライン会議やウェビナーでの時差に悩むことはよくあります。管理職や経営陣が細かな配慮をその点でふまえていく必要がでています。

 3つめの特徴が、ネットリテラシーの差が露出されてくることでの新型のストレスがあります。以前よりデジタルデバイド、ネット難民などの言葉はありましたが、アフターコロナの時代ではその格差がさらに加速されて、新たなストレスを生みつつあります。

 オンライン会議などで使用する Zoom や Microsoft Teams などを使いこなせない管理職や経営陣、あるいは教員にも一定数で存在しています。そしてそのことから、該当する上司や経営陣が在宅やオンラインワークなどに抵抗感をもつケースがみられます。

 そんな幹部がいる職場では従来から定時間勤務などの勤怠管理に厳しく、稟議文書にも多くのハンコの確認欄が並んでいるのが特徴です。3密での定例会議が多く、しかも無駄な内容が多いのです。ただそれを変えようとしない職場がまだまだ日本では大多数かもしれません。PCR検査が日本では拡大出来なかったのもそのような職場文化にも遠因がありそうです。

 そのような閉塞感のある職場の社員が、在宅勤務やテレワークを当たり前のようにしている職場をうらやむケース、またそれが転職の決意につながる事例がありました。そのような職場では「働き方改革」も促進されず、ハラスメント事案が多いのです。このことに管理職と経営陣は猛省が必要になっています

 4つめの特徴は、この「新型ストレス」には怒りの感情を伴うことが多いことです。メディアでもDVなどのケースが急増したことも報道されました。

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「かりてきたねこ」で上手に指導する

 職場でのアンガーマネジメントも管理職は注意をする必要があります。ここで予防へのヒントとして、「かりてきたねこ」を紹介したいと思います。これは私がつくった造語ですが部下の叱り方の7つのポイントの頭文字をとったものです。

 か ―― 感情的にならない
 り ―― 理由をしっかり話す
 て ―― 手短に済ませる、くどくならない
 き ―― キャラクター(性格や人格)に触れない
 た ―― 他人と比較しない
 ね ―― 根に持たない、ひいきしない
 こ ―― 個別に伝える、他人の前で叱らない

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「か」感情的にならない
 「怒る」と「叱る」はまったく違います。コロナ禍にある現在、職場ではだれでも不安や憤りが増えているのが現実ですが、部下には感情的にならず、まずは自分が部下のどんな行動、態度を改めてほしいと思っているのか、冷静に客観視することが大切です。

「り」理由を話す
 学生を叱ったり、指導するときも、客観視したうえで、なぜ叱るのか、相手に「理由を話す」ことが大切です。理由や目的を明確にせずに叱ってしまうと、部下に「上司に八つ当たりされた」「嫌われている」などといった誤解を抱かせ、職場でも悪評が広まりますが、そのことを知らないのは管理職本人だけになります。

「て」手短に済ませる
 くどくどと同じことを繰り返したり、芋づる式に過去の不満を並べたりするのはNGです。叱るときに「手短に済ませる」コツとして、話を切り出す前に「10分ほどでやめるが」などと終わりを決めておくのも有効です。部下や学生も「10分なら」と話を聞く体制に入りやすいですし、自分も「短く済ませよう」と意識するので、余計な叱責をせずに済むはずです。

「き」キャラクター(性格や人格)には触れない
 部下や学生であっても、行動やミスを指摘はしても、キャラクター(性格や人格)には触れてはいけません。とくに、その人のキャラクターを否定するような言い方はハラスメントや反発を招きます。「君は性格がだらしないから毎回遅刻するんだ」、「あなたはいつも必ず不注意なミスをする」はNG表現です。主語を「君、おまえ」や「あなた」など2人称にすると、一方的に感じる場合もあります。「【私は】あなたの遅刻が残念だ」「【私は】あなたに改善してほしいと思っている」など、主語は「私」を意識して話すくせをつけましょう。

「た」他人と比較しない
 他人と比較して叱られれば、誰でもプライドが傷つきます。これは中国やタイの職場でも同じで、離職の原因にもなります。できている点を認めたり、褒めたりしたうえで、「改善するならもっと評価できるのだが」などの表現で伝えるといいでしょう。

「ね」根に持たない
 部下を叱ったら「根に持たない」ことです。世界のHONDAを創立した本田宗一郎社長は叱りの達人でしたが、それは、叱った社員のミスを翌日からは二度と口に出さないさっぱりした人柄の所以(ゆえん)と伝えられています。いつまでも覚えていて、ことあるごとに責める態度を取ったりすれば、部下の離職にもつながってしまいます。

「こ」個別に伝える
 同僚や周りに配慮して、個室をとり、個別に伝えることがヒントになります。学生も、教室で叱ると、多くの場合でひどく傷つきます。職場でも同僚や後輩のいる場で叱ると、口を閉ざしたり、反発したりすることが多いのです。叱ることは、教育だ、育成だ、指導だとの固定観念をもつ管理職や経営陣は少なくありません。これは日本の特徴でもあります。実際に米国の軍隊、中国の軍隊での叱り方の事例を検証すると、そこには多くの配慮がされていることを私は発見し驚いた経験があります。

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 以上、新型コロナウイルス問題を契機に管理職や経営陣が考え、そして具体的な対策につなげていくことが急務です。そのためには職場での新型ストレスについて理解することが重要です。
 本稿では新型のストレスの4つの特徴について述べました。学術的な検証はまだまだこれからの段階です。ただ職場での不要なストレスを生み出さないための身近なヒントがひとつでも読者のみなさんに届けば幸いです。

(執筆者プロフィール)

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渡部 卓(わたなべ・たかし)
帝京平成大学 現代ライフ学部 教授。ライフバランスマネジメント研究所 代表。
ニューヨークやシリコンバレーなどでビジネスの第一線を経験した結果、働く人の心の重要性に気づき、以降その研究と働く人への支援を重ねている。その成果は雑誌や新聞、Webメディア、テレビ番組でも頻繁に取り上げられ、多数の著書も支持されている。講演やワークショップも積極的に展開し、多くのビジネスパーソンが足を運ぶ。


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