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コロナ離婚を防ぎ、「コロナ再婚」を促すカップルカウンセリング (長谷川 啓三 東北大学名誉教授/日本家族カウセリング協会理事長)#つながれない社会のなかでこころのつながりを

はじめに

 「コロナ再婚」について述べさせていただく。これは、よく見られるが、災害渦中でも、プラスの事が起き、関係性の深化を私たちは促進することも出来るということを報告したいからである。これは、字義通りの「再婚」というよりは、コロナ禍で「これまでの関係性を見直し、再び愛し合う関係を築く」ことを概念として打ち出しつつ、その支援をしたいと考えたからである。

 金子書房。筆者が、まだ若手と呼ばれた時期から現在まで伴走をしていただいている大切な方々の出版社である。歴代の名エディターのお顔を思い浮かぶ。そこから、投稿のお誘いがあった。これまでと異なる誌面である。「note」。早速、ウェブをのぞいてみると、シャレている!
 それに軽い。まだ、最終的な研究書に成る以前の段階で中身を問うてみる、そんなことがゆるされる感じの「誌面」である。

 最初の記事で読ませていただいた、ある著者の日本のカウンセリング界へのストレートな苛立ちには、それこそ共感できる。日本のカウンセリングは、あれは駄目これもダメという受容理論オンリーで来た為に、30年も遅れたとも言われている。

 さて既存の概念に囚われることなく、カップルをどう支援するか。本論では、東日本大震災を体験した臨床家の一人として、「コロナ再婚」を提唱したい。

1. 支援ニーズの3段階。僕らはいまどこにいる?
 ~東日本震災と、当時のことを思い出す。

 三月三日。桃の節句。女子の祭り。コロナ禍の最中でも、この時期は、まだどこか余裕というか こころに隙を置くことをゆるせた。筆者は、一昨年から受け継いでいる、NPO団体 日本家族カウンセリング協会の責任者として阿佐ヶ谷で毎月を過ごしている。そこから大阪市や名古屋市内まで、今から思えば、余裕がある仕事上の旅をしていた。


 五月五日。端午の節句。男子の祭。女子の祭りから2カ月、コロナ禍は急激な拡大を見せる。四月七日に出された緊急事態宣言は五月一杯までその体制維持の延長が国で決まった。そして首相からメディアを通じて コロナ後を見据えた「新生活プラン」とも呼ばれる、まだ小さいものではあるが、最初の指針が出された。新生活プラン。世界は、たいへんな事態になっているのに、マスク2枚とこんなプランか!?と批判がある。

  筆者は、東日本大震災を支援者側の臨床心理士として、又同時に被災者として過ごした者として、この政策には頷けるところがある。

 先ず、支援の順序が市民のニーズを少し先導した形でそれに応えようとしている。市民の支援ニーズは「身体、こころ、頭」の順序で、重点が移って来る事を、僕ら研究者側は大震災での支援体験から知る。まとめて報告もしている。頭とは、災害後のプランのことである。

支援ニーズ


 今回、五月五日の子どもの日に出された、いわば「コロナ後の生活スタイル宣言」は、頭脳をも使って描く日本の設計図の最初を示そうとしているといえると、善意にとりたい。

 さて、以下には筆者が専門としている「こころ」の支援について、あらためてここで述べさせていただく。

2.「コロナ再婚」ーコロナ禍だからこそ、再び愛し合える関係を


 さて、本題に入る。コロナ再婚とはなにか。

コロナ再婚とは:
 字義通りの「再婚」というよりは、コロナ禍で「これまでの関係性を見直し、再び愛し合う関係を築き、新たな前向きな関係性を築くこと」と定義する。
 連日報道される「コロナ離婚」や「コロナDV」という、ディボースや家内暴力という、悲しい出来事を少しでも止めたい。そして可能なら この嵐の時期にこそ、「家庭内離婚」を抑止し、夫婦と家族をやり直すことに寄与する心理学的支援が必要であると筆者は考えている。

 コロナ再婚について、事例を示そう。
 (※なお、事例はプライバシー等に配慮した改変をしている。)

夫婦喧嘩


 週の半分は在宅での勤務。以前から離婚をしたいと思ってきた。妻は「口うるさく、しつこい、潔癖症的」なところがあり、毎朝のように喧嘩が絶えない。夫は共働きの妻に言われ、家事はやるが、そのやり方に文句をつけられて喧嘩になる、という。(洗い方、掃除の仕方、干し方にである。)

怒る女

 自分としては給料も渡し、家事も手伝っているのに、褒められるどころか文句から始められる毎日。

 自分が言葉を荒げて、喧嘩をすることで、妻の口うるささは減じる。子どもにも良くないと思って来た。その繰り返しの毎日である。性交渉は新婚期以降、無い。もっと静かな朝と、偶には身体接触もあるような生活を得たいと思ってきた。

 これまでに距離を置く機会のありそうな転勤を勧められた事があるが、転勤地の事で決心が付かない間に、離婚時の年金分割の新法が施行され、新生活を始めた場合の不安もよぎる。経済上の事で離婚できない自分を、まるでこれまでの女性史を男の自分が味わっているようだと自嘲するのであった。

カップルカウンセリング


 面接は、通常のカップルカウンセリングの形態では、ご夫婦とカウンセラー側も男女2人で遂行することとなる。葛藤を抱えた夫婦の面接では、個人面接とは異なるものがあり、訓練を要するものである。

カップルカウンセリング


 セッション1回目ではユーモアが溢れ、受容的というよりは、張り詰めない気軽な雰囲気の中で、2人の積年の思いを、「大きくはない、小さな要求の形」にして述べ合ってもらうセッションを設けた。

 毎月1回の頻度であったが、2回目で既に、夫婦は離婚は考え直すと述べた。面接の帰り道に手を繋いで歩いたとも述べた。もう20年位は繋いだことが、なかったという。少しづつ、長年、すれ違っていた二人の距離が縮まっていった。

復縁

 3回目を迎える前に コロナ問題が始まった。対面でのカウンセリングを制限されてしまったため、PCを使った音声会議の様式でカウンセラーは夫とのみ話せた。夫は上手くいっていると言う。10点満点で7点はあると述べた。工夫したことを聴くと「妻は口やかましいと思ってきたが、それが家庭を明るくしていたことに気がついた」ということであった。

 きっかけは意外な事だったという。休校になり、家に居る高校生の子どもと2人になる機会が増えたが、あまり話もせず、静かな一日を過ごせるが、何処か静か過ぎるし、ぎこちない。二人だけでは、静か過ぎる家庭のその雰囲気を、妻の口やかましさのお陰で破ることが出来ていたことに気づくことができたという。

 カウンセラーは、それを子どもも居る時に明るく冗談交じりで、感謝を妻に伝えることを勧めた。

 次回に、その首尾を聴くと、明るく冗談交じりというのは失敗し、真面目に伝えたことが結果として上手く行ったという。

「ママの口やかましさのお陰で、にぎやかな家庭でいれる」

と半分、明るく冗談交じりに言うつもりだった。

「……お陰で、明るい家庭になっている。昔から家庭は明るい奥さんが中心に居る必要がある、と言うし」

 だが、気持ちがこもってしまったのか、つい真面目な雰囲気で伝えてしまったという。

 決して「明るい妻」ではないので、妻が気にして喧嘩のタネを増やしたかと悔やんだ、という。再び、距離が離れてしまうのではないか、と。

 だが、この間違えが功を奏した。翌日から妻は「私は明るくはないけど……」と言いながら、夫の冗談に乗るような発言が出るようになったという。時間的な余裕からか食事も妻の得意の手作りが増えたともいう。もちろん夫は美味だと褒める。

 大きな変化がおきた。成功は妻の口うるささを子どもの前で褒めた事から始まった。今まではそれを巡って子どもにはなるべく見えない位置で「喧嘩」をしてきた。コミュニケーションパターンの変化とも言える。

 さてカウンセラーは妻の関心が大きい家族のコロナ対策を妻に相談しながら積極的に進めることを提案した。妻への愛とは、夫婦間というより、家族経営を力を合わせて進める事で生まれ伝わるものなのだ、と。

家族

 カウンセラーはカップル面接のガイドラインに従い、この時点で "Go Slow!" の勧めをした。そして実際の夫婦面接が可能になるまで、この「言い間違い」は何度でも伝えることを進め、意図が定着する事を目指した。

これをもって、この夫婦のカウンセリングについては、一時的な終結とした。次の実際の対面での面接を、私たちは心待ちにしている。

 
カップルカウンセリングを通じ、これまでに離れていた関係を見直した夫婦のケースを、本論では紹介した。

 コロナ禍では、これまでの日常とは大きく変わったことが多いが、あえてこれまで築いてきた関係性を見直し、よい機会の形成を目指す「コロナ再婚」を提唱したい。必要であれば、時にカップルカウンセリングの訓練を受けたカウンセラーからの支援を受けることも、一つの選択肢だ。

(執筆者プロフィール)

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長谷川 啓三(はせがわ けいぞう)

東北大学名誉教授/日本家族カウセリング協会理事長。専門は臨床心理学、家族療法/ブリーフセラピー(短期療法)。『ソリューション・バンク—ブリーフセラピーの哲学と新展開』(金子書房)など著書多数。

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